やはり俺の魔物の王を決める戦いは間違っている。 作:ホッシー@VTuber
群青色に染まった『バオウ・ザケルガ』が雄叫びを上げながら空へと昇る。そして、朝日に照らされながらその姿を消した。しかし、その姿が完全に消えた瞬間、周囲の建築物が一斉に音を立てて崩れ始める。
「ウマゴン、捕まった4人のところへ!」
「メル!」
『バオウ・ザケルガ』を使った反動で体から力が抜けていく中、掠れた声で強化状態のウマゴンへ指示を出す。すぐに返事をしたウマゴンは飛び散った瓦礫を使い、まだ完全に壊れていない広場へと着地した。
「お、おおい! 早く出してくれ!」
ここに到着した時にチラリと確認したがティオ、恵さん、キャンチョメ、フォルゴレの4人は檻に閉じ込められていた。このまま放置していれば4人は檻ごと、空中へ投げ出されてしまう。それは閉じ込められている4人もわかっており、フォルゴレが泣きそうになりながら悲鳴をあげる。
「ウヌ、今出すのだ!」
「ガッシュ、ここは任せろ」
ウマゴンから飛び降りたガッシュを遮ったのはリィエンの肩を抱いていたウォンレイだった。彼はすぐに檻の傍へ移動し、格子を掴んで一気に左右へ引っ張る。魔物の剛腕で格子は簡単に曲がり、大人でも出られるほどの隙間ができた。閉じ込められていた4人は慌てて外に出てくる。
「よかった、無事――」
そう言いかけ、ずっと続いていた揺れが更に激しくなった。そして、ついにその時が来る。
「ゴオオオオオオオオ!!!」
凄まじい咆哮と共にとうとう巨大な魔導巨兵『ファウード』が復活したのだ。ここに来る前に一通り、『ファウード』の性能を確認して本当に巨大な魔物だとわかっていたが実際に封印が解かれ、その馬鹿げた大きさに度肝を抜かれた。
「うわあああああああああ! 本当に魔物だったああああ!」
「ウソじゃなかった、見たくなかった!」
だが、キャンチョメとフォルゴレはずっと信じ切れていなかったようで雄叫びをあげる『ファウード』に絶叫する。フォルゴレはともかく『ファウード』が巨大な魔物だと最初に気づいたキャンチョメが驚くのはどうなのだろう。まぁ、臆病な奴なので勘違いだと言い聞かせていたのかもしれない。
「っ! そうだ、リィエン、アリシエ、エリー! 呪いは!?」
各々が再会を喜んでいる中、呪いをうけていた人たちへ視線を向ける。しっかりと自分の足で立っているが何か後遺症がないとは言い切れない。
心配だったのはオレだけではなかったようで皆がハッと顔を上げ、リィエンの近くにいた恵さんが彼女の前髪をかき上げる。そこにあった呪印は綺麗に消えていた。
「呪いの印が消えてる!」
「体が、とても楽ある……」
「やった、呪いが解けたぞ!!」
リィエンの言葉で呪いが完全に解けたとわかり、皆は一斉に歓声をあげる。アリシエも、エリーもリィエンと同じように呪印は消えていた。オレたちは間に合ったのである。
「健康な体がこれほど楽なものとは……鉛でできた棘の鎧を脱ぎ捨てたようだ」
自身の手を見ながら噛み締めるように呟くアリシエに思わず奥歯を噛み締めた。そんな状態で彼は俺たちを『ファウード』の体内へ導いてくれたのだ。結果的に騙すような形になってしまったが、それほど余裕がなかったと考えるのが自然である。
だが、ホッとしたのも束の間、広場の床が傾いた。『ファウード』が動き始めたのだ。
「いかん、何かに掴まれ!」
慌てて近くの柱にしがみつきながら大声をあげる。皆も振り落とされないように瓦礫や柱へ飛びついた。
「わあああああああああああ!?」
そんなオレたちの事情など『ファウード』が知るわけもなく、たった一歩で陸地から海へ移動し、無造作に海中へ右手を突っ込む。そして、何かを掴んで上へ放り投げた。
「あれは……クジラ!?」
『ファウード』が投げたのは大きなクジラ。そのクジラをパクリと口にくわえ、そのまま飲み込んでしまう。
「ひ、一飲みで食べたああああ!?」
さすがのティオも今の光景にビビったのか、涙ながらに悲鳴をあげる。もちろん、オレたちだってそうだ。巨大だとはわかっていたが、ここまでアクティブに動かれては周囲の被害がどんどん大きく――。
「ぬ、のおおおおおおお!?」
クジラを食べた『ファウード』は喉が渇いたのか、姿勢を低くして海水をゴクゴクと飲み始める。だが、そんな些細な動きでさえ相当なGがかかり、柱にしがみ続けることすら危うい。
そう思っていた時だった。海水を飲んでいた『ファウード』の動きが止まる。何事かと顔を上げたが耳に飛び込んできたのは『ハ、ハ、ハ』という少し切なそうな短い吐息。まさか、こいつ!?
「ぶえっくしょん!!」
オレの予想通り、『ファウード』はクシャミをした。そして、目の前の島がその風圧で吹き飛んだ。スポーンと宙に浮いた島は海面に着水し、大きな水しぶきをあげる。
「く、クシャミで島が吹き飛んだぞ!?」
「こんなのが本気で暴れたらどうなるんだ!?」
今の光景に言葉を失っているとサンビームさんとフォルゴレが顔を青ざめた。無理もない。たった一歩、足を踏み出すだけで踏んだ場所が更地になってしまうのだ。そんな化け物をオレたちは今からどうにかしなくてはならないのである。
(だが、出来る限りの準備はした。まずは――)
「『ソルセン』!」
――そんな俺の思考を遮るようにエリーが突然、呪文を唱え、アースが剣を振り払った。そして、術の効果で斬撃が射出される。その斬撃の向かう方向にいたのは――サイと八幡さんだ。
「サイ、八幡さん!」
「させないわ!」
「『ギガノ・シルガルルラ』!」
「くっ、エリー!」
「ああ、わかっている! 『ウルソルト』!」
「させないって言ってるでしょう?」
「『ギガノ・ガソル』!」
跳ね返った
「え、どうして、あの魔物はサイを!? 協力者じゃないの!? 清麿、止めなくちゃ!」
「……」
「清麿君!」
「……すまない、そういう約束なんだ」
恵さんの催促に首を横に振る。オレはもちろん、ガッシュさえも何かを見極めるように視線を鋭くしているだけで何も言わなかった。そんな俺たちの様子にあの場にいなかった人たちは目を丸くする。
『ファウード』のコントロールルームで俺たちは話し合った。もちろん、オレは魔界の文字を覚え、『ファウード』を制御するコンピューターをいじりながらだったし、ガッシュたちも休息が必要だったため、数時間ほど眠った。
だが、起きている時間は何度も話し合った。俺たちが知るサイのこと。そして、アースが知るサイのこと。
何度も、何度も話し合い――結局、
それでも『ファウード』を魔界に帰す作戦を伝え、『ファウード』の封印を解くところまでは協力してくれると約束してくれたのは本当に幸運だったと言える。
しかし、アースは最後までサイに関して譲らなかった。そして、アースから話を聞いたオレたちはそれを受け入れたのだ。
「某は『ファウード』の封印を解いた後、奴へ攻撃を仕掛ける。邪魔をするな」
コントロールルームから『ファウード』の封印場所まで移動している最中、アースは静かにそう告げた。だから、オレたちは邪魔をすることができない。
「あっはっは! この『武姫』に剣で挑もうなんて腕に相当な自信があるようね!」
「『武姫』? 貴様、『ハイル・ツペ』か!?」
「ええ、そうよ! 『武姫』のハイル・ツペとは私のこと!」
剣を何度も切り結んでいた彼らだったが、ハイルの一言にアースが反応する。アースが知っているということはハイルは魔界で相当、有名だったのかもしれない。実際、ガッシュやテッド、サイを苦しめたアースの剣技をハイルは笑いながらやり過ごしている。『ウルソルト』で速度が上がっている状態であるにもかかわらずに、だ。
「『ツペ家』の者がどうしてその化け物を守る!? 知らないのか?」
「私の友達に化け物なんて酷い言いようね。ユウト、一つギアを上げて」
「『ブオ・ウル・ガルルガ』」
「ちっ、『ジャン・ジ・ソルド』!」
ハイルの剣を振るう速度が上がったのを見たエリーは顔を歪ませながら呪文を唱える。アースの剣を覆うように巨大な剣が現れ、勢いよくハイルへ振り下ろしたがハイルは自身の剣をそれに叩きつけ、その反動を利用してその場から離脱する。
「……」
だが、オレが気になるのはジッと何かを待つサイの顔だ。自分が狙われていることぐらい、彼女は気づいているはず。それなのにどうして、そんな他人事のようにアースたちへ視線すら向けずにいるのだろう。
「『ファウード』よ! 勝手に暴れるのは許さん!」
その時、大気が震えるほどの大きな声が広場へ響き渡る。さすがにただ事ではないとアースとハイルは剣を構えながら動きを止めた。
「お前の主はこのリオウだ! 待機の体勢にて次の命を待て!」
「ッ!! ォ、オオ……」
その声――リオウの指示通り、好き勝手に動いていた『ファウード』は硬直して両腕を胸の前で重ねるような体勢になる。やはり、リオウは『ファウード』を操る方法を知っていたのだ。
「リオウ!」
周囲を見渡し、リオウの姿を探すが先ほどいた場所には誰もおらず、顔を上げるとそこには宙に浮いたリオウの姿があった。
予め、お知らせしておきますが1月28日の更新はございませんのでご了承ください。