やはり俺の魔物の王を決める戦いは間違っている。   作:ホッシー@VTuber

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LEVEL.112 比企谷八幡の心臓は激痛と共に彼らの感情を伝える

 人型の魔物は両手を突き出して貫通力のある砲撃を、竜型の魔物は2本の角を変形させて伸ばして来た。今から回避するのは不可能。大海も俺と同じ結論に至ったのかすぐに魔本に心の力を溜めた。

「『セウシル』!」

 透明なバリアが俺たちを守るように展開される。いや、駄目だ。これじゃ防ぎ切れない。このままではバリアは破壊される。俺の前にいる高嶺たちよりも回復呪文を持っている大海たちを守った方がいい。咄嗟にそう判断して悲鳴を上げている体に鞭を打ち、大海とティオの体を突き飛ばしながら後方へ飛ぶ。それとほぼ同時に『セウシル』と相手の呪文が激突して破壊された。術の余波で地面が抉れ、その破片が俺の体に当たり鈍痛が体を蝕む。

「八幡君!?」

「気に、すんな。それよりも――」

「『ザケルガ』!」

 無事だったようでほぼノーダメージの大海が片膝を付いている俺に駆け寄ろうとするがそれを手で止めて振り返る。丁度そこでは人型の魔物に接近していた高嶺とガッシュが電撃を放っているところだった。人型の魔物は顔を歪ませながら両腕をクロスしてガードするも貫通力のある『ザケルガ』を防ぎ切れずに吹き飛ばされる。

「がぁあっ」

 吹き飛ばされた魔物は声を漏らしながら体勢を立て直そうとするがその前に再び高嶺たちは魔物の懐へ潜り込んだ。早い。ガッシュもそうだがそのすぐ後ろにいる高嶺も遅れずについて行っている。まさか接近されるとは思わなかったようで魔物はパートナーの人間に術を撃つように手で指示を出すが当然間に合うわけもなく――。

「『ザケルガ』!」

 ――電撃の餌食となった。頑丈な千年前の魔物とはいえほぼゼロ距離から放たれた電撃を2回も受けたのは堪えたのかすぐに起き上がれずにもがき苦しんでいる。そのまま高嶺たちは心を操られているパートナーへ向かう。魔本を奪うつもりなのだろう。

「やった、すごい!」

「っ……清麿君、危ない!」

 ティオは喜びのあまり気付いていなかったのか今まさに高嶺たちに竜型の魔物が噛み付こうと迫っていた。咄嗟に大海が叫ぶ。

「ちっ」

 彼女の叫びを聞いた彼らはすぐに後方へ逃げる。間一髪のところで竜の噛み付きを躱すことができたが魔本を奪うチャンスを潰されてしまった。

「く……そう簡単に本は奪えないか……」

 体勢を立て直した高嶺は悔しそうに呟く。竜型の魔物に邪魔されている間にやっと回復したのか人型の魔物も呻き声を漏らしながら立ち上がった。魔物たちは高嶺とガッシュに集中している。今の内に大海たちに回復呪文を使って貰おう。それでもいつも通りの動きはできないだろうけど足手まといにはならないはずだ。

「人間、何をやっている!」

 大海に話しかけようと口を開けた瞬間、今まで言葉を発さなかった人型の魔物がパートナーに向かって絶叫した。え、お前話せるの? 操られていると聞いていたのだが。

「なんでもっと強い呪文を連発しねぇ!? あんな奴らに押されてんじゃねぇよ!」

「千年前の魔物が……」

「……喋ってる?」

 大海と高嶺も驚いているのか震えた声で言葉を紡いだ。千年前の魔物に会うのはこれが初めてなのでよくわからないが彼らも魔物が話せると知らなかったらしい。もしかしてあいつらはロードに心を操られていないのか?

「お、おい!」

「あ?」

 さすがに見過ごせなかったようで高嶺が魔物に話しかけた。向こうは忌々しそうに首を傾げるがすぐに攻撃して来る様子はない。

「お前、意志があるのか? 千年前の魔物も完全にロードに心を操られてるんじゃないのか!? 俺たちはそのロードを倒しに来た! もし戦いを無理強いされてるならもうやめろ!」

「……フン」

 高嶺の問いかけに対し、魔物はただ鼻で笑うだけだった。嘲笑。真実を知らずに間抜けなことをほざく阿呆を見るような目。

「ぐッ……」

 その刹那、俺の体に激痛が走った。来る、それなりにでかいのが。片膝を付いている場合ではない。大海に支えて貰いながらフラフラと立ち上がり叫んだ。

「高嶺、避けろッ!!」

「ッ――」

「『ガンジャス・ネシルガ』!」

 心を操られた人間が呪文を唱えると人型の魔物が足元の地面を何度も殴った。その瞬間、ピシリと背中が凍りつき、大海とティオを高嶺たちと俺の間に来るように加減して“前”に突き飛ばす。そして、大海たちの前にいる高嶺たちと彼女たちの後ろにいる俺の足元から砲撃が飛び出した。あの術は地面の下から砲撃するものだ。しかも、ある程度コントロールできるようで高嶺たちだけでなく俺たちにも攻撃して来た。

「ぐぅ……ガッシュ、大丈夫か!?」

「ウヌ!」

 俺の忠告のおかげで高嶺たちは何とか直撃だけは避けられたようで多少ダメージを負っているもののすぐに立ち上がった。大海たちも攻撃範囲の外にいたため、無傷。重症なのは――直撃した俺だけだ。

「くっ……ッぁ」

「八幡君、しっかりして! ねぇ!」

 うつ伏せになって倒れている俺の元に大海が駆け寄って震えた声で絶叫する。千年前の魔物に会ってから体を蝕み続ける異常に加え、術のもろに受けたのだ。さすがにきつい。意識を保つだけでも大変だ。高嶺とガッシュも倒れている俺を見て奥歯を噛みしめている。そんな顔すんなよ。被害を最小限に抑えたんだから。

「恵、回復じゅ――」

「――フハハ……ハーッハッハッハ!」

 俺の傷を見てすぐに大海に話しかけたティオの言葉を魔物の笑い声が遮った。自然と全員の視線が彼に集まる。いや、大海だけは俺を仰向けにしようと動いていた。ちょ、痛い痛い。怪我しているのだからもっと優しくして。そんなに急がなくても大丈夫だから。すぐに死なないから。

「ロードに戦いを無理強い? 笑わせるな! 俺たちは奴のおかげで暴れられるんだぜ? 確かにロードが言うルールはある。俺たちが戦う上でルールはあるが……少なくとも俺は奴に感謝してるぜ?」

 魔物は嬉しそうに語る。口元を歪ませ、鋭い歯を見せびらかすように大口開けて訴える。それと大海さん? せっかく重要そうなことを話してくれているのだから無視しないであげて。なんでそんな必死に心の力を溜めているの?

「千年もの間、動きもできず魔界に帰ることもできなかった鬱憤を……こんな最高の形で晴らすことができる。しかも奴の心を操る力のおかげで人間は俺たちの言うことに逆らわねぇ」

「『サイフォジオ』ぉ!!」

「うぇ!? え、えーい!」

 魔物の演説を邪魔するように大海が呪文を唱えた。いきなり術が発動して人型の魔物に集中していたティオが目を丸くして驚愕するがすぐに俺に羽の付いた剣を突き刺す。俺もあまりにも唐突に突き刺されたので声すら上げられなかった。あれ、痛くない。『サルフォジオ』はあんなに痛いのに。

「そうさ、人間たち(こいつら)は心の力の電池(バッテリー)。こんなに都合のいいのはねぇぜ! さぁ、くだらねぇこと言ってないで戦いやがれ! 軟弱な現在の魔王候補どもが!」

 人型の魔物が話し終えた頃になってやっと『サイフォジオ』の効果が切れて動けるようになった。今にも泣きそうな表情を俺の顔を覗き込んで来る大海を押しのけて立ち上がる。

「清麿……私も千年も石に閉じ込められたらあんな酷いことを平気で言えるようになるのかの?」

「さぁな……俺たちには想像できないものだと思う。俺がガキの頃は半日押し入れに入れられただけでおかしくなりそうだった」

「いや、おかしくなるどころじゃねーよ」

「ッ……八幡さん、よかった。無事だったのか」

 体の調子を確かめるついでに高嶺たちの隣まで移動した俺は2人の会話に割り込んだ。千年前の魔物たちに近づけば近づくほど『サイフォジオ』のおかげで緩和されたはずの痛みが増す。だが、それと同時に俺の心臓()に流れ込んで来る感情の叫び声も大きくなる。痛い。ものすごく苦しい。思わず、服の上から胸に手を当ててしまうほど辛い。

「気が狂っても不思議じゃない。それこそ話せなくなるほど、な。でも……あいつらの感情は怒りや憎しみじゃない」

「八幡君?」

 突拍子もないことを話し始めたからか俺の隣にいた大海が首を傾げた。俺だって詳しいことはわからない。だが、わかるのだ。訴えかけて来るのだ。俺の心臓()に痛みとして。修学旅行でハイルと戦った時に魔本から流れ込んで来たサイの気持ちと同じように。だからこそ、あいつらの感情が乗った魔力すらも俺は“痛み”として感じ取れる。

「恐怖……あいつら、何かに怯えながら戦ってる。パートナーも苦しんでる。少なくとも喜んで戦っているわけじゃねーみたいだ」

「……詳しい話は後で聞かせてくれ」

 高嶺が訝しげな表情をこちらに向けながら言った。そう言われても俺もよくわかっていないのだが。サイなら何か知っているかもしれないので彼女に聞いて欲しい。

「ウヌ、八幡の言う通りならば……あの者、可哀そうなのだ。早く戦いから解放してあげようぞ!」

「……あいつらが可哀そう、か。よし、ガッシュ……あの呪文でいくぞ。お前のやりたいように戦え。そして、一気にケリをつけろ。いいな?」

「ウヌ」

 先ほどまで戦うことを止めるように説得していた彼らは千年前の魔物たちから目を逸らさない。あいつらと戦う覚悟ができたようだ。

「恵さん、ティオ……すまないが俺の指示で術を出してくれないか?」

「考えがあるのね?」

「ああ」

「もちろんいいわ。頼むわよ、ガッシュ君、清麿君」

 俺が回復したからかやっと落ち着きを取り戻した大海は笑顔で頷く。ティオも異存はないようで高嶺を真っ直ぐ見上げていた。そんな2人を見て笑った高嶺は俺に視線を向ける。

「八幡さんは相手の術の発動するタイミングがわかるのか?」

「まぁな。大きさもアバウトだけどわかる」

「なら、相手が術を使う時、教えてくれ。できれば恵さんたちの傍に――」

「――そんな甘ったれたこと言ってる場合か?」

「ちょ、ちょっと八幡君!? まさか戦うつもり!?」

 さすがに見過ごせなかったのか大海が目を見開いた。ハイルと戦った時に『セウシルリング』を思い出しているのかもしれない。

「さすがに無理だ……でも、俺もサイよりかは劣るけど気配分散できるから隙を突いて魔本を奪う。だから、ガッシュ。あいつらの注意をこれでもかってぐらい引くつもりで暴れろ」

 サイのように目の前にいても見えなくなってしまうほどの気配分散はできない。だが、ガッシュが暴れてくれれば魔物にばれることなく操られた人間に近づける。その代わり、相手の術が発動するタイミングを教えられなくなるが。

「ウヌ、そのつもりなのだ!」

「……わかった。無理だけはしないでくれ。行くぞ、ガッシュ!」

 俺から魔物たちへ視線を戻した高嶺は魔本に心の力を込める。覚悟を決めたからか、それとも千年前の魔物たちを救い出したいと言う気持ちが大きいからか。赤い本から眩い光が放たれる。

「第六の術……『ラウザルク』!」

 千年前の魔物たちを救うために戦うことを選んだガッシュに虹色の雷が落ちた。





(駄目、駄目駄目駄目! 八幡君、死んじゃ駄目! まだ何も返せてないのに……まだ、何もしてあげられてないのに……だから、生きて八幡君!)

書きながら恵さんはこんなこと思っているよなぁ、と考えていました。
もしかしたらぼーなすとらっくでこの辺りを恵さん視点で書くかもしれません。





今週の一言二言

・ぐだぐだ明治維新始まりましたね。☆5どころか☆4のバーサーカーすらほとんどいないので茶々が嬉しかったりします。できれば土方さんも欲しいんですけどまぁ、当たりませんよね。

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