やはり俺の魔物の王を決める戦いは間違っている。   作:ホッシー@VTuber

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お久しぶりです、hossiflanです。


今週から『俺ガッシュ』の更新を再開します。


LEVEL.235 だから、彼女はぼっちである

 シン、と静まり返った城内を私とハチマンはゆっくりと歩く。リオウとの顔合わせを無事に終わらせたが、気疲れが出たのもあるが、私の歩調にハチマンが合わせてくれているのだろう。そんな些細な気遣いが嬉しかった。

「……ねぇ、ハチマン」

「なんだ?」

「あー……えっと」

 私に呼ばれた彼はいつもの腐った目をこちらに向ける。何か言おうと思ったが、何を言っていいかわからず、言葉に詰まってしまう。そんな私を見て微かに笑みを浮かべたハチマンはポンと私の頭に手を乗せた。

「まぁ……とりあえず、お疲れさん」

「……うん、ハチマンこそお疲れ様」

 ゆっくり歩いていたとはいえここからリオウの部屋までは距離がある。話しても盗み聞きされる心配はないはずだ。もちろん、『ファウード』の魔力でほとんど機能していない『魔力感知』でもさすがに近くに魔物がいるのはわかる。まぁ、私やハイルのように『魔力隠蔽』を持っている魔物が他にもいる可能性も否めないが。

「これからどうするの?」

「部屋に戻って寝る」

「えぇ……」

 私の問いに即答したハチマンに思わずジト目を向けてしまう。具体的な作戦の内容とかハイルのこととか話してくれると思っていたのだが、彼にそんなつもりがなかったことに呆れてしまったのである。

「だって、なぁ」

「疲れてるのはわかるけど……あんまり時間ないんじゃないの?」

「そこはほら、俺たちの仲だから何も言わなくても以心伝心的な?」

「それを一番信じてないのはハチマンでしょ?」

 そんな言い合いをした後、私たちはお互いに笑みを浮かべた。

 ああ、そうだ。私たちはこうやって話していた。こうやって笑い合っていた。こうやって――。

「……真面目な話」

「ん?」

「さっきの反応からして作戦に関してはほとんど説明する必要はないと思う」

「……」

「……まぁ、これまでの経緯は話すから。それで許してくれ」

 ガシガシと私と手を繋いでいない方の手で頭を掻きながらそっぽを向くハチマン。その姿は悪戯がばれて怒られる子供のようだった。そんな彼を見て噴き出してしまう。

「もう……許してあげない」

「え、マジ? ここは笑顔でいいよって言ってくれるとこじゃないの?」

「うん、許さない」

 ハチマンとハイルが接触してからついさっきまで心配と嫉妬でどうにかなりそうだったのだ。謝るだけでは許すつもりはない。

「……じゃあ、ありきたりだけど何でも1つお願い聞くとか?」

 きっと、ハチマンも事情があったとはいえ、私に黙っていたことを気にしていたらしい。すぐにそんな提案をしてきた。捻デレのハチマンがそう言いだすとは思わなかったので驚いてしまう。

「何でも?」

「何でも何でも。俺にできることなら」

「……じゃあ、それで手を打ちましょう」

 正直、冗談のつもりだったが、貰えるものは貰っておこう。まだ具体的なお願いは考えていないが、貴重な命令権には変わらない。そう思いながら彼に小指を差し出した。

「はい、指切り」

「……はいはい」

 面倒臭そうに小指を差し出したハチマンとしっかり指切りをして再び歩き出す。歩調は少しだけ速くなっていた。

「そういえば……」

 客室までもう少しだが、一つだけ気になったことがあったのでハチマンの方を見上げる。彼も『何だ?』というようにこちらに視線を向けた。

「どうして、私に黙ってたの? ハイルから直接聞いたのならまだしもハイルから聞いた話だからってすぐに否定しないよ?」

「……」

 私の質問に対し、ハチマンは黙って視線を前に戻す。話すつもりはない、わけではなく、

どう言葉にしようか考えているようだった。

「……もちろん、俺だってハイルから聞いた話だけだったら話してたと思う」

 『まぁ、話を聞く前に拒否されたら困るから話し合いの場には連れて行かなかったんだが』とため息交じりに呟く。それに関しては言い訳する気はない。今回のことがなくとも私はハイルの話に聞く耳を持つことはなかっただろう。そのせいで余計、話がこじれてしまったのだが。

「じゃあ、他にも何か?」

「……悪い、これはハイルたちにも報告しなきゃならないことだから後でいいか?」

「……ふーん」

 ハイル、ねぇ。

 その名前を聞いた瞬間、私は思わず低い声が漏れてしまう。また、ハイルだ。事情とか、作戦とか、色々あるのはわかっている。でも、感情はそこまで単純ではない。

「……いや、サイさん? 今回ばかりは、ね? ハイルなしじゃ成り立たない作戦でして」

「ふーん? ハイルなしじゃ、ねぇ?」

「勘弁してください」

「……うん、そうだね。ごめん」

 そうだ、今は私の感情で我儘を言っている場合ではない。僅かに時間の猶予があるとはいえ、失敗は許されない。少しでも作戦の穴を埋めなければならないのだ。ハチマンがハイルを必要だと言うのなら――。

「――我慢するからッ」

「そんな顔を歪めながら言う? どんだけハイルのこと嫌いなの?」

「存在を許しておけないぐらい」

「……」

 ハチマンがもう一度、深いため息を吐いたところでザルチムに案内された客室が見えた。奴の言うとおり、私たちがリオウと顔合わせをしている最中にドアノブのところに看板が掛けられている。『八幡とサイちゃん♡の部屋』と書かれていた看板だった。

「……」

「待て、サイ。看板をへし折ろうとするな。面倒になる」

 膝で真っ二つにしようとしたところでハチマンに止められてしまう。何故、こんな状況でふざけたことができるのだろうか。

 その時、部屋の中から何やら物音がした。咄嗟に魔力を探るが反応はなし。いや、この状況ならあいつしかいない。試しにハチマンを見れば彼も目を更に腐らせながらも私に同意するように頷いた。

 そして、ハチマンはゆっくりと扉を開ける。

「あ、おかえりなさい。その様子だと上手くいったようね」

 そこにはまるで自分の部屋にいるようにくつろいでいるハイルの姿があった。彼女は椅子に座りながら紅茶が入っているらしいカップを持っている。

「あ、サイちゃんもお疲れ様! ささ、お茶会の準備はできてるの! 一緒にお菓子を食べましょ!」

「食べないけど」

「やーん、そんなこと言わずにぃ!」

 断るとやんやんと体をくねらせるハイル。そのあまりの気持ち悪さに身の毛がよだち、ハチマンの背中へと隠れてしまった。

「……おい、ハイル」

「もう、わかってるわよ。こんなことやってる場合じゃないんでしょう?」

 さっきまでのふざけた雰囲気を一瞬で切り替え、ハイルはカップをテーブルに置き、立ち上がる。その隙に部屋を見渡すがハイルのパートナーであるユウトはいなかった。別行動を取っているのだろうか。

「まずは……サイちゃん」

「……何?」

 名前を呼ばれたのでハチマンの背中から僅かに顔を出し、応じる。一応、これから一緒に行動するのだ。あまり波風を立てるわけにもいかない。

「ごめんなさい」

「……は?」

 だが、ハイルは頭を深々と下げて謝罪する。意味がわからず、眉間に皺を寄せてしまった。そんな私を見て唐突すぎたと思ったのか、彼女は慌てた様子で言葉を続ける。

「あ、あのね……作戦のためとはいえ、たくさん攻撃しちゃったし、そもそも事情も説明してなかったし。だから、ごめんなさい」

「……別に。そういう作戦だったんでしょ?」

 気にしていないと言えば嘘になる。しかし、それは仕方ないことだ。そう、仕方ないことなのである。

 だから、何の意味もない、確実に許される謝罪。そんなものに、私は許すも、許さないも、それを考える価値すらも見出すことはできなかった。

「そっか……よかった」

 ハイルはただ、謝りたかっただけだ。その謝罪がどのような意味になるのか考えていなかったのだろう。ハチマンも顔を顰めているので彼は理解しているようだが、当の本人は全くと言っていいほど気づいていない。

「……そろそろ話をしてもいいか?」

「ええ、大丈夫よ」

 ハチマンの問いにハイルはニヒルな笑みを浮かべて頷く。最後まで彼女は微妙な空気を察することはなかった。


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