やはり俺の魔物の王を決める戦いは間違っている。 作:ホッシー@VTuber
「……うん、やっぱり『サルジャス・アグザグルド』は地雷。
エロザル――モモンの騒動から一日が過ぎ、3月21日。終業式を無事に終えた俺とサイは『サルジャス・アグザグルド』の効果を検証するために手伝いを買って出てくれた高嶺とガッシュに連れられ、モチノキ町の裏山へとやってきた。
「……」
群青色の円盤を指先で高速回転させながら断言したサイだったがその円盤を見てガタガタ震えているガッシュを見て俺は言葉を詰まらせる。
そこで体が頑丈であるガッシュに踏ませるしかないという話になり、嫌がる彼に無理やり踏ませた結果、それはもう見事に真上に吹き飛ばされた。念のために『サフェイル』を使い、上空で待機していたサイによってキャッチされたが『サルジャス・アグザグルド』がトラウマとなったらしく、それからガッシュは群青色の円盤を見る度に涙目になっていた。
「それにしても……これ、意外と使えるね」
「ああ、サイと八幡さん以外の人が踏むか、地雷の上を
サイの呟きに高嶺が腕を組みながら答える。試しに『サルジャス・アグザグルド』を地面に設置し、それに向かって『ザケル』を放ったところ、衝撃波が発生したのだ。それから何度か検証を繰り返し、『サルジャス・アグザグルド』の上を術が通過しても作動することが判明。貫通性の高い『ザケルガ』ですら衝撃波で軌道を強引に真上に変えられたので初級呪文程度であれば衝撃波だけで無効化できるだろう。
「そして、なにより厄介なのが地面に置いた瞬間、地雷が透明化すること。それにその状態の地雷から魔力を感じ取れないからサイやモモンのように魔力を感知できる魔物にも気づかれない」
最初、ガッシュに踏ませることになり、サイが地雷を地面に置いた瞬間、円盤は透明化。更に手に持っていた時は魔力を帯びていたのに透明化した途端、魔力を感じ取れなく――つまり、魔力を隠蔽する効果が発揮された。だからこそ、『チャージル・サイフォドン』で撃ち落とされたモモンは林の中で透明化していた地雷に気づかず、その真上に墜落し、再び空を舞うことになったのである。
「あと
そう言いながら指先で回転させていた円盤を掴み、誰もいない方向に向けてドン、という音と共に群青色の衝撃波を放った。そのあまりの威力にサイは踏ん張っても数十センチほど後ろへ押される。もし、踏ん張りのきかない空中で使えば軽いサイの体は真後ろへ吹き飛ばされるだろう。それを利用すれば緊急回避として使えるはずだ。衝撃波そのものに殺傷能力はないので俺に向かって放てば自分も真後ろへ吹き飛ばされながら俺もその場から離れさせることができる。きっとその後、地面を無様に転がることになるだろうけど。
まとめると『サルジャス・アグザグルド』は地雷型の
「『サルジャス・アグザグルド』」
「よっと。心の力のコスパもよさそうだし……結構、使いやすい呪文でよかったね」
空中に出現した地雷を適当な場所に放り投げ、透明化させたサイは視線をこちらに向ける。仕方なく、もう一度『サルジャス・アグザグルド』を唱え、サイがまたそれを投げた。そんな作業を繰り返しながら話はもう一つの新呪文、第九の術『サルド』へとシフトする。
「あっちは昨日の夜にある程度だけど検証したよ。伸縮自由で対象を捕まえるだけじゃなく、巻き付けることができた。だから、こんな風に――」
「――『サルド』」
地雷を地面に投げた後、頭上に1メートルほどの群青色の綱が現れ、それを掴んだサイは遠くに見える木へ綱の片端を投げて巻き付ける。そのままジャンプして綱を縮め、木の方へ移動した。もっと障害物がある場所なら某蜘蛛男のような高速移動も可能になるはずだ。
「おぉ……これは便利だのう」
「あとは綱をコントロールしてわざと相手の術にぶつけて相殺させたり……俺に綱を巻き付けて放り投げることでその場から逃がすとか色々活用できる、と思う」
相殺といってもガッシュの『バオウ・ザケルガ』のような大きな呪文ならそのまま飲み込まれて終わるだろうし、綱で高速移動するなら空を飛べる『サフェイル』を使った方が断然に効果的だ。まぁ、『サルド』も『サルジャス・アグザグルド』と同様、他の呪文と併用して使えるので右手に地雷、左手に綱を持ちながら空を飛ぶことだってできる。
「しかし……相変わらず攻撃呪文は覚えないな」
「『サルジャス・アグザグルド』は疑似的な攻撃呪文として使えなくもないから」
高嶺の言葉にいつの間にか戻ってきたサイが苦笑を浮かべながら答えた。そして、すぐに表情を真剣なものに変え、高嶺を見つめる。
「それでキヨマロ。昨日の話は本気なの?」
「ああ、本気だ。モモンにあの建造物のある場所まで案内してもらう」
きっと、新呪文の検証を終えたら聞こうと思っていたのだろう。普段よりも低い声で質問するサイに高嶺は即答した。
モモンを撃退した後、高嶺は高度な『魔力探知』を持つモモンに謎の建造物の居場所を聞いたのである。その問いにモモンは答えずにガタガタと震えて
「むぅ……」
「どうした?」
「別に……あのエロザルにはあんまり近寄りたくなかったから」
「ヌ?! さ、サイ! 何をするのだ!?」
どこか拗ねたように答えたサイは手に持っていた『サルド』を操ってガッシュを捕まえた。なんとか抜け出そうとするガッシュだったが思いのほか『サルド』は頑丈だったようで素の状態の彼ではビクともしない。それを見た高嶺は試しに『ラウザルク』を唱え、ガッシュを強化するがそれでも綱からミシミシと音が出るだけで抜け出すことはできなかった。
「あれ、これでも千切れないんだ……っと」
「ぬおおおおおおおおおおおお!? やめるのだああああああああ!!」
サイは『サルド』を使ってガッシュを出鱈目に振り回し始める。魔物を捕まえている状態でどれほどコントロールできるか試しているらしい。その上、先ほど適当にばら撒いた『サルジャス・アグザグルド』の上をガッシュが通過し、次々に作動して群青色の衝撃波を放つ。『サルド』で振り回されているガッシュの方が『サルジャス・アグザグルド』の作動速度よりも速いので彼が衝撃波に巻き込まれることはなかった。まぁ、彼からしてみれば高速で振り回され、すぐ後ろでトラウマの衝撃波が何度も放たれれば悲鳴を上げたくなるだろう。
「なるほど。上を通過してもああやってやれば衝撃波を受けずに済むんだ
「あー……サイ、そろそろやめてあげてくれ」
高嶺のお願いにサイは
「うぇぇぇん……うぇぇぇん」
「あぁ、ガッシュ! ごめん、ごめんね!」
――号泣し始めてしまった。さすがにやりすぎたと思ったのか慌ててサイがガッシュに駆け寄り、謝り始める。昨日、ティオから親友発言されてからサイはどこか浮かれているようであまり自分をコントロールできていない。
しかし、彼女が浮かれるのも仕方ない話。出会ってすぐならまだしも、ティオはサイにとって最も仲のいい魔物の女の子。一緒に戦った仲間でもある上、何度も遊びに出かけている。そんな相手から勢い任せの親友発言だったとしても彼女からしてみれば衝撃的なものだったのだろう。サイは俺と出会うまで誰も近寄ろうとしない『孤高の存在』であり、初めて他人から――ましてや本来であれば敵同士の魔物の女の子に言われた『仲良し』発言だったのだから。
「はぁ……それより八幡さん、恵さんの件だけど」
「……さぁ、俺もさっぱり見当が付かん」
「そうだよなぁ」
なんとかガッシュを泣き止ませようとするサイを見ながら昨日、大海から相談された内容を思い出す。
実は大海の方も新呪文が二つ発現していたらしい。一つはあの俺にとって天敵である『チャージル・サイフォドン』。そして、もう一つの方は――どういうわけか本の使い手である大海ですら読めなかったのである。
なにか読めない原因があるのか。それとも読むための条件が足りないのか。いくら考えてもわからず、不安そうにしていた大海には悪いが一先ず様子をみることにしたのだ。
「……そういえばサイ、そろそろ時間じゃないのか?」
『大海』でこの後の予定を思い出し、サイに問いかけた。なんとかガッシュを宥め終えた彼女は俺の言葉でハッとして慌てて携帯電話で時間を確認する。
「あ、やばっ!」
「この後なにか予定でもあったのか?」
「ああ、サイがティオの家に遊びに行く約束しててな」
晴れて親友になったティオに家に来ないかと誘われたのだが、昨日の騒動で疲れていたので今日の夕方に行くと約束したのである。そして、そろそろ向かわなければならない時間になっていた。
「じゃあ、八幡さんも一緒に?」
「あ? 行かないけど」
大人気アイドルの家に遊びに行く勇気とかないわ。それに俺は俺でちょっと用事がある。因みにそのことはサイには言っていない。言えば絶対に止めるだろうし。
「えー、一緒に行こうよー。メグちゃんだって来てもいいって言ってたでしょ?」
「……ほら、近くまで送ってやるから早く行くぞ」
「はーい」
それから裏山を下山し、高嶺たちと別れた俺たちはその足でティオの家へと向かい、サイを送り届けた。そして、電車を乗り継ぎ、千葉へと帰ってきた俺は約束のサイゼリアへと辿り着く。
「いらっしゃいませ。お客様、一名様でしょうか?」
「あー……えっと――」
「あ、やっと来たわね!」
満面の笑顔を浮かべるウェイトレスにいつものコミュ障が発動し、どもりながら答えようとした時、少し離れたところから甲高い声が店内に響いた。そちらへ視線を向けると懐かしいゴスロリ金髪ドリルが目に入る。その声に店内にいた人たちはなんだなんだと彼女へと注目し始めた。
「お、お客様?」
「……すみません。あの子と待ち合わせで」
「は、はぁ……では、あちらの席へどうぞ」
どこか胡散臭そうに俺を席へ誘導するウェイトレス。溜息を吐きながら何故かわくわくした様子で俺の到着を待つ彼女の元へ移動する。
「久しぶりだな、ハイル」
「ええ、久しぶり、八幡。それと私のことはハイちゃんって呼びなさい」
そう言って昨日の夜、いきなりメールで『大事な話があるから会えないか?』と聞いてきたハイル・ツペは俺にニヒルな笑みを向けた。
第九の術 『サルド』
・群青色の綱で対象を捕縛する呪文。
基本的に長さは1メートルほどしかないが、伸縮自在であり、捕縛するだけでなく、物に巻き付けて縮めることで移動したり、鞭のように振るい、攻撃、防御にも使える。
綱そのものもある程度頑丈であり、巻き付かれ、力を上手く入れられない状態のガッシュの『ラウザルク』に耐えるレベルである。
ティオの親友発言&捕まえるという使命感により発言した。
第十の術 『サルジャス・アグザグルド』
・地雷型の罠呪文。
サイと八幡以外の誰かが踏む、術が真上を通過または着弾する、サイが起動させると群青色の衝撃波が発生する。衝撃波そのものには殺傷能力はない。
また、地面に設置すると透明化&魔力隠蔽され、サイやモモンの『魔力探知』でも発見できなくなる。地面に設置し、透明化された後、透明化した地雷が健在でも術を唱えればサイの手元に新しい地雷が出現する。しかし、実は地雷を設置せずに地雷を生成する方法が――。
ティオの親友発言&ぶっとばすという使命感により発現した。