やはり俺の魔物の王を決める戦いは間違っている。 作:ホッシー@VTuber
「脱落……ってどういう、こと?」
俺の発言に反応したのは意外にもサイだった。だが、高嶺も大海は驚きのあまり声を失っているだけらしく、サイの言葉がなければ同じようなことを聞いて来たに違いない。
「そのままの意味だ。これ以上迷惑はかけられないからな。ここで脱落した方がいい」
「そんなっ! でも、戦えなくなって――」
「――戦えなかったら意味がないだろ」
俺たちは遊びに来たわけじゃない。千年前の魔物を打倒しに来たのだ。力も数も地も敵が有利。足手まといを連れて攻略できるほど甘くはない。
「それぐらいお前が一番わかってんだろうが」
「……そう、だけど」
サイは俺から目を逸らすように俯いた。おそらく俺たちの中で最も戦いを知っているのはサイだ。今回の作戦の難易度も、俺が足手まといでしかなく作戦の邪魔にしかならないことも彼女はわかっている。しかし、俺を足手まといと認めたくないだけ――いや、違う。俺を足手まといと認めてしまえば“俺が傷つく”と知っているのだ。だから、彼女は認めない。認めたら俺を傷つけてしまうから。
サイの隣で戦おうとしたのは『己の存在価値を確立する』ためだった。それなのに隣はおろか傍にいるだけで迷惑をかけてしまう。なんと情けないパートナーなのだろうか。一緒に戦うなんて言っておきながら傍にいることすらできないなんて。
「俺は、大丈夫だから」
「ッ……」
ポンと彼女の頭に手を乗せて慣れない笑みを浮かべる。それを見たサイは目を見開き、唇を噛んだ。慣れていないのだ。上手く笑えなくて当たり前である。
(でもな、サイ……)
このまま一緒に戦えば――俺が胸を押さえる度、お前が傷つくだろう? 自分のせいで俺が苦しんでいると責めるだろう? 俺はそれが嫌なんだ。俺のせいでお前が傷つくのが嫌なんだよ。だから、俺はここで降りる。これ以上、お前を傷つけないために。
「高嶺」
「……ああ、すまない」
「っ! 清麿君!?」
「八幡さんの言う通りだ……ここでだつら――」
「――待って!」
高嶺の言葉をサイが大声で遮った。そのあまりの声量に俺たちはもちろんふざけていたガッシュたち(全裸でティオに首を絞められていた)とフォルゴレ(ブリッジをしていた)もこちらに視線を移す。
「魔物が、近づいてる」
「ちっ……」
脱落すると決めた途端、戦闘か。このまま普通に戦ってもすぐに俺は戦えなくなる可能性が高い。ここは速攻で終わらせる。
「高嶺、準備しろ」
「だ、だが、俺たちの心の力は……」
「
「うん!」
魔本を持って心の力を込める。俺の心の力は満タンだ。どうせここで脱落する身。思う存分、使ってやる。高嶺たちが慌てて戦う準備をしている間にこちらの準備も終わらせよう。
「『サルク』」
第一の術、目の強化。すると、前に立っていたサイがこちらを見ずに手を挙げて人差し指と中指、薬指を立てた後、すぐに薬指を折った。『3・2』。32秒か。それだけ時間があれば十分。
「『サグルク』」
第五の術。今は副産物の肉体強化を目的に使用。サイの体を群青色のオーラが覆う。『ラウザルク』に比べれば些細な強化だがないよりはマシである。
「『サフェイル』」
第六の術、飛行の呪文。サイの背中に半透明の二対四枚の羽が生えた。その羽から群青色の粒子が舞い、その姿はまさに妖精のようだった。
「ぐッ……『サ――」
「駄目」
顔を歪ませながらも第三の術を唱えようとするがサイに止められてしまう。さすがに4つの呪文を重ね掛けするのは辛い。それを察知して止めたのだろう。敵がどんな姿をしているかわからないため、少しでも有利になるよう『
「ビ――ブルァアアアアアアア!」
なんかヘンテコな姿をした魔物が口を開いた瞬間、彼の顎にサイのアッパーカットが叩き込まれて打ち上げられる。更に羽を振動させながらその後を追ったサイがクルリとバク天するように回転し、サマーソルトキックを繰り出す。ドゴン、と蹴りでは出ないような凄まじい轟音と共に魔物は床に叩きつけられた。
「ちょ、ちょっとまっ――」
「……」
「ガッ、ギャッ、ブッ、ボッ」
背中から叩きつけられた魔物はピクピクと痙攣しながら空中にいるサイを制止させようとするが妖精さんは無言のまま、彼に跨って何度も拳を振り降ろす。その光景に高嶺たちはもちろん、俺もドン引きしていた。きっと俺に負担をかけないためにサイは無心になって殴っているだけだと思うのだがさすがに敵が可哀そうになって来た。
「や、やめっ……や、めて。や……やめろって言ってんだろうがあああああ!」
「ぐっ……」
魔物が絶叫すると俺の心臓が悲鳴を上げ、魔本から輝きが消える。くそ、呪文すら消えるのかよ。もちろん、術の効果が消えたせいでサイにかかっていた強化が解除されてしまい、暴れていた魔物に振り払われてしまった。
「『ザケル』!」
「させるかあああああ!」
「『マグルガ』ァ!」
サイの猛撃で呆気に取られていた高嶺が慌てて呪文を唱える。電撃が魔物のパートナーに向けて放たれた。だが、すかさずパートナーの前に割り込んだ魔物の頭部からV字の光線が撃ち出されて電撃が吹き飛ばされる。しかも、V字の光線はまだ死んでいない。高嶺たちは咄嗟に左右に飛んで躱すが俺だけ動けなかった。これは、やばい。
「ハチマン!」
「『サ、ウルク』……」
術が発動すると目の前の光景がぶれた。見れば先ほどまで俺がいた場所が抉れ、その背後の壁にVの字が刻まれている。あそこまで綺麗に撃ち抜いたとなるとあの術の威力は相当なものらしい。
「サイ、サンキュ」
「ううん、気にしないで。それよりも……」
「く、くくく……好き勝手やってくれたなぁ? まさか自己紹介する前にボコボコにされるとは思わなかったぞ、虫けら共」
ズキズキと痛む心臓を抑えながら後ろにいる群青色のオーラを纏ったサイにお礼を言うと彼女は首を振り、魔物の方へ視線を向ける。その視線の先では今までサイの影に隠れて見えなかった魔物が怒りで身を震わせていた。
今まで様々な魔物を見て来たがあの魔物は群を抜いて変な姿をしている。足は棘のように尖っており、両手の甲、肩と思わしき部分と股間に1つずつ、計5つの緑色の水晶がはめ込まれている。頭部と体はVだった。
「だが……どうやら、私をボコボコにした女のパートナーは不調なようだな。それに他の奴らも先ほどの戦いで心の力を消耗し、満足に戦えない状態」
Vは勝利を確信しているのか笑いながら両手を広げる。確かにVの言う通り、俺は相手が負の感情を抱く度に心臓が悲鳴を上げて呪文がキャンセルされるし、高嶺たちも心の力を使い果たしていた。高嶺も今の状況がやばいと思っているのか冷や汗を流している。
「フハハハハ! ああ、そうだ! その顔が見たかった! 追い詰めるのは貴様らではない。この私なのだ! さて、邪魔が入ったせいで自己紹介が遅れたな」
そこで言葉を切った彼は両手を上げた。その姿はまさにV。
「私の名前はビクトリーム。華麗なるビクトリーム様だ! てめえらを冥途に送る名前だ! よく覚え――」
「――ふんっ」
「ブルァアアアアアア!」
V――ビクトリームは『サウルク』で速度が上がっているサイの拳を顔面で受け止めて吹き飛ばされた。
今週の一言二言
・携帯変えました。さすがに5年使い続けていたのでボロボロだったので……まさか画面が浮いて中の基盤が見えるとは。しかもその状態で使えました。頑丈ですね、Iphone。結構、脆弱だと聞いていたはずなのに。