やはり俺の魔物の王を決める戦いは間違っている。   作:ホッシー@VTuber

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この前、第1章終了と言ったな? あれは嘘だ。

書き終わってみてものすごくいい感じに終わったのでこのお話で本当の第1章、完結とさせていただきます。

なお、恵の台詞、八幡の言動に違和感を覚えるかもしれませんのでご了承ください。


LEVEL.15 大海恵は彼の目を見つめる

 リビングに着いた俺は大海をソファに座らせ、飲み物の準備をする。大海には普通のコーヒー、俺には――。

「れ、練乳?」

 偽MAXコーヒー用の練乳を見て彼女は顔を引き攣らせて問いかけて来る。

「コーヒーに入れるんだよ。いるか?」

「遠慮しておく……」

「勿体ない」

 ドン引きされた。でも、美味しいんだよ? 偽MAXコーヒー。じゅるると練乳を入れていると不意に大海が噴き出す。

「何だよ」

「ううん。もっととっつきにくい人かと思ったけどそう言うところもあるんだなって」

「俺は基本、ぼっちだからな。普段は人避けオーラを放ってんだよ」

 放ちたくない時も何故か放ったままだけど。この能力、いつになったら解除されるんだろう。

「……やっぱり」

「は?」

 大海の呟きは何か確信を得たようなものだった。しかし、今の会話から何を得たのだろう。俺のぼっち力を自慢しただけなのだが。

「それにしても、緊張はもうしてないのね」

「真剣な話なんだろ?」

「……まずはお礼を言わなきゃね。あの時はありがとう」

 コンサートの時の話だろう。大海は頭を下げてお礼を言った。

「いや、気にすんな」

「気にするに決まってる。私のせいで怪我して……それで」

 そこで言葉を区切る。彼女は今までずっと気にしていたのだろう。俺が怪我をしたことでサイが壊れそうになったのを。

「サイは大丈夫だ」

「……私、あの時のサイちゃんが怪我をした親犬を守ろうとする子犬に見えたの」

「子犬?」

「どんなに強い敵にも親を守るために自分の身を擲つ様な……八幡君を守るためだったらどんなことでもしてしまいそうな」

 大海の目が揺れる。その瞳に不安の色が視えた。

「それに八幡君も」

「俺、が何だよ」

「私を助ける時、何の躊躇もしてなかった。それが運命だって悟ってる感じで」

「……」

 こいつは、人を良く見ている。あの一瞬でそこまでわかるなんて。でも、一つだけ違う点がある。

「俺は別にお前を助けたわけじゃない」

「え?」

「お前が大怪我をすればサイが楽しみにしてたコンサートも中止になる。だから俺はお前を助けた。それだけ」

 そう、たったそれだけ。確かに俺はあの時、間違えてしまった。結局、怪我をした俺を見てサイは傷ついた。だが、俺の行動は全て、サイのためだ。それだけは間違いない。

「……そっか。あなたたちはお互いを信頼してるんだね」

 俺の言葉を聞いた大海は少し嬉しそうに微笑んだ。まだその顔から心配の色は消えていないが。

「でも、だからこそ……あなたたちはパートナーを助けるために自分を犠牲にするんじゃないの?」

「っ……」

 俺はサイのために大海を助けた。

 サイは俺を巻き込まないために死ぬ覚悟で魔物と戦った。

 そして――『サウルク』。サイがどんなに傷ついていてもそれを誤魔化して普段の何倍ものスピードで動くことのできる術。つまり、サイは願ったのだ。そう言う力を。

 もし、俺の身を犠牲にしてサイを助けられるなら――俺は躊躇することなくサイを助ける道を選ぶだろう。

「サイちゃんはまだ魔物だから……体は頑丈だし、ティオが言ってたけど魔界じゃ戦闘能力もずば抜けてたみたいだから多少の無茶はできるよ? でもね? 八幡君は人間なの。魔物の攻撃を受ければ簡単に怪我をするし、下手をすれば死んじゃうの」

「……」

「パートナーを大事に想うのはいいことだけど。助けるのと無茶をするのは別。自分の身を犠牲にして助けて貰っても何も嬉しくないの」

 ああ、そうだ。大海の言う通りだ。俺が怪我をして倒れればサイはまた壊れてしまう。死んでしまえば彼女もその後を追うかもしれない。それほど彼女は俺に依存している。一緒に寝ている時、トイレに起きて少しベッドを開けただけであいつは目を覚まし、涙を零していた。俺の名前を呼んで泣いていた。『独りにしないで』と小さな声で呟いていた。それから俺の姿を見つけるとホッと安堵のため息を吐いて気絶するように眠る。これを異常と言わず何を異常と言うのだろうか。そんな彼女の目の前で俺が死ねば……どうなるかわかったもんじゃない。

「そうだな。俺が死ねばサイはきっと壊れる」

「じゃあ、もうあんな無茶は――」

「でも、俺は止めない」

 大海の言葉を遮って俺は宣言した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な、何で……」

 私は思わず、聞き返していた。彼は全てを理解している。サイちゃんがどれほど八幡君のことが好きなのかも。もし、彼が傷つけば彼女はどうなるかわからないことも。無茶をすれば死んでしまうかもしれないことも。

 しかし、それを全て理解している上で彼は首を横に振ったのだ。

「そもそも傷つく前提なのが間違ってる」

「だって、あなたは実際に!」

「お前、俺にティオを重ねてるだろ」

「ッ……」

『助けてくれたのは礼を言うわ! でも、私とこれ以上いると迷惑がかかるの! だから、早く本を返して! 私といても悪いことしか起きないのよ!!』

 彼の言葉であの時のティオの言葉が私の脳で響いた。泣きながら本を返してとお願いして来た赤髪の女の子。それを見て私は――。

「俺は言ったよな? 手を貸し合うのは悪いもんじゃないって」

 練乳入りのコーヒーを啜りながら八幡君が続きを語った。でも、何で話す度に目を逸らすのだろう。まだ緊張してるのかな?

「その時、俺はお前たちに俺を重ねてた。人の好意を信じられず、疑い、拒絶する。だから、何となくお前も俺とティオを重ねてるのかと思ってな」

 思わず、感心してしまった。たったあれだけでそこまで察するとは思わなかったのだ。ましてや、彼も私たちに自分を重ねているとは。

「でも、それとこれとは……」

「話は別だって思うのか?」

「……」

 読まれている。主導権はいつの間にか八幡君の手にあった。

(すごい)

 マルスと戦った時、サイちゃんと八幡君はアイコンタクトだけであの作戦を伝え合っていた。サイちゃんが作戦を考え、八幡君がそれを読み取る。多分、彼は表情などから人の思考を読むのに長けているのだろう。それを純粋に凄いと思った。

「確かに俺はサイが傷つきそうなら助けるだろうし、サイだって同じだ。だがな。俺たちは“パートナー”なんだよ。一緒に戦うためにその答えを一緒に探すって約束したんだ」

「一緒に戦うため……」

 マルス戦での彼らのコンビネーションは正直、あり得ないほどだった。だが、あれだけコンビネーションが良くても彼らにとってそれは一緒に戦っていることにはならない。

(八幡君たちは――)

「――本当にお互いのことが好きなのね」

 私はジッと彼の目を見ながら呟く。八幡君の目はお世辞にも綺麗な目だとは言えない。よくティオが見せてくれるサイちゃんのメールには『目が腐ってる』と書かれていた。実際、そうだった。彼の目は濁っていて……本当に大切な物しか映らない。大切な物しか見えないから彼は間違える。大切な物が傷つきそうなら自分のことすらその目に映らなくなる。だからこそ、彼は自分の身を犠牲にしてでも大切な物を守ることができる。

「おう、大好きだぞ。あいつの作る弁当、めっちゃ美味いんだ」

 茶化そうとしているのか八幡君は早口で自慢する。

「それにいつも一緒に寝てくれるから大好き。ハチマーン! 愛してるよー!」

「「……」」

 いつからいたのだろうか。サイちゃんが八幡君の背中に抱き着きながら叫ぶ。さすがに八幡君も目を丸くして驚いていた。

「サイ……いつからそこに?」

「『確かに俺はサイが傷つきそうなら助けるだろうし、サイだって同じだ。だがな。俺たちは“パートナー”なんだよ。一緒に戦う――』」

「サイさん、本当にすみません。止めて貰えませんかね?」

「ダーメ。スマホにも録音しちゃったし」

「それ、俺のなんだけど」

 サイちゃんは微笑み、八幡君はそれを見て苦笑いする。その光景がとても……幸せそうだった。いや、幸せと言うより――。

「――『信頼』してるからこそ、あんな顔が出来るのね」

 いつの間にか隣にいたティオが私の手をギュッと握りながら呟く。もしかして、ちょっとだけ彼らの関係に妬いているのだろうか。

「あら、私たちの信頼関係は八幡君たちにも負けてないと思うけど?」

「当たり前じゃない!」

 私たちはまだ出会ったばかりで数回しか戦ったことはないけど、きっとこれから彼らのような絆を築ける。私はそう確信している。だって――。

「あ、そうそう。ハチマン、ゲームしようよ。あれ、4人対戦できるでしょ」

「コントローラーがねーよ」

「買っておいた」

「……さすがっす、サイさん。でも、そのお金はどこから?」

「ハチマンのお財布」

「……まぁ、仕方ねーか」

 ――独りで戦って来たティオに自分を重ねた彼があんな風に楽しそうにじゃれ合っているのだから。

「八幡君」

「お、おう? 何だ?」

「これからよろしくね」

 まだ私たちと八幡君たちは他人だった。でも、これからは違う。

「あ、ああ……よろしく」

 彼は大切な物しか見ることができない。サイちゃんを助けるためだったら自分の身すら擲ってしまう。

「私たちの力は守る力……だから」

 そこで私はティオに目配せする。ティオも最初からそのつもりだったようで頷いて口を開いた。

「アンタたちのことも守ってあげる! だから、思う存分暴れなさい!」

 これからは――一緒に戦う仲間だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねー、ハチマン」

 あれから俺たちは4人でゲームをして遊んだ。何で、ゲーム機の持ち主である俺が一番、弱いんだ。ティオにめっちゃバカにされた。大海も楽しそうに笑っていたし。まぁ、それなりに楽しかったが。

「あー?」

 夏が迫っているのか今日は蒸し暑い。ソファに横になってだらだら過ごしているとサイが俺に携帯を差し出した。

「メールだよ」

「あ?」

「メグちゃんから」

 ……はい?

 

 

 

『大海恵:今日はありがとう。とっても楽しかったよ。それに色々教えてくれて嬉しかった。この前は助けて貰ったけど、今度は私たちが助けるからね!』

 

 

 

「なぁ、サイ」

「んー?」

「小町にこのメール見せたら驚くと思うか?」

「多分、自演だって思われてごみを見るような目で見られると思う」

「……だよなー。ん?」

 メールの返信に困っているとまだ続きがあることに気付いた。画面をスクロールさせる。

 

 

 

 

『後、私は八幡君の目、好きだよ』

 

 

 

 

「……」

 いや、これどう受け取ったらいいのん? この俺が勘違いしそうになったよ。

「ハチマンの目に気付くとは……メグちゃんもやるねー」

「俺の目にどんな秘密があるんだよ。魔眼か? とうとう魔眼が開放されるのか?」

「ハチマンにはわからないよ」

 それだけ言い残してサイはリビングを出て行ってしまった。そろそろ小町がお風呂から上がるのでお風呂に入る準備をしに行ったのだろう。

(そう言えば……お風呂は一緒じゃなくていいんだな)

 まぁ、ベッドで一緒に寝るのと裸は別か。お願いされたら本気で困るから助かるけど。数分かけてメールの文章を考え、無難に返しておいた。

 

 

 

 

 

 ……この日を境に、ちょくちょく大海からメールが届くようになるのだが、それはまた別の話。

 




ティオたちと本当の仲間になるお話しでした。

次回から第2章です。夏休みのお話しですね。
ここからしばらくガッシュキャラは出ませんのでご了承ください。

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