やはり俺の魔物の王を決める戦いは間違っている。   作:ホッシー@VTuber

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たくさんの評価ありがとうございます!
『来ても1人か2人かな』と思いながら前回の前書きを書きましたが予想以上に多くの評価をいただくことができました。本当にありがとうございました!



……ですが本当に申し訳ないのですが、評価のところで意見を述べるのは出来るだけ止めて欲しいと言いますか。できれば感想の方で言って欲しいです。
一応、こちらにも意図があって書いていますので言い訳と言いますか、何かしらの意見がありまして……評価のところだと返信できません。お手数をおかけしますが、意見がある場合、評価のところではなく、感想に頂ければ幸いです。
評価を頂いている時点でとても喜ばしいことなのですが作品をより良い物にするためにご協力よろしくお願いします。


LEVEL.118 彼の異常は想像以上に深刻である

 千年前の魔物と初めて戦った後、俺たちは体を休めるために休憩に適していそうな場所まで移動していた。まぁ、俺は『サイフォジオ』のおかげでそれなりに回復できたのだがまだフラフラしているため、サイに運ばれているのだが。さすがに皆の前でお姫様抱っこはやめていただけませんか。恥ずかしくて死んでしまいます。こうやって黒歴史は生み出されていくのか。何故だろう、慣れている自分がいる。

(……いや、それよりも)

 高嶺に俺の体の異常について聞くと言われた後からサイの表情が暗いままなのだ。彼女も何か知っているようなので当事者である俺も異常について話を聞きたい。

「もう少しで着くぞ」

 お姫様抱っこの構図的に通路の天井を見ていることしかできず(他のところに視線を向ければ誰かと目が合ってしまうため)天井の破損の数を数えていると不意に地図を片手に先頭を歩いていた高嶺がこちらを振り返りながら笑って言った。ああ、やっとこの生き地獄から解放されるのか。安堵のため息を吐いていると近くでくすくすと笑い声が聞こえる。見れば大海が安堵している俺を見て小さく笑っていた。何だよ、この姿がそんなに滑稽か? まぁ、滑稽だよな。幼女に横抱きにされる男子高校生だもんな。

 先ほどとは別のため息を吐いて少しして高嶺の言う通り、バルコニーのような場所に出た。アジトに潜入してからさほど時間は経ってないが久しぶりに空を見たような気がする。

「わぁ、綺麗ねー」

「ウヌウ、本当なのだ」

 俺たち以外の全員が外の景色を見に行き、ティオとガッシュが景色を眺めながら話し合っている。そんな彼らの様子を見て少しだけ気持ちが楽になったのかサイは口元を緩ませて俺を柱の近くに降ろした。ここなら柱に背中を預けられる。本当、気遣いの出来る子だ。

「清麿、水だ! 水が流れてるぜ」

 サイの気遣いを無駄にしないために柱に寄り掛かるとキャンチョメが近くの水路を見て驚いていた。へぇ、てっきり廃れた遺跡だと思っていたがまだ水路は生きているのか。

「ああ、この遺跡の水道はまだ生きてるんだ。自然の湧水を利用したものだからそのままでも飲めるよ。生水だからたくさんは駄目だが」

「そっか……心を操られてる人たちも水がなきゃ生きてけないわよね」

 すでに調べていたことだったのかそう説明する高嶺。それを聞いた大海が感心したのか顎に手を当てて呟いた。

「うん。探せばどこかに食料をためてる場所もあるんじゃないかな」

「さすがにこんな下の方にはないと思うけどね」

 高嶺の言葉にサイが水路を見ながら反応し、水路の水を手で掬う。本当に飲める水かどうか確かめているらしい。見てわかるものなのだろうか。うん、サイならわかりそうだな。さすサイ。

「とにかくここに敵がいなくてよかった。呪文が使えるようになるまで休もう」

 そう言いながら高嶺はその場に座り込んでリュックから水筒を取り出して水分を補給した。彼に倣って他の人たちも各々休憩し始める。サイも濡れた手をワンピースの裾で拭いながら俺の隣に座った。

「ハチマン、水筒頂戴」

「ああ、ちょっと待って……あれ」

「……ハチマン?」

 背負っていたリュックの中を探るが水筒が見当たらない。どこかで落とした? いや、アジトに潜入してからリュックを開けた覚えはない。じゃあ、忘れたのか。あれ、これやらかしたやつじゃね? うわぁ、言いたくない。けど、ここで嘘を吐いてもすぐにばれる。しょうがないか。

「あー……忘れたっぽい」

「……もう、しっかりしてよ。メグちゃんに借りて来るね」

 正直に言うとサイは深々とため息を吐いて大海の元へ向かった。おい、何故大海なんだ。高嶺でいいだろ。ちょ、マジで大海に借りに行きやがった。間抜けな俺に対する罰なの? 大海もこちらをちらちら見ながらサイに水筒を渡すぐらいなら断れよ。

「ガッシュ、何してんのよ!」

 その時、ティオの絶叫が部屋に響く。何だろうとそちらを見るとガッシュが水路で泳いでいた。もちろん、全裸である。おい何やってんだお前!? しかも、それなりに上流の方で泳いでいたのでガッシュが泳いでいる場所より下流の水を飲んでいたキャンチョメとウマゴンが青い顔で水を吐き出していた。

「みんなが飲む水が汚くなるでしょ!?」

「ウヌ!? し、しかしみなも泳げば気持ちが――」

「――いいからそこから動かないで! サイ、上流よ! 上流で水を汲むのよ!」

「わかってるって」

「…………」

 大海から水筒を借りていたサイはガッシュに冷たい視線を送りながら水筒を水に沈めた。さすがに自分が悪いことをしているとわかったのかガッシュは黙って水路から出る。入る前に気付いて欲しかった。後、何故フォルゴレはブリッジしているのだろうか。ツッコミ待ち?

「はは……さてと、八幡さん。そろそろいいか?」

「……ああ」

 その光景を見て乾いた笑いを漏らしていた高嶺だったがすぐに俺に視線を向ける。大海も気になるのか真剣な表情を浮かべていた。さて、頷いたのはいいが俺が説明できることは少ない。チラリとサイを見れば水筒の蓋を閉めながらこちらに向かって来ていた。何か勘違いしていたらサイが訂正してくれるだろうし、とりあえず知っていることを話そう。

「多分、異常の原因は感情の乗った魔力だと思う」

「感情の乗った魔力?」

「ああ、さっきも言ったが戦ってる間、あいつらの感情が何となく伝わって来たんだよ。それに術が発動するタイミングもわかったしな」

 上手く説明できないが“感情の乗った魔力”という言葉がしっくりくるのだ。人間も心の力を魔本に込めて呪文を唱える。その時に感情を込めれば込めるほど魔本の輝きは増し、強力な術となって魔物から放たれる。つまり、感情と魔力は密接な関係にあるのだ。

「え、そこまでわかったの?」

 俺に水筒を差し出しながらサイは意外そうに言う。どうやら俺の推測は合っていたらしい。大海にお礼を言って水筒の蓋を開けて水を飲み、一息吐いてから再びサイに視線を向ける。

「……いつから?」

「……正月の頃から」

 随分前から知っていたようだ。そう言えば雪ノ下の誕生日プレゼントを買いに行った時に同じようなことがあった。怒りのあまり魔力を抑え切れなくなってしまったのかもしれない。

「あ、補足するとハチマンが異常を起こすのは負の感情が乗った魔力だけだよ」

「負の感情? それって悲しみとか憎しみとか?」

 大海が不思議そうに質問した。言われてみれば千年前の魔物から伝わって来た感情はそういったものだったような気がする。漠然としか伝わって来ないので確信は持てないが。

「もし、そうならマズくないか? 千年前の魔物は……」

「うん、負の感情しか抱いてないと思う。ちょっと実験してみよっか」

 そう言ってサイが俺の前に移動してニコニコと笑い始めた。心の底から楽しそうである。実験と言っていたので笑いながら魔力を放出しているのだろう。特に変化はない。サイの笑顔で心が癒されるだけだ。

「じゃあ、次」

「――ッ」

 しばらく笑っていた彼女は表情を戻して目を閉じる。その刹那、ズシンと体にプレッシャーがかかった。思わず、顔を歪ませてしまう。いきなり苦しみ始めた俺に高嶺と大海が腰を上げかけるが手で制止させる。すでにサイは魔力の放出を止めていたのでプレッシャーはなくなっていたのだ。

「多分、痛みはなかったよね? 出来るだけ手加減したつもりなんだけど」

「……ああ、痛みはなかった」

 最初の魔力は正の感情を乗せたもの。そして、今のが負の感情を乗せた魔力。あれで手加減した方か。痛みはなかったが凄まじいプレッシャーだった。戦闘中に今の現象が起きたら数秒ほど動けなくなってしまいそうだ。

「手加減? どういうことだ?」

「魔力の量とか感情の強さ、向けられている対象でハチマンにかかる負担の大きさも変わるみたい。因みに今はせっかく剥いたピーナッツを落とした上、素足で踏ん付けた時のイライラでした」

 高嶺の質問に淡々と答えるサイ。ピーナッツに対するイライラであのプレッシャーかよ。俺に向けられているわけでなく、そこまで強い感情でもないのに。これは想像以上に厄介かもしれない。

「まぁ、私って魔力多いみたいだから強めにかかるみたい」

「でも、さっきは痛くなったのよね?」

「千年前の魔物は私たち全員に負の感情を向けてたから心臓が痛くなったんだと思う。しかも、対峙する魔物が多ければ多いほど魔力量も多くなって……」

「……酷くなるってことか」

 大海の問いに答えたサイと結論を述べる高嶺は深刻そうな表情を浮かべている。だが、それよりも気になることがあった。別に俺の勘違いであればいい。自惚れであって欲しい。そう願いながら口を開けた。

「なぁ、サイ」

「ん?」

「……お前、俺が苦しんでる時、魔力の放出を抑えられるか?」

 サイは俺に依存している。それこそ俺が前に出て戦うことを嫌がるほどだ。そんな依存相手が敵のせいで苦しんでいる。その時、彼女は強い感情……怒りを抱くだろう。そして、その怒りは魔力に乗って周囲に放出され――。

 

 

 

 

 

「……無理、かな」

 

 

 

 

「「ッ――」」

 サイがぎこちない笑みを浮かべて首を振った。高嶺と大海も彼女の言葉の真意がわかったのか息を呑んだ。つまり、俺たちが千年前の魔物と対峙した瞬間、敵とサイから負の感情の乗った魔力が放出され、俺にかかる負担が増大する。

「だからさっきあんなにすんなり向こうに行ったのか」

 俺が指示したとはいえ、サイが素直にウマゴンの後を追ったのは意外だった。別れた方がいい時でも俺の身に危険が迫っているのならサイは離れないだろう。

「あはは……実はね、我慢できる自信がなくて逃げちゃった。まさか本当にハチマンがそんな体質になってるなんて思ってなかったし」

「ねぇ……それって」

 声を震わせた大海がそこで言葉を噤んだ。高嶺も腕を組んで眉間に皺を寄せていた。だが、見て見ぬフリをしているわけにもいかない。だからこそ――。

「俺はここで脱落だな」

 

 

 

 ――はっきりとリタイアを告げた。




次回……あの人登場。








今週の一言二言



・就活で適性検査が通り、面接決まりました。頑張ります!

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