やはり俺の魔物の王を決める戦いは間違っている。   作:ホッシー@VTuber

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LEVEL.130 大海恵は己の自惚れに気付き――

「ごめんね、色々……本当に私って駄目だね。あの時も八幡君たちを守れなかったし」

 サイちゃんのクリスマスプレゼントを買うために八幡君と出かけた雪の日。私は勘違いしていて自分が欲しい物を選んでしまい、自己嫌悪に陥っていたせいか隣を歩く彼に愚痴を零してしまった。

「なぁ……なんで守ることに固執するんだ?」

「え?」

 彼はこちらを見ずにそう質問する。まさかそんなことを聞かれるとは思わず答えに詰まってしまった。ティオの呪文の特性は守り。だからこそ、私たちは皆が傷つかないために守ると誓った。そのはずなのに何故か私は数分経っても彼の問いに答えることはできなかった。

「なんていうか……守る守られるっていうのは、違うような気がする」

 答えられなかった私を見て八幡君は自分の考えを口にしたがそれを聞いた私は彼の言葉に少しだけムッとしてしまう。違うって何が? 守る力を持っているのなら守りたいと思うのは普通のことだ。

「あー……いや、別にお前らの力を否定してるわけじゃないんだ。その……そんな一方通行な関係じゃないと思う。知らんけど」

 ガシガシと頭を掻きながら私に視線を向ける八幡君。相変わらず彼の目は濁っている。でも、彼の目を見ていると不思議と吸い込まれそうな感覚を覚えた。多分、きちんと私のことを考えた上で話そうとしてくれているからだと思う。

「ティオの力は守りだけど……守ることしかできないわけじゃないだろ? こうやってサイのプレゼントを選んでくれたし」

「え、いや、それとこれは全然違う話じゃないの?」

「そうか? 俺にとっちゃこっちの方が大事なことなんだけど」

 右手に持つサイちゃんへのクリスマスプレゼントを見ながら八幡君は首を傾げた。本当に彼にとってサイちゃんは大切な存在なのだろう。だからこそ、彼は彼女の隣を歩いている。この後すぐに彼らがぎくしゃくし始めるとは知らない私はのん気にそんなことを思っていた。

「まぁ、なんだ……つまり、守ることばかりに固執するんじゃなくて、自分のできることをすればいいんじゃねーの?」

「自分に、できること」

 彼の言葉はストンと私の胸に落ちる。確かに私は守ることに固執し過ぎたかもしれない。なら、私にできることは何なのだろう? 守る力はティオのものだ。じゃあ、ただの人間である私には何ができるのだろう?

 その時の私は答えを出せなかった。でも、バレンタインデーの日にやっとその答えを見つけた。それだけじゃない。初めて八幡君の問題に関わることができた。きっと八幡君とサイちゃんは一緒に前に進める。そのために私も精一杯お手伝いしよう。そう心に誓った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 誓った、はずなのに――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目の前でパチパチと音を立てながら燃える魔本。その近くには大木に背中を預けた大剣の魔物がぐったりとしていた。彼の持つ大剣は中央で折れ、折れた剣先は地面に突き刺さっている。

「は、はは……何だよ、それ。あり得ねぇ……」

 引き攣った笑みを浮かべた彼は俺たちを見てそう呟いた後、魔界へと帰った。それを見届けた後、俺たちの傍で倒れていた相模の容態を窺う。少しばかり手荒な真似をしてしまったので怪我をしていてもおかしくなかったがどうやら気絶しているだけのようだ。

「やったん、だよね?」

 俺と一緒に気絶した相模を診ていたサイは呆然とした様子で俺に問いかけて来た。俺も彼女と同じように先ほどまでの出来事は夢なのではないかと疑っている。だが、大剣の魔物は目の前で消えたし、あいつをぶん殴った感触はこの手にしっかりと残っていた。

「ああ……多分」

「……そっか」

 俺が頷いたのを見てサイはやっと現実だと確信したのか嬉しそうに声を漏らす。まぁ、無理もない。大剣の魔物との戦いはまさに俺たちが望んでいた『一緒に戦う』戦いだったのだから。

(それにしても……)

 嬉しそうに笑うサイを見ながら改めて新しく発現した呪文を思い出す。新しい呪文は何と言うか――。

「「――お前(ハチマン)らしい術だった()」」

 言いたいことは同じだったのか俺たちの声は自然と重なっていた。新呪文の効果は『背中を支える王様』になりたいというサイの願いそのものだった。それに加え、今までの術も彼女の願いが反映されていたのだと確信できる。サイの術の特性がわかったのは嬉しい誤算だ。これで俺たちは今まで以上に強くなれる。

「ッ……ハチマン!」

 不意にサイが振り返り、俺の名前を叫んだ。その表情は硬い。少なくともいい報告ではなさそうだ。

「どうした?」

「街の方に複数の魔力反応があるの! しかもティオたちのじゃない!」

「くそ、あいつらはまだ心の力が回復してないはずだ。急いで向かうぞ」

「うん……あ、待って。アジトの方から猛スピードで街に向かう反応もある。これは……ガッシュとウマゴンかな」

 そうか、あいつら無事だったのか。ホッと安堵のため息を吐くがサイの表情が暗い――というか、困惑したものだったのに気付いた。

「何か気になることでもあるのか?」

「え、あー、うん……なんというかガッシュたちの移動速度が速すぎるような気がするの。『ラウザルク』を使ってもあそこまで速く……しかも、森の中を移動出来るとは思えない。それにガッシュよりもウマゴンの魔力の方が強く感じ取れるのも変」

「他の魔物は?」

「ううん、他の魔力反応はないよ……ッ!? 街の方で強い魔力反応があった! 術を使われたかもしれない!」

「ガッシュたちの方は後回しだ。『サウルク』」

 魔本に心の力を込めて術を唱える。幸い、サイに怪我は1つもないので『サウルク』を使っても彼女が倒れる心配はない。彼女の両足が群青色のオーラに覆われたのを見て次の呪文を唱えた。

「『サフェイル』」

「サガミはどうするの? さすがにここに置いていかないよね?」

「ああ、わかってる。『サグルク』」

 3つの術を重ね掛けすると心の力の消費は激しいが街まで行く分には問題ない。その後の戦闘も新呪文があれば何とかなるだろう。今は街に辿り着くことが最優先だ。

「私でもハチマンとサガミを抱えながら飛ぶのはきついよ?」

「だから、こうする。『サジオ・マ・サグルゼム』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私たちは八幡君たちが囮になってくれたおかげで無事に街に着いた。そこで協力者であるアポロさんと合流し、心の力を回復すると共に怪我の治療を行っていた。

「……不安そうだね」

 私の治療を手早く済ませたアポロさんが道具を仕舞いながら問いかけて来る。顔に出さないように気を付けていたが彼には通用しなかったようだ。目を伏せながら頷いた。

「そんなに酷いのかい? 八幡君の体の異常は」

「……本当なら、彼が真っ先に逃げるべきだったのに。私たちの、せいで……」

 彼とサイちゃんだけなら敵に追跡されることはなかっただろう。サイちゃんは自分の魔力を隠蔽できるし、八幡君も身を隠す技術がある。彼は自分が足を引っ張っていると言っていたがそんなことはない。八幡君が囮をしてくれたおかげで私たちは比較的安全に戦えた。ビクトリームとの戦いだって2人がいなければもっと厳しい戦いになっていたはずだ。それに――。

(また、私……彼に守られそうになった)

 ダルモスの腕がこちらに迫った時、八幡君は私の前に移動していた。もし、レイラちゃんが術を使っていなければダルモスの攻撃は彼に直撃していただろう。情けない話だ。彼に相談されて自分にもできることがあるのだとわかった私は調子に乗っていた。きっと、千年前の魔物との戦いでも彼の役に立てるのだと自惚れていた。

「大丈夫よ、恵」

 悔しさのあまり俯いていると不意にベランダの柵に腰掛けていたティオが断言する。彼女は割れ物を扱うように赤い魔本を抱えていた。清麿君に託された希望。

「きっと、皆無事よ。ガッシュの本がここにある限り、ガッシュは消えないし、サイが負けるなんて想像できないもの」

「そうだぜ、ガッシュには清麿やウマゴンもいる。それにサイと共に戦った私たちなら自信を持って言える。彼女は強い。八幡を守りながら敵を圧倒できる……いいや、八幡だって強い。あの目を見ればそれぐらいわかるよ」

 ティオの言葉に続いたフォルゴレさんは腰に手を当てながらそう言い切った。まさかサイちゃんだけでなく八幡君の目を褒めるとは思わず顔を上げる。彼らの顔には絶望の色など一切なかった。

「だから恵は休んで。心の力を回復させないと戦えないし、怪我を負って帰って来た皆を回復してあげないとね!」

「……うん」

 そうだ。私が信じなくてどうする。彼は生きて帰って来ると言ってくれた。なら、私はそれを信じて少しでも多く心の力を回復する。そして、今度こそ――。

「何!? 危ない、部屋の中へ!」

 突然、立ち上がったアポロさんはベランダにいるティオたちに向かって叫んだ。最初は驚いていたティオたちだったが彼の指示通り、慌ててこちらに向かった。しかし、その直後、何かがベランダに着弾して爆風が私たちを襲う。最初から部屋の中にいた私は椅子から落ちる程度で済んだがティオたちは爆風に煽られて床に倒れていた。

「皆、大丈夫か!?」

「くっ……これは」

 アポロさんの声に答える前にティオが外へ視線を向ける。私も魔本を持ってティオの傍に移動して空を見上げた。そこには大きな翼を持った魔物に乗っている数体の魔物とそのパートナーたちがいた。




大剣の魔物戦は今後の展開のために飛ばしました。
楽しみにしていた方々、申し訳ありません。

次回で新呪文の効果がわかると思います。


おや、恵の様子が――?








今週の一言二言



・水着イベ始まりましたね。それにしても水着ネロの『もちろん、余だよ♡』が可愛すぎてやばいです。あとメイドオルタのケツがエロいです。あんなエロいケツを書けるってすごいですよね。絵心のない私からしてみれば神の技と言わざるを得ません。ネロも2つ目の衣装にCCCの普段着を着せて来ると思いませんでした。CCCクリア勢からしてみれば最高でした。

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