やはり俺の魔物の王を決める戦いは間違っている。   作:ホッシー@VTuber

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LEVEL.125 彼にこれまでの行いのツケが回り、群青少女は覚悟を決める

「……え?」

 あたしは思わず声を漏らしてしまった。ゆきのんも目を見開いて先生を見ている。

「平塚先生、それは……どういうことでしょう?」

「つまり……2週間ほど前から相模が行方不明なんだ」

「さがみんが、行方不明?」

 先生の話をまとめると2週間前、インフルエンザで休んでいたはずのさがみんだったがいつの間にかいなくなっていたらしい。彼女の両親もすぐに警察に捜索願を出したそうだが今の今まで彼女の行方の手がかり一つ見つかっていないのだとか。

「ああ……あまり生徒にこんなこと言いふらすのはよくないのだが、なりふり構ってられなくもなってな。由比ヶ浜、何か知らないか?」

「うーん……ごめんなさい。わからないです。さがみんが2週間も休んでたこと今気付いたぐらいで」

 私のクラスでインフルエンザが流行っているので誰がどれほど休んでいるのか把握できなかったのだ。文化祭以降、さがみんのグループもぎこちなくなっていたし最近のさがみんはあまり人と関わろうとしなくなってしまったので彼女にまつわる情報も自然と少なくなっていた。まぁ、あんまりよくない噂も流れているから無理もないか。

「そうか……すまない、何かわかったら教えてくれ」

 『邪魔した』と謝った先生は部室を出て行ったがしばらくの間、部室に沈黙が流れた。この2週間はバレンタインデーとかヒッキーが魔物関係で外国に行くとか色々あってあまりクラスのことに意識を向ける余裕がなかったのだが、さがみんが2週間も休んでいることに気付かなかったのはちょっとショックだった。でも、それよりも――。

(――皆はさがみんが休んでることに気付いてたのかな)

 あの噂のせいかもしれないが彼女のことを気にかける人がいない現実に少しだけ寒気がした。そして、その皆の中にあたしがいることにも。

「……由比ヶ浜さん」

「っ……な、何?」

 その時、先生が出て行ってから顎に手を当てて何か考え事をしていたゆきのんだったが何故か顔を青ざめさせながらあたしの名前を呼んだ。もしかしてさがみんの行方について何かわかったのだろうか。

「実は……最近、世界各国で行方不明者が続出しているの」

「え?」

 まさかその世界中で起きている行方不明者の1人がさがみんであるということなのだろうか。でも、

「しかも、行方不明になる直前、その近辺で必ずと言っていいほど“カエル”に似た何かの目撃情報が出ているらしいわ」

「カエル? カエルってあの?」

「ええ。詳しいことはわからないけれど……もし、そのカエルが魔物だったら」

「ッ! まさか、ヒッキーが巻き込まれてる事件と関係があるの!?」

「そこまでは……ただ、嫌な予感がするの」

 そう言ってゆきのんは心配そうに窓の外へ視線を向ける。朝まで晴れていたのに今はすっかり曇ってしまっていた。

「ヒッキー……」

 長机の近くに置いてあるいつも彼が座っている椅子を見てそう呟く。彼の無事を願いながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 相模南。俺と同じ総武高校2年F組に属している女子高校生だ。

 同じクラスでありながら彼女と初めて話したのは文化祭の準備期間――彼女が文化祭実行委員長に任命された後、奉仕部を訪れた時だった。相模の依頼は『文化祭実行委員長の仕事の補佐』。それを雪ノ下が個人的に受けてしまい、副委員長として相模の仕事の補佐……いや、補佐ではなく、尻拭いをしていた。そのせいでサイがたった独りで隠れながら運営の仕事を手伝うことになり、雪ノ下は倒れ、相模自身も実行委員長としての信頼を失った。そして、相模は最後の最後に逃げ出してしまった。その時はギリギリのタイミングで何とかなったがそのために彼女からは恨まれることになった。しかし、何か仕掛けて来るというわけでもなく、それから彼女と教室で目を合わせる機会すらなかったはずだ。

「へぇ、ロードの話は本当だったようだな」

 大剣を背負った魔物がニヤリと笑いながら相模を一瞥する。見られた本人はまばゆい光を放つ魔本を持ちながら俺を“睨む”ばかり。だが、おかしい。確かロードは人の心を操作して無理矢理千年前の魔物のパートナーに仕立て上げたはずだ。なのに、何故彼女は俺を睨んでいる? 意識はないはずなのに。

「そんなちっこいのにロードが警戒するほどの実力があるのは褒めてやるが……さすがにパートナーの知り合いを傷つけるのは躊躇するみたいだな」

「まさか……私対策としてハチマンの知り合いを連れて来たの?」

 俺の代わりにサイが少しでも情報を得ようと魔物に問いかけた。魔物は俺たち――サイを見ながら楽しそうに笑う。

「ああ、そうだ。いきなりパートナーを変更すると言われた時は驚いたが今は感謝してるぜ? お前みたいに強い奴と戦えるんだからなぁ!」

「ぐっ」

 魔物から漏れ出ていた魔力量が増幅し、心臓にかかる負担も大きくなった。それに今まで感じて来た物と少し違う。今まで感じて来た感情は魔物のものだった。しかし、この感情は――。

「やれ」

「ごぼッ」

 だが、その続きを考える前に喉の奥が熱くなり、口から血が溢れ出た。そうだ、この感情は相模のもの。魔本を通して魔物から相模の感情が俺に叩きつけられているのだ。

「ハチマン!?」

 俺が吐血し、片膝を付いたのに気付いたサイが目を丸くしながら振り返る。だが、それを気にしている余裕はない。呼吸ができない。心臓も今にも爆発してしまいそうなほど痛む。これでは逃げることすらできそうにない。

「く、そ……」

 慌てた様子で駆け寄って来るサイを視界に捉えながら俺の意識はゆっくりと海の底へ沈んで行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハチマン! ハチマンってば!」

 吐血した後、気絶してしまったハチマンに声をかけるが反応はない。見れば吐血だけでなく、鼻血まで出ていた。それほど負の感情による体への負担が大きかったのだろう。

「あ? なんだよ、人間の方はすでに瀕死じゃないか」

 いきなり倒れたハチマンを見て大剣を背負った魔物がつまらなさそうに呟く。彼は戦うのを楽しむタイプの魔物だ。彼自身の負の感情は極めて小さい。だが、サガミは違う。彼女はハチマンを恨んでいる。

 彼は知らないと思うが体育祭以降、ハチマンの評価は格段に上がっていた。しかし、それと反比例するようにサガミの評価は谷底に落ちていたのだ。無理もない。文化祭でハチマンを悪だと喚いたのはサガミである。その悪だったはずのハチマンの評価が上がれば彼を悪だと言ったサガミは『ハチマンに罪をなすりつけた女』に早変わり。メグリに色々聞いたが最近、サガミに関する噂の中にいいものはないらしい。

「それにしても……お前のパートナー、こいつに何したんだ? こんなの見たことがないぞ」

 魔物はサガミの手の中にある魔本を見ながら呆れた様子で呟く。彼女の持つ魔本は目がチカチカしてしまうほど輝いていた。千年前の魔物のパートナーは心を操られ、無理矢理戦わされている。実際、今まで戦って来た千年前の魔物のパートナーでこれほどまで魔本を輝かせた人はいなかった。つまり、それほどサガミはハチマンのことを恨んでいるのだろう。八つ当たりにもほどがある。

(どうする……)

 私対策としてハチマンの知り合いを連れて来たのはいい。千年前のパートナーになる条件は知らないがまぁ、偶然であると納得しよう。だが、何故その人物がサガミなのだ。彼女でなければまだやりようがあったのに。まぁ、魔物の反応を見るにロード本人もハチマンの体の異常について知らないようなので狙ってサガミをぶつけて来たわけではないが。

「それじゃぁ……始めようぜ」

「『ソルド』」

 背中の剣の柄を掴み、構える魔物と呪文を唱えるサガミ。その刹那、魔物の持っていた大剣が黄緑色のオーラに覆われた。おそらく『ソルド』は武器の強化。1節の呪文なので下級呪文だとわかるが相模の恨みが込められているせいか大剣から感じる魔力の量や濃度は中級呪文レベル。魔物本人から溢れる魔力量からしても強敵であることは間違いない。

「ちょっと……やばいかも」

 “あの頃”よりマシだが危機的状況であることには変わりない。冷や汗を流しながら気絶してうつ伏せになって倒れているハチマンの前に出た。術なしでどこまでできるかわからないがハチマンだけでも守る。

(しょうがないか)

 心の中で苦笑を浮かべ、覚悟を決めた。

 ハチマン、どうか起きないで。貴方にだけは見せたくないの。これからの私は私じゃなくなるかもしれないから。














今週の一言二言


・久しぶりにクトゥルフ神話TRPGをやりました。私がKPで昔に書いたオリジナルシナリオでセッションしたのですが、4人中2人死亡。一応、生存はしましたがノーマルエンドで幕を閉じました。もう少しでトゥルーエンドだったので惜しかったです。
なお、『キーパリングは優しいけれど、ダイスの目だけは本当にどうにかしてくれ』というのがKPの私に対する評価でした。ダイスの女神さま? 私の隣で寝てるけど?

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