やはり俺の魔物の王を決める戦いは間違っている。 作:ホッシー@VTuber
「作戦会議の前に……お前のパートナーはどうした? できれば一緒に聞いて欲しいんだが」
話し合う前に部屋に備え付けられていたポットを使い、私とハチマンに紅茶を淹れた(飲まないと言ったのに勝手に淹れた)ハイルにハチマンは質問する。すると彼女は一口紅茶を口に含んだ後、呆れたように溜息を吐いた。
「ユウトなら呪いをかけられた人間のお世話をしてるわ」
「お世話?」
「水とか着替えとか用意したりね。呪いをかけられた人間には魔物が付きっきりで看病してるのに大変だろうからってね」
『だから、私が看板を作ることになったのよ?』とチラチラと私の方を見ながら謎のアピールをしてくるハイル。褒めて欲しいみたいだが、残念ながらむしろ怒りたいほどである。
「……なら、しょうがないか。3人で話し合って決まったことを伝えよう」
「そうそう。正直、
「死ね」
「え?
ぐいぐいとお菓子を押し付けてくるハイルの対応方法がわからず、ハチマンに無言で助けを求めてしまう。彼は黙って首を横に振った。どうやら、すでに彼女は手遅れらしい。
「じゃあ、まずはサイに今まで経緯を説明しないとな」
「と、言ってもほとんどわかってるんだけどね」
部屋に来る途中、ハチマンは冗談混じりで『部屋に帰ったら寝る』と言っていた。今は状況が状況なので作戦会議を優先しているが、彼が疲労していることには変わりない。特に私の負の感情のせいで気絶し、『サジオ』が切れてしまっている。今はアドレナリンが分泌しているのか、平気そうにしているが緊張の糸が途切れたら倒れてしまうかもしれない。端折れるところは端折って作戦会議を手短に終わらせたい。
「あれでしょ? 最初はハイルがハチマンを仲間に誘って……何かがあってハイルはリオウを裏切ってハチマンと手を組んだんでしょ? でも、それを悟られるわけにはいかないから表向き、ハチマンは私に黙ってハイルの話に乗った体で動いてた」
「お、おう……大体そうだ」
「それに私は事情を知らないことになってたからハイルも私と鉢合わせた時、攻撃してきたんでしょ」
「ええ、あそこは完全にアドリブだったけど少なくとも私とサイちゃんが敵対してるって
思わせることができたでしょうね」
『シフォンケーキもあるの』と私の前にシフォンケーキが乗った皿を置くハイルを無視して思考の海にダイブする。私とハイルが戦った時、あの場にいたのはティオ、メグちゃん、サンビームさん、ウマゴン、シスター。対して、リオウ側の魔物はハイルとユウトを除けばチェリッシュとそのパートナー、ニコル。そして、最後にチェリッシュを助けるために乱入したウォンレイ。チェリッシュとニコルはともかく、ウォンレイからリオウたちに状況の説明はされているだろう。
「リオウからしてみればハイルはハチマンの説得に成功してて……ハチマンはパートナーである私に何の相談もなしにキヨマロたちを裏切った。何より、キヨマロたちは今もなお、ハチマンが裏切ったことにすら気づいてない」
もしかしたらリオウはキヨマロたちの心を折るためにどこかのタイミングでハチマンが裏切ったことを暴露するかもしれない。
だが、今、暴露してもメリットはほとんどない。むしろ、万が一、それでキヨマロたちの心が折れてしまった場合、『ファウード』の封印を解く力が足りない可能性が高い。リオウたちの反応を見るにあくまでも私たちは少しだけ力が足りない時のことを考えた保険でしかないのだ。『ファウード』の封印を確実に解くためにはガッシュの『バオウ・ザケルガ』が必要不可欠である。
「でも、実際はリオウを裏切ったのはハイルで、『ファウード』の封印を解いた後、私とハチマンがリオウを闇討ちして『ファウード』を奪う。ハイルや他の魔物に対してならリオウは絶対に隙を見せないけど、攻撃呪文を一切発現させてない私なら……奴は油断する」
「……疑ってたわけじゃないが、そう、何の説明もなく、作戦の内容を当てられると向こうにも筒抜けになってるんじゃないかって不安になるな」
「何言ってんのよ、ハチマン。サイちゃんが特別なの。サイちゃんだからこそ、わかったことだからあんな奴らにわかるわけないじゃない」
「サイ厨のお前の評価は当てになんねぇよ」
「うーん、でも、実際、なかなか上手くいってると思うよ。リオウの反応も変なところはなかったし……そもそも、あのタイプは自分に対して絶対的な自信があるから僅かな見逃しすらしてないって思ってるんじゃないかな。ティオたちを人質に取ってるからハチマンが裏切るとは考えてないんだろうし」
不安そうにしているハチマンにそう言うと彼はホッと安堵のため息を吐く。その態度が気に喰わなかったのか、ハイルはハチマンの背中を翼で叩いた。彼女からしてみれば軽く叩いたつもりなのだろうが、人間であるハチマンにとってその一撃は強烈だったようで数秒ほど悶絶する。
「ふん、人間は軟弱ね。ユウトにも前、同じことしたら吹き飛んでお家の壁が壊れたわ」
「ハイル、ちょっと黙って」
「はい」
ハイルを黙らせ、ハチマンの呼吸が戻るのを待つ間、バッグから『ファウード』の体内に侵入する前に見つけた水路で汲んだ水で喉を潤す。『あ、紅茶……』と言葉を漏らしたハイルは無視だ。
「正直、これまでの詳しい経緯とかどうでもいいの。私が知りたいのは……どうして、ハイルがリオウを裏切ることになったのか原因。そして、ハチマンが私に事情を説明しなかった理由。きっと、この原因と理由は同じことなんでしょ?」
「……」
私の言葉にハチマンとハイルはどこか気まずそうに顔を合わせ、目を伏せる。やはり、私の予感は当たっていたらしい。2人の様子から見てあまりいいことではないようだが。
「そうだな。サイの言うとおり、ハイルがリオウを裏切った原因と俺が黙ってた理由は同じだ。ただ、俺に関していえばそれが事実かわからなかったから黙ってたんだ」
「そもそもハチマンはね。私の誘いを最初は断ろうとしてたのよ。『今の状況じゃ判断できない』って。サイちゃんを説得することすらやろうとしてなかったんだから」
そのハイルの言葉を聞いて私は少しだけ安心してしまった。ハチマンが私に黙っていた理由が『ハイルの話に勝手に乗ったから』とも考えられたからだ。それがなんだかハチマンは私のことを信用していないと言われているような気がして、嫌だったのである。
「じゃあ、その理由って何だったの?」
「……俺が誘いを断ろうとした時、ハイルがリオウから預かってた手紙を出したんだよ。『俺たちが説得に応じなかったら見せるように』って言われてたらしくてな」
リオウの手紙。内容は明らかに私たちにとって都合の悪いものだ。だが、どうしてそれがハイルがリオウを裏切るきっかけになったのだろうか。
「その、内容がな……さっきのリオウとのやり取りで完全に嘘だったってのはわかった。だが、その時は否定しきれなかったからああやって仲間になったフリをするしかなかったんだよ」
「あら、やっぱり嘘だったの? よかったじゃない。これで思う存分、動けるわね」
何故か私から目を逸らしながら言い訳染みたことを言い始めるハチマンと懸念事項が消えたことに喜んでいるのか、笑みを浮かべるハイル。そんな前振りはいらない。早く教えて欲しい。
「あー……その手紙には――」
私の視線に耐え切れなくなったのか、ハチマンはガシガシと頭を掻きながら手紙の内容を口にする。
「――どこで知ったかわからんが……雪ノ下と由比ヶ浜がどうなってもいいのか、的なことが書いてあった」
その言葉を聞いた瞬間、私の視界は群青色に染まった。