やはり俺の魔物の王を決める戦いは間違っている。   作:ホッシー@VTuber

116 / 253
LEVEL.114 比企谷八幡は闇に紛れるように背後を取る

「これが『ラウザルク』……清麿の言ってた、一定時間ガッシュの体や力が何倍も強くなる術……」

 『ラウザルク』を受けて虹色のオーラを纏うガッシュ。俺は高嶺たちがナゾナゾ博士と戦った時に見ていたのでさほど驚きはしないが初めて『ラウザルク』を目の当たりにしたティオは息を呑みながら呟いた。ガッシュの術は『ラシルド』以外口から放つものばかりだったから珍しいのだろう。気絶もしていないし。そう思っているとガッシュがグッと腰を落として魔物に向かって突撃した。

「うおっ……」

 その衝撃で彼らから離れていた俺の前髪が揺れる。近くにいた大海やティオは引っくり返ってしまった。あの時は離れていたからわからなかったが身体能力を何倍も上げる効果は伊達ではないようだ。

「速い!?」

 一瞬にして距離を詰められた人型の魔物は目を見開きながら両腕を前に突き出す。その瞬間、心臓に痛みが走った。術が来る。だが、俺は黙って気配分散を使いながら移動し始めた。今から忠告しても俺の声が届いた頃には敵の術は発動している。そして、なにより――。

「『ネシルガ』!」

「ヌォオオオオ!」

「ッ! 避けたっ!?」

 ――今のガッシュなら至近距離で術を放たれても回避できる。術を躱したガッシュはそのまま人型の魔物のパートナーである女に向かう。

「こいつ、直接本を奪う気か! だが……甘ぇぜ!」

「『ガルデルク』!」

 女とガッシュの間に上から竜型の魔物がドリルのように回転しながら突っ込んで来る。さすがにまずいか? 回転している上、術の効果で破壊力も上がっているはずだ。『ラウザルク』状態のガッシュでも――。

「ヌォオオオオオオオオオ!!」

 と、思っていた時期もありました。え、普通に受け止めたんですけど。物理法則とか完全に無視しているんですけど。『ラウザルク』ってそんなにヤバい術なの?

「なっ……くっ!」

 竜型の魔物を受け止めたガッシュを見て硬直していた人型の魔物が我に返って再びガッシュに両腕を向けた。それを見てすぐにその魔物の背後に回り、気配分散を解除する。もちろん、視線に殺気を乗せながら。

 サイとの訓練の1つに殺気のコントロールがあった。気配を消していても(今は分散させているが)殺気が駄々漏れしていれば意味がない。そのため、どんな状況でも殺気を漏らさないようにするためにコントロールする必要があった。その訓練の一つに特定の相手に殺気をぶつけるものがあったのだ。

「何っ!?」

 いきなり後ろから殺気を向けられたせいか魔物は体ごと俺の方を振り返った。振り向き様に魔物の腕を掴んで足払いをかけ――ようとして浮いていることを思い出して慌てて腕を放して離脱する。浮いているのは卑怯だと思います。汚い、さすが魔物汚い。

「逃がすか!」

 まぁ、それを見逃すほど甘くはないようで魔物は距離を取ろうとしている俺に向けて両腕を突き付けた。あわよくば転ばせて隙を作ろうとした結果がこれだ。だが、当初の目的は達成している。いいのか? 俺なんか見ていて。お前の後ろはとんでもないことになっているぞ?

「そのまま放り投げろ!」

 竜型の魔物を受け止めていたガッシュは高嶺が指示通り、体格や体重が自分の何倍もある相手を体全体を使って投げた。竜型の魔物はなす術もなく地面に叩き付けられ、その余波が人型の魔物と俺を襲う。さすがに逃げる時間はなかった。咄嗟にジャンプしてわざと吹き飛ばされて地面を転がり魔物たちから距離を取る。

「八幡君! 大丈夫?」

 その一部始終を見ていたのか大海が声をかけて来た。おい馬鹿止めろ。すぐに気配分散して身を隠すつもりだったのに声をかけられたらできないだろうが。急いで右手を挙げた後、左手の人差し指を唇の前に置いて静かにするようにサインを送る。俺の役目を思い出した彼女はハッとして口を閉じた後、キョロキョロと辺りを見渡した。どうやら大海以外はガッシュたちに注目しているようで気付かれている様子はない。

 もう一度大海に頷いてみせた後、再び気配分散を使って身を隠す。適当に移動して状況を確認すると丁度ガッシュと女の周囲に『セウシル』が展開されるところだった。

「バリアか、こざかしい! 人間、下だ!」

「『ガンジャス・ネシルガ』!」

 魔物が地面を何度も殴りつけると『セウシル』がカバーし切れない地面の下からいくつもの砲撃がガッシュたちを襲った。魔物は自分の魔本を燃やすことができない。もちろん自分の術もそのルールに縛られる。それを利用したのだろう。ロードに心を操られているならどんなにパートナーの体が傷つこうが気絶もしくは喉が潰れない限り、術は唱えられる。簡単に『セウシル』を破壊されてティオは悔しそうに奥歯を噛みしめた。まぁ、安心しろ。チャンスは無駄にしない。

「どうだ! そのバリアのせいで逃げ場もあるまい!」

「ああ、そうだな。だが、お前のパートナーも動けまい」

 勝ち誇っている魔物の背後に立った俺はわざと声を出した。確かに心が操られているなら怯むことすらなく術を唱え続けられるだろう。しかし、心は操れても体は人のままだ。痛みで声が出せなくなることはなくても体勢を立て直すのに時間がかかる。なにより人間に指示を出しているのは魔物の方だ。魔物本人が勝った気になっていてはすぐに術を使うのは不可能である。

「また、お前か!」

 後ろを見た魔物は忌々しそうに俺を睨む。ズキリと心臓が悲鳴をあげたが顔には出さずに魔物に向かって突っ込んだ。それを見た彼は目を丸くし口元を緩ませる。よし、釣れた。

「はは、人間風情が魔物相手に肉弾戦? なめてんじゃねぇよ!」

 笑いながら魔物が拳を振るった。サイとの訓練で培った経験を活かして拳の軌道を読み、体を捻って躱す。そのまま魔物の横を通り過ぎてすぐに体ごと魔物の方へ向き直る。ただ立ち位置を入れ替えただけ。それが俺の目的だ。

「躱すだけの技量は……なっ」

 意外そうに言いながら俺を見た彼は驚愕する。いや、違う。思い出したのだ。今、パートナーの傍にガッシュがいることを。慌ててパートナーの元へ行こうとした魔物だったが目の前に俺がいることに気付いて顔を歪ませた。さぁ、どうする?

「くそったれが!」

 魔物は悪態を吐きながら飛翔して俺を飛び越えようとする。ああ、そうだよな。そうするしかないよな。こんな人間相手にしている暇はないし、飛べるのだからわざわざ相手する必要はないよな。

 だが、もう少しだけ付き合って貰うぞ。予め拾っておいた数個の石を真上に放り投げた。俺から意識を逸らしていた魔物からしてみればいきなり目の前に数個の石が現れたように見える。

「こざかしい真似を!」

 叫びながら石を避けるために急停止した魔物だったがすぐに移動を再開した。俺が稼いだ時間はたった数秒。されど数秒。今の内にガッシュが女から魔本を奪えば――。

 しかし、現実はそう甘くはないようで女から魔本を奪おうとしたガッシュだったがそこへ竜型の魔物が突撃して邪魔をしている。その隙に人型の魔物が空から女を救出してしまった。

(しょうがない、か)

 相手は2体。片方を足止めされていたらもう一体がカバーに回るのは当たり前だ。さすがに竜型の魔物相手に時間は稼げない。一度体勢を立て直す意味も込めて大海たちの傍へ戻った。

「八幡さん、すまない。奪えなかった」

「気にすんな。あんな感じで動くからそっちはそっちで好きなようにしてくれ」

 敵から視線を外さずに謝罪して来た高嶺。別に気にしていないので適当に返した。敵はガッシュたちの考えがわかったのか憤慨している。まぁ、無理もない。ガッシュたちは千年前の魔物とパートナーを一切傷つけることなく助けようとしているのだから。つまり――。

「清麿! なんでガッシュは奴らに攻撃しないの!? チャンスは何回もあったのに!」

 ティオの言う通り、ガッシュたちは攻撃呪文を使うつもりはない。千年前の魔物たちをなめているとしか思えない行動だ。

「ああ、あいつらがかわいそうだと言ったからな……」

「な、何言ってんのよ!? そんなことで倒せる相手じゃないでしょ!? 気持ちはわかるけど……今回の戦いは心を操られてる人間を解放するのが第一でしょ!?」

「いや、攻撃したとしてもほとんど意味ねーから無駄だろ」

 喚く彼女の頭に手を置いて落ち着かせながら言う。ガッシュの術の中で2番目に攻撃力の高い『ザケルガ』でも吹き飛ばすのが精一杯だ。なら、『ラウザルク』で相手を翻弄しながら魔本を狙った方が合理的である。吹き飛ばすのは『ラウザルク』状態のガッシュなら相手の腕を掴んで投げるだけで出来るからな

「八幡さんの言う通りだ。心の力の節約にもなるからな。ガッシュのやってるように直接本だけを狙い続けた方が効果的でもある」

 高嶺がそう言った瞬間、魔物たちが雄叫びをあげながらこちらへ向かって来る。話し合いもそろそろ終わりか。

「行くぞ、ガッシュ! 奴らの本を奪う隙を見つけたら指示を出す! 俺の声にも耳をかすんだ、第六の術、『ラウザルク』!」

 ガッシュに虹色の雷が落ちる。そして、迫る魔物たちへ突っ込んで行った。さて、俺も移動するか。気配分散を使って移動ルートを考えるとティオが両手を前に突き出しながら口を開いた。

「恵、ガッシュが有利になるように『セウシル』を!」

「……いや待ってティオ。こちらもタイミングを待つのよ。だから今はガッシュ君や八幡君を信じましょう。ティオはガッシュ君たちの方を見てて」

 そう言ってチラリと俺がいる方を見る。あれ、おかしいな。気配分散を使っているから見えないはずなのに。試しに数歩だけ後ろに移動してみたが彼女の視線も俺の動きに合わせて移動した。大海 恵! きさま見ているなッ!

(まぁ、ふざけるのはこれぐらいにして……どうすっかな)

 正直まだ勝利への道は見えていない。俺としては攻撃呪文を使わないことには賛成だがだからと言って『ラウザルク』によって何倍も強くなった力を無駄にするのは勿体ない。なんで縛りプレイしているのだろうかこの人たち。

「はぁ……」

 とにかく今は俺にできることをやろう。大海の視線を感じながら俺は移動しながらチャンスを待った。












今週の一言二言


・とうとうCCCイベの情報が出ましたね。てっきりBBが星5枠かと思いましたがまさかの配布。じゃあ、星5誰? 生放送に小倉唯さんが出るのでパッションリップなのかな?

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。