やはり俺の魔物の王を決める戦いは間違っている。   作:ホッシー@VTuber

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LEVEL.243 朝日が昇る時、群青色の雷龍が轟く

 リオウの掛け声で本の持ち主(パートナー)たちは一斉に魔本に心の力を溜め始める。すでに太陽は海面から僅かに顔を覗かせていた。残された時間は本当に少ない。

(それにしても……)

 大声を上げているリオウの傍に奴の本の持ち主(パートナー)はない。リオウと顔を合わせたのはあの時の一回だけだが、その時も本の持ち主(パートナー)はいなかった。ハイルの話では誰もリオウの本の持ち主(パートナー)を見たことがないらしい。近くにいるのか、それともリオウ固有の能力で姿を隠しているのか。他の魔物たちがリオウに従っている理由の一つにリオウの魔本を見つけられなかったこともあるだろう。どんなに強い術を持っていたとしても魔本を燃やさなければ魔界に帰す(倒す)はできないのだから。

「皆の者! 最大の攻撃術を放てるまで心の力を溜めろ! 特に我が呪いを受けし者は心してかかれ! 太陽が完全に海より上に現しきった時、『ファウード』の封印が壊れていなければお前たちは死ぬぞ!」

 リオウも力が足りないことを理解している。だが、ここで待ちを選択したところで呪いを受けた本の持ち主(パートナー)たちが死に、更に戦力を失ってしまうだけだ。

 それでも呪いを解かないのは報復を受けるのを恐れているからだろう。俺たちに力を貸してくれているハイルはさておき、呪いを受けずにここにいる魔物たちはリオウに忠誠を誓っているわけでなく、『ファウード』の封印を解いた後、奪うために集まっている奴らばかりだ。今はリオウが先頭に立って指示を出しているが、力関係のバランスが崩れた瞬間、リオウはここにいる全員から狙われる。

 それなら力は足りずとも少しでも封印に傷を付け、戦力を集めた後、再び封印を解こうという算段なのだろう。

「サイ!」

 心の力を魔本に溜めていると後ろからサイを呼ぶ声が聞こえる。そこには檻の中に閉じ込められたティオ、大海、キャンチョメ、フォルゴレの姿があった。

 俺たちは今後の動きに影響を与える可能性があったため、意図的に視線を向けなかった。それに向こうも自分たちが人質になっていることを理解していたのだろう。もし、俺たちに話しかけてこちらの立場が危うくなることを考慮し、接触せずにいたのだが、我慢の限界が来たティオがサイに声をかけたのだ。

「ガッシュたちは!? あんたの『魔力探知』ならわかるでしょ!?」

「来てないよ」

「来て……だ、だったらなんでそんなに平然としてるのよ! このままじゃ――」

「――うん、死んじゃうね」

 ティオの叫びを遮るようにサイは前を向いたまま、そう平坦な声音で無情な現実を告げた。日本を出る時、リィエンに呪いをかけられたことを知った時、あれほど怒っていた彼女が、である。そんなその冷徹な背中にティオたちは言葉を失う。

 ここにいる魔物はサイやティオ、キャンチョメを除けば全部で11体。『サザル』の効果で最大呪文の威力を120%程度まで引き上げたところでガッシュの力を補えるのか。

 その答えが出すために賭けられた命が3つ。

 少しずつ海から太陽が昇ってくる。魔本に込める心の力は本の持ち主(パートナー)の感情によって大きく左右される。こんな状況では呪いを受けた人たちは決してプラスの感情を込められるとは思えない。もしものことを考え、『サジオ』の出力を最大まで上げておく。

「撃ち砕けええええええええええええええ!!」

 リオウの号令が轟き、魔本の光が一斉に大きくなる。呪いを受けたひとたちは苦痛で体を震わせながらも必死に前を向いて大きく口を開けた。

「『ディオガ・ラギュウル』!」

 ハイルと同じような大きな翼を持つ男の魔物がその翼から群青色のオーラを纏った黒い帯状の術を放つ。確か、ガッシュたちが以前に戦った『ロデュウ』という魔物も大きな翼を持っていると言っていたので奴がそうなのかもしれない。

「『ディオガ・ギニスドン』!」

 頭がU字の魔物が刺々しい群青色の光線を鍵穴へ次々と突き刺していく。その魔物の雰囲気が1000年前の魔物たちと戦った時に出会った『ビクトリーム』に似ているので奴の子孫なのかもしれない。

「『アルセム・ガデュウドン』!」

 その隣に立つ別の魔物が極太の青い熱線を放ち、勢いよく鍵穴へぶつけた。その火力はウマゴンの『ディオエムル・シュドルク』を遥かに超える。ウマゴンの術は強化が主体なので火力の差は仕方ないか。熱線が青いのは『サザル』の影響なのか、それとも元々、そういった色なのかまでは判断できなかった。

「『エマリオン・バスカード』!」

 鎧を着た魔物が巨大な槍のような物を出現させて鍵穴へ射出し、群青色の軌跡を残す。あの槍を『サシルド』で受け止めようとしても一瞬で貫かれてしまうだろう。まぁ、最大呪文と謳っている時点で『サシルド』は通用しないのだが。

「『バビオウ・グノービオ』!」

 蜥蜴のような二足歩行かつ大きな翼を持つ魔物は巨大な群青色の蛇の頭を何匹も召喚して一斉に鍵穴へ向かわせる。本の持ち主(パートナー)はカンガルーの子供のようにその魔物の腹部にあるスペースに隠れており、魔本を燃やすには少し苦労しそうだ。

「『ゴライオウ・ディバウレン』!」

 このタイミングでウォンレイが右腕を振り下ろし、巨大な虎を鍵穴に向かって放った。千年前の魔物との戦いの時に見た術よりも大きな虎だったため、あの時の術の単純な上位互換なのだろう。色に関しては『サザル』の効果で群青色になっているが、本来は白いのだろう。

「『シャオウ・ニオドルク』!」

「『ディオガ・コファルドン』!」

 今度はリーヤがこの世に存在するどの動物とも似ていない群青色の獣型の術を鍵穴へ叩き込んだ。そして、その直後に巨大な青い宝石が鍵穴へ激突する。チェリッシュの放った術が宝石系だったので彼女のものだろう。

「『ディオガ・ガルジャ・ガルルガ』!」

 ハイルの背後にいくつもの巨大な鎖を持つ骸骨が現れ、消滅効果付きのそれを鍵穴へ振り下ろした。修学旅行の時に習得したあの呪文である。ハイル自身に聞いたが彼女の最大呪文は少し特殊らしく、一番火力が出るのがあの骸骨のようだ。あの時と違うのは『サザル』の影響で骸骨が群青色になっていることぐらいだろうか。

「『ジボルオウ・シードン』!」

 追い打ちをかけるようにザルチムが大きな鎌を持つ黒い何かを出現させ、鍵穴に叩きこむ。何故か、あの術は群青色に染まっていない。いや、よく見ればザルチムの手元に影絵のような何かがあり、そっちが群青色のオーラを纏っている。そういえば奴は頭から光を放ち、影を操る魔物。あの大きな黒い物体は影だから色が乗らないのだろう。

 

 

 

 

 

 

「『ファノン・リオウ・ディオウ』!」

 

 

 

 

 

 

 そして――どこからか男の声が響き、リオウのお腹から群青色の三つ首の獣が姿を現した。その姿は想像上の怪物であるケロべロスに似ており、そいつは鍵穴へ噛みつく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だが、11発の最大呪文が直撃した『ファウード』を封印している鍵穴は壊れる様子はない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ダメ、壊れない!」

「もう太陽が完全に昇っちゃうよ! このままじゃ!」

 後ろでティオとキャンチョメが泣きそうな声で叫んでいる。ああ、そうだ。このままだったらアリシエたちは死んでしまう。

 呪いを受けた人たちが体を蝕まれる苦痛で呻き声を漏らす。

 『ファウード』を手に入れるために集まった魔物たちが己の欲望を満たさんと咆哮する。

「……」

「おい、ハイル!? 何をしている!?」

 唯一、どちらにも属さないハイルは――骸骨を消してその背にある翼を大きく広げ、飛翔した。まさかこのタイミングで術を消すとは思わなかったリオウが絶叫するも彼女はそんなのはお構いなしに鍵穴に向かう。

「ハチマン」

「『サフェイル』」

 それとほぼ同時にサイが俺の名前を呼ぶ。わかっている。だから、心の力を溜めていたのだ。いつでも彼女を空へ飛び立たせられるように。

 2対4枚の丸い羽を生やしたサイはハイルを追いかけるように夜明けの空へ舞い上がる。そんな彼女たちを追い越す大きな影が二つ。

「一打粉砕に努渇の心力を込め、万物を叩き割る剛剣の刃を生み出さん!」

 片方の影の正体はウマゴンに似た馬型の魔物。それに乗っていたのは依然、河原で戦った剣を操る魔物――アースだった。正義感の強い彼が私欲のためにここにいるとは考えにくいので本の持ち主(パートナー)がリオウに呪いをかけられてしまったのだろう。

「『ギャン・バギャム・ソルドン』!」

 彼の本の持ち主(パートナー)であるエリーが呪文を唱えると鍵穴の真上に巨大な剣とその柄を掴む巨大な右手とその剣の背に拳を当てている巨大な左手が出現する。そして、一気に鍵穴へと叩きつけられた。

「くっそ、間に合わねぇ……」

 それでも鍵穴は壊れない。影から悔しそうな声が微かに聞こえた。すでに海面から太陽がほとんど出ている。術を唱える時間を考慮すればそれぞれ一発ずつ(・・・・)しか撃てない。

「足りない分はこっちが補うからやっちゃって!! ハイル!」

「ええ、わかってるわ!」

 二つの影に叫んだサイの合図でアースの傍へ移動したハイルが右手を前に差し出す。その瞬間、ずっと固唾を呑んで見守っていた彼女の本の持ち主(パートナー)であるユウトの持つ魔本が一際大きな光を放った。あの骸骨を放った時よりも大きな光である。

「まさかこんなニッチな術がここで役に立つとは思わなかったわ!! ユウト、お願い!」

 

 

 

 

 

「『シン(・・)・ティク・ガルル』」

 

 

 

 

 

 ユウトが呪文を唱えるとハイルの手に小さな短刀が現れる。だが、その短刀から放たれる威圧(プレッシャー)があまりにも異常であり、どこからか息を呑む声が聞こえた。

「この短刀の効果はたった一つ!! どんな物にでも刺さる! それだ、けぇ!!」

 そう叫びながらハイルが短刀を鍵穴へ投げる。11発の呪文が今もなお鍵穴へ激突している最中であるにも関わらずに。

 投げられた短刀は何かに導かれるように術と術の間をすり抜け、鍵穴へ刺さった(・・・・)。サク、と音が聞こえそうなほどスムーズに。

「消して!」

 そして、すぐにハイルがユウトに指示を出して短刀を消す。すると、そこに本当に小さな穴――楔が打たれた。

「ッ……ガッシュ、行くぞ!」

「ウヌ!」

 それを見ていたもう一つの影――強化状態のウマゴンに乗っていた高嶺とガッシュが術を放つ態勢に入る。そして、そんな彼らに並走するのはキラキラと朝日の日差しを浴びて群青色の粒子を瞬かせるサイ。

 

 

 

 

 

 

「『バオウ・ザケルガ』!!」

 

 

 

 

 

 ガッシュの口から巨大な雷龍が放たれる。だが、小さい(・・・)。あの術は他の術を使えば使うほど威力が高まるもの。おそらく、時間が経ってしまったせいで最大威力まで届かなかったのだろう。

 きっと、高嶺の中ではもう少しだけ早く来て『ザグルゼム』を連発するつもりだったはずだ。そうすれば『バオウ・ザケルガ』本体の威力を上げながら『ザグルゼム』で更なる強化ができただろう。だが、何かトラブルがあって到着が遅れてしまった。

 そして、そんな可能性(最悪)を考え、万が一の備えてもう一手だけ用意していた彼女はその雷龍にギリギリまで近づいて右手を前に突き出した。

 

 

 

 

 

 

「『サザル・マ・サグルゼム』」

 

 

 

 

 

 俺が呪文を唱えた瞬間、雷龍が群青色へ染まり、その背に大きな翼が生える。その翼を羽ばたかせ、一気に加速した『バオウ・ザケルガ』が鍵穴に噛みつき、それを粉々に粉砕した。


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