やはり俺の魔物の王を決める戦いは間違っている。 作:ホッシー@VTuber
しばらく、拙い文章をお見せすると思いますのでご了承ください。
地の文のリハビリ、頑張ります……。
「ルォオオオオオオ!」
一回り大きくなった群青色の『マ・セシルド』がでかい魔物の拳を受け止め、金属と金属をぶつけ合ったような甲高い音を響かせる。上空から見ていたが今までの『マ・セシルド』ならすぐに皹が走っていただろう。しかし、『サザル・マ・サグルゼム』の効果を受けたそれは見事に魔物の一撃を受け切った。
「ガァアアアアアア! くそ盾の分際でええええええ!」
それからでかい魔物は何度も群青色の『マ・セシルド』を殴るがビクともしない。そして、その度に大海の持つ魔本の放つ光がチカチカと点滅する。光は大きいもののどこか不安定な印象を受ける光り方だ。
「くっ……」
その時、大海が冷や汗を流しつつ、呻き声を漏らした。初めてにしてはよく持った方だ。だが、ここで大海の心の力を枯渇させるわけにはいかない。どうにかしてでかい魔物の攻撃を止めさせなければ。サイも同じことを考えていたのかティオの背中を右手で支えながら俺に視線を向けて来た。
「やーい、デモルトー! 僕の方がお前よりでっかいぞー!」
呪文を唱えるために口を開けようとしたがその直前にでかい魔物――デモルトの背後に巨大なキャンチョメが突如として現れた。あれは自分の真上に巨大な自分の幻を出現させる術、『ディカポルク』。デモルトの注意を引くために囮になってくれたのだ。
「ルォオオ!」
デモルトは自分よりも大きなキャンチョメの幻を見て雄叫びをあげながら拳を振るう。だが、相手は幻。本体はその下にいるのでデモルトの攻撃は全て空振りしていた。
「みんな、ウォンレイの呼吸が安定し始めたよ! まだ目は覚ましてないけどリィエンとナゾナゾ博士が下の階へ運んでる! これで僕も協力できるから頑張って!」
嬉しそうに笑うキャンチョメの報告に皆はホッと安堵のため息を吐いた。状況はよくわからないがウォンレイは重傷を負ったらしい。とりあえず、今はこちらの体勢を立て直すべきだろう。
「大海、術を解け」
「う、うん……」
俺の指示に従って大海は『マ・セシルド』を解除し、その場でへたり込んでしまう。彼女の様子をみるにあまり心の力は残っていないようだ。使えたとしても1~2回が限界かもしれない。
「八幡さん、サイ!」
そんなことを考えているとすっかりボロボロになってしまった高嶺が驚いた表情を浮かべながらこちらへ歩み寄って来ていた。他の奴らも俺とサイを交互に見合わせている。いや、ティオだけはサイに詰め寄っていた。俺もあんな風に問い詰められるのだろうか。
「どうしてここに!? どうやって!」
「あー……目が覚めたらアジトの方からやばい魔力を感じるってサイが言って、一応、ここまで飛んで来た」
いやぁ、飛んで来たはいいけど城にどうやって入ろうか悩んでいると突然、城の天井が吹き飛んだ時は本当に驚いた。しかも、巨大な魔物も一緒に出てきたから思わず、悲鳴を上げちゃったし。そのおかげで城の中に侵入できたからいいけど。
「あ、あの……さっきの術は? 新しい術よね?」
今度は満身創痍気味の大海が質問してきた。無理せず心の力の回復に努めて欲しいが気になって作業に集中できないだろう。あの術も色々と複雑なのでどう説明すればいいか頭の中で言葉を選びながら口を開く。
「一応、俺を強化する術、『サジオ・マ・サグルゼム』と一緒に発現してたんだけど……あの時は使えなかったから使わなかっただけ」
「それに私たちはあの時点でリタイアしたから説明する必要もないかなって思って言わなかったの。効果も効果だからね」
俺の言葉を補足するようにサイが会話に入ってくる。
第8の術、『サザル・マ・サグルゼム』。サイの右手から群青色の球体を飛ばし、それが当たった魔物は群青色のオーラに覆われる。そして、次に使う術を強制的に強化してしまう、これまた異質な術。なお、術に直接ぶつけても効果が発揮する。
「術を強化する術……じゃあ、さっきは『マ・セシルド』を強化したのか。これがあれば――」
「――いや、そんな簡単な術じゃない」
頬が緩んだ高嶺を遮り、隣でへたり込んでいる大海に視線を向ける。高嶺もつられるように彼女を見て目を細めた。それだけで『サザル・マ・サグルゼム』にデメリットがあると察したのだろう。
「えっとね、確かに術を強化するんだけど……『サザル・マ・サグルゼム』が直接、術を強化するんじゃなくて“術の力を強制的に100%まで引き出す”の。だから、『サザル・マ・サグルゼム』が当たった魔物のパートナーはメグちゃんみたいに強制的に心の力を消費させられちゃうってわけ」
高嶺の問いかけにサイが大海を指さしながら答えた。
実は大剣の魔物を倒せたのも『サザル・マ・サグルゼム』のおかげである。大剣の魔物に何度も『サザル・マ・サグルゼム』を当て、相模の心の力を枯渇させたのだ。俺が倒れさえしなければサイは自由に動けるので敵の術の力が100%まで引き出されても対処できたしな。
「あ、もちろん。術の力を100%まで引き出したからといってすぐに心の力は枯渇しないよ。『ザケル』とか『サイス』の力を100%まで引き出しても心の力の消費量は高が知れてるでしょ? まぁ、今回はあれに使うよりも心の力を消費する覚悟で味方の術を強化した方が良さそうだけどね」
サイは肩を竦めながら今もなおキャンチョメの幻を殴り続けているデモルトを見上げた。城に突入する前にサイが奴の魔力が爆発的に膨れ上がったと言っていたのでおそらく強化呪文でも使っているのだろう。もし、奴に『サザル・マ・サグルゼム』を使えばただでさえ普通の『マ・セシルド』を殴り壊せるほどの出鱈目な攻撃力が更に上がる。そうなれば手が付けられなくなってしまう。
それに心の力を枯渇させるにはまず、敵に術を連発させてその度に『サザル・マ・サグルゼム』を当てなければならない。強化呪文では100%まで引き出したとしてもさほど心の力を消費しないはずだ。
だからこそ、奴を強化して大暴れさせながら心の力が枯渇するのを待つよりも奴を一撃で倒す方が現実的である。そうなってくると攻撃呪文皆無のサイは徹底的にサポートに回るしかないわけだが――。
「見つけたぞ、クソチビィ! 幻でいつまでも誤魔化せると思うなああああ!」
「ヒィイイ、フォルゴレえええええ!」
「バカ、早くこっちへ来るんだ!」
「『サウルク』」
――それこそ彼女の“得意分野”だ。
『ディカポルク』の秘密に気付いたデモルトが抱き合っているキャンチョメとフォルゴレに殴り掛かった。だが、その前に『サウルク』の効果で速度が上がったサイが彼らの前に割り込み、ニヤリと笑って迫るデモルトを見上げる。
「駄目! サイでもデモルトの一撃は受け止め切れない!」
「そんなのわかってる。『サシルド』」
ティオの絶叫を一蹴して『サウルク』を消去し、盾の呪文を唱えた。サイたちとデモルトの間に半円状の群青色の盾が地面からせり上がる。『マ・セシルド』ですら『サザル・マ・サグルゼム』で強化しなければ防ぎ切れないデモルトの拳を『サシルド』で受けようとするとは思わなかったのか近くにいる高嶺や大海が息を呑んだ。
「こんな薄っぺらい盾で防げるかああああああ!」
大気がビリビリと震えるほどの大声を上げながらデモルトが『サシルド』を粉々に粉砕し、そのままサイたちがいた地面を殴りつける。地面が蜘蛛の巣状にひび割れ、瓦礫が宙を舞った。
「次はてめぇらだ!」
パラパラと瓦礫が地面に落ち切る前に俺たちの方へ振り返ったデモルト。サイがいない今、『マ・セシルド』では奴の攻撃を防ぎ切ることはできない。
「大海、合わせろ」
「っ……ええ!」
「『サウルク』」
へたり込んでいた大海が立ち上がったのを確認し、再び『サウルク』を唱える。すると、いつの間にかサイがティオの真後ろに立っていた。急ブレーキをかけたのか彼女の足元は黒く焦げている。
『サシルド』は半円状の盾であるため、後ろが大きく開いている。デモルトが『サシルド』を壊す寸前、サイはフォルゴレとキャンチョメと共に後方へ逃げ、『ポルク』で隠れるように指示を出したのだろう。かなりの高さがあるため、『サシルド』によってデモルトの視界は塞がれていたからこそ、成功した作戦だ。
そして、『サシルド』を粉砕し、サイたちを倒したと誤認したデモルトの注意がこちらへ向いた瞬間、俺が『サウルク』を唱え直し、一瞬にして俺たちの傍に戻ってきたのだ。
「『サザル・――」
俺が呪文を唱え始めるとサイは先ほどと同じようにティオの背中に右手を付き、振り返っていたティオに笑ってみせた。ティオも彼女の姿を見て安心したように前を向く。
ああ、それでいい。俺たちが背中を支えるから何も心配せず、ただ前を見据えろ。それこそ、サイの望む光景だ。
「――『マ・サグルゼム』」
「――『マ・セシルド』!」
ティオに『サザル・マ・サグルゼム』が着弾すると同時に群青色の『マ・セシルド』が展開され、デモルトの拳を受け止める。何度も甲高い音が響き渡り、その度に大海の持つ魔本が呼応するように瞬いた。
「高嶺、俺たちが時間を稼ぐ。だから、何とかしろ」
ここにいる中で最も攻撃力のある呪文を持っているのはガッシュだ。それに高嶺ならデモルトを倒す作戦ぐらいすぐに思いつくだろう。
奴を倒す術は持っていなくても時間を稼ぐことぐらい、俺たちにならできる。サイも最初からそのつもりだったようで『サザル・マ・サグルゼム』を撃ち終わった時から俺の方をジッと見ていた。
(よし、行くか……行くのか……)
『サジオ・マ・サグルゼム』で強化されているとはいえ、さすがにあんな巨大な魔物相手に突貫するのはめちゃくちゃ怖い。ま、まぁ、サイが頑張ってくれるさ。うん、きっと、おそらく、多分。とりあえず、死なない程度に頑張ろう。
「最後に聞かせてくれ。サイの力は……」
高嶺にそう言い残してサイと頷き合い、移動しようとしたがその前に問いかけられてしまう。振り返れば高嶺は真剣な眼差しをこちらに向けていた。チラリとサイを見ると彼女はどこか照れ臭そうにはにかんでおり、『先に行ってるね』と言ってデモルトの方へ駆け出してしまう。恥ずかしがっているのだろうか。
「別に今、気にすることではないと思うが……まぁ、いいか」
第7、第8の術が発現するまで肉体強化系の術が多い、という印象ぐらいしかなかった。だが、8つの術の中で肉体強化の類は3つしかなかった。『サフェイル』は羽が生えるだけなので肉体強化ではないだろう。
そして、問題の2つの新呪文。『サジオ・マ・サグルゼム』や『サザル・マ・サグルゼム』は俺や他の魔物がいなければ全く意味をなさない――仲間や敵がいる前提の異質な術。その異質こそ、サイの力だった。
目を強化して戦況を瞬時に把握し、助けのいる仲間を見つける第1の術、『サルク』。
受け止めるのではなく受け流し、受け流し切れなければ開けた後方へ逃げることが可能な第2の術、『サシルド』。
どんな状況でも味方のところへ駆けつけられる速度を手に入れる第3の術、『サウルク』。
体力や心の力は回復しないがどんな傷でも治してしまう第4の術、『サルフォジオ』。
戦場では使えないが便利な効果を持つ第5の術、『サグルク』。
空を飛ぶことで偵察、移動、監視、奇襲など使い勝手の良い第6の術、『サフェイル』。
俺専用であるが力を持たない人間を強化する第7の術、『サジオ・マ・サグルゼム』。
他の魔物の術の力を最大限まで引き出す第8の術、『サザル・マ・サグルゼム』。
そう、サイの術は全て“仲間”や“敵”を意識させる効果を持っていた。そして、サイの目指す『背中を支える王』。これらを考慮すれば答えは自ずと導かれる。
「“支援”。サイは支援特化型の魔物だ」
第8の術 『サザル・マ・サグルゼム』
・他の魔物の術を強制的に強化する付加術
サイの右手から群青色の球体を飛ばし、当たった魔物は群青色のオーラに覆われる。その状態で術を使用した際、強制的にその術の力を100%まで引き出されてしまう。術は強化されてしまうが相手の心の力を強制的に多く消費させることも可能。
また、すでに発動中の術に当てても効果は発揮する。その場合、魔物の体は群青色のオーラには覆われず、球体が当たった術の力が100%まで引き出されてしまう。
なお、最初から100%まで引き出されている術に当てた場合、20%ほど強化される。もちろん、その場合でも心の力は多く消費される。
この術の対処法は『サザル・マ・サグルゼム』を当てられた瞬間、最も消費の少ない術を放ち、可能な限り消費を抑える。もしくは肉体強化の術を使うなどあるが、サイ本人は当てるだけでその後は自由に動けるため、その隙にサイに攻撃される。
弾速は今後登場する『ザグルゼム』よるも遅い。
サイが『背中を支える王』を目指すと覚悟を決めた結果、発現した呪文。
作中にもありましたが大剣の魔物を倒せたのはこの術のおかげです。強化された術をサイと八幡は躱し続け、相模がガス欠を起こした瞬間を不意打ちしました。
もちろん、上記に記した方法以外にも対処法はあります。
また、サイの術の中で最も心の力を消費します。ただ、サイの術は基本的に燃費がいいので最も心の力を消費すると言っても高が知れています。その点で言えば肉体強化の術を重ね掛けした方が総合的な消費量は多いです。
今週の一言二言
・FGOでまさかのセイバーウォーズ復刻ですね。とりあえず、リンゴは食べずに周回してます。石もないので回せないんですよね……ヒロインX、欲しいなぁ。