やはり俺の魔物の王を決める戦いは間違っている。   作:ホッシー@VTuber

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LEVEL.137 群青少女の経験は彼らの想像以上に豊富である

 八幡さんとサイが抜け、2人と入れ替わる形で新しく仲間になったナゾナゾ博士たちを加えた12人でアジトの中を全力で駆け抜ける。もちろん、前回のように慎重に進まず頂上の城へ一直線に向かっているため、すぐに見張りの魔物たちに見つかってしまうだろう。だが、見つからないことは最初から諦めている。

 俺たちが立てた作戦は至ってシンプル。12人全員で助け合いながら頂上を目指す。これだけだ。サイ曰く、敵がこちらの存在に気付いていなければ色々とやり方はあるらしいがすでにボスであるゾフィスにばれている。今思えばサイは作戦会議の時点でレイラのこともゾフィスには筒抜けになっていることを予想していたのだろう。本当に彼女が味方でよかった。おそらく彼女が敵だったら俺たちはすぐにやられていただろう。

「侵入者だ!」

「そっちに行ったぞ! 挟み撃ちだ!」

 その時、前と後ろに千年前の魔物が飛び出した。別の通路にいたが俺たちを見つけて挟み撃ちにしようと俺たちが走っている通路へ移動したのだ。狭い通路では逃げ場がない。

「『ギガノ・デズル』!」

「『ギガノ・ボギルガ』!」

「みんな、こっちの道へ!」

 しかし、アジトは迷路のように入り組んでいる。挟み撃ちにしたところで急いで別の通路へ逃げ込めばいい。俺たちが別の通路へ逃げ込んだ直後、魔物たちの術がぶつかり合い、大爆発を起こした。その余波で後ろの方で走っていたフォルゴレとキャンチョメ、ウマゴン、ガッシュが転倒してしまう。

「急げ! その階段を登るんだ!」

「ああ!」

 逃げ込んだ通路の先にあった階段を指さし、フォルゴレたちに指示を出す。だが、その隙に2体の魔物がすぐそこまで接近していた。このまま逃げても追いつかれてしまう。

「ガッシュ、天井だ」

「ウヌ」

「『ザケル』!」

 天井に人差し指と中指を向け、『ザケル』を唱えた。ガッシュの口から雷撃が放たれ、天井に直撃。そのまま千年前の魔物たちの進攻を妨げるように天井が崩壊した。術を放つと一瞬だけ気絶してしまうガッシュが我に返る前に彼の体を抱き上げ、皆の後に追う。

「さすがじゃな、清麿君」

 正気を取り戻したガッシュを降ろして階段を駆け上がっていると俺たちを待ってくれていたナゾナゾ博士に声をかけられる。そのまま俺たちは並んで階段を登る。

「狭い通路を選び、道を塞ぐことで敵の追撃を防ぐ。地の利をちゃんと活かしておる。きっとサイ君も褒めてくれるだろう」

「……それならいいんだけどな」

 

 

 

 

 

 

 

『いい? どんなことにも絶対なんて絶対ないの。常に最悪のパターンを考えなきゃ駄目。目の前の通路からいきなり魔物が出てくるかもしれない。待ち伏せされてるかもしれない。天井が脆くなっていて真上から魔物が降ってくるかもしれない。急にお腹が痛くなるかもしれない。突然、マグニチュード8.0の大地震が起きてアジトそのものが崩壊するかもしれない。そんな『かもしれない』を重ねて何が起きても冷静に対処できるようにするの』

 

 

 

 

 

 

 

 作戦会議の時、主導権を握っていたのはサイだった。彼女の過去に何があったのかわからないが戦い慣れている彼女の意見は全て的を射ており、想像でしか語ることのできない俺では太刀打ちできなかったのだ。先ほど挟み撃ちされた時に冷静に別の通路へ逃げ込めたのは彼女のアドバイスがあったからである。

 

 

 

 

 

 

『もう一回言うよ。絶対なんて絶対ない。どんなことにも事故は起きる。一番怖いのは不意を突かれることなんだから最初から覚悟しておいた方が断然マシ。『この程度か』って失望した方がいい。現実はいつだって理不尽なの。いつだって神様は悪戯する機会を窺ってるんだから』

 

 

 

 

 

 

 

 そう真剣に語ったサイを見れば実体験をもとに話しているのだと誰が見てもわかった。『百聞は一見にしかず』という諺をよく聞くがまさにその通りだった。一体どんな生き方をしていれば小さな子供の口からあんな言葉が出て来るのだろう。想像すらできない。

「今のところ上手くいってるけど頭のどこかで『サイならもっと上手くできたんじゃないか』って思ってしまうんだ」

「……確かに我々の頭脳はサイ君の経験には敵わないかもしれない。だが、君はあの『月の光』の謎を解いたではないか。だからこそ、サイ君も戦力を分散せず、12人が一丸となって頂上を目指すことを認めてくれた。自信を持ちたまえ、清麿君。君が導いた答えがあったからこそこの作戦を決行できたのだから」

 思わず弱音を吐いてしまった俺を励ますようにナゾナゾ博士が言う。そうだ、こんなことを言っている場合ではない。落ち込むのは後でもできる。今はとにかく前に進むことだけを考えろ。

 階段を登り切った俺は走りながら頭の中で地図を広げる。その地図にはサイが注意しろと言った箇所に丸が付いていた。この先にはそれなりに広い広間がある。

 

 

 

 

 

 

 

『おそらく敵は待ち伏せするタイプと徘徊するタイプに分かれると思う。徘徊するタイプは基本的に無視。どうにかやり過ごして。問題は待ち伏せするタイプ。そっちのタイプは狭い通路で戦いたくないはずだから通る可能性の高い広間で待ってると思う。もちろん、確実に2体以上いる。だから、広間に入る時は気を付けてね。入口付近で待機してる魔物がいるかもしれないから』

 

 

 

 

 

 

 

「前方に2体!」

 いち早く魔物を見つけた恵さんの報告はサイの読み通りだった。すぐに左右を確認し、入口付近で潜伏している魔物がいないか確認する。どうやら、この広間では目の前いる魔物以外いないようだ。でも、安心してはならない。前に戦った豹の魔物のように姿を消す術を使って隠れている可能性もある。

「コンビネーションを活かし、最低限の呪文で突破するぞ! 無駄な追い打ちは不要、逃げる者は負うな!」

「戦いに参加しない人は周囲を警戒してくれ! とにかく不意打ちだけは避けるんだ!」

 ナゾナゾ博士の指示に続くように俺も声を荒げた。俺たちは八幡さんとサイの戦いを間近で見てきたので不意打ちされる怖さを知っている。あれだけは絶対に避けなければならない。

 それから俺たちは通路で出会った魔物はやり過ごし、待ち伏せしていた魔物は逃げない限り倒しながら頂上の城を目指した。

「よ、よし……敵は来ないな」

 何とか全員大きな怪我をすることもなく城の直前の広間に辿り着くことができた。ここまで全力でアジト内を駆け抜けたので全員の息が上がっている。ここで少し息を整えた方がよさそうだ。それに――。

「ウヌウ、本当にここを通らねばならぬのか?」

「……ああ」

 ――この広間は他の場所とは違い、かなり歪な作りになっている。目立つのはやはり城へと繋がる長い階段だ。いや、違う。この広間には階段以外何もないのである。階段の左右は奈落になっており、覗き込んでも底が見えないほど深い。壁には通路への入り口はいくつかあるがそこに繋がる道はないため、階段を登るしかない。それに加え、ここ以外に城へ繋がる道はないのでここを通るしかないのだ。

「ここまでは順調に来れたな」

「ええ、千年前の魔物とそんなに鉢合わせなかったから」

 後ろからナゾナゾ博士と恵さんの会話が聞こえる。確かに何とかここまで無事に辿り着くことができた。しかし、どうも違和感を覚えた。アジトは広いとはいえ、千年前の魔物たちは40近くいる。全力で駆け抜けたといっても戦っている間は自然と歩みは止まってしまうため、先回りすることだってできたはず。恵さんの言う通り、出会った魔物の数が少ないような気がする。階段を登りながら俺は頭の中にこびりつく違和感に首を傾げた。

(そうだ……この広間は……)

『ねぇ、サイ』

 思い出すのはそろそろ作戦会議を終えようとした時、ティオが手を挙げてサイの名前を呼んだ光景だった。

『何?』

『今まで色々アドバイスをくれたけど……サイがゾフィスならどうするの?』

『私? んー……』

 ホワイトボードに貼ってあるアジトの地図を眺めた彼女は1つの広間を指さす。それが今、俺たちがいる広間だった。

『私ならここで仕掛ける』

『え? でも、そんな城の直前でいいのか? もっと手前で迎え撃った方が安心じゃないか』

 フォルゴレの疑問をサイは鼻で笑い、肩を竦めた。まるで、『わかってないなー』と言わんばかりに。

「――ッ! まずい、みんな登れ! 走るんだ!」

『城の直前だからいいんでしょ。侵入者はここで安心する。もう少しで城だと油断する。逃げ場のない階段を登っている間に攻撃するよ。それに……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほう……気付きましたか。しかし、少々遅かったようですね」

 

 

 

 

 

 

 そこにはアジトを駆け抜け、何とかここまでたどり着き、“安心”した俺たちを見下ろすように浮遊している一体の魔物がいた。サイの予想が正しければこいつは――。

「私はゾフィス。この城の……千年前の魔物を支配している者」

 

 

 

 

 

 

 

 

『……ゾフィスなら直接攻撃して来るでしょ。そっちの方が確実だし』

 

 

 

 

 

 

 ――この事件の全ての元凶(首謀者)だ。






サイちゃんの予想当たりまくり……というより正直誰でも思いつきそうなことばかりだと思います。特にゾフィスが攻撃を仕掛けて来ることも原作で清麿なら気付きそうなものですし。今回はサイちゃんに活躍して貰いました。





今週の一言二言

・アズールレーン始めました。次章へ進むごとに敵が強くなりますね。今はレベリングとドロップ狙いで1-4とか2-4、3-2に行っています。3-4はクリアしましたがまだ周回できないですね。

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