やはり俺の魔物の王を決める戦いは間違っている。   作:ホッシー@VTuber

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日曜日更新に変わって初めての更新。


LEVEL.17 群青少女にも苦手な物はある

 何とか大海たちのことを誤魔化した(サイも手伝ってくれた。芋づる式で魔物のことがばれたら面倒だから)俺は無事に千葉村に到着した。後ろからの視線が後頭部に突き刺さって陥没するかと思った。でも、戸塚だけは尊敬の眼差しで見てくれたからプラマイゼロ……いや、プラスか。八幡、元気出て来た。

「んー! きもちいいー!」

 車から降りた由比ヶ浜が伸びをしながら叫ぶ。そりゃ、あんだけ寝ていたら気持ちいいだろうよ。

「人の肩を枕にして寝ていれば気持ちいいでしょうね」

 枕ノ下さんがジト目で由比ヶ浜を見ている。由比ヶ浜は必死に謝った。なんかコマンドっぽくなったな。

「うわぁ、本当に山だなぁ」

 マイエンジェル戸塚も山に感動している。都会で暮らしていればやっぱり山などに憧れるものだ。確かに心地よい木漏れ日と涼しい風が気持ちいい。俺、ずっと山で暮らして引きこもろうかな。買い物とか通販で済ませばいいし。

「ハッチマーン!」

「ッ……っと」

 車から降りてすぐサイが俺の肩に跳び乗った。さすがサイ。ジャンプで俺の肩に乗るとは。もげるかと思ったぞ。慣れたけど。すぐにサイの小さなおみ足を掴んで固定。肩車である。

「本当に仲がいいんだな。君たちは」

 『うわー! すごーい!』と騒いでいるサイを宥めていると平塚先生が煙草を吸いながら感想を漏らす。それを聞いた群青少女が俺の頭をギュッと抱きしめてにへらと笑った。見えないけど笑い声でだいたい把握できる。

「さて、ここからは歩いて移動する。荷物を下ろしておきたまえ」

「……サイ、頭掴んでろよ?」

「大丈夫! ハチマンのハートごと抱きしめておくから」

 この子、俺のこと大好き過ぎて逆に心配だわ。小町に依存しているって言われても『じゃあ、ハチマンを守ればいいんだね』とか言って治そうともしなかったし。

 サイを肩に乗せながら荷物を下ろす。家でもよく肩車しているからこれぐらい造作もない。

「ひ、ヒッキー……器用だね」

「そうなんですよ。最近、サイちゃんのブームだそうで。家にいる時もよくああやって……それにほら、これ見てください」

「え!? これ、何!?」

「サイちゃんが初めて家に泊まった次の朝、部屋に忍び込んで撮りました。まさかあのお兄ちゃんがサイちゃんをここまで受け入れるとは思わなくて。サイちゃんに頼まれて色々念を押したのは小町なんですが……」

 なんか後ろで小町と由比ヶ浜が話しているけどサイがあれこれ指示して来るせいで聞こえない。後、隣で一生懸命荷物を下ろしている戸塚が可愛くて集中できない。

「さ、サイちゃん!」

 荷物を下ろし終えたところで由比ヶ浜が真面目な顔でその名を叫ぶ。

「「ん? 何?」」

 そして、振り返る天使と妖精さん。そう言えば、由比ヶ浜ってサイのことも戸塚のことも『サイちゃん』って呼んでいたような。

「あ……そっかー。被っちゃったんだ。どうしよ?」

 今気付いたようで先ほどまでの真面目な雰囲気はどこへやら。困ったような顔でサイと戸塚を見比べている。

「じゃあ、私のことはサイでいいよ」

「うん、じゃあそうするっ! えっと……あれ? 何だっけ?」

「結衣さぁーん……」

 首を傾げている由比ヶ浜に小町は涙目でくっ付いた。何だろう。その涙は憐みの涙のように見えるのだが。由比ヶ浜のアホ度は最早手の施しようがないほどだから仕方ないか。

「由比ヶ浜さん、サイさんに何か言いたいことが……ん?」

 由比ヶ浜の隣でため息交じりに答えを教えようとしていた雪ノ下は何かに気付いたらしく、そちらに視線を向ける。丁度、1台のワンボックスカーがやって来るところだった。こんなところまで一般のお客が来るとは思わなかったので少し驚いた。

 のん気に適当なことを思っていると人が降りて来た。そして、車はそのまま来た道を引き返して行く。ただの送迎だったようだ。因みに降りたのは若い男女4人。こんなところまで来てバーベキューか。もしくは登山か。まぁ、ああいった奴らは川とか山を甘く見て痛い目に遭うんだよな。

「や、ヒキタニ君」

 そんなことを考えているとその一団の1人が俺に話しかけて来た。そう言えば、こいつ見覚えが……。

「……葉山か?」

 意外にも一団の1人はクラスメイトの葉山だった。あ、いやクラスメイトって言っても正直、関わりなんてないですよ? この前のチェーンメールの依頼の時ぐらいですよ。

「……」

 ぎゅうううう、と俺の頭を両腕で締めるサイ。あ、やばい。この子、人見知り発動して力加減が出来ていない。このままでは俺の頭が熟れたザクロのように弾け飛んでしまう。そう言えば、チェーンメールの時、サイは部室にいなかったから葉山と遭うのはこれが初めてだった。

「さ、サイ。落ち着けって。俺のクラスメイトだ」

「う、うぅ……」

 痛い痛い痛い! これ、冗談抜きで痛いって! 潰れちゃう。八幡の頭が潰れりゅうううう!

「君はこの前、クラスに遊びに来た子だね。こんにちは、俺は葉山隼人。よろしくね、サイちゃん」

 爽やかな笑顔と共にサイに向かって手を差し伸べる葉山。あ、葉山さん。それ、逆効果です。

「ッ! にゃああああああ!」

 俺の頭部から緊急脱出したサイは空中で後方宙返りして小町の方へ避難する。多分、葉山のリア充力に恐れをなしたのだろう。ガッシュの場合、魔界で知り合っていたしすぐに俺の話題を出したから仲良くなれたが、葉山は人見知りする子にすぐ手を伸ばしてしまった。それに俺の名前は間違えたことにより、余計サイの心を閉ざすことになってしまったようだ。普通の女の子なら多少人見知りしていようが葉山スマイルの前に陥落するだろう。しかし、サイは普通の女の子ではない。その結果、葉山から逃げ出した。

「あ、あはは……嫌われちゃったかな」

「あいつは人見知りするんだよ。で、何でここに? バーベキューか?」

「いや、バーベキューじゃないよ。それにただのバーベキューならここまで親に車出してもらわないさ」

 苦笑しながら葉山が否定する。チラリと葉山の後ろを見ると葉山のグループメンバーが揃っていた。三浦、戸部……そして、何故か俺と葉山を見てハアハアしている海老名さん。やめて。こっち見ないで! 葉山とはそう言う関係じゃないの!

「ふむ、全員揃ったようだな」

 その時、先生が腕を組みながらうんうんと頷いている。じゃあ、葉山たちも何かに参加するのかしらん。てか、まだ何をするのか聞いていないな。後、サイは小町の肩から下りなさい。小町が苦しそう。仕方ないのでサイを回収し、俺の肩に乗せる。

「は、ハチマーン……」「お兄ちゃーん……」

 サイは俺の頭を抱きしめ、小町は自分の首を擦りながら俺の名前を呼んだ。サイはともかく、小町は完全にとばっちりだな。後でシップとか貼らないといけないかもしれない。持って来ていないけど。

「はいはい……逃げるほどだったのか?」

 小町の頭を撫でながら頭上にいるサイに問いかけた。

「あの人、苦手ぇ……ぐいぐい来るぅ」

 おぉ、あのサイが弱っている。この子、今日俺なしで寝られるのか? マジで俺の寝床に潜り込んできそう。そして、ロリコン扱いされそう。冤罪です。

 それから『君たちにはボランティア活動をして貰います』と言った先生の後を追って本館を目指して移動を開始した。もちろん、俺の肩にはサイがいる。何だろう、某マサラ人の気持ちが理解出来たような気がする。パートナーだし。

「あの、何故葉山君たちまでいるのでしょうか?」

 俺の隣を歩いていた雪ノ下が少し陰鬱な表情で先生に問いかけた。

「ん? ああ、私に聞いているのか」

 まさか質問されるとは思わなかったのか振り返った先生は意外そうに言う。

「敬語なんでそうなんじゃないですか?」

 雪ノ下が敬語を使う相手はこの中で平塚先生ぐらいしかいないし。

「そうとも限らないでしょう? 目上の相手でなくても距離感を出すために敬語を使い場合もあるかと存じますがいかがでしょうか、比企谷さん」

 妙に晴れやかな表情で雪ノ下が笑みを浮かべながら聞いて来た。

「いやまったくおっしゃる通りですね、雪ノ下さん」

「……君たちは相変わらずだな」

「ハチマンとユキノ、仲良いねー」

 いやいや、サイさん。これは仲がいいって言うんじゃないんですよ? お互いに相手を貶し合って……違いますね。俺が一方的に袋叩きにされているだけでした。

 どうやら、先生によると葉山たちは掲示板の募集を見て参加したそうだ。普通、参加しないでしょ。先生も最初から来るとは思っていなかったようだし。

「ハチマン!」

「んあ?」

 先生から『コミュニケーション能力を向上させよ』的なお達しを受け、どうしようか悩んでいると頭の上からサイの元気な声が聞こえる。葉山から受けたダメージはすでに回復したようだ。

「楽しみだね!」

「……ああ」

 サイの笑顔が見られるならコミュニケーション能力なんかどうでもいいや。

 


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