やはり俺の魔物の王を決める戦いは間違っている。   作:ホッシー@VTuber

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LEVEL.122 華麗なるVは最初から間違っていた

「誇り高き心を左肩に!」

「『チャーグル』!」

 ビクトリームの左肩が輝いた。これで輝いていないのは左手のみ。あと一回チャージされたらフルパワーになってしまう。その前に動かなければやられる。

「恵さん、ティオ。俺たちの“最後”の術を!」

「ハハハハ! もうすぐフルパワーだ! たった1つの術で何ができる!」

 高嶺の大声にビクトリームは笑いながら叫んだ。たしかにたった1つの術で奴の最大呪文をどうにかできるとは思えない。だが、その1つの術で形勢が逆転することだってある。

「第五の術、『サイフォジオ』!」

 大海が呪文を唱えるとティオの頭上に回復の剣が出現した。『サルフォジオ』は傷しか治せないがこの剣は傷はもちろん、疲労も心の力も若干ながら回復できるのだ。

「きさまら! それは一体どういう術だ! 答えろ、隠し事なんて卑怯だぞぉおおおお!」

 新しい術だったのでビクトリームが何か喚いている。いや、正直に答える奴なんて普通いねぇよ。未だ絶叫している彼を放置してティオが剣を振るい、ブスリと突き刺した。

「味方に剣を刺したのか? く……一体何が。急げ、モヒカン・エース! 最後の充電だ! Vの華麗な力を頂点に!」

「『チャーグル』!」

 『サイフォジオ』の効果が切れた直後、向こうの充電も完了した。最大呪文が来る。しかし、その前に『バオウ・ザケルガ』を撃った代償でフラフラになっていた高嶺が立ち上がった。

「ビクトリーム……いいだろう、この術が何か教えてやるよ」

「何? お前、まだ動けたのか?」

「そうさ、『サイフォジオ』は回復の術。体の治癒はもちろん、心の力も呪文が1回か2回は唱えられるくらいには回復する」

「ほぅ……なんだ、そんな術だったのか。焦って損したな。お前の最大の術はさっきの私の術の半分の力にも敵わなかったではないか」

 『サイフォジオ』の効果を知ったビクトリームはホッと安堵のため息を吐く。確かに『バオウ・ザケルガ』は全く歯が立たなかった。『サイフォジオ』で高嶺の心の力を回復させたところであいつの最大呪文に撃ち破られ、そのままおれたちはやられてしまうだろう。ビクトリームの様子を見るに心の力にはまだ余裕がありそうだし、最大呪文をやり過ごせたとしても魔本を燃やされる。さすがにサイ1人でビクトリームを倒せるとは思えないしな。

「終わりだな。撃て、モヒカン・エース!」

「『バオウ・ザケルガ』!」

 モヒカンが術を唱える前に高嶺が絶叫した。すると、俺たちの目の前に雷龍が現れ、“天井”に向かって飛翔する。まさか雷龍が上に向かって行くとは思わなかったようで慌ててモヒカン・エースに術を撃たないように指示を出すビクトリーム。さて、そろそろ俺たちも動くか。俺の方をジッと見上げていたサイの頭の一度だけ撫でた後、魔本に心の力を注ぎ――。

「『サフェイル』」

 ――群青少女に羽を与えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「待て! 術を撃つな、モヒカン・エース!」

 今まさに術を唱えようとしていたパートナーをビクトリームは慌てて止める。真正面から勝負して来ると思っていたのに雷龍は天井に向かって行ったからだ。

「どういうことだ? 私の方ではなく上に向けて撃っただと? 一体何が――そうか!」

 最大呪文の半分にすら敵わなかった『バオウ・ザケルガ』を上に撃ち、ビクトリームの術をやり過ごした後、雷龍の軌道を変更して上からビクトリームたちを狙おうとしている。そう結論付けた彼はニヤリと笑った。

「フハハハ! そうはいくか! 方向修正、45度UP!」

 ビクトリームは頭部を天井を目指す雷龍に向ける。彼の術は頭部のVから射出されるため、頭を動かすだけで照準を合わせることができるのだ。

「『チャーグル・イミスドン』!」

 とうとうビクトリーム最大の術が撃ち出された。上から彼らを狙うにはどこかで雷龍の軌道を変えるしかない。その軌道上に撃てば術同士が激突し、敵の最後の一撃は木端微塵に砕け散る。雷龍が無残にも消滅する光景を想像しながらビクトリームはほくそ笑んだ。だが、結果は彼の思い描いた未来とは別のものとなる。雷龍の軌道が変わらず、更に上に向かって行ったのだ。

「何? 我が方向に向かわないだと?」

 雷龍はひたすら天井を目指す。これではビクトリームの術は避けられたとしても天井に激突するだけだ。だからこそ、彼は思考を巡らせる。敵がこんな(絶体絶命な)状況で無駄な行為をするとは思えない。つまり、何か別の――。

 そして、雷龍が天井に激突し、Vが天井を穿つ。その衝撃で天井付近が粉塵まみれになった。雷龍はやり過ごした。これで敵は術を使えない。ビクトリームの勝ち――そう思い込んで油断する、と思っているのだろう。だが、ビクトリームは油断せずに粉塵に視線を向け続けていた。

「ハッ! やっぱりな!」

 粉塵から勢いよく飛び出したサイを見つけ、ニヤリと笑う。あの雷龍はただの囮。雷龍の影に隠れて飛ぶサイを隠すためのカモフラージュ。雷龍が最後の一撃だと匂わせ、雷龍を自滅させて油断したところにサイが突っ込んでビクトリームを倒す。そんな計画だったのだろう。しかし、あれだけサイに痛めつけられたビクトリームだ。群青少女を最も警戒するに決まっている。まぁ、サイのパートナーは瀕死だと思っていたので術を唱えられたことには驚いた。最後の術と清麿が叫んだのも『バオウ・ザケルガ』が本命だと思い込ませるミスリードだったのだろう。

「ハハハ、惜しかったな! だが、私は気付いたぞ! モヒカン・エース!」

「『マグル・ヨーヨー』!」

 モヒカン・エースが呪文を唱え、ビクトリームの両腕が突っ込んで来るサイに向かって伸びた。気付かれたと舌打ちをした彼女はヨーヨーを躱すために右に体を一回転させながら移動させる。バレルロールと呼ばれる飛行法だ。だが、躱した先にもう1つのヨーヨーが飛来していた。一度、軌道を上に変えてヨーヨーを回避。

「くっ」

 しかし、サイの突撃はそこで止まった。最初に躱したヨーヨーが戻って来て最後からサイを狙っていたのだ。軌道を完全に真上に変更し、ヨーヨーから逃れようとするが2つのヨーヨーはしつこくサイを追いかける。

「フハハハ! 貴様たちの最後のチャンスも無駄に終わった! かわいそうに! 散々私を虐めた報いだ! バーカ、バーカ!」

 ビクトリームがサイに気付いたのは何度もボコボコにされたからだ。もし、サイが彼に攻撃していなければ最後の奇襲には気付かなかっただろう。

「無駄無駄無駄無駄!」

 ヨーヨーを動かして逃げ続けるサイを追う。何度もボコボコにされたストレスが溜まっていたのだろうか。悔しそうに顔を歪ませているサイを見て愉快そうに笑っていた。しかし、それも長くは続かない。

「む?」

 ヨーヨーになっていたビクトリームの腕がいきなり元に戻ったのだ。つまり、術が解けた。だが、肉体強化とは違って『マグル・ヨーヨー』は心の力を注ぎ続ける限り、解けることはない。それが解けたということは――。

「モヒカン・エース!」

 慌てて振り返ったビクトリームの目には気絶して地面に倒れ伏しているパートナーと“2冊”の魔本を持ったまま、ビクトリームを見ている目の腐った男が映った。

「な、に? お前、何故動ける!?」

 ビクトリームは半歩だけ後ずさりながら目の腐った男――比企谷八幡に問いかける。彼は術すら唱えられないほど瀕死だったはずだ。『サフェイル』を唱えられたことすら奇跡にも近い、はずだった。

「瀕死だったことには変わりないけどさ……術は普通に唱えられたぞ。そもそも最初から勘違いしてんだよ」

「最初から、だと?」

 『サイフォジオ』で回復させたのは清麿ではなく、八幡だったのだ。それどころか『サイフォジオ』が最後の術ですらない。フォルゴレの心の力が1回分だけ残っていたのである。それを隠すために清麿は『サイフォジオ』が最後の術だと叫び、ビクトリームにそう思い込ませた。『サイフォジオ』のおかげで体の異常を一時的にだが軽減できた八幡とサイを無事に彼の傍で送り届けるためにキャンチョメは『バオウ・ザケルガ』に化け、ガッシュによって天井に向かって投げられた。そして、雷龍の影に隠れてある程度までサイが接近し、ビクトリームの注意を引き、その隙に気配分散を使ってモヒカン・エースに近づいた八幡が彼を気絶させて魔本を奪う。恵でも千年前の魔物のパートナーから魔本を奪うことができたのだ。サイの特訓を受けている八幡にそれができないわけがなかった。

「種明かしはここまで。チェックメイト、だよ」

「なっ! しまっ――」

 ビクトリームの背後から羽交い絞めにしたサイが彼の耳元で囁き、ゆっくりと浮上して行く。暴れて彼女の拘束から逃れようとするビクトリームだったが関節を決められており、抜け出せず、天井付近まで来てしまった。

「『サウルク』」

 気絶しているモヒカン・エースを引っ張って安全なところまで逃げた八幡が小さく呪文を唱え、サイの移動速度を下げる。

「待て……待つのだ」

「ふふっ。待たない」

 嬉しそうに微笑んだサイはそのまま一気に急降下。『サウルク』+『サフェイル』で凄まじい速度で地面に向かう中、ビクトリームの絶叫が室内に響き渡る。そして――。

「ブルァアアア……」

 地面に頭から叩きつけられたビクトリームは白目を剥いて意識を手放した。ちゃっかり自分だけは地面に叩きつけられる直前で逃げたサイはビクトリームが気絶していることを確認して八幡に手を振る。

「モヒカンは最後まで抵抗した……だが、お前はサイに夢中になってパートナーが襲われていることに気付かなかった。声の一つでも出せたら気付けたのにな」

 清麿が言っていた。『千年前の魔物たちの弱点は本当のパートナーになっていないことだ』と。その言葉を思い出しながら八幡は嬉しそうに笑っている群青少女に向かって手を挙げた。




なお、フォルゴレの心の力の件はサイが介入したおかげで原作より1回分だけ残っていました。







今週の一言二言



・個人面接受かりました。次の最終面接頑張ります。


・FGOでボブミヤ来ました。普通のエミヤください……。

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