やはり俺の魔物の王を決める戦いは間違っている。   作:ホッシー@VTuber

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お久しぶりでございます。
3年ほど前、色々ありまして更新が止まっておりました『俺ガッシュ』ですが、
この度、更新を再開することにしました。
ただ、更新自体は可能な限り、毎週日曜日に行いますが更新できない時もありますので大目にみてください。
一応、Vtuberとなり、ほぼ毎日配信していますので更新の催促に遊びにきていただけると幸いです。



ずっと放置し続けてしまいましたが、改めて『俺ガッシュ』をよろしくお願いします。


LEVEL.241 彼らは譲れないもののために言葉を交わす

 未だに剣を構えるアースとその胸で苦しそうに荒い呼吸を繰り返すエリー。そんな2人に対し、俺は奥歯を噛み締めながらこの後、どう動くか考えていた。

 もし、仮にオレの考えが正しいのであれば、アースの行動も納得ができる。いや、そもそも初めて戦った時から彼はサイに対して並々ならぬ怒りを露わにしていた。それが『魔界の脅威』が関係しているのならアースを説得するのは至難の業。実際、オレが『ファウード』を魔界に帰す方法を伝えたが聞く耳を持ってくれなかった。

 きっと、エリーもアースからサイのことを聞いているはず。だからこそ、自分の命が尽きようとも封印を解く前にファウードを魔界に帰そうと考えた。

(くそ、どうするッ……)

 言葉での説得はほぼ不可能。

 だが、すでに戦力の一人だったブザライを倒してしまった現状、ただでさえ封印を解く戦力が足りない。『ファウード』の封印を解くための戦力として数えられているアースの魔本を燃やすのは論外。

「おい、話を聞けって!」

 唯一の救いはオレの言葉を聞いてカルディオの本の持ち主(パートナー)がこちら側についてくれたことぐらいか。ガッシュは手が凍りついてしまって上手く戦えないのでアースを引き付けてくれているのは正直、ありがたい。

「清麿、どうする!?」

 後ろからサンビームさんの叫び声が聞こえた。ああ、わかっている。このままここで時間を浪費するわけにはいかない。計画を実行するためにそれなりの時間を要する可能性が高いので一秒でも早く『ファウード』を魔界に帰す装置に触れたかったからだ。

 でも、答えが出ない。アースたちの心を動かす何かを、見つけられない。

「シスター! 隙を見てモモンに魔本を奪わせてくれ!」

「は、はい!」

「ウマゴン、大変だろうが動き回ってアースをかく乱! チャンスを作るんだ!」

「メルメルメ~!」

 とにかく今はアースを動けなくするのが先決。ウマゴンがかく乱してくれたらその分、モモンが魔本を奪うチャンスは増えるし呪いに蝕まれて握力が衰えているエリーがアースの動きについていけず、魔本を落とす可能性だってある。

 そうだ、考えても答えが出ないのなら行動しろ。動きながらでも考えることはできる。

 

 

 

 

 ――キヨマロ。

 

 

 

 

「くっそ、なんでそんなに強情なんだ! カルディオ、やるぞ!」

「パルパルモーン!」

「カルディオの本の持ち主(パートナー)! 本は燃やさないでくれ!」

「そんなのわかってるっての! それにオレの名前はサウザーだ!」

「ちっ」

 オレの言葉に怒ったように返事を返したカルディオの本の持ち主(パートナー)――サウザーはカルディオに指示を出してアースに向かって冷気を飛ばす。共に行動していたアースはカルディオが敵になったことに舌打ちをしながら剣を乱暴に振るうことでそれを吹き飛ばしてしまった。魔本を燃やさないという制約があるせいで冷気の出力を抑えなければならず、術がなくても無効化されてしまったのだ。

 

 

 

 

 

 ――その背中、支えてあげる。

 

 

 

 

 

「ガッシュ、ウマゴンの背中に乗れ! 炎で手の氷を溶かすんだ!」

「ウヌ!」

「メル!」

 ガッシュがアースの周囲を動き回っていたウマゴンへ近づき、タイミングよくその背中に乗った。ウマゴンがサンビームさんに引き取られるまでほぼ毎日一緒に過ごしていた2人は言葉はなくとも息を合わせられる。アースを無効化するにあたって2人のコンビネーションは不可欠だ。

(大丈夫、大丈夫……)

 大丈夫、頭は回っている。体は鉛のように重く、心の力に余裕はないため、使える術は残り2~3発。気を抜けば倒れこんでしまいそうなほど疲労している。

 

 

 

 

 ――でも、あの建造物……多分、魔界で封印されてたよ。

 

 

 

 

「ウマゴン、左! カルディオはアースへ肉薄! ガッシュ、飛び込め!」

 でも、それでも思考はクリアだ。戦況も見極められている。指示出しもスムーズで、皆もオレの声に疑わずに従ってくれている。

「なめるなあああああああ!」

 だが、それでもアースは止まらない。左肩はカルディオの冷気で凍りつき、羽織っている外套は炎で焦げ、それでも地面から飛び出すモモンを転がるようにして躱し、飛び込んできたガッシュの顔面に拳を入れようと強引に体を捻る。

 その姿は前に戦った時のような武士の矜持(プライド)などなく、血反吐を吐いてでも子供を守ろうとする親猫のようだった。

 このままでは俺たちの体力が底を尽きるか、アースが力尽き、誤って魔本を燃やしてしまう。

 いや、そもそもアースたちの目的は『ファウード』を魔界に帰すことではない。『魔界の脅威』を解き放たないことだ。つまり、アースは自分が負けたとしても目標を達成できる。

「ああああああああああああああ!!」

 だから、命を燃やし切らんとばかりに抗う。それほど、サイの、『魔界の脅威』の恐ろしさを知っている。

「『ウ、ル……ソル、ト』!」

「ッ!? う、おぉおおおおおおおお!!」

 そんな彼の思いに応えるようにエリーは術を唱えた。呪いによって呼吸することすら苦しいはずだ。それを知らないはずのないアースは歯を食いしばりながら咆哮する。そのあまりの気迫に思わず生唾を飲み込んでしまった。

「くっ、スピードが速くなりやがった! カルディオ、地面を凍らせろ!」

「待て、それだとガッシュたちも動きにくくなる!」

「じゃあ、どうしろってんだよ!」

「それは……」

 

 

 

 

 

 

 ――だって、私が『魔界の脅威』の一つらしいから。

 

 

 

 

 

 

「っ……」

 サイの言葉が頭を過り、ほんの一瞬だけ思考が停止する。そんな僅かな隙であってもアースは見逃さない。『速度を上げる術(ウルソルト)』で一気に加速した彼は――シスターの目の前に一瞬で移動した。

「ぇ……」

「御免」

 いきなり接敵されたシスターはまるで他人事のようにアースを見つめる。そして、そんな彼女に向かってアースは剣を――。

「――おおおおおおおお!!」

 ――振り下ろす直前、隣に立っていたサンビームさんがシスターを抱えて剣の軌道上から移動する。アースの切っ先はサンビームさんを服を僅かに切り裂き、その布切れが宙を舞った。

「『ラウザルク』!」

「ぬおおおおおおおおお!」

 地面を転がって距離を取ろうとするサンビームさんを追いかけるアースへ肉体強化の施されたガッシュが立ち塞がる。その間にウマゴンがサンビームさんたちを回収した。

「いい加減にせぬか! どうして、そこまで『魔界の脅威』を恐れる!」

「だから言っただろうが! 『魔界の脅威』によって魔界では10年前に多くの犠牲が出た、と!」

 アースの剣に触れないように攻撃をいなし続けるガッシュにアースは叫んだ。唇を噛んだのか、彼の口の端から血が細く流れていく。

「その歴史を繰り返してはならない! ましてやここは人間界! 人間たちが『魔界の脅威』をあの時みたいにどうにかできるわけがない! だから、ここは譲らない!!」

 そう彼が轟く。その拍子に唾と共に血が飛んだのか、ガッシュの右頬に小さな赤い血が付着し、重力に従ってゆっくりと伝っていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

「こちらだって譲るわけにはいかぬのだ!」

 

 

 

 

 

 

 

 だが、アースの言葉を受け止めてなお、ガッシュは叫び返した。そのあまりの声量に大気がビリビリと震え、ガッシュ以外がその場で硬直する。

「『ファウード』の封印を解かなければ友が死ぬ! お主のパートナーが死ぬ! そうなってしまえば私は己の未熟さに気が狂ってしまう!! どうして、助けられなかったのか。何故、お主を説得できなかったのか。そこに助けられる方法があるにもかかわらず、それを実行できなければ私は悔やんでも悔やみきれぬ!!」

 動きの止まった隙を突き、ガッシュがアースの両肩へ手を当てた。ギリギリと力を込めているようでガッシュの二の腕に血管が浮かんでいる。

「アースよ、もう一度言う。私たちは必ず『ファウード』の封印を解いた後、魔界に帰す。必ずだ!」

「だから、お前たちは『魔界の脅威』の恐ろしさを――」

「――同じ『魔界の脅威』であるサイのことを知っている!!」

 アースの言葉を遮ってガッシュは再び絶叫した。その勢いにアースも口を閉じ、眉間に皺を寄せる。僅かに話を聞く態勢に入ったのだ。

「これまで私たちは何度もサイに助けてもらった。絶望的な状況でもサイに背中を支えてもらった(・・・・・・・・・・)! だから、どうしてもお主のいう『魔界の脅威』とサイを結び付けられぬ」

「それ、がどうした……」

「だから、教えて欲しい! サイが魔界で何をしたのか! お主の知る全てを!」

 先ほどまであれほど激しく戦っていたはずなのにそのガッシュの一言でこの場はシン、と静まり返る。ガッシュの『ラウザルク』は少し前に切れているのにアースは振りほどこうとしない。それだけ、今の言葉には覇気が込められていた。

「……聞いてどうする?」

「聞いてから考える!」

「責任は取れるのか? お前の我儘で人間界の全ての生物が死んだとしても?」

「そうならないためにここに来たのだ! 全てを救うために私はここに立っておる!」

 図らずもアースの言葉は『ファウード』に突入する前にアリシエとの問答と同じだった。一度覚悟を決めたガッシュがそれに即答できないはずもなく、彼らは数秒間、目を逸らさずに瞳の奥に宿る(おもい)を見極める。

「……わかった」

 そして、アースは剣を下ろした。それと同時にガッシュもアースの体から手を離す。

「……本当に『ファウード』を魔界に帰す算段はあるんだな?」

「ぁ、ああ」

「……そちらの作戦に少しでも不備があればその本を斬り捨てる」

「わかった」

 完全に信用してくれたわけではないのだろう、アースはオレを睨みつけながらその場で踵を返す。彼の向かう先は『ファウード』を魔界に帰す装置がある部屋。

「一先ず、結末から教えてやろう。あの化け物(サイ)は――」

 その扉に手を置いたところで彼はこちらを振り返り、零す。

 

 

 

 

 

 

 

「――10年前、魔界を滅ぼしかけ、王によって討伐された」

 

 

 

 

 

 

 

 あまりにも信じがたい、事実を。


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