やはり俺の魔物の王を決める戦いは間違っている。 作:ホッシー@VTuber
「ふ、封印だって!?」
ナゾナゾ博士の質問に答えたサイだったが今まで黙って聞いていたキャンチョメが声を荒げた。そのせいか全員の視線がキャンチョメに集まり、わたわたし始める。鍵穴のことを聞いた時は反応しなかったのに『封印』という言葉を聞いた途端、慌てだした。つまり、キャンチョメが気付いたことは『鍵穴』ではなく『封印』というキーワードに引っ掛かること。
そんな彼を一瞥した後、サイは手に持っていた資料を机の上に置いてから口を開いた。
「……私も『魔界の脅威』が何なのかはっきりとしたことまでは知らない。でも、『脅威』とこの鍵穴を関連付ければ大まかなことは推測できる。そうでしょ、ナゾナゾ博士」
「うむ……単純に考えれば魔法という強力な力を持っている魔物が多く住む魔界でも脅威とされ、この建造物は封印された。じゃが、結局は何の証拠もないただの推測。それが本当だと証明する手段はない」
「でも、重要なのはその推測が正しいか確かめることじゃない……
そんな彼女の問いに皆、視線を俯かせた。ただ一人、キャンチョメを除いて。彼は頭を抱え、ガタガタと震えている。
魔界で脅威に認定された建造物の封印が解かれれば人間界がどうなるか。それを想像することは難しくないだろう。だが、あのキャンチョメの怯えようは彼が小心者だということを考慮しても異常だ。まるで、他の人以上に人間界の未来を具体的に想像してしまったかのように。
「なるほど……確かに今考えるべきはそれが真実かどうかではなく、サイ君の推測が正しいことを前提にした――最悪な事態に備えた今後の方針……しかし、どうして君は
鋭い視線をサイに向け、ナゾナゾ博士は低い声で問いかける。魔界にいた頃のサイは周囲に興味がなく、一般常識すら知らないような世間知らずだった。だからこそ、ナゾナゾ博士はその情報の出所を問うた。
「……」
それに対し、サイは視線を俯かせ、口を閉ざしてしまう。鍵穴の情報は彼女の過去に関係する。だからこそ、何も言えない。それはサイが今までずっと隠し続けてきたことなのだから。
「……あー、その――」
「――いいよ、キヨマロ。自分で言う」
俯いてしまったサイに高嶺が助け船を出そうとするがそれを彼女自身が止め、心を落ち着かせるために深呼吸をした。そして――。
「……ごめん。それは言えない。言いたくない」
――サイはそれを隠すことを選んだ。
魔界の王を決める戦いは100人の魔物の子が1人になるまで続くバトルロワイヤル方式。その中でも俺たちのように魔物同士で手を取り合っている場合、最も重要なのは信頼関係だ。
もし、怪しい行動ばかり取っている仲間がいればいずれその仲間を信じられなくなる。そして、最終的には仲間割れに繋がる可能性が高い。
それをサイが分からないはずがない。ここで情報の出所を言わなければ皆に疑心感を与えてしまうことぐらい彼女ならわかっているはずだ。
しかし、それでも彼女は言わなかった。たとえ、疑われることになっても過去を話さないことを選択した。自分の過去をばらしたくなかったのか、それとも言った方が疑われることになるからか。その理由はわからないが彼女が言わなかったことには変わらない。
「こんなどこで得たかわからない怪しい情報だけど……あれは絶対に放置してたら駄目なもの。あれの封印が解けたら間違いなく、世界は滅ぶ」
そう断言したサイの気迫に皆は思わず息を飲んだ。しかし、すぐにティオが机に両手を突いて勢いよく立ち上がった。
「どうして、そう言い切れるの? だってこんなのただの大きな建造物じゃない!」
「……だって、私が『魔界の脅威』の一つらしいから」
その言葉にアースと戦った俺たち以外の全員が目を見開いた。きっと、鍵穴の話をすることを決めた時点で合わせて『魔界の脅威』について話すつもりだったのだろう。高嶺も驚いている様子はなかったので最初からこのタイミングで話す予定だったのだ。
「私も自分が脅威って呼ばれてたことは知らなかったし、あの建造物が脅威ってことも知らなかった。でも、もしアースの話が本当なら……私と建造物が同じカテゴリーに含まれるのなら今、世界は滅亡の危機にある」
「……すまない。改めて最初から説明する」
それから一度、情報を整理するために高嶺がアースとの会話を最初から説明し始める。
魔界には三つの脅威が存在すること。
一つ目があの謎の建造物であること。
二つ目がガッシュの最大呪文である『バオウ・ザケルガ』であること。
そして、最後の一つがサイであること。
今のところそれしか情報はなく、具体的に『魔界の脅威』がどのようなものかわかっていないこと。
そして、サイの証言からあの建造物を放置しておくのは危険だと判断し、このような話し合いの場を設けたこと。
しかし、最初から脅威について触れると皆が混乱するだろうと判断し、謎の建造物について知ってもらうところから始めたこと。
そう高嶺が話し終えると長い沈黙が部屋に流れる。無理もない。謎の建造物だけでも頭のキャパシティーが超えるほどの緊急事態なのにそこへ『バオウ』とサイが関わってきたのだ。情報を整理するだけでも時間がかかる。
そんな中、やはりというべきか最初に口を開いたのはナゾナゾ博士だった。
「……自分が脅威であることには納得しておるのかね?」
「うん、してるよ。してなきゃ断言なんかしないでしょ」
彼の問いにサイは迷うことなく頷く。だが、それ以上のことは言わない。『サイが脅威と呼ばれる理由=鍵穴の秘密=サイの過去』という方程式が成り立つのだろう。
「その理由を聞いてもいいかね」
「いいけど……ごめん、自分でもよく覚えてなくて人伝に聞いた程度なの。だから、あの建造物がどんなものなのか知らないし、私との共通点もわからない。ただ、魔界の脅威であるなら警戒しておくに越したことはない。そうとしか言えないの」
申し訳なさそうに目を伏せるサイ。きっと、本当に覚えていないのだろう。ただでさえ魔界の学校に通っていた頃の記憶が曖昧なのだ。脅威と呼ばれる原因となった出来事は学校生活よりもショックなことだろうし、心を壊さないために防衛本能が当時の記憶を思い出せないようにしていても不思議ではない。
一体、こんな小さな女の子のどこに魔界を脅かす力があるのかわからないが脅威の一つが別の脅威を警戒している。それだけで俺たちが納得するほどの説得力があった。
「……とにかく謎の建造物について情報がなさすぎる。サイの話を信じる、信じないどちらにしても最悪な事態を想定して動いても損はないはずだ。今はナゾナゾ博士が用意してくれた資料を見て気付いたことがあったら遠慮なく教えて欲しい」
高嶺の言葉に皆は顔を見合わせ、こくりと頷いた。ナゾナゾ博士もどこか浮かない表情を浮かべていたが最後には納得してくれたようで話し合いに戻った。
「……」
そんな中、俺はキャンチョメに視線を向ける。今もなお、謎の建造物を映し続けるテレビを見ながら冷や汗を流していた。やはり、彼は何かに気付いた。でも、それについて追究しても答えてくれそうもない。サイにアイコンタクトを送ると彼女も横に首を振った。様子を見てまた今度、聞いてみることにしよう。
それから数時間ほど謎の建造物について話し合ったが、結局何もわからず、解散することになった。
強い風を受け、白いローブがバタバタと音を立てて暴れる。しかし、白いローブを着ている彼はそれを気にする様子もなく、風車の上で片膝を付いていた。
「違う……この頃の記憶ではない」
彼の名はゼオン。ガッシュと瓜二つな容姿を持つ魔物の子。だが、一目見ればガッシュと身に纏う雰囲気が全く違うことに気付くだろう。
そんな彼は頭に右手を当て、目を閉じ、過去の記憶を辿っていた。
「もっと、奥……もっと幼い頃の記憶……」
目的である記憶は時間をかけなければ思い出せないほど幼い頃の記憶。それでもゼオンの脳裏にはしっかりと目的の記憶――巨大な塔が浮かんでいた。
(そう……魔界の王立図書館……)
それは魔界にある巨大な図書館。見上げても頂上が見えないほど巨大なそれには何千、何万もの書物が保管されており、彼も家庭教師に出された課題をこなすために連れて来てもらった。
しかし、その途中で迷いの廊下に入り込んでしまい、図書館内を彷徨う羽目になってしまう。そして、偶然、彼は
(一番……奥の、左の本)
幼かったゼオンは禁断の書庫を開け、一番奥に置かれていた表紙に鍵穴の装飾が施された本を開く。そこに書かれていたのは――。
「……面白い。誰だが知らねぇが面白いことをしてくれる。だが、そう思い通りにはいかねぇ。
立ち上がった彼はニタニタと口元を歪ませ、断言する。
そして――幼い頃の記憶を海馬の底から引っ張り上げた影響からか彼の脳裏には禁断の書庫とは別の場所で見つけたもう1つの巨大な扉が映し出されていた。
(ああ、そういえばあれを見たのもあの時か)
バタバタとなびくローブを鬱陶しそうに手で押さえ、空を見上げる。
その扉を開けた先には1つの牢屋があった。そこには天井から伸びる鎖に両手を繋がれ、万歳する格好で幽閉されている魔物が一体。背中をこちらに向けていたので顔は見えなかったがそのあまりにも小さいそれからまだその魔物はゼオンとそう変わらない子供であることはわかった。また、その魔物は思わず目を庇ってしまいたくなるほど綺麗な
「……まぁ、いい。今はファウードの方が優先」
そこでゼオンは頭を振って幼い頃の記憶を強引に海馬へと押し込み、風車から飛び降りる。どうやってファウードを利用するかパートナーと相談する必要があったからだ。
最後に思い出したのはその綺麗な長い白髪を持つ魔物の背中に刻まれた