やはり俺の魔物の王を決める戦いは間違っている。   作:ホッシー@VTuber

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この小説には章ごとにテーマがあったりします。
序章は『サイとの出会い』
第1章は『サイとのすれ違い』
そして――第2章は『サイの異常性』です。

序章、第1章で見え隠れしていたサイの異常さが第2章で明らかになる、ということなのですが……そのため、サイの短所が多々出て来ます。
まさに今回のお話しでその短所が出て来ますのでご了承ください。


LEVEL.19 群青少女は比企谷八幡を求めるが他の人は拒絶する

 さて、カレーも完成して後は食べるだけなのだが、1対のベンチで食べることになった。だが、問題は誰がどこに座るかである。いや、別に争いごとは起きなかったよ? 起きなかったけどさ。

「あ、私、ハチマンの膝の上がいい!」

 この子の発言のせいで全員から凄まじい目で見られた。あ、でも! 戸塚だけは違うよ! 『本当に八幡ってサイちゃんに懐かれてるなー』みたいな微笑ましい感じで見られただけだよ!

「……はいはい」

「お礼にあーんしてあげるね!」

 止めて! 八幡のライフはもう零よ!

 それから皆の前であーんされたりしたりしているといつの間にかカレーがなくなっていた。味なんかわからなかったよ。

 それから時は過ぎ、留美の話になった。まず、助けるか助けないかの話になり、結局助けることになった。しかし、そこからが問題だった。

 三浦の『他の子に話しかければオールオッケー作戦』、海老名さんの『趣味に生きよう! 出来れば、腐腐腐作戦』などすでにカオスだった。お願いです、海老名さん、雪ノ下とサイにBLを勧めないでください。特にサイは俺の持っている本を手当たり次第に読んでいるからすでにBLという言葉の意味を知っているので本当に止めてください。染まってしまいます。

「やっぱり、皆で仲良くできる方法を考えないと根本的に解決できないか」

 不意に葉山がそう呟く。それを聞いて俺は思わず、乾いた笑いを漏らしてしまった。そんなことできるわけない。『皆仲良く』なんて言葉はただの呪いだ。『ほら、皆で仲良くしようよ!』、『皆で問題を解決しようよ!』、『“皆であの子をハブろうよ”!』。つまり、『皆』に入れなかった人は結局、ハブられる。今回は留美を『皆』の中に入れる、もしくは『皆仲良く』という鎖を断ち切る方法を見つけなくてはならない。それをこいつは理解していない。

「バカなの?」

 そんなことを考えていると俺の膝の上にいたサイが低い声で葉山を侮辱した。他の皆は目を丸くしてサイを見る。

「皆で仲良く? そんなことできるわけないでしょ。もう少し現実見てよ」

「え、えっと……サイちゃん? 急にどうしたの?」

 葉山が顔を引き攣らせてサイを宥めようとするがサイは止まらない。止まるわけなかった。

「考えてみてよ。今回の問題は『皆で仲良くルミをハブってること』でしょ? 皆で一緒になって1人の子を孤立させているのが問題なの。それなのに『皆で仲良くしましょう』? ふざけるのも大概にしてよ。ただでさえ、ハヤトのせいでルミの立場が悪くなってるのに。これ以上余計なことしないで」

 そう、留美の立場はあろうことか葉山のせいでオリエンテーリングが始まる時よりも悪くなっている。だからこそ、『余計なこと』なのだ。

「ちょっと、年上の人に対して失礼じゃない?」

 そこでサイに噛みついて来たのは三浦だった。まぁ、年上を侮辱する子供がいれば文句も言いたくなるだろう。サイは黙って三浦を見つめる。それを受けた彼女は捲くし立てるように言葉を紡いだ。

「せっかく皆で仲良く出来る方法を探そうとしてんのになんでそういうこと言うわけ? まだ子供なのに何がわかるの?」

 サイは子供だ。魔物でも歳は6歳である。三浦の言う通り子供だ。だが、子供だからこそわかることがある。サイだからこそ言えることがある。何の考えもなしに文句を言えば――。

「じゃあ、ユミコはハチマンと仲良く出来る? 一緒にお昼食べて一緒に遊びに行くことできる?」

「あ? なんであーしがヒキオなんかと」

「ほら、“仲良く出来ない”」

「ッ……」

 ――ほら、論破された。

「『皆仲良く』なんて妄言を聞いてると本当に虫唾が走る。人間誰だって好きな物や嫌いな物があるんだよ。皆で手を繋いで笑って歩こう、とか不可能なの。もし、そんなことできたら今頃……」

 ギュッと自分のワンピースを握るサイ。彼女は今、魔物の王を決める戦いの真っ最中だ。100人の魔物の子が戦い、たった1人になるまで戦う。仲良くなんてできない。それこそ、ガッシュやティオなんて例外中の例外なのだ。上手くガッシュやティオ、サイが生き残っても最後は戦わなくてはならない。仲良くなんて――できないのだ。

「だからもうそんなこと私の前で言わないで」

 それだけ言い残してサイは俺の膝から下りて歩いて行ってしまった。静まり返ったベンチで話し合いなんかできるわけもなくすぐに解散になった。

 

 

 

 この時、俺は間違えていた。サイがどうして『皆仲良く』という言葉が嫌いなのか。何故、あそこまで拒絶したのか。俺はサイの本当の気持ちを知らずに知ったようなことを考えていた。だからこそ、俺たちは自分たちでは認識できないほど少しずつすれ違っていった。それがわかるのはずっとずっと後――消滅の力を操る魔物と戦う頃だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれから脱衣所で戸塚に大事なところを見られたり、恋愛話っぽいものに参加したりしたが俺はサイのことが気になって眠れなかった。1人で眠れずにすぐ俺のところに来ると思っていたのだが、来る気配がない。頑張っているのだろうか。我が子の成長を感じる。あ、俺の子供じゃないや。妖精さんだった。

「……」

 このまま横になっていても眠れそうにない。仕方なく、少しだけ夜風に当たろうと思い、3人を起こさないように魔本の入ったバックを持って外に出た。

 さて、ここは千葉村という辺鄙な土地だ。そのため、めちゃくちゃ暗い。一寸先は闇と言うがまさにそれである。正直に言うととても不気味で怖い。周囲にビビりながら進むが、心が折れそうだった。ふぇぇ、サイ、助けてー。『サウルク』で飛んで来てー。怖いよー。

 そんなことを考えながら歩いていると雪ノ下が独りで歌っているところに出くわしてしまった。邪魔しては悪い、と帰ろうとしたが小枝を踏んでしまって簡単に見つかった。なんてベタな見つかり方。

 何故こんなところにいるのか聞いたらどうやら、氷の女王様は突っかかって来た炎の女王様(三浦のこと)を30分かけて論破してしまい、泣かれたそうだ。氷の女王様強い。でも気まずい空気には勝てなかったよ。

「そんなことより……サイさんのことよ」

「……何かあったのか?」

 深刻そうな顔で俺を見る雪ノ下。やっぱり、何かあったか。あのサイがこんな時間まで独りでいられるわけがないからな。

「まず……お風呂ね。あの子、1人で入るって言ったわ」

「まぁ、家でも1人で入ってるしな」

「でも、由比ヶ浜さんがちょっとしつこく誘ったのよ。あんなことがあった後だし、心配だったのでしょうね……サイさんはそれを断った。泣きながら」

「……はい?」

 泣いた? たかがお風呂に誘ったぐらいで?

「『お願い……お願いだから1人で、入らせて』って。それを見て由比ヶ浜さん、懸命に謝ったわ。何か心当たりはない?」

「……いや、ない」

 お風呂に関しては全くノータッチだった。1度、小町に誘われていたがその時も断っていたし。何か、あるのだろうか。

「それに……寝る前にも」

「泣いて喚いたか?」

「……そっちの方がよかったかもしれないわね」

 何か嫌な予感がする。

「サイさん、布団の中で震えていたわ。たった独りで。誰も布団に近づけさせないように」

「何?」

 てっきり、小町か由比ヶ浜あたりが添い寝すると思っていたので驚いてしまった。

「小町さんも由比ヶ浜さんも『一緒に寝ようか』って聞いたわ。でも、それすらもサイさんは断った。お風呂の件もあったし、2人はすぐに諦めたわ」

「……」

 まだ俺は本当のサイを知らないのかもしれない。普段は俺にくっ付いて笑い、1人になれば体を震わせ、何かに怯えている。そして、俺を見つけると安心した表情を浮かべて息を吐く。だが、俺以外の人を求めない。まるで――“俺”だけしか見えていないようだった。何となく、ホログラムという言葉を思い出した。目では見えているのに実体はないただの映像。サイは俺以外の人をホログラムと認識し、寄りかからない。寄りかかればすり抜けて倒れてしまうから。だから、実体のある俺だけに寄りかかる。サイの世界で触れられるのは俺だけだから。

「……それじゃ、私はそろそろ戻るわ」

「……ああ」

 雪ノ下が去った後も俺はその場から動けなかった。バックから取り出した魔本を手で撫でる。群青色の魔本。サイと俺を繋ぐ絆の証。でも、俺とサイを引き裂く証でもある。

「サイ、俺は……」

 お前に何ができるのだろう。お前と一緒に戦うって決めたのに。俺はまだお前を知らない。どうすれば教えてくれるのだろう。俺は、何をすべきなのだろうか。

「『――』」

「え?」

 不意に声が聞こえたと思った刹那、見えない何かが俺へと向かって来る。

「がッ……」

 躱すことすら出来ずに衝撃波が直撃した。後方に吹き飛ばされて地面を転がる。

(ま、まさか……)

 魔本を抱きしめるように持ってフラフラしながら立ち上がった。ジンジンと体が痛む。呼吸も上手く出来ない。

「はは、まさかこんな辺鄙なところで魔本を持った人間に遭うとはなぁ。微弱な魔力を辿って来てよかったぜ」

 薄暗い森の中、頼りになるのは月明かりのみ。その光源が映し出したのは茶髪の子供とその隣に立つ腕組みをした男だった。

(魔物ッ……)

 どうやら、俺のすべきことはこの逆境を乗り越えることらしい。パートナーなしで

 


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