やはり俺の魔物の王を決める戦いは間違っている。 作:ホッシー@VTuber
まぁ、オレンジバーになってしまったとしても今までと同じ……いえ、今まで以上に頑張って書きますので今後とも『俺ガッシュ』をよろしくお願いします。
「ウ、ウヌ! 負けぬ!」
人型の魔物が消える寸前、呆然としていたガッシュは慌てて叫んだ。そして、魔物が消えた瞬間、俺の体にかかっていた負荷が消え、小さく息を吐いた。とりあえず、一安心だな。魔本が燃えていても魔物は動ける。自滅覚悟で突っ込んで来る可能性もあったのだ。
「あの魔物、元々はいい魔物だったのかもしれないね」
「……ウヌ」
魔物が消えた後もしばらく彼がいた場所を見ていたガッシュにティオが話しかける。確かにいい魔物だったかもしれない。だが、逆に言えばいい魔物も千年もの間、石に閉じ込められたら狂ってしまうのだ。おそらくこの先にいる千年前の魔物たちも襲って来るだろう。
「ティオ、こっちに来て」
魔物が消えた後も目を閉じて瞑想していた大海が自分のパートナーを呼んだ。どうやら、心の力が回復したらしい。すぐにティオが駆け寄って来て両手を上に掲げた。
「お願い……『サイフォジオ』!」
大海は魔本に心の力を注いで呪文を唱える。そして、ティオの頭上に羽の付いた剣が出現した。あれが今から俺の体を貫くと思うと少しだけ身構えてしまいそうになる。『サルフォジオ』のせいで回復呪文にちょっとだけ苦手意識を持ってしまったようだ。だって、あれ痛いし。
「えーいっ!」
ティオが俺に向かって剣を落とすとドスッ、という衝撃と共に俺の体を貫いた。刺さった剣の羽がクルクルと回転し始め、気怠かった体が楽になっていく。回転していた羽は数秒ほどで止まり、『サイフォジオ』が消えた。すぐに体を起こして調子を確かめる。千年前の魔物がいないのもあって心臓に痛みはない。しばらくは大丈夫そうだ。
「助かった。さんきゅ」
「ううん、気にしないで」
「少しは自分の体を大事にしなさいよね。サイが心配するから」
お礼を言うと笑顔で手を振る大海と腕組みをしてため息交じりに忠告するティオ。そう言われても俺の体の異常はすでにサイにばれている可能性が高い。
「おーい!」
「メルメルメ~!」
その時、通路がある方向から嬉しそうな声が響いた。そちらを見ると気絶した男を背負ったフォルゴレ、キャンチョメ、ウマゴンが笑いながらこちらに駆け寄って来ている。どうやら向こうも無事だったようだ。だが、肝心のサイの姿がない。魔本は俺が持っているしサイがそう簡単にやられるわけがないのだが。
「ハチマン」
不思議に思っていると不意に背中に暖かい温もり。視線を下に移すと小さな腕が俺の首に回されていた。傷はおろか汚れ一つない白い肌。狭い通路で戦ったと言うのに汚れすら付かないとはさすがだな。
「大丈夫だったか?」
「うん。そっちは?」
「……何とか、な」
勝利を喜び合っている仲間たちを見ながらパートナーとお互いの無事を確認する。無事と胸を張って言えないのが何となく情けない。サイも何かあったと察したのか腕に力を込めて俺の髪に顔を押し付けた。埃まみれだからあまりべたべたしない方がいいと思うのだが。大海も少しだけ心配そうに俺たちを見ていた。
「う……」
不意に呻き声が聞こえ、そちらに顔を向ける。丁度、人型の魔物のパートナーだった女子が体を起こすところだった。ユニフォームを着た男とフォルゴレが連れて来た男も辛そうに身じろぎしている。どうやら、心を支配する術は解けているようだ。それとサイさん? せっかくパートナーだった人たちが目を覚ましたのだから俺の体をペタペタ触って触診するのは止めなさい。
「こ、ここは……あ、あなたたちは?」
「あ、あの……」
制服を着た女子が俺たちを見つけて怯えながら問いかけて来る。咄嗟に何か言おうとした大海だったがどう説明したらわからなかったのか口を噤む。馬鹿正直に『悪い人たちに操られていました』なんて言えるわけがない。高嶺も顎に手を当てて悩んでいる。だが、そんな中、1人の男が手を挙げた。
「ハハハハハ! 私の名前はパルコ・フォルゴレ! イタリアの英雄、絶世の美男子、パルコ・フォルゴレさ!」
そう、“自称”イタリアの英雄であるパルコ・フォルゴレだった。いや、何だよ。イタリアの英雄って。高嶺も大海もいきなり大声を上げたフォルゴレに驚いているし。
「ハハハ、私たちは君たちを魔の手から救った英雄さ。私が正義、君たちは悪だったのさ!」
更に大海が言い淀んだ部分を堂々と言いやがった。さすがにそれはまずい。最悪、変質者扱いされて通報されてしまう。この場所は圏外なのですぐに捕まることはないが面倒ごとになるのは目に見えていた。
「フォルゴレ、お前こんな時に――」
「――ええ!? パルコ・フォルゴレ!?」
「あの世界のスター、フォルゴレ様なの!?」
高嶺も慌てたようにフォルゴレを嗜めるがその途中で心を操られていた人たちが立ち上がって叫んだ。彼らの表情は驚きと歓喜に溢れている。これは、信じている? え、マジで? そんなに有名なの、この人?
「あの……ここから一番近い街……ここです。この町にアポロという人がいます。その人に会えば自分の国、家まで帰る手配をしてくれるはずです」
とりあえず何とかなりそうだと判断したのかリュックサックから地図とアポロさん――高嶺の知人でアジト近くの街まで送ってくれたどこかの会社の社長さんの写真を女子に渡す大海。千年前の魔物のパートナーだった3人は地図を覗き込んで街の場所を確認する。
「きっと、その怪我の手当ても――」
「――っ」
リュックサックを背負い直しながら説明を続けていた大海だったが痛みでも走ったのか女子は顔を顰めながら頭を押さえる。ロードに心を操られていたとは言え、彼らに怪我を負わせたのは俺たちだ。その罪悪感からか大海は彼らから目を逸らす。些か居心地の悪い空気が流れた。サイも触診していた手を止めて胡坐を掻いていた俺の膝の上に座り、背中を預けて来る。お前、自由か。まぁ、シートベルトのように彼女の体に腕を回す俺も俺だが。
「じゃあ、とりあえずそこへ……」
この空気に耐え切れなかったのかユニフォームを着た男が地図を持っていたもう1人の男と共に通路に向かって歩き出した。女子もその後を追おうとしたがその途中で立ち止まり、こちらを振り返る。
「あの……よく、事情はわからないけどあなたたちが来て目が覚めるまで……私、暗くて苦しい闇の中にいた気がするの」
彼女の言葉に俺たちは顔を見合わせた。彼女たちは心を操られていたはずだ。操られている間も少しだけ意識があるのかもしれない。完全に意識を失うより苦しそうだが。
「きっと……あなたたちは苦しい闇の中から助けてくれたのよね? あ……ありがとう」
そんな言葉に俺は思わず息を呑んでしまった。確かに俺たちは千年前の魔物たちを倒し、心を操られた人間たちをロードの魔の手から救うつもりだ。だが、操られた人間を傷つけていいわけではない。それを理由してはならない。理由にしてしまったら俺たちは偽善者に成り下がってしまうのだから。だからこそ、彼女の言葉が嬉しかった。俺たちのしたことは間違いではなかったと思えたから。
「っ……うん。気を付けて帰ってね」
嬉しそうに手を振る大海。パートナーだった人たちは頭を下げて去って行った。人間たちの処理は終わったがこの後はどうするのだろう。
「よし……それじゃ俺たちも移動しよう」
「ヌ? どこに行くのだ?」
高嶺にガッシュが質問する。進むにしても休むにしてもここにいない方がいいだろう。近くに魔物はいなかったが戦闘音を聞き付けて様子を見に来る可能性もある。
「この近くにバルコニーのような場所がある。そこで休憩しよう。結構呪文を使ったし……それに」
そこで言葉を区切った彼は俺に顔を向けた。自然と皆の視線が集まる。
「八幡さんの体の異常についても教えて貰わなきゃならないしな」
「……ッ」
高嶺の言葉に“サイ”はビクッと肩を震わせた。
今週の一言二言
・何とかパッションリップをお迎えすることができました。ストーリーも最高でしたし、大満足で終えることができましたね。
……え? キアラさん? あの人来たら救える人理も救えなくなりそうですね(率直な感想)