やはり俺の魔物の王を決める戦いは間違っている。 作：ホッシー＠VTuber
凄まじい勢いで振るわれる三連棍を体を捻って回避したガッシュはデモルトの脇腹に顔を向けた。そこですかさず『ザケルガ』を唱えて電撃を放つ。攻撃したばかりで動けなかったデモルトに電撃が直撃するも怯みすらせずに三連棍をガッシュへ突き出す。
「メルメルメ～！」
咄嗟にガッシュの前に割り込んだウマゴンが角で三連棍を弾き、何とか防いだ。その頃にはガッシュも気絶から立ち直り、ウマゴンの背中を使って跳躍してデモルトへ迫る。再び『ザケルガ』を放つが今度は頭を屈められて回避されてしまう。
「ガッシュ、次だ！」
デモルトに踏まれないように己の立ち位置を変えながらガッシュに指示を出す。ガッシュとウマゴンは常にデモルトに密着するように移動しているので遠くからでは指示が届かないのである。
「『ザケルガ』！」
ガッシュの電撃がデモルトの右肩へ当たるがこれも通用せず、お返しとばかりに三連棍を横薙ぎに振るい、ガッシュにぶつかり吹き飛ばされてしまった。
「『オル・ミグルガ』！」
その時、デモルトの周りを走り回っていたレイラが高くジャンプして『月の石』目掛けて巨大な三日月を放つ。『月の石』に迫る三日月にいち早く気付いたヴァイルがデモルトに指示を出して三日月の軌道上に三連棍を滑り込ませた。それに対してレイラは冷静にロッドを操作して『オル・ミグルガ』の軌道を変える。
「ルァアアア！」
「きゃあああ！」
しかし、もう一方の三連棍の打撃部を投げて軌道を変えた三日月を破壊し、左腕を無造作に振るってレイラを地面に叩きつけた。今のは惜しかったが敵は『オル・ミグルガ』の性質を知らなかったからだ。もう同じ作戦は通用しない。
「清麿！」
「『ザケルガ』！」
レイラに気を取られている隙にデモルトの背後を取っていたガッシュに呼ばれ、慌てて『ザケルガ』を唱える。可能な限り、ガッシュを見失わないように気を付けているがデモルトの巨体のせいでガッシュの姿が見えない時があり、その度にガッシュに術を催促されていた。『ザケルガ』はデモルトの背中に直撃したが化け物に変化はない。
（ここでもない！）
俺の思考を読んだようにガッシュも移動しようとしたがその前にデモルトが三連棍をガッシュとウマゴンに向かって同時に突き出した。空中にいたガッシュはもちろん、彼のフォローに入ろうとしていたせいでウマゴンも迫る三連棍に気付くのが遅れてしまい、三連棍に当たってしまう。
「ヌォオオオオオオオ！」
だが、吹き飛ばされながらも通り過ぎる三連棍を左手で掴み、無理矢理自分の体を引き戻して一気にデモルトに接近するガッシュ。まさかあの状態から接近されるとは思わなかったのかデモルトが目を見開く。
「『ザケルガ』ァ！」
「――ッ！」
その隙に電撃を放つがデモルトは咄嗟に首を振り、角で電撃を防いだ。やはり、奴はこちらの攻撃が通用しなくても顔面だけは反射的に守ろうとするようだ。だが、だからといって顔を狙っても一瞬だけ攻撃の手が止むだけで有効打にはならない。
（どこだ……どこにある）
三連棍を振るわれ、地面に叩きつけられたガッシュが立ち上がるのを見ながら思考回路を巡らせる。脇腹も、背中も駄目。唯一、顔面は通用しそうだがその分、回避されるリスクがある。
「『ザケルガ』！」
もう一度、電撃を放つ。今度はデモルトの右膝に当たったが反応なし。それを見届けたガッシュもすぐに移動を再開させる。
「メル！」
「『ザケルガ』！」
ウマゴンのフォローもあって翼の付け根に電撃を直撃させることができたがこれも反応なし。こちらの狙いを悟られないようにデモルトの顔面に向かって電撃を放ちながら体勢を立て直すためにデモルトから距離を取るガッシュ。
（くっ、ここも違う）
奴は『月の石』の真下にいるせいでダメージを負ってもすぐに回復してしまう。もう何発目かわからない『ザケルガ』を唱えながら僅かな反応の違いを見逃さないようにデモルトを観察し続ける。そして――。
「『ザケルガ』！」
「ガッ……」
「ッ！」
――うなじに『ザケルガ』が直撃した瞬間、デモルトは痛みで１秒にも満たない悲鳴をあげた。しかし、『月の石』ですぐに回復してしまい、ガッシュに三連棍の打撃部をぶつける。
（見つけた！）
「ガッシュ、次で勝負をかける。耳を貸すんだ」
フラフラになりながらも立ち上がろうとするガッシュの元へ駆け寄り、彼の耳元に顔を近づけた。その途中、いきなり攻撃の手を止めたからかヴァイルは勝ち誇ったように高笑いし始める。
「ハッ、てめぇらの蚊みてぇな攻撃、何回繰り返そうが『月の石』の真下にいるデモルトはすぐにでも回復するぜ？ 倒したかったらもっと強ぇ攻撃を当てねぇとなぁ。いや、そうかお前たち、それで精一杯強い攻撃してるんだったな……これは失礼しちまったぜ！」
『ザケルガ』を何度、当てようとすぐに回復されてしまうことぐらい早い段階で把握している。奴の様子を見るにヴァイルは慢心しているのだろう。そうでなければ俺たちの攻撃の手が止んだ時点で向こうから攻撃を仕掛けてくるはずだ。だが、慢心しているのなら好都合。お前の言う通り、強い攻撃を当ててやる。
「ガッシュ、いけるな！」
「オオオオオオオオオオ！！」
ガッシュに作戦を伝え終わったが下準備にもう少しだけ時間がかかってしまうため、すぐに行動に移った。ガッシュはもちろん、ウマゴンも限界だ。動ける間に奴を一撃で沈めなければこちらが圧倒的に不利になってしまう。
「てめぇら、人の話を無視してんじゃねえええええ！ デモルト、てめぇも調子に乗って遊んでんじゃねぇぞ！ 奴らをぶっ潰せえええええ！」
「……ル、オオオ、オオオオオ！！」
俺たちの態度が気に喰わなかったのかヴァイルが指示を出すとデモルトは雄叫びをあげながら三連棍を振り降ろし、地面もろともガッシュに打撃部を叩きつける。まさか更にデモルトの攻撃力が出鱈目になるとは思わず、奥歯を噛みしめた。砂塵が舞う中、ガッシュの無事を祈る。
「オオオオオオオオオオオオ！！」
砂塵が晴れると同時に三連棍を駆け登ぼるガッシュの姿に右手を強く握りしめた。まだ、勝利の女神は俺たちを見放していなかったようだ。だが、ガッシュ１人では目的の場所まで辿り着くことはできない。そんなこと、最初からわかっている。
「サンビームさん、レイラ！ ガッシュに道を！」
だからこそ、迷うことなく頼りになる仲間たちに声をかけた。皆、限界なのは知っている。それでもサンビームさん、ウマゴン、レイラはすぐに頷いてガッシュに道を作るために動き出した。
「ルァアアアアアアアア！」
「メルメルメ～！」
ガッシュ目掛けて振るわれた三連棍はウマゴンの角に弾かれ、天井とその付近の壁を粉砕する。その隙にデモルトの背中に『ザケルガ』を放った。
「ルァァアア！」
「『ミグロン』！」
デモルトはなかなか仕留められないガッシュたちにイラつきを覚えたのか吠えながら乱暴に三連棍を振り降ろす。しかし、レイラに足元を破壊されたせいでバランスを崩し、三連棍はガッシュたちの頭上を通り過ぎた。
「『ザケルガ』！」
もう一度、電撃を放ち、こちらの下準備も終わった。『ザケルガ』の連発で俺の心の力はほとんど残っていないがそれに反比例するように赤い魔本は強い光を放っている。そう、心の力を使えば使うほど強くなる異例の呪文『バオウ・ザケルガ』。その力を最大限に発揮するために通用しないとわかっている『ザケルガ』を連発していた。
ガッシュの身を案じるのなら『ラウザルク』を使うべきだったのはわかっている。だが、『ラウザルク』の効果が続いている間は他の呪文が使えない。それに『ラウザルク』を使ってもデモルトに勝てないことは戦い始めてすぐに気付いた。
ならば、ガッシュには無茶をさせるが『ラウザルク』を使わず、『ザケルガ』を連発し、『バオウ・ザケルガ』を叩き込んだ方がまだ勝機が見える。問題はガッシュの体が持つかどうかだが――。
「ヌォオオオオオオ！！」
――彼は見事、デモルトの攻撃を耐え抜き、ウマゴンとレイラのフォローのおかげで奴の弱点であるうなじに辿り着いた。やっとヴァイルもこちらがデモルトの弱点に気付いていたことに気付いたのか悔しげに顔を歪め、ニヤリと笑う。
「甘いわぁ！ 『ヘドュン・ゼモルク』！」
『バオウ・ザケルガ』を唱える前にデモルトの術が発動し、頭の角が変形して放射状に広がる。放射状に広がった角が直撃してガッシュの体勢が崩されてしまった。
「狙いをさだめろ、ガァアアアアアッシュ！」
「ヌゥウ！」
俺の指示でもがくように体勢を変えるガッシュ。体勢は崩されたがまだ射程からは離れていない。ここで決める。
「っけえええええええ！ 『バオウ・ザケルガ』！！」
ガッシュから放たれた巨大な雷龍はデモルトを押し潰すように奴のうなじに噛み付き、角や三連棍を粉々に砕きながらスパークを起こした。
今週の一言二言
・今週は日曜日に京都で開かれるイベントに一般参加参加するので予約投稿です。ちょっと熱っぽいですけど全力で楽しんできます！