やはり俺の魔物の王を決める戦いは間違っている。 作:ホッシー@VTuber
「『ガルファノン』! 『ファノン』!」
「くっ」
バニキスが呪文を唱え、リオウの腹部から牙を剥き出しにしたまま高速回転する獣を放たれる。直撃したら牙によって体がズタズタにされてしまうそれをサイは羽を羽ばたかせて回避。しかし、そんな彼女を狙いすませたように獣を模したエネルギー弾が射出され、慌てて近くの地雷を起動させるサイ。
(まずいな……)
群青色の衝撃波が『ファノン』の軌道をずらすのを見ながら奥歯を噛み締める。『ファウード』の鍵の正体を明らかにするためとはいえ挑発してしまったせいでリオウたちの攻撃が苛烈になってしまったのだ。そのせいで『サフェイル』を解除するタイミングがなく、少しずつ俺の心の力が消費され続けている。その分、向こうも呪文を連発しているので心の力を確実に消費しているのだが、心の力の消費が少ない弱い呪文ばかりなのでペース配分はきちんとできているようだ。
(このままだとジリ貧だぞ……)
今のペースだと設置した地雷をすぐに使い切ってしまう。そうなればリオウは大技でサイを確実に倒しにくる。いや、すでにサイがいる辺りの地雷はほとんど使ってしまったのでいつリオウが勝負をしかけてくるかわからない。
「……」
ジッと柱の陰に隠れて戦況を見守る。ここで焦って俺が前に出たらそれこそ本末転倒。リオウはすぐにこちらに向かって攻撃をしかけてくるはずだ。そうなってしまったらサイが俺のフォローに入るしかなく、いずれ2人まとめてやられてしまうだろう。
「『ウイガル・ファノン』!」
「きゃっ!?」
サイがリオウの術を回避したタイミングでバニキスが新しい呪文を使ってきた。リオウの腹部の口から凄まじい風圧が放たれたようで風に煽られたサイがバランスを崩す。風圧そのものに攻撃性はないようだが、空を飛んでいることを逆手に取った一撃。初見の呪文はどうしても初動が遅れてしまう。そのせいでサイもすぐに動けなかったのだ。
「『バーガス・ファーロン』!」
だからこそ、追撃もまだ使っていない呪文だった。腹部の口に生えている無数の牙がバランスを崩しているサイへ
一斉に伸びる。今までは砲撃だったので地雷で軌道を逸らせたがあれは無理だ。『サフェイル』で回避しようにもあの速度では当たる。
(頼む、出てくれよ)
「『サシルド』!」
いつもよりも多く心の力を込めながら盾の呪文を唱えた。メインステージの床や柱は特殊な鉱物でできているため、地面から出てくる『サシルド』が使えるかわからなかったが、俺の心配は杞憂だったようでサイの下から群青色の湾曲した盾が現れる。それを見たサイは『サフェイル』で一気に降下して盾の陰に隠れた。
「そんな薄い盾で守れると思うなぁ!!」
「『サウルク』」
リオウが絶叫しながら体を捻ると牙が軌道を変え、『サシルド』を粉々に粉砕する。だが、その時にはすでにサイは『サウルク』で距離を取っていたため、牙には当たらずに俺の傍まで移動してきた。『サウルク』と『サフェイル』を解除してそっと息を吐く。
「鍵は?」
「リオウの額にある宝石だ。『ファウード』の話をした時、一瞬だけ光った」
「あれかぁ……じゃあ、
「ああ、それでいこう」
リオウを倒すためにいくつかプランを考えていたのだが、あの宝石を奪うためにはプランDしかないだろう。正直、サイの負担が大きいのでやりたくなかったが俺たちが勝つためにか仕方ない。
「じゃあ、サポートお願いね」
「……気を付けろよ」
「……うん」
「っ! バニキス!」
「『ゴウファノン』!」
柱の陰から出ようとしたサイに声をかけると彼女はこちらを振り返らずに頷き、戦場へと戻る。サイを探していたリオウはすぐに攻撃をしかけてきた。全身が鎧に覆われた獣がリオウの腹部から放たれ、サイへと迫る。今のサイは綱と地雷は持っているが強化呪文を使っていない。そして、武器である綱を捨てて迫る獣に右手を突き出した。
「『サザル・マ・サグルゼム』」
「なっ!? また強化呪文だと!?」
サイの右手から放たれた群青色の球体が『ゴウファノン』に激突し、獣が大きくなると共に鎧から鋭い棘が生える。そして、サイに当たる直前に左手に持っていた地雷を床へ向けて起動し、真上へと逃げた。
「『サルジャス・アグザグルド』」
「『グルガ・ドルファノン』!」
これだけ『サザル』を使えばリオウたちも俺たちが何かを企んでいるかわかるだろう。だからこそ、早く終わらせるために強い呪文を使い始めている。空中へ逃げたサイに獣の目や牙が付いたドリルが放たれるがもう一度、地雷を下に向けて起動して更に上へ逃げた。
「『サザル・マ・サグルゼム』」
「っ! バニキス、呪文を唱えるな!」
そして、すかさず群青色の球体をリオウに向かって撃つ。このままリオウがサイに向かって術を放てば球体に当たる軌道。そのため、リオウは咄嗟にバニキスへ指示を出して球体が当たらない場所へ移動する。
「『サフェイル』」
その間にサイに羽を与えると彼女は近くの柱へと着地した。それを見た後、少しでも心の力を節約するために羽を消す。
「何を企んでいる!」
「教えるわけないでしょ」
「『サルジャス・アグザグルド』」
「くそ、バニキス、心の力は回復しているな!?」
「ああ、まだ余裕が……ん?」
バニキスがリオウの言葉に答えようとしたが、何かに気づいたようで眉をひそめる。そして、驚いたように顔を引きつらせた。
「リオウ、心の力の消費量がおかしい!」
「何!?」
「ハチマン!」
「っ――!」
やっと、奴らが『サザル』のデメリットに気づいたらしい。そのタイミングで俺は柱の陰から飛び出す。サイもずっと隠していた『魔力放出』を使い、一気にリオウの懐へと潜り込んだ。
「『サザル・マ・サグルゼム』!」
「ぐおっ」
群青色の球体がリオウの体に直撃する。そして、俺も奴らの視界に入るようにわざと大きな音を立てながら走り、魔本に心の力を注いだ。
「ちっ、バニキス! 人間だ!」
「『サルド』」
「『ファノン』!」
「なっ!?」
呟くように呪文を唱え、サイに右手に群青色の綱を出現させる。リオウがエネルギー弾を放つ寸前、サイは綱をリオウの足に絡めて引っ張った。さすがのリオウも体勢を崩し、狙いが僅かにズレて強化されたエネルギー弾は俺の右頬を掠めるように通過していく。
「『サザル・マ・サグルゼム』」
『サルド』を捨てたサイは群青色の球体をバランスを崩しているリオウにぶつける。すると再び、リオウの体が群青色のオーラに包まれた。
「心の力の消費がおかしいのはその呪文のせいだな!」
さすがにここまで連発すれば心の力の消費量が多いことに気づくだろう。バニキスが苛立ったように叫び、魔本に心の力を注ぐ。心の力がなくなる前に勝負を決めるつもりなのだ。
「待て、バニキ――」
「――『バーガス・ファーロン』!」
「待てと言っているだろう!!」
格下の俺たちにいいようにやられているからか奴らの息が合わなくなってきている。『サザル』の効果でより太くなった無数の牙が俺に向かって放たれた。
(ああ、それでいい)
確かに『サザル』は他の魔物の術を強化する。その分、心の力を大きく消費するがそれでも当たった時の破壊力は計り知れない。
だが、それは当たった場合の話だ。
強化され、いつもより太く速度の上がっている群青色の牙たち。さぞ、
「『サルド』」
牙がすぐそこまできたところで『サルド』を唱え、俺の体に巻き付ける。そして、吊り上げるように綱を引っ張って俺を引き寄せた。
「ぐっ、コントロールが、利かんッ」
きっと、通常の『バーガス・ファーロン』だったらさっきみたいに牙を操作して当てられただろう。だが、慣れない強化にリオウは牙の操作が上手くできずに俺の体を掠めるだけに終わった。
「バニキス、止まれ!」
「っ……くそ」
『バーガス・ファーロン』が解除されたリオウは鬼の形相でバニキスを止める。さすがにさっきの暴走はやらかしたと思っているのか大人しく従うバニキス。
「ふん……お前らの狙いは
「……」
リオウの言葉に俺たちは答えない。一先ず、ここまでは順調だ。バニキスも強い呪文を唱えていたから心の力の消費も激しかったはず。このまま――。
「だが、無駄だ」
「これがあるからな」
「っ……」
バニキスが何かを取り出し、俺たちに見せつける。何か液体が入った小瓶? それを奴は自身の首に当ててその液体を体内へ注入した。
「これは『ファウード』の栄養液。体力と心の力を回復できる」
(ちっ、やっぱりあったか)
メインステージの近くに治療室があると聞いた時から嫌な予感はしていた。しかし、その可能性も考えていたのでさほど衝撃的ではない。
「さて、仕切り直しだな」
俺たちの作戦を見破ったと
さぁ、本番はここからだ。チャンスは一度きり。絶対に成功させる。