やはり俺の魔物の王を決める戦いは間違っている。   作:ホッシー@VTuber

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LEVEL.242 夜明け前、彼らは群青色に染まる

 時刻は明け方。日は昇っておらず、冷たい風が髪を優しく撫でる。きっと、あと数分と経たずに水平線の向こうから太陽が顔を出すだろう。

「……空が白んできたな」

 その時、ずっと沈黙していたリオウがボソリと呟いた。その声が聞こえたのだろう、複数の息を呑む音が耳に届く。

 ここは『ファウード』の封印が見える高台。そこにはリオウと始めとした魔物とその本の持ち主(パートナー)が集められている。そう、とうとう『ファウード』の封印を解く時が来たのだ。

 チラリと周囲を見渡し、リオウの呪いを受けた人たちを見やる。

 体を震わせている人。

 顔を青ざめさせている人。

 堂々と立ちながらも冷や汗を流している人。

 様子は人それぞれだが、共通していることはもう少ししたら死んでしまうかもしれないということ。

「……」

 最後に隣に立つサイを見下ろした。彼女は黙って『ファウード』の封印を見つめている。表情はここからでは見えないのでどんなことを考えているのか、読むことができない。

「間もなく夜明けだ! 皆の者、呪文を撃つ準備を!」

 ずっと待ち続けていたリオウだったが、タイムリミットが来てしまった。奴は杖を振るい、後ろに立つ俺たちに指示を出す。

「……あいつらは?」

「まだ」

「……そうか」

 短くサイに問いかけるが彼女は感情の乗っていない声で否定した。現在、ここにいるのはリオウが集めた強力な攻撃呪文を持つ魔物たちだ。だが、リオウとしては可能な限り、協力者を減らしたかったのか、集められた魔物は『ファウード』の封印を解くのに必要最低限の人数だった。

 だが、ここに来るまでにガッシュたちがその一人であるブザライを倒してしまったため、戦力が足りていないのである。

「まずは八幡、サイ。皆を強化しろ」

「……ああ」

 リオウの指示に従い、俺は魔本を持ち直して心の力を込めた。淡く輝く魔本の光が周囲を照らし、その光から離れるようにサイが一番近くにいたリオウの背中へ近づく。

「『サザル・マ・サグルゼム』」

 サイがリオウの背中に向かって右手を伸ばすと呪文を唱え、その手から群青色の球体が射出され、奴へと着弾。その瞬間、リオウの体が群青色のオーラに覆われた。

「『サザル・マ・サグルゼム』」

 次にザルチム。リオウの部屋へ案内されてからは行動を別にしていたため、結局、奴の戦い方などはわからない。今もサイの術が当たったのに特にリアクションを起こさず、『ファウード』の封印を見ていた。

 それからリオウが集めた魔物たちへ『サザル』を当て続ける。リオウも俺たちが魔物たちを強化する時間を考慮してくれたようで未だに水平線から日は出ていない。だが、悠長に強化している場合でもないので手際よく作業を続けた。

「サイ……」

 次にリオウから本の持ち主(パートナー)に呪いをかけられ、無理やり協力させられている人たち。最初は『ファウード』の体内を探索している間、協力していたアリシエとリーヤコンビ。

 アリシエは近づいてきたサイを見てどこか驚いた様子だったが、こちらの事情を聞いている場合ではないと判断したようでそれ以上、何も言わなかった。

「『サザル・マ・サグルゼム』」

「……」

 サイから術を受けてもリーヤは言葉を発さない。封印の証である鍵穴はとても巨大だ。当てどころを間違えてしまえば本来の威力を発揮できないだろう。そのため、どこに術を放つか鍵穴を観察しているのかもしれない。

「『サザル・マ・サグルゼム』」

 次にリィエンとウォンレイ。リィエンは体を震わせ、魔本を抱くようにしてウォンレイに両肩を支えられている。死への恐怖か、呪いがそれほど辛いものなのか。俺には想像することしかできない。

「ありがとう、サイ。必ず封印を破壊する」

「うん」

 ウォンレイの言葉にサイは頷くだけだった。そのまま二人を無視するように歩き出してしまう。ウォンレイたちは何事かと顔を見合わせ、すぐに『ファウード』の封印へと向き直った。

「『サザル・マ・サグルゼム』」

 次にサイの数少ない知り合いであるチェリッシュとその本の持ち主(パートナー)であるニコル。一応、ここに来る前にニコルと自己紹介はしておいたが、サイもチェリッシュは知り合いであるにもかかわらず特に言葉を交わさずに俺たちのやり取りを見ているだけだった。

「……」

「……」

 今も群青色のオーラを纏うチェリッシュとサイは数秒ほど見つめ合った後、そのままサイは彼女から離れてしまう。

 そして、最後に――。

「さぁ、サイちゃん! 早く私に撃ち込んで!!」

 ――両手を大きく広げ、真正面から『サザル』を受けようとするハイルがいた。顔を赤らめ、はぁはぁと呼吸を乱している姿はまさに変態である。

「後ろ向いて」

「それはサイちゃんのお願いでも聞けな――」

「――命令だよ、後ろを向け」

「あ、はい」

「『サザル・マ・サグルゼム』」

 サイの威圧に根負けしたハイルは素直に後ろを向き、『サザル』を撃ち込まれた。この空気でいつも通りに振る舞えるのは正直、すごいと思う。痺れもしないし、憧れもしないけど。

「よし、準備は整ったな。では、我が合図と共にあの封印の鍵穴に向かって一斉に最大攻撃呪文をぶつける!」

 俺たちの強化が終わったのを見てリオウは杖を鍵穴に向け、大声を出す。ガッシュたちの姿はない。

 確かに『サザル』は球体を当てた対象が次に使う術の威力を強制的に100%にしてしまう術。もし、仮に最初から100%の威力を発揮している場合、更に20%ほど威力を跳ね上げてくれる効果もある。

 だが、果たしてそれだけの強化で『ファウード』の封印を解くことができるのだろうか。いや、戦力が足りていた場合、リオウはこんなギリギリになるまで『ファウード』の封印を解くのを待っていなかったはずだ。

 つまり――。

 

 

 

 

 

「ゆくぞ、これより『ファウード』の封印を壊す!!」

 

 

 

 

 ――戦力が足りていない絶望的な状況、ということだ。


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