やはり俺の魔物の王を決める戦いは間違っている。   作:ホッシー@VTuber

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LEVEL.152 考えることしかできない彼は彼らのように行動する

 考えなかったわけじゃない。むしろ、ナゾナゾ博士の隣にキッドがいなかったのに気付いて最初にその可能性が脳裏を過ぎったほどだ。でも、信じたくなかった。だから、どこかに隠れているのだろうと決めつけた。

 しかし、現実は常に非常である。ナゾナゾ博士ははっきりとキッドは魔界に帰ったと言った。悔しげに俯いたキャンチョメやフォルゴレを見て彼の言葉が真実であるとすぐにわかった。だからこそ、俺たちは言葉を失ってしまう。きっと心のどこかで誰かが倒されるわけがないと高を括っていたのだ。そんな保障(絶対)、あるわけがないのに。

「さぁ、諸君! しょぼくれてる場合ではないぞ! 目標はもうすぐそこなのじゃ! 僅かに回復した心の力を有効に使い、あそこの『月の石』の光が漏れてる一角まで一気に行くのじゃ!」

 ショックで体を硬直させているとナゾナゾ博士が両手を広げて俺たちを叱咤した。確かに彼の言う通りだ。キッドが倒されたショックで俺たちもやられてしまっては彼の犠牲が無駄になってしまう。

「何をごちゃごちゃ相談してるのよ! 何をしたって――」

「――『ザケル』!」

「わぁああ!?」

 パティの言葉を遮るように雷撃(『ザケル』)を放ち、奴らの動きを封じた。ビョンコのパートナーである老人は戦う意志がないため、無視していい。パティの体勢が崩れている今がチャンスである。

「サンビームさん!」

「ウム。『ゴウ・シュドルク』!」

 術によって体が大きくなったウマゴンにナゾナゾ博士以外の皆がしがみ付き、『月の石』の光に向かって突撃した。動き出した俺たちに気付いて慌てた様子でパートナーに指示を出すパティだったが間に合わず、彼女たちを突破する。よし、あとは光の元へ行くだけ。

「ッ……み、皆! あの光のところの岩、誰かいる!」

「何!?」

 キャンチョメの指摘に目を凝らして岩の影を見ると二人の人影を発見した。片方の影は子供、もう片方の影は俺ぐらいの大きさだ。

「あれは、魔物? いや、待て……あれは――レイラだ!」

 岩の陰から出てきたのは昨日、俺たちを助けてくれた千年前の魔物――レイラだった。もう1つの人影は彼女のパートナーであるアルベールだ。

「皆、安心しろ! あの子は――」

 

 

 

 

 

 

 ――本物の悪はね。こちらが考える最悪な手を打って来るの。だってそれが彼らにとって最も効率的で、合理的で、有効な一手なんだから。

 

 

 

 

 

 

 ここで再会できるとは思わず、頬を緩ませたが不意に過ぎったサイの言葉に体を硬直させる。急いで彼女の方へ向き直るとレイラは俺たちを冷めた目でジッと見つめていることに気付た。俺たちを逃がしてくれた時に浮かべていたあの優しい微笑はどこにも見当たらない。まさか、まさかまさか! これも、サイの――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――最悪、レイラ本人と戦うことになる。

 

 

 

 

 

「ガッシュ、前を見ろおおおおお!」

「ヌ!?」

 咄嗟に魔本に残り少ない心の力を注ぎ、人差し指と中指をレイラに向けながら絶叫する。前にいたガッシュは一度、俺の方を振り向いた後、ハッとして慌てて前を見たが、その時にはすでにレイラは先端に三日月型のロッドを俺たちに向けていた。

「『ミグロン』!」

「『ザケル』!」

 レイラの持つロッドから放たれた三日月型の砲撃(『ミグロン』)とガッシュの雷撃(『ザケル』)が激突する。しかし、その均衡はすぐに破られ、雷撃(『ザケル』)の向こうから三日月型の砲撃(『ミグロン』)が飛び出し俺たちに直撃した。そのまま三日月型の砲撃(『ミグロン』)に押し出されるように吹き飛ばされ、ナゾナゾ博士のところまで戻されてしまう。

「ウ、ウヌ、皆、大丈夫か!?」

 いち早く立ち上がったガッシュが皆に呼びかける。フォルゴレもサンビームさんも俺の様子がおかしいことに気付いて咄嗟に魔本を庇ったのか燃やされていなかった。だが、問題はレイラの術が直撃したウマゴンだ。

「メルゥ、メルゥウウウウウ!」

「大丈夫だ、大泣きしてるが戦闘形態だったことと雷撃(『ザケル』)のおかげで何とか」

 俺の視線で言いたいことがわかったらしく、号泣しているウマゴンの腹を撫でながらサンビームさんがウマゴンの無事を教えてくれた。

 ホッと安堵のため息を吐きながら再びレイラへと視線を戻すと彼女は目を見開いて俺たちを見ていた。まさかあのタイミングで雷撃(『ザケル』)を放つとは思わなかったようだ。

(くそ……あの時、ホッとしなければ!)

 レイラとの距離が近すぎて雷撃(『ザケル』)の勢いがつく前に三日月型の砲撃(『ミグロン』)とぶつかってしまったのである。あの時、もう少し早く雷撃(『ザケル』)を放っていれば相殺はできずとも強引に突破できたかもしれない。レイラの姿を見た時、喜ぶのではなく警戒すべきだったのだ。サイの忠告を無駄にしてしまったのはこれで何度目だろう。いや、駄目だ。後悔するのは後。今はレイラをどうにかしなければならない。

「レイラ、何故攻撃するんだ! お前はゾフィスのやってることに反対してるんじゃなかったのか!?」

「……」

 俺の問いかけに彼女は無言を貫く。やはり、レイラは俺たちと敵対するつもりだ。だが、一度は助けてくれたのに今になって――。

 

 

 

 

 

 

 ――きっと、私がゾフィスの立場なら貴方にレイラをぶつける。彼女を脅して無理矢理戦わせる。

 

 

 

 

 

 

「ッ……まさか、ゾフィスに脅されてるのか!? 俺たちを攻撃しなければ石に戻すと言われたのか!?」

「……私を石に戻すつもりなのは貴方たちじゃない」

「何?」

「『オル・ミグルガ』!」

 彼女の言葉の真意を確かめる前にロッドから巨大な三日月が放たれた。巨大な三日月が回転しながら迫る光景を前にしてゾクッと背中が凍りつく。慌てて地面に伏せて巨大な三日月をやり過ごした。

「あ、危、危っ……」

「レイラ、話を――」

「――ウヌ、清麿!」

 フォルゴレが何か言っているが今はそれどころではないので再び彼女に話しかけようとするがその前にガッシュに呼ばれ、後ろを振り返る。そこにはやり過ごしたはずなのに背後から俺たちに迫る巨大な三日月。慌てて俺たち人間を守るように三日月の前に立つガッシュとウマゴンだったが1人では巨大な三日月を止められず、ガッシュたちもろとも俺たちは吹っ飛ばされてしまう。ガッシュたちが庇ってくれたおかげで(偶然だがキャンチョメも三日月に直接ぶつかっていた)魔本は死守できたがダメージは大きい。

 レイラは邪魔されなければ確実に倒せる攻撃(自在に操れる巨大な三日月)を放った。つまり、彼女は俺たちを本気で倒すつもりなのだ。自分たち(千年前の魔物)が間違っていると言って俺たちを助けてくれたレイラがその覚悟を踏み躙って攻撃してきた理由など一つしか考えられない。

「レイラ、聞いてくれ! 俺たちはレイラを石に戻すために『月の石』を破壊するわけじゃない! そもそも、石の呪いは完全に解けているんだ!」

「なっ……」

 俺の言葉を聞いて今まで無表情だったレイラの顔が初めて動いた。その表情はまるで、今まで信じていたことが全て嘘だったと言われた子供のよう。やはり、彼女はゾフィスに『月の石』の破壊=石に戻されると言われたのだ。ここだ、ここしかない。彼女を説得できるのは今しかない。

「私たちを無視するんじゃないわよ!」

「そうだゲロ! オイラたちを忘れるんじゃないゲロ!」

 その時、今まで動かなかったパティとビョンコがとうとう動き出してしまった。彼女たちの攻撃を凌ぎながらレイラを説得するのは難しい。どうにかして奴らの気を別のものに移さなければ

「――ッ! フォルゴレ、奴らの気を引け!」

「ああ、『ディカポルク』!」

 キャンチョメの前に移動してフォルゴレに指示を出すと俺たちの真上に巨大なキャンチョメが現れた。『ディカポルク』は彼の真上に巨大なキャンチョメの映像を映し出す術――所謂、巨大なデコイを生み出す術だ。下を見れば普通サイズのキャンチョメがいるのでそれに気付かれた時点で『ディカポルク』の効果はほぼ無に等しい。だが、いきなり目の前で巨大化されたらほとんどの人は上に視線が向く。だからこそ、この術のトリックに気付くのが遅れてしまう。

「な、何!? なんかでかくなったわよ!? ウルル、早く! 早く呪文を唱えて!」

「『アクル・キロロ』!」

「フェフェフォファハあああああああ!」

 そして、巨大化され、冷静さを失った敵は映像に向かって術を放ってしまうのである。サイのように戦闘慣れしている魔物には通用しないかもしれないが少なくとも深く考える前に行動してしまうパティとビョンコには効果覿面だ。パティの両手から放たれた水の刃は巨大化したキャンチョメの映像を通り過ぎ、天井を破壊する。もちろん、ビョンコは術すら放っていない。俺の体でキャンチョメの本体を隠しているのでしばらくは持つはずだ。

「いいか、レイラ! 『月の石』を壊しても絶対に石には戻らない! ゾフィスがいくら頭が良く、石の呪いを解く術を見つけたとしても一度解いた術を再びかけ直すことはできない! あの術を使えるのは『ゴーレン』なんだ! ゾフィスには使えない!」

「う、嘘……だって、ゾフィスに逆らった子が石に戻されかけたのをこの目で……」

 レイラはカタカタと三日月のロッドを震わせながら俺の言葉(都合の良い話)を否定する。千年もの間、石に封印されていたせいでレイラたちはどこかネガティブ思考に寄りがちだ。それもそのはず、彼女たちはその身を持って“現実は非情”であることを思い知らされたのだから。希望を待つ無意味さと空しさを心に刻み込まれてしまったのだから。

 だが、それは違う。レイラたちは解放されたのだ。自由になったのだ。石の呪縛から解き放たれたのだ。もう、泣かなくていい。苦しまなくていい。そんな想いを込めて俺は絶叫する。

「幻覚だ! ゾフィスにできるのは心を操ることなんだよ! 心に暗示をかけて石になる幻覚を見せるだけで心に傷を負った千年前の魔物たちには十分効果がある!」

「そ、そんなわけっ……そんな、わけ――ない!!」

「『ラージア・ミグセン』!」

 俺の言葉を拒絶するように彼女のロッドから『オル・ミグルガ』よりも大きな三日月が放たれた。まずい、あれだけ巨大な術を相殺できるのは『バオウ・ザケルガ』しかない。だが、『バオウ・ザケルガ』を放てば俺は話すことすらできなくなってしまう。

「ウマゴン、頼む! 最後の呪文だ、『ゴウ・シュドルク』!」

「メルメルメ~!」

 サンビームさんもここが正念場だと捉えたのか呪文を唱え、ウマゴンは巨大な三日月に体当たりする。だが、相殺し切れず、俺たちは衝撃波に煽られ、地面を転がった。その拍子にキャンチョメの『ディカポルク』も消えてしまう。パティたちも『ディカポルク』の謎に気付いたようだが攻撃して来ない。どうやら、俺の言葉を聞いて驚いてしまい、身動きが取れないらしい。

「なら、レイラは完全に石に戻った千年前の魔物を見たことがあるか!?」

「そ、それは……」

「ないんだろう!? 当たり前だ、不可能なんだから! ゾフィスは逆らったら石に戻すと……『月の石』が破壊されたら石に戻ると脅し、千年前の魔物たちを意のままに操っていたんだよ!」

「……だったら、『月の石』は私たちを縛るためだけに作ったっていうの?」

「ウム、心と体を回復させることで石に戻る病からも回復させると錯覚させたのじゃ」

 ナゾナゾ博士の補足説明を聞いたレイラは忌々しそうにスポットライトのように自分を照らす『月の石』の光を仰いだ。もう少しだ、もうちょっとで彼女を説得できる。なら、畳みかけるしかない。

「そう錯覚させることで『月の石』は真の役割を果たす。ゾフィスの心を操る力を増大させ、40人以上の人の心を制御する、自動制御(『オートコントロール』)装置。ゾフィスだって1体の魔物。一度に40人以上の人の心を操るなんて不可能なんだよ! しかも一時の暗示じゃない、常に人の心を支配し続けることなんてできないんだ!」

「ッ――」

 やっと俺の言葉がまやかしではないとわかったのか彼女は目を見開き、自分の手を見つめる。ここからでもわかるほどレイラの手を振るえていた。そして、おもむろに手を伸ばして『月の石』の光から右手を出す。

「ひっ……」

 しかし、何も変化しない右手を見て顔を青ざめさせた彼女はすぐに右手を引っ込めた。何だ、今レイラは何をした? ただ光から右手を出しただけでどうしてあそこまで震えている?

「駄目、駄目よ! やっぱり『月の石』は壊させない! 大人しく……大人しく倒されなさい!」

 何があったのかわからないが再び三日月のロッドを俺たちに向けるレイラ。おそらくゾフィスに何かされたのだろう。ここまで言葉を連ねても彼女を説得することはできなかった。これ以上、言葉を重ねても意味がない。なら、やることはただ一つ。

「ナゾナゾ博士!」

「何!?」

 赤い魔本をナゾナゾ博士に投げた俺は彼女の元へ駆け出す。

 言葉で通じないのならば行動で示すしかない。シェリーやグスタフ、八幡さんのように――危険を顧みず、パートナーの傍で戦う彼らのように。考えることしかできない俺でもできる方法で彼女に信じて貰うしかない。だから――。

「アルベール、早く呪文を――ッ!?」

 パートナーに指示を出そうとしたレイラだったが目と鼻の先で両手を広げている俺に気付き、言葉を噤んだ。そう、俺とレイラとの距離は数メートルもない。今、術を使われれば俺は確実に死ぬだろう。

 

 

 

 

 

 

 

「レイラ、俺たちは助けたいんだ……頼む。ゾフィスの暗示に、心の傷に……打ち勝ってくれ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 だから、俺は――彼女を救うために、命を賭けた。




サイがいたことでちょっとだけショートカットしました。








今週の一言二言




・きらファンでとうとうゆゆ式の唯さんが星5で出ましたね。好きなキャラなのでぜひ手に入れたいところですが石が足りず、とりあえず様子見してます。早く石が溜まって欲しい!

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