やはり俺の魔物の王を決める戦いは間違っている。   作:ホッシー@VTuber

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LEVEL.184 雷の龍が群青色に染まる時――

「ちっ」

 サイの踵落としを回避したアースは視界が砂埃によって塞がれたことに舌打ちしてバックステップ。その直後、彼がいた場所を砂埃を切り裂くように群青色のオーラに覆われた小さな足が通り過ぎた。砂埃に紛れ、サイが後ろ回し蹴りを放ったのである。切り裂かれた砂埃の隙間からサイはアースの鋭い眼光を、アースはサイの群青色に光る瞳を見た。

「あああああああ!!」

 しかし、サイから距離を取ったアースの背後から砂埃を突き破ってテッドが拳を振るう。それを見越していたのか『サグルゼム』によって淡く輝いている剣で防ぐアース。

「サイ、テッド! アースを川に誘導してくれ!」

 そこへガッシュを抱えて走る高嶺からの指示が飛んだ。アースを挟む形になっている彼らは顔を見合わせ、頷き合う。彼が何を狙っているのか何となく予想できたので俺も彼らの後を追った。

 もちろん、高嶺の指示はアースの耳にも届いたはずなので川端まで誘導されないように動くだろう。それがわかっていない高嶺ではない。彼はサイとテッドならアースを川端へ追い込めると信じているのだ。

 その証拠にアースは剣を強引に押し、テッドを弾き飛ばして川端とは反対の位置にいるサイへと迫る。『ウルソルト』の効果はまだ持続しているのか凄まじい速度で移動するアースを見てサイはちらりと俺へ視線を送った。それだけで彼女の求める術を察し、少しでも心の力の負担を軽減するためにサイにかけていた肉体強化を全て解除して呪文を唱える。

「『サシルド』」

 術が発動する直前、切り裂こうと剣を高く掲げたアースに背中を向けるサイ。そして、サイの目の前から群青色の盾がせり上がり、一歩前へ足を踏み出したことで彼女の体が射出されるように天高く打ち上げられた。

 『サシルド』は後方が開いている半径型の異質な盾。いつもは身を守るためか空へ飛ぶためのジャンプ台として使っているのだが、今回の場合、俺とサイは離れていた上、術が発動する直前、彼女は俺の方を見ていた。つまり、盾の中の様子を見るためには『サシルド』を消すかぐるりとまわり込まなければならない。サイの体はすでに空中に投げ出されているので『サシルド』は用済みなのだが――。

 

 

 

 

 

 

「俺を忘れるんじゃねぇぞ!」

 

 

 

 

 

 消す直前、『サシルド』の側面が誰かに踏みつけられたように内側からボコッ、と(つばく)んだ。盾の中からテッドの声が聞こえたので彼が『サシルド』の側面を走ってアースの前に移動したのだろう。

「『サフェイル』」

 再びサイに羽を授けながら『サシルド』の周囲を回り込むように走る。

 一応、アースは『サシルド』に囲まれている袋の鼠。まぁ、捕まえたといっても後方は開いているし、そもそも『サシルド』は放射系の術を受け流すには有効だが、そこまで頑丈ではないため、あの居合切りの術で簡単に切り裂かれてしまうだろう。

 しかし、俺の予想が正しければ今、『サシルド』の中ではテッドとアースが対峙しているはずだ。それもテッドがアースの前に立っているのならアースの後ろが開いている状態。そして、その唯一の逃げ道の先は高嶺が誘導先に指定した川端である。

「『フォルス・ナグル』!!」

 更に心の力が溜まったのかテッドのパートナーの外人が呪文を唱えた。その瞬間、『サシルド』の中で凄まじい強風が吹き荒れる。

 今の段階でもアースはテッドに押されていた。そんな相手が更に強くなったとなれば――。

「くっ……アース、引け! そんな狭い場所では奴とやり合うのはまずい!」

「ハッ!」

 ――罠だとわかっていても唯一残された逃げ道を使うしかない。『サシルド』の側面に移動できたところでアースが剣を何度も地面に刺すあの走法で『サシルド』から脱出した。

「待てやごらぁ!」

「グゥウ!?」

 だが、逃げるアースに一瞬で追いついたテッドが拳を振るい、数メートルも吹き飛ばしてしまう。その衝撃で傍に立っていた『サシルド』に皹が走った。頑丈ではないといっても殴った余波だけで『サシルド』が半壊するほどの威力。あれをまともに受けたらと思うとゾッとする。

 殴られたアースは空中で体勢を立て直し、誘導先の川端に着地した。そのチャンスを逃す高嶺ではない。

「セット」

 ガッシュの背中を支えながら右手の人差し指と中指をアースに向ける高嶺。ガッシュもその二本の指が向けられた方向を見ていた。さすがに今の状況はまずいと思ったのかアースが近くにいたエリーを背中に隠すように移動して構える。おそらく、大技(『バオウ・ザケルガ』)が来ると思っているのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『ザケルガ』!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかし、高嶺が使ったのは初級呪文(『ザケルガ』)だった。

「ッ!?」

 一直線に迫る貫通力の高い雷撃に眼を見開いたアースはエリーを抱えてその場で咄嗟に体を捻って『ザケルガ』を躱す。躱された『ザケルガ』はそのままアースたちの背後に流れている川の上を通り過ぎ――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――川の中に鎮座していた仄かに輝いている石に当たり、跳ね返るように再びアースたちへ迫った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 前に高嶺から話に聞いていたが『ザグルゼム』には雷系の呪文の威力を底上げするだけでなく、“雷を引き寄せる性質”があるらしい。それをうまく利用すれば『ザグルゼム』連鎖を起こし、爆発的に威力を底上げできるそうだ。

 今の場合、いつ当てたのかわからないが川の中にあった『ザグルゼム』を当てた石に『ザケルガ』をぶつけ、威力を高めつつ、連鎖の性質を利用して『ザグルゼム』状態のアースの剣へ向かうように仕向けたのである。

「なッ」

「『ジェルド・マ・ソルド』!」

 背後から迫る『ザケルガ』にアースが言葉を失い、咄嗟にエリーは呪文を唱えた。『ザケルガ』とアースの居合斬りが激突し、雷がその場で弾けて強い光を放つ。その閃光が止んだ時、アースの剣は何かに弾かれたように上へ向いていた。

 普通ならば『ザグルゼム』1発しか当てていない『ザケルガ』ならば『ジェルド・マ・ソルド』で簡単に弾き飛ばせただろう。でも、アースの剣にも『ザグルゼム』の効果が付与されている。ぶつかった瞬間、『ザケルガ』の威力が跳ね上がり、逆にアースの剣を弾いたのだ。

「テッド、打ち上げろ!」

「ッ……アース!」

「おせぇ!」

「ガッ」

 剣を打ち上げられ、身動きの取れないアースの背後に再びテッドが接近する。彼に抱えられているエリーはそれに気付いていたようだが、少しばかり忠告が遅れた。そのままテッドは高嶺の指示通りにアッパーカットを放ち、アースたちを空へと吹き飛ばす。

「どんなに強くても、どんなに速くても、空中なら……そう簡単には躱せないだろ?」

 すでに高嶺の指は宙を舞うアースたちへ向けられている。そして、ガッシュとアースの間には二対四枚の羽を生やしたサイ。

「『サザル・マ・サグルゼム』!」

「『バオウ・ザケルガ』!」

 サイの右手からガッシュに向かって群青色の球体(『サザル・マ・サグルゼム』)が放たれ、それに向かってガッシュの口から巨大な雷龍(『バオウ・ザケルガ』)が飛び出した。巨大な雷龍(『バオウ・ザケルガ』)は群青色の球体を飲み込むと背中から翼が飛び出し、体を群青色に染める。大きさも先ほどまでとは大違いだ。

 『バオウ・ザケルガ』は他の術を使えば使うほど威力が高まる呪文。逆説的に言えば術を使わなければそこまでの威力は出ない。きっと、今回の戦いでは術を使えなかったせいで撃ち出された時は小さかったのだろう。それを『サザル』で威力を最大限にまで引き上げられたため、巨大化したのだ。

 すぐにサイは『サザル』で強化された『バオウ・ザケルガ』の射線上から逃げたがアースたちは空を自由に移動できない。

「ぁ、ガッ……」

 その時、不意に後ろから誰かの呻き声が聞こえ、振り返る。そこには『バオウ・ザケルガ』のデメリットでその場で倒れ伏す高嶺の姿。倒れた時にどこか打ったのだろうか。

「アース、アレを使うぞ!」

「くっ……我が封神の型をとりて、一心に彼奴の術を打ち破らん!」

「『バルバロス・ソルドン』!」

 呪文を唱える声で再びアースたちに視線を戻すと群青色の『バオウ・ザケルガ』と巨大な剣がぶつかり合っていた。躱せないのなら迎え撃つしかない。

 だが、その均衡も長くは続かず、群青色の『バオウ・ザケルガ』が巨大な剣を噛み砕き、そのままアースたちへと迫った。

「エリー!」

 抱えていたパートナーを後方へ投げ、アースは剣を盾にするように構える。そして、『バオウ・ザケルガ』に飲み込まれ、群青色の電撃が空中を駆け抜けた。




『サザル』があれば『ザグルゼム』で強化しなくても『バオウ・ザケルガ』の威力を底上げできるのでこのような形になりました。













今週の一言二言



・FGOで1500万ダウンロード記念が来ましたね。皆さんは☆4鯖誰を貰いましたか?
私? 私はバサスロ貰って重ねました。やっぱ、バサスカシステムいいですね。

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