やはり俺の魔物の王を決める戦いは間違っている。   作:ホッシー@VTuber

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LEVEL.248 彼らは協力し、その時を迎える

 氷の大地に集結した皆を見てオレは言葉を失ってしまう。『ファウード』の攻撃は破壊力もそうだが、なによりその巨体さを利用した範囲が驚異である。だから、集まってしまうと一網打尽にされてしまう可能性があった。

「皆……バラバラになれって……」

「ふざけないで! なんで清麿たちを見捨てることができるよ!」

「そうだぜ、ここでガッシュたちがいなくなったらどうすんだよ!」

 だから、皆には散らばるように指示をしたのだが、ティオとキャンチョメが少し怒った様子でそう叫んだ。それに同意だったのか、他の皆もオレたちを見つめて頷いた。

「くっ……ありがとう」

 頼もしい言葉に思わず目頭が熱くなる。そして、再び目の前でそびえたつ『ファウード』を見上げた。

 オレが仕掛けた(トラップ)が発動するまで残り2分。そうだ、今までだってオレたちは協力して様々な困難を突破してきた。今回も同じようにすればきっと――。

「フン、『ファウード』を魔界に帰す装置を本当にセットできたとしてもエネルギー不足で発動するのに1、2時間はかかるはず! それまでの間、お前らのような虫ケラがどこまで抵抗できるか見物だな!!」

 オレたちの様子を見てリオウが勝ち誇ったように叫ぶ。一先ず、(トラップ)には気づいていないようだ。気づいていたとしてもオレが掛け直した(ロック)を解除できなければ意味がない。

「皆、あと2分足らずだ! そうすれば(トラップ)が働く!」

「『サイフォジオ』!」

 皆の士気を高めるため、改めて作戦の概要を伝える。その直後、恵さんが回復呪文を唱え、ティオの頭上に

大きな回復の剣が出現した。

「これで清麿君を回復して……あと残り2分、お互いをカバーし合って全力で生き抜く!」

 恵さんは『ファウード』を睨みつけながら叫んだ。あそこには八幡さんとサイがいる。オレの作戦が上手くいったとしても素直に喜べないのは確かだ。

(それでも……)

 オレたちはやらなければならない。そうしなければこの世界は滅亡してしまうのだから。

「ぜぇーい!!」

 ティオが両腕を振り下ろし、回復の剣をオレに突き刺す。体に力が入り、その場で立ち上がった。

「しゃらくさいわ! やれ、『ファウード』!」

 諦めないオレたちが煩わしかったのだろう。リオウは鬼の形相を浮かべ、『ファウード』へ指示を出す。それを受けた『ファウード』は巨大な拳をこちらに向かって振り下ろした。

「『ラウザルク』!」

「『ディマ・ブルク』!」

「『ディオエムル・シュドルク』!」

 オレとフォルゴレ、サンビームさんが同時に強化呪文を唱える。ガッシュには虹色の雷が落ち、キャンチョメは8体の分身を生み出し、ウマゴンはいつもの強化状態になった。

「散開!」

 オレたちがその場から離れると同時に『ファウード』の拳が氷の大地に突き刺さる。その隙に『ファウード』の拳をカルディオが凍りつかせ、固定した。『ファウード』の腕力なら薄い氷などすぐに破壊してしまうだろう。だが、今はその硬直がありがたかった。

「今だ、奴の体にはりつけ! 一番攻撃されにくいはずだ! 振り落とされない場所を探せ!」 

 オレはガッシュに背負われながら『ファウード』の腕を昇ってその体に着地する。他の皆も腕や氷を伝って『ファウード』の体を昇っていく。

「皆、わかってるな!? 時間が来たら『ファウード』の上半身へ移るんだ!」

 最後の指示を伝えてオレたちはフォローし合える距離を保ちながら動き続けた。なお、ガッシュやウマゴンのような機動力がない人たちはキャンチョメの分身に背負われている。最初に出会った頃に比べ、キャンチョメは本当に強くなったと思う。

「ちっ、チョロチョロと鬱陶しい!!」

 『ファウード』が動き回るオレたちを振り落とそうと乱暴に拳を振るう。デタラメとはいえ、あんな巨大な拳なら掠っただけでも大怪我は免れない。だが、皆は冷静に『ファウード』の拳を見て躱している。この様子であれば時間まで耐えられるだろう。

「何をやっている、『ファウード』よ! 小さい虫ケラを払えないのは封印で鈍っているのか!? 魔神と恐れられたお前が虫ケラ相手に無様な姿を晒すな! 恥を知れ!」

「オ、オオオ……ゴォオオオオオ!!」

 しかし、リオウに叱咤された『ファウード』は咆哮し、攻撃が激しくなる。まずい、ここまで攻撃が激しくなれば風圧で吹き飛ばされてしまう可能性も出てきた。なんとかしなければと思うがオレたちも攻撃を避けるだけで精一杯だ。

「はっはっは! 掠りもしないわ!」

「あいつら……」

 そんな中、フォルゴレの呑気な高笑いが聞こえ、視線を向けた。フォルゴレとキャンチョメは『ファウード』の股間にしがみつき、楽しそうに笑っている。こんな状況なのに笑っていられる彼らに呆れはするが、それ以上に張り詰めた空気を柔らかくしてくれた。

「おーい、恵たちも来ないか? あったかいぞー?」

「黙りなさい! 誰が行きますか!?」

 しかし、デリカシーのないフォルゴレは恵さんに声をかけ、拒否される。すぐに調子に乗るところは直してほしい。

「ッ!? 危ない、恵、ティオ!」

 だが、そんなやり取りをしていたところへ『ファウード』の拳が迫り、フォルゴレが大声を上げた。あれではキャンチョメの分身に背負われていても回避は難しいだろう。

「『ギャン・バギャム・ソルドン』!」

 魔本に心の力を溜めようとしたところでアースとエリーが巨大な剣を出現させ、『ファウード』の拳にぶつけた。そのおかげで数秒程度の僅かな隙ができる。

「シスター、『アムロン』を!」

「はい、『アムロン』!

 その間に戦況を見極め、シスターに指示を出す。ウマゴンの背中に乗っていた彼女はすぐに呪文を唱え、モモンの腕が伸び、恵さんとティオの手を掴んだ。

「よし、いいタイミングだ」

 救出された恵さんとティオを見て拳を握りしめる。残り1分弱。この調子でいけば間に合う。あれ(・・)が発動する。

「……っ。『ファウード』よ、止まれ! 奴らを消すのは後だ! まずはお前の体に異常がないか調べる!」

 その時、オレたちの様子がおかしいことに気づいたリオウが『ファウード』を制止させる。当たり前だ、『ファウード』を魔界に帰す装置が作動するのは90分後。その間、オレたちは『ファウード』を止めなければならない。しかし、今のペースで動き続ければ体力も心の力もすぐに底を突く。それを怪しいと思ったのだろう。

(だが、もう遅い!)

「みんな、時間だ! 『ファウード』の上半身へ!」

 むしろ、止まってくれたおかげで残り時間を稼ぐことができた。オレたちは急いで『ファウード』の上半身へ移動し、その時が来るのを待つ。

 確かに『ファウード』の巨体さを活かせば魔界へ帰る90分の間に地球の地図が変わるほどどこかしらの大陸をめちゃくちゃにできるだろう。そして、普通の方法であればそれを阻止するのは難しい。

 だが、『ファウード』が人間界に来て間もない頃に使った機能。人間に見つかった『ファウード』が姿を消し、ユーラシア北部のレスカ山脈からニュージーランドへと姿を移した、あの機能。

 

 

 

 オレがセットした(トラップ)――瞬間移動が発動し、『ファウード』の姿が地球上から消えた。


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