やはり俺の魔物の王を決める戦いは間違っている。   作:ホッシー@VTuber

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今回の戦闘シーンですが少々描写が複雑ですぐに飲み込めない部分があります。ご了承ください。


LEVEL.132 比企谷八幡と群青少女は答え合わせを済ませる

 時は少々遡る。

 八幡は片腕だけで相模を抱え、空いている手をサイが掴んで空を飛んでいた。本来であれば人1人を抱えながら片腕だけでサイに捕まり続けることは不可能である。だが、今の彼は『サジオ・マ・サグルゼム』の効果で強化されているため、人間離れした方法で街に向かうことができたのだ。

「ハチマン、下にガッシュたちがいる」

 飛び始めてから僅か数秒でサイが彼らより先にアジトから街に向かっていたガッシュたちに追い付いた。今の彼女は『サウルク』、『サグルク』、『サフェイル』を重ね掛けしているため、強化(『ゴウ・シュドルク』)状態のウマゴンよりも遥かに速い。『サフェイル』の効果で風圧や荷重が低減されていなければ今頃、サイの手を掴んでいるハチマンの腕は引き千切れていただろう。

「合流しよう」

 彼の言葉に頷いたサイは高度を下げて木々の隙間を縫ってウマゴンに跨っているガッシュたちの真上に移動した。

「高嶺!」

「ッ!? は、八幡さん!? どうしてここに?」

「魔物に追い付かれて俺たちで撃退した。そっちは?」

「……こっちも何とか、な。あ、サンビームさん、彼らは俺たちの仲間の八幡さんとサイです」

「カフカ・サンビームだ。よろしく頼む」

 体の異常や八幡の体を覆う白いオーラについて質問したかった清麿だったが今はそれどころではないことを理解しているので深くは聞かず、初対面のウマゴンのパートナーであるサンビームを紹介した。

「ど、ども」

「もういい? キヨマロ、気付いてると思うけど今、街でティオたちが千年前の魔物に襲われてる」

「やはりか……すまん、俺たちはこの速度が限界だ。八幡たちは先に行ってくれ」

「そうしたいのは山々なんだが……ちょっと心の力がやばい」

 そう言った八幡は脇に抱えている魔本に視線を落とす。その輝きは少しずつ弱くなっている。体の異常で清麿たちより術を使わなかった彼だったが2度の『サイフォジオ』で回復しているとはいえ、心の力が少なくなっていた。今も心の力の消費が激しい『サウルク』を解除して少しでも心の力の消費を抑えている状態だ。『サジオ・マ・サグルゼム』は一度発動してしまえば“ほとんど心の力を消費しない術”だが、発動する時の消費はサイが使える術の中で“2番目”に多い。サイならば強化しなくても戦えるが八幡は『サジオ・マ・サグルゼム』がなければ話にならないので『サジオ・マ・サグルゼム』1発分の心の力を残しておく必要があった。

「サイ、街の様子は?」

「んー、まだ大丈夫そう。皆、上手く躱してる。数分持つかわかんないけど」

「もしもの時は教えてくれ。一瞬でも『サウルク』を使えば数秒でたどり着けるはずだ。だから、まだ少しだけ余裕がある。今の内に街に着いてからの動き方を話し合っておきたい」

 八幡とサイの言葉に清麿たちは思わず目を見開いてしまう。街までキロ単位で離れているのに数秒で街に辿り着けると言い切ったのだ。障害物の多い地上を走っているウマゴンより空を飛んでいるサイの方が速いのは当たり前だが、彼女のトップスピードはあまりにも常識外れだった。

「……ああ、わかった。八幡さん、体の異常は?」

「このオーラに覆われてる間は大丈夫だ」

 八幡の体の異常は『負の感情が乗った魔力』を浴びると起きる。つまり、負の感情を向けられたとしても魔力さえ直接浴びなければ異常は起きないのだ。

 白いオーラは魔力をある程度無効化する効果があり、弱い術であればオーラを操作して一点に集中させるだけで完全に防ぐことも可能だ。しかし、『サグル・マ・サグルゼム』の効果は白いオーラに覆われている場所しか適応しないので術の余波で傷ついてしまう可能性がある上、オーラは八幡の気力を消費して効果を発揮する術であるため、直撃を受ければ受けるほど八幡の気力を大きく削ってしまう。もし、そうなれば心の力が残っていたとしても神経をすり減らしているので気怠さや集中力が欠け、戦闘どころの話ではなくなってしまうのだ。そのため、よほどのことがない限り、白いオーラは負の感情が乗った魔力と術の余波を防ぐ場合のみ消費される。

「それで……あくまで提案なんだが――」

 そう切り出した八幡の言葉に清麿たちはもちろん、サイも大きく目を見開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『街に着いたら俺たちが戦う』。

 ハチマンはキヨマロたちにそう提案した。彼がそう言った時点で私は魔力を探って街にいる敵の数はわかっていたのですぐに敵の数を教えたがハチマンは提案を取り下げなかった。もちろん、彼も考えなしにそう提案したわけではない。彼の話した理由は理にかなっていたし、そのおかげでキヨマロたちを説得できた。だからこそ、飛行型の魔物に捕まっていたティオを助けたキヨマロたちは私たちに加勢せずに一箇所に集まって事情を説明している。まぁ、ハチマンの話した理由はただの言い訳だったけれどそれに気付いているのは私だけだ。

「呼称。薔薇、鎧、アンテナ、カエル、竜」

「了解」

 メグちゃんを助けた私たちは並走しながら私は彼にそっと告げ、彼も頷いた。今までは目を合わせるだけで意思疎通していた私たちだが、これからは2人とも動き回るため、魔物から視線を逸らすわけにもいかない。そのため、言葉によるコミュニケーションが大切になる。

「おのれゲロォ! 次から次へとゲロ……向かって来る敵はたった1体ゲロ! さっさと倒して他の奴らを攻撃するゲロ!」

「『オルダ・ビレイロン』!」

 カエルは地団太を踏みながら千年前の魔物たちに指示を出すと鎧が前に出て角から光の鞭を放って来た。私たちは左右に別れて鞭を躱す。そして、私の前に薔薇とアンテナの魔物が立ち塞がり、光の鞭はハチマンの方へ向かって行く。私の動きを2体の魔物で封じてその間にハチマンを倒す作戦らしい。数の多さを上手く利用した作戦だ。

「ッ!? は、速いゲロ!?」

 だが、それはハチマンが普通の状態だったの話である。光の鞭を掻い潜るように回避するハチマンに驚いたのかカエルが声を荒げた。そっちにばかり集中していていいのかな?

「ふっ」

 迫って来た薔薇の下をスライディングして潜り抜け、更にアンテナの魔物に向かってスライディングした時に拾った石を投げる。石を投げられたアンテナは首を傾けて躱すがその間に彼の懐に潜り込み、肘打ちを放った。肘打ちを受けたアンテナはそのまま後方へ吹き飛び、パートナーに激突して倒れる。

「っ……盾!」

「『サシルド』」

「『オル・ロズルガ』!」

 背後から魔力の高まりを感じ、ハチマンに向かって叫びながら振り返る。すると、私と薔薇の間の地面から半円状の盾がせり上がった。出現した盾を見た私は再び踵を返して心を操られている人間たちの元へ向かう。盾と薔薇が放った術がぶつかる音が後ろで轟き、盾が砕ける音がした。薔薇の攻撃は放射系ではなかったらしいが、すでに私は薔薇の攻撃の射程範囲外にいる。

「ひっ……魔物ゲロ! 魔物に攻撃するゲロォ!」

 さすがに私を無視できなくなったのかカエルがハチマンを攻撃し続けていた鎧に向かって絶叫した。鎧は少しだけ躊躇ったが、カエルの指示に従ってハチマンから私にターゲットを変更したのか角を私に向ける。

「『ギガノ――」

 鎧のパートナーが呪文を唱えている途中で鎧の目の前にハチマンが割り込み、『サジオ・マ・サグルゼム』で強化された足で鎧の顔面を蹴り上げた。蹴られた反動で鎧の顔面が上を向く。

「――ビレイド』!」

 角から放たれた極太の光線は私ではなく、空に向かって放たれた。その隙に鎧の顔面を思い切り殴るハチマン。『サジオ・マ・サグルゼム』で強化されているとはいえ、魔物を殴り倒せるほどの威力はない。そのはずなのに鎧の体は後方へ吹き飛んだ。インパクトの瞬間、白いオーラを右拳に集中させて威力を底上げしたのである。今までの訓練で何度か人の殴り方を教えたがその成果が現れたようだ。再び合流した私たちは前へ駆け出そうとした刹那――。

「『バズ・アグローゼス』!」

 ――私たちが立っていた地面から巨大な花が出現した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『バズ・アグローゼス』!」

 足元から突如として出現した巨大な花は俺たちを食おうと大きな口を開ける。比喩表現ではなく、本当に口があるのだ。このまま何もしなければ花の口に食べられてしまうだろう。

「『サフェイル』」

 まぁ、こんな醜い花に捕まるほど俺の妖精さんは間抜けではない。背中に2対4枚の半透明の羽を生やしたサイは俺の手を掴んで急上昇して巨大な花から離れる。さて、そろそろこの不毛な戦いを終わらせようか。

 俺たちは一瞬だけ目を合わせ、頷き合う。そして、俺の手を掴んでいたサイがその場でクルリと前転するように回転した。自然と俺の体も彼女の動きに合わせて車輪のように動く。

「いっけええええええ!」

 タイミングを見計らってサイが俺の手を離すと俺は弾丸のように射出された。向かう先は術を使ったせいで動けない薔薇。

 空中で大きくバランスを崩さないように体を右に捻り、左足を伸ばす。まさか生身の人間が突っ込んで来るとは思わなかったのか薔薇は目を見開き、咄嗟に俺の左足を掴んで受け止めた。体勢を崩さずに攻撃したので受け止められてしまったが薔薇の体は勢いに押され少しだけ浮いている。

「ッ!?」

 重力に従って落ちた体を地面に右手を付いて支え、思いっきり左に――仰向けになるように体を捻った。更に勢いを付けるために右足を振り上げる。体が浮いていた薔薇は俺の左の靴を持っていたのでその場で横に回転。

「靴はくれてやるよ」

 回転しながら掴まれていた左足を曲げて体を薔薇に引き寄せる。そして、俺の体が完全に左を向いた瞬間に今度は右足で薔薇を蹴る。蹴る直前に左の靴の踵を掠め、半脱ぎ状態にしておいたので蹴られた薔薇は俺の靴を持ったまま、蹴飛ばされた。

「『サウルク』」

 呪文を唱えながら着地して薔薇のパートナーへ一気に接近する。普通の戦いならばここで魔本を燃やして終わりだった。でも、今回は状況が違う。もし、ここで魔本を燃やしていたらカエルは撤退命令を出し、俺たちの情報を持ち帰るだけでなく逃した魔物ともう一度戦わなければならなかっただろう。

「ッ――」

 持っていた魔本をアッパーカットするように真上に打ち上げる。チラリと振り返れば心の力が少ないせいで一瞬しか『サウルク』と『サフェイル』は重ね掛けできなかったがその一瞬で2人の心を操られた人間に近づいたサイは魔本を奪い、俺と同じように上に投げた。

 大海たちと合流した時点で数の有利はなくなっているのに逃げなかったのは俺とサイだけが敵に向かって行ったからだ。カエルたちも少しでもこちらの戦力を削ぎたかったから逃げずに迎え撃った。そう思わせることが俺たちの目的であることに気付かずに。

 敵の戦力を可能な限り削るためにクリアしなければならなかった条件は2つ。

 『勝ち目があると錯覚させること』。

 『一度に複数の魔物を倒すこと』。

 そのために俺たちだけで突っ込み、『数の有利』を与え、迎え撃たせた。

 そのために固体撃破せずに複数の魔物を倒すためにお膳立てをした。

 今までの俺たちならこんな作戦は実行しなかっただろう。でも、今は違う。俺たちはやっと本当の“答えの求め方”を理解した。やっと本物の答えに行きついた。だからこそ、“仲間を頼る”という選択肢を選び取ることができる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「SET」

 

 

 

 

 

 打ち上げられた魔本は“彼ら”から見れば一直線上に並んでいる。そうなるようにサイが調整してくれた。さて、ライン(お膳立て)は整えた。後はお前らの仕事だ。

 

 

 

 

 

 

「『ザケルガ』!!」

 

 

 

 

 

 

 一直線上に並んだ3冊の魔本を撃ち抜く雷撃を見上げながらいつの間にか隣にいたサイと軽く拳をぶつけ合う。

「やったね」

「ああ」

 嬉しそうに笑うサイを見て『俺たちが導き出した答えは間違っていなかった』と俺もつられるように口元を緩ませた。




なお、八幡たちが単独で戦った理由は他にもいくつかあります。それは次回で詳しく説明します。






今週の一言二言


・ポケモンの映画を見に行って来ました。何というか私の世代に直撃だったので昔を思い出せてとても面白かったです。ただEDのセレナのヒロイン力の高さは異常だったと思います。セレナ、可愛かったなぁ。また出て来てくれないかなぁ。アローラ色に染まって欲しくないのでSM以降でお願いします。




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