やはり俺の魔物の王を決める戦いは間違っている。 作:ホッシー@VTuber
昨年は何かと更新できない週がありました。大変申し訳ありません。
今年は週1更新を守れるように頑張ります。
今年も『俺ガッシュ』をよろしくお願いします。
ポコポコと『ファウード』の胃液が音を立てて泡立ち、それを知の門番であるウンコティンティンがすでに誰もいないリールのようなもの――『命のヒモ』を構えながら眺める。
「く、くくく……バカ者共め。知の番人であるウンコティンティンにたてつくとは……どうせ、ここを抜けようが、抜けまいが、『ファウード』の栄養となる運命なのだ」
ニヤリと顔を不気味に歪めながら独り言を呟いていたウンコティンティンだが、いつしか瞳のない目からポロポロと涙を流し始める。
「……くそう、ちくしょう。あんな奴らに私の試練を突破されるとは……」
そう言ってウンコティンティンは先ほどまで自身の試練に挑んでいた一行が去った穴を眺め、深々と溜息を吐く。プライドの高い彼はよほど試練を突破されたことが悔しかったらしい。しかし、すぐに再びあの不気味なにやけ顔に戻った。
「だが……一矢報いたぞ。さぁ、どうする? く、くくく……あっはっはっはっはっは! はぁ……」
「……」
何とかウンコティンティンの試練を突破した私たちだったが誰も話さず、ひたすら道を歩いていた。もちろん、その原因は私がウンコティンティンの問題を口に出さなかったからである。特にアリシエとリーヤは何度か私を疑うように視線を向けてくる。もし、私たちの仲を不穏にさせるところまでウンコティンティンの狙いだったとしたら私は奴の評価を改めなければならない。最も、あいつの体は壁に埋まっていたのであそこから動けないだろう。今後、会うこともないはずだ。
「……みんな、少しいい?」
重い沈黙に私の小さな声が不自然に響く。黙って歩いていた全員が立ち止まり、私の方へ視線を向ける。とにかく、このままこの空気を放置するのはまずい。これでは連携はおろか私の中で争いが起きてもおかしくない。
「アリシエとリーヤ以外はもう知ってるけど……改めて言うね。私が『魔界の3つの脅威』の1つなの」
「何ッ!?」
私の正体を知らなかったアリシエが目を丸くして声を上げた。何かと『ファウード』やガッシュの力――『バオウ・ザケルガ』について知っていたので私のことも知っているかと思ったが違ったようだ。リーヤも驚きのあまり、体を硬直させている。
「サイが……脅威の1つ? 術とかではなく?」
「うん、私の存在が脅威、みたい」
私の曖昧な表現にアリシエとリーヤは目を細め、どういうことかとみんなの様子を窺う。他のみんなは私が魔界の頃の記憶がほとんど残っていないことを知っているので特に反応は見せなかった。
「私、魔界にいた頃の記憶があまり残ってなくて……自分が脅威だと認定された時のことも覚えていないの」
「……なら、どうして声に出さずに答えたんだ? 自分だと言えばよかっただろう」
アリシエの問いに私は思わず口を閉ざして目を逸らしてしまう。私はあれだけハチマンがお膳立てしてくれたのに結局、最後まで答えを口には出せなかった。聞こえているかもしれないと考えるだけで今までそうやって声を出していたのか分からなくなり、口をパクパクさせるだけで精一杯だった。
だから、声に出さずに答えた。長袖のワンピースのポケットに入れっぱなしにしていたハチマンのメモ帳に答えを書いてウンコティンティンに見せつけたのである。
「ウンコティンティンの問題は驚異の正式名称を答えろ、だったでしょ? 『サイ』は正式名称じゃなかったから」
「でも、正式名称は知っていたはずだ。どうして、それを答えなかった?」
「……答えたく、なかったから」
そう言って私は自分の体を抱きしめるように右手で左腕を掴む。確かに私は
「……まぁ、いい。とにかく今は『ファウード』だ。清麿、今、僕たちはどの辺りにいる?」
今は私を疑っている場合ではないと思ったのか、アリシエはそれ以上何も聞かずにキヨマロへと向き直って質問する。だが、リーヤだけは私を睨むように見続けていた。きっと、情けない奴だと思っているのだろう。まだ出会って少ししか立っていないがリーヤは心が強い人を認めない性格だ。こんな私を認めるわけがない。
「あ、ああ……胃を通過したから人で例えると小腸の辺りか」
「小腸とはどんなトコなのだ?」
「そうだな、胃である程度溶かした食物をもっと細かくしてその成分を栄養として体内に吸収するところ――」
いきなり問われたキヨマロは慌てた様子で地図を広げ、そう答えた。そのあとすぐにガッシュが質問し、流れるように答えていたが不意に後ろを振り返り、目を大きく見開く。そこにはハイルの『ギガノ・ドルガルルガ』と同等かそれ以上の大きさを誇るドリルがトンネルの天井から降りてくるところだった。
「じゃあ……あれは何!?」
「……俺たちを細かく砕く、機械かな」
キヨマロの答えが正解だと言わんばかりにドリルはギュルギュルと音を立てながら回転。その回転速度を上げながら少しずつ前進し始める。これは、まずい。ドリルの大きさはちょうどトンネルとほぼ同じ。左右上下に隙間はない。
「み、みんな、走れ……全速力で走るんだ!」
「ちっ」
そんなキヨマロの絶叫と共に全員がほぼ同時に駆け出すが一気に先頭に躍り出たのは白いオーラを纏う私とハチマンだった。『サジオ』の効果でその身体能力は素の状態の魔物と同等レベル。魔物組はパートナーの隣を走っているので自然と私たちが先を行くような形になった。幸い、ドリルの速度は私たちの走る速度と同じくらいだ。
「ハチマン、どうするの!? ドリルの速度はそこまで速くないけど体力にも限界が!」
「……」
私の叫びにハチマンは黙って背後のドリルを見た後、みんなの様子も観察する。そして、鞄から魔本を取り出し、心の力を込め始めた。
「サイ、俺たちは他の奴らのフォローに入る。お前は空から遅れ始めた人を運べ」
「うん、わかった」
「『サルク』、『サフェイル』」
背中に生えた羽を使い、飛翔した後、強化された目で周囲の様子を確かめる。
このトンネルは広いがドリルの大きさとほぼ同じ。やはり、左右上下から抜けるのは厳しいだろう。また、ドリルの速度は私たちの走る速度と同等。逃げ続けることはできるが、逃げ切ることは不可能。魔物組はまだしも人間組の体力はそこまで多くない。特に――。
「きゃあ!?」
私の嫌な予感が的中し、今まで戦うことはおろか魔物と出会っていなかったシスターが転んでしまう。彼女は戦い慣れておらず、追い込まれたこともないため、この緊急事態に動揺して足元が疎かになっていたのだろう。モモンが急いで駆け寄るがシスターの傍に来た頃にはすでにドリルはすぐそこまで迫っていた。
「『ゴウ・シュドルク』!」
すかさず助けに入ろうとするがその前にサンビームさんが強化されたウマゴンと共にシスターとモモンを救出する。きっと、安全な場所で降ろしてもシスターはドリルに追いつかれてしまうだろう。あのままサンビームさんたちにはシスターとモモンを運んでもらい、私がフォローに入った方がいい。私は空を滑るように飛び、ウマゴンの隣へと移動する。
「サンビームさんはそのままシスターたちを運んで! 他の人たちは私が!」
「ああ、こちらもできる限り、助けに入る。清麿、私たちとサイがフォローする! その間に何とか脱出の糸口を!」
「ああ、すまない。サンビームさん、サイ!」
よかった、なんとか連携はできている。もし、あの空気のせいでぎくしゃくしてしまったら私たちはここで終わっていたかもしれない。
「もにゃ?」
その時、不意にキヨマロが変な言葉を漏らす。彼の視線は通り過ぎた地面。そこにはなにやら他の場所に比べて柔らかいのか、キヨマロの足跡がくっきりとついている。急いで他のみんなの方を見ると同じように柔らかい何かを踏んでいた。ここは『ファウード』の体内。体内は何かと効率的な機能が多く、無意味な仕掛けはない。つまり、その柔らかい何かも何かしらの意味が――。
「ッ!? みんな、上!」
――いち早く気づいた私がみんなに叫んだ頃には左右の壁や天井からいつの間にか生えていた太い触手のようなものが私たちに襲い掛かってきていた。