やはり俺の魔物の王を決める戦いは間違っている。 作:ホッシー@VTuber
「じゃあ、世話になったな」
「いや、こっちこそ昨晩は助けてくれてありがとう」
準備を終えたジードがキヨマロに挨拶すると彼は笑って答えた。その傍らでテッドがガッシュの前で軽くシャドーボクシングをしている。昨日、あれほど激しい戦いを繰り広げたのに疲れなど残っていないのか笑顔を浮かべていた。
「ガッシュ、
「ウヌ、頼んでみるのだ!」
「あとよ……チェリッシュに会ったら伝えてくれ。テッドが探してる、と。オレはチェリッシュの敵じゃねぇ、と」
そう言ったテッドはそれほど真剣なのか先ほどまで浮かべていた笑顔を消し、ただ真っ直ぐガッシュを見つめていた。本当にああいうところは昔から変わっていない。私にもよくチェリッシュのことで突っかかってきたのを思い出し、思わず苦笑を浮かべてしまった。
「ウヌ、私もその者とは戦わぬ」
「こっちも何か情報を集めておく」
ガッシュとキヨマロの返答に満足そうに頷いたテッド。しかし、その後すぐに何故か周囲を見渡して小さくため息を吐いた。
「おい、サイ! どうせいるんだろ! 出て来いよ!」
「ッ……」
突然、テッドに呼ばれ屋根の上に隠れていた私は思わず肩を震わせて驚いてしまう。まさかばれた? いや、テッドの視線は別の方を向いている。私がここにいると予想して叫んだのだ。
「テッド、近所迷惑だろうが!」
「いでっ」
「ヌ? サイがいるのか? どこにも見当たらぬが」
「メル?」
仕方ないので皆のところへ飛び降りようとした時、大声を出したテッドをジードが殴り、ガッシュとウマゴンはのん気に私を探すためにキョロキョロし始めた。なんというか、今、あそこに行けばツッコミ担当にされそう。そういう役目はキヨマロ1人で十分だ。
「……ったく。素直じゃねぇなぁ。まぁ、いいや」
殴られた頭を擦りながらテッドはジードのバイクに飛び乗った。すぐにジードもバイクに跨り、ハンドルを握る。そして、バイクのエンジン音が静かな住宅街に響いた。
「じゃあ、行くぜ。ありがとな、清麿。ガッシュ、負けんじゃねぇぞ! 必ず生き残ってまた遊ぼうぜ!」
「ウヌ、また必ず会おうぞ!」
手を上げて遠ざかっていくテッドをガッシュたちは両手をブンブンと振って見送る。テッドたちの姿が見えなくなり、魔力探知でこちらに引き返してくる様子もないことを確認して私は屋根の上からガッシュたちの傍へ飛び降りた。
「さ、サイ!? ホントにおったのか!?」
「おはよ。キヨマロに用事があったからついでに、ね」
いきなり現れた私を見て目を見開くガッシュに何でもないように答えた。キヨマロに用事があるのは本当だが、1年程度しか一緒にいなかったとはいえチェリッシュたちと行動していた時期が
「俺に? でも、これから学校が」
そんな私の気持ちに気付かず、キヨマロは申し訳なさそうに頭を掻いた。それぐらいわかっている。今朝だって『サジオ』をコントロールしながら学校へ向かう八幡を見送ってここまで急いできたのだから。もちろん、走ってここまで来るには時間がかかりすぎてしまうので『サフェイル』と『サウルク』も唱えてもらった。
「大丈夫。登校中に軽く話をするだけでいいから。ほら、早く準備して。遅刻しちゃうでしょ?」
「……ああ、わかった」
それからキヨマロは通学鞄を取りに家に戻る。ガッシュとウマゴンは(まぁ、ウマゴンは外にある馬小屋だが)戻る気はないのか、キヨマロを見送ってすぐにこちらに向き直った。
「サイもテッドと話せばよかったのだ。知り合いだったのだろう?」
「話したところで喧嘩になってただけでしょ。向こうだって話すことなんてないだろうし」
私を保護したチェリッシュはともかくテッドを含めた他の子は私のことを気味悪がっていた。だからこそ、テッドがいきなり『鍛えて欲しい』とお願いしてきた時は驚いたのである。皆の中でも最も私を警戒していたのはテッドだったから。まぁ、だからといってひたすら組手をして体に直接覚え込ませることしかできなかったから彼だって私のことを良くは思っていないだろう。
「ヌ? それは――」
「――すまん、待たせた」
ガッシュが何か言いかけたがその前にキヨマロが外に出てきた。彼の手には通学鞄が握られている。腕時計で時間を確認しているのであまり時間はなさそうだ。
「それじゃ、行こっか。ガッシュ、ウマゴンまたね」
キヨマロの返答によってはそれなりに時間がかかってしまうため、話し合いは早めに始めたい。私はキヨマロの手を取って駆け出した。後ろでガッシュが何か叫んでいるがあえて無視する。これから話すことを2人に聞かせるわけにいかないから。
「お、おい!」
「あ、ごめんごめん。それじゃ始めよっか。まずは――昨日、テッドから何を聞いたの?」
キヨマロの手を離して彼を見上げながら言う。テッドが知っている私を八幡に知られる分にはいい。だが、もし
本当ならテッドが変なことを言い出しそうになったら殴ってでも止めるつもりだった。しかし、あの場にいたらテッドと喧嘩していただろうし、その流れで余計なことを私が口走ってしまいそうだったから距離を取るしかなかったのだ。
「……昔、一緒に行動していたことぐらいだ。テッド自身もそんなに知らないって言っていた」
私の質問に少しばかり目を見開いたキヨマロだったがすぐにそう答えた。私が訪ねてきた時点でなんとなく予想していたのかもしれない。
とにかくキヨマロも嘘を吐いている様子はないし、ハチマンたちに変なことは言わなかったらしい。それなら話は早い。早速、本題に入ろう。私はキヨマロを置いて少しだけ早歩きで彼の学校を目指す。キヨマロも慌てて私の隣を歩き始めた。
「じゃあ……アースの話はどう思う?」
「それは、『魔界の脅威』のことか?」
「うん。多分、これは皆に早く話しておいた方がいいし。私とガッシュも他人事じゃないみたいだから」
八幡の話(彼はキヨマロから聞いた、とのこと)ではアースは私だけでなく、ガッシュの『バオウ』も『魔界の脅威』と言っていたらしい。そして、あの謎の建造物。これらをアースは『三つの脅威』と呼んだ。
「サイは『魔界の脅威』について何か知ってるか?」
「ううん、ほとんど知らないよ」
一体、何をもって『魔界の脅威』と呼ばれるのか、その明確な定義を私は知らない。だから、ガッシュの『バオウ』も、謎の建造物も、私が脅威と呼ばれている理由も何もわからない。だが、私が
最初は謎の建造物について話すつもりはなかった。確信を持っているわけでもないし、建造物の正体がわからなかったから皆を無駄に不安にさせることもないと思っていた。
だが、アースの話が本当ならば――『魔界の脅威』の定義そのものが『私が脅威と呼ばれる理由』そのものならばどんな形であれ、人間界が大混乱に陥る。
ならば、多少、私の過去に触れることになろうと話すべきだ。私は人間界が……ハチマンと出会えたここが大好きだから。この世界を滅ぼさないために。
でも、ハチマンに話すのはまだ少し怖いから仲間の頭脳であるキヨマロに伝えるために私はここに来た。
「でも、あの建造物……多分、魔界で
映像の角度が悪くはっきりと見えなかったが、私にはすぐにわかった。建造物を囲む巨大な柱に