やはり俺の魔物の王を決める戦いは間違っている。   作:ホッシー@VTuber

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LEVEL.136 彼は本物を知らず、彼女は本物を知りすぎている

「よいしょっと」

 今日は色々なことがあったので落ち着いた場所で考え事がしたかった私はホテルの屋根に上っていた。ここなら誰も来ないだろうし、ゆっくり空に浮かぶ三日月を眺めることができるだろう。ハチマンの看病もしなければならないが彼の部屋からティオの魔力を感じるので彼女の近くにメグちゃんもいるだろうと思い、少しの間だけ任せることにした。先ほど『サイフォジオ』を使ったのか強い魔力を感知したので後で彼女たちに早く休むように注意しに行かなければならないが。

「どうした? 眠れないのかね?」

 今日の出来事を振り返りながら三日月を眺めていると不意に下の方から声が聞こえ、屋根から下を覗き込むとバルコニーにキヨマロとナゾナゾ博士がいた。どうやら、バルコニーにいたキヨマロにナゾナゾ博士が声をかけたらしい。

「ナゾナゾ博士……」

「それが……例の『月の光』の石かね」

 ナゾナゾ博士の方を振り返ったキヨマロの手の中に小さな石が握られていることに気付いた。作戦会議の時に言っていたキヨマロがレイラから貰った石だ。レイラの話ではキヨマロの持っている石は千年前の魔物たちを封印から解放した『月の光』を放つ巨大な岩のカケラらしい。そう言えば最初に戦った人型の魔物も『月の光』の話をしていた。彼らにとってそれほど大事なものらしい。しかも、その光を浴びると傷はもちろん心の力も回復するそうだ。

「ああ、もう光はすっかり失ってしまったが……これをくれた子が心配でね」

「確か、レイラとか言ったな」

「……今の千年前の魔物たちが間違ってると言い、命がけで俺たちを逃がしてくれた。何というか……嬉しかったよ。千年前の魔物にもああいう子がいたんだって」

「そんなキヨマロに朗報だよ」

 そう言いながら屋根からバルコニーに飛び降りた。私の登場にキヨマロとナゾナゾ博士が目を見開く。声をかけてから降りればよかったかもしれない。まぁ、いいや。とりあえず、レイラの情報を教えよう。

「アジトの方からレイラの魔力を感じる。だから、彼女の本はまだ燃やされたわけじゃないよ」

「……何だが含みのある言い方だな」

「まぁ、含みのある言い方したからね。そのレイラの近くに他の魔力とはちょっと違った魔力を感じるの。ものすごく……嫌な魔力」

 正直、あの魔力には近づきたくない。そう思ってしまうほど私の嫌いな魔力パターンだった。もう感じることのないタイプの魔力パターンだと思っていたので最初にこの魔力を感知した時は思わずアジトの方を見てしまったほどだ。

「嫌な、魔力……それはどういう意味かね」

「そのままの意味。魔力には色々なパターンがあってそれなりに法則性を持ってるの。ガッシュたちの魔力パターンは温かい感じがするのから好き。でも、レイラの近くから感じる魔力パターンは……わかりやすく言えば“悪人”特有の魔力」

「まさか、その魔力って」

「多分ゾフィスの魔力だと思う。今日、それなりに千年前の魔物に出会ったけどここまで悪に染まった魔力を放つ子はいなかったし、現代の魔物で千年前の魔物たちと一緒にいるパティやカエルからも感じなかった」

 だからこそ余計に悪人の魔力パターンが浮き彫りになっているのだ。魔力そのものはそこまで大きくないのでレイラの近くにいなければわからなかったが一度感じてしまったせいでアジト方面の魔力を探る度に虫唾が走る。自分の手で倒すと言ったシェリーという人の気持ちがわかるような気がした。

「レイラの傍にゾフィスがいるのか?」

「うん……だから、覚悟しておいた方がいいよ」

 キヨマロの言葉に頷いて真っ直ぐ彼を見つめる。彼はガッシュと出会い、今日まで多くの魔物と戦ってきた。それこそあのブラゴと戦い、見逃されたとはいえ生き残ったのだ。その経験があったからこそアジトで的確な指示を出すことができた。ハチマンより年下なのにあそこまで指揮能力が高いとは思わず私も驚いたほどだ。

 しかし、まだ彼は本物に出会っていない。本当の悪を知らない。どんなに頭が良くて、頭では理解していてもそれはただの予想にしか過ぎず、想像を超える悪に出会った時――。

 

 

 

 

 

 

「最悪、レイラ本人と戦うことになる」

 

 

 

 

 

 

 ――彼は潰れてしまうかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アジトに潜入した翌日、俺たちは早朝にホテルを出発し、アジトへ向かった。昨日はアジトの内部構造を把握するために馬鹿正直に正面から入ったが今回の目的は最初から頂上の城。正面から入る必要はない。

「みんな、大丈夫か?」

 だからこそ、俺たちは可能な限り戦闘を避けるために遺跡には入らずに外の岩肌を登った。登っている最中に千年前の魔物に見つかれば厳しい戦いになっていただろう。だが、ホテルを出発する前にサイにアジト周辺の魔力を感知してもらい、ほとんどの魔物がアジト内部にいることがわかったので遺跡に入って魔物と戦いながら進むより岩肌を登った方がいいと判断したのだ。途中、少し具合の悪そうだった恵さんが足を踏み外して転落しそうになった時はひやっとしたが無事にここまで来ることができた。

「何とかここまで敵に見つからずにすんだな」

「ああ、だがそれもここまでだ。これより上は崖が急すぎて敵に襲われたら転落しちまう」

 隣に立つナゾナゾ博士の言葉に頷き、上――遠くに見える城を見上げた。あそこにゾフィスがいる。そう考えた瞬間、背中にゾクリと悪寒が走った。

 

 

 

 

 

 

 ――本物の悪はね。こちらが考える最悪な手を打って来るの。だってそれが彼らにとって最も効率的で、合理的で、有効な一手なんだから。

 

 

 

 

 

 

「……昨日のサイ君の話を思い出したのかね?」

「……」

 ナゾナゾ博士の問いに俺は無言を貫いた。確かにサイの話は俺が考えているよりも現実的だ。こちらにとって最悪な一手は向こうにとって最も有効な一手。ああ、全くその通りだ。こちらの利益は向こうの損害になり、こちらの損害は向こうの利益になるのは当たり前である。

 しかし、そんな話よりも俺が恐怖を抱いたのは――。

 

 

 

 

 

 

 

『レイラが裏切ったということは貴方にとって利益になる行動をしたことになる。そうなればきっと貴方は心のどこかでレイラに仲間意識を持つはず。実際、貴方はレイラの心配をした……きっと、私がゾフィスの立場なら貴方にレイラをぶつける。彼女を脅して無理矢理戦わせる。千年前の魔物をどうにかするためにわざわざこんなところまで来ちゃう正義の味方なんだもの。仲間と戦うとなったら本気を出せないでしょ? 同士討ちなんてよくある戦法じゃない』

 

 

 

 

 

 

 

 ――最悪な一手についてあれほど淡々と話す彼女の異常さだった。ガッシュたちとさほど変わらない女の子が話していい内容ではなかった。何よりさぞ当たり前のように話すこと自体、あってはならないのだ。それは彼女にとって本物の悪が当たり前の存在になってしまうから。本物の悪の思考パターンを読めるほど近くにいた証明になってしまうから。思考パターンが読めるということは彼女も本物の悪に染まりつつある証になってしまうから。

「ギギ……いたぞ! 侵入者だ!」

 その時、遺跡から出て来た千年前の魔物に見つかってしまう。ここには魔力を感知できるサイはいない。彼女は今もホテルで眠り続けている八幡さんの傍にいる。もちろん、彼女を置いて来たのは動けない八幡さんを守るためでもあるが、昨日の夜ではっきりとわかった。

(これ以上、彼女を本物の悪に近づけてはならない)

 もし、彼女が本物になってしまったら取り返しのつかないことになる。それだけはすぐに察した。だから、この戦いは俺たちだけで解決しなければならない。これ以上、彼女たちに負担をかけるわけにはいかないのだ。

「俺たちの目的は頂上の城にある『月の光』を出す石一点のみ! そこへ辿り着くことがこの戦いの終結への道となる。昨夜立てた作戦どおり、一丸となって突破しろ! ガッシュ!」

「ウヌ!」

 最終確認のために今回の目的を叫んだ俺は迫る魔物に人差し指と中指を向け、魔本を開く。

 ガッシュ、ティオ、恵さん、キャンチョメ、フォルゴレ、ウマゴン、サンビームさん、ナゾナゾ博士、キッド、ウォンレイ、リィエン。

 それにここにはいないサイ、八幡さん、アポロ。

 これだけの仲間たちが俺には付いている。頼れる仲間がいる。だから、この戦い――

 

 

 

 

 

 

「『ザケルガ』!」

 

 

 

 

 

 

 ――絶対に負けられない。

 




これからしばらく清麿視点で物語は進行します。
なので、ガッシュ原作を知っている方は知っているかもしれませんが清麿がいない場所の話は基本的に小説内では出て来ません。
他の場所で起こった出来事はガッシュ原作を参照してください。


・・・そうしないと話数がとんでもないことになってしまうのでご了承ください。
また、清麿視点で物語は進行すると言いましたが話の内容は原作とさほど変わりません。パムーン君のヘイト値変動ぐらいです。
ですが、いきなり場面を飛ばすのも味気ないものになってしまうのでしばらくの間、お付き合いください。



今週の一言二言

・FGOでハロウィン復刻来ましたね。
 そんなことより石をくれ。マーリンが引けないんだ。

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