やはり俺の魔物の王を決める戦いは間違っている。 作:ホッシー@VTuber
確かに最近シリアス気味になって来たなとは思っていましたが私としましてはタグに『シリアス』と加えなければならないほどシリアスかなぁ、というのが本心です。
ただこれに関しましては個人差がありますし作者の私と読者の皆さんとでは話の印象は違うと思いますので感想などで意見を頂けたら幸いです。
なお、他にも付けた方がいいと思ったタグがございましたら気軽に教えてください。付けるか付けないかは申し訳ありませんが私の判断次第となります。
これからも『俺ガッシュ』をよろしくお願いします。
「これは、予想以上に入り組んでるな」
あれだけ騒いだのに敵に見つからなかった俺たちは気を取り直してアジトの中へ入った。しかし、アジトの中は迷路のように入り組んでおり、何も考えずに歩いていたらすぐに迷いそうだった。高嶺もアジト内を観察しながら少しだけ困ったように呟いている。
「迷わないかしら?」
そんな高嶺の呟きを聞いたからか俺の隣を歩いていた大海は心配そうに彼に問いかけた。細心の注意を払っているとは言え敵に見つかるのは時間の問題だ。アジト内で迷っている暇はない。
「この遺跡について出来る限り調べたから多分大丈夫だと思う。それにサイの魔力感知があれば不意打ちを受けないしな」
「あー、そのことなんだけど」
何度か単独で通路の先や上の階の様子を見に行っていたサイが申し訳なさそうに手を挙げた。何か問題でもあったのだろうか。
「実は私の魔力感知ってまだ完全じゃないんだよね。だから魔力は感じ取れても具体的な位置までは……術とか使ってくれればわかるんだけど。それにここ、魔物が多すぎて至るところに反応があって」
「反応が多すぎて逆に訳が分からなくなってるのか」
だから単独行動を取っていたのか。てっきり早く魔物をぶちのめしたくて獲物を探しに言っていたのかと。サイなら不意打ちできるから問題にならないし。
「うーん……近くに魔物の反応は?」
「今のところ近くにはいないよ。ただこの階に数体いるのは確か。見回りしてるっぽい」
「なら近くに魔物の反応があったら教えてくれ。それだけでも違う」
「わかった。ちょっと見て来る」
高嶺の指示に頷いたサイは再び気配を分散させて姿を消した。俺と一緒に戦い始めてから魔力感知や気配分散の修行を再開したらしいが気配分散に関してはほぼ全盛期の感覚を取り戻しているらしく、俺ですら今のサイを見つけ出すことはできない。まぁ、少しでも動揺したり、大きな動きをしたり、術を使えば解除されてしまうらしいので戦いにはさほど使えないそうだ。
「き、消えた!?」
姿を眩ましたサイを見てキャンチョメは目を丸くしてキョロキョロと周囲を見渡している。ガタガタと震えているしまだサイのことが怖いのだろうか。あんなに可愛いのに。
「大丈夫か? キャンチョメ」
「あ、ああ……もちろんさ。で、でもまさかあの『孤高の群青』がいるなんて……」
「そんなに怖いか?」
思わずキャンチョメに聞いてしまった。ティオやハイルから魔界にいた頃のサイの話は何度か聞いている。だが、2人ともサイについて知っていたのは『凄まじい戦闘能力』と『魔法が使えなかったこと』、『常に独りでいた』ことだけだった。
「う、うん。有名だったからね。授業の時とか先生すら敵わなかったよ。それに……」
そこまで言ったキャンチョメだったが言葉を区切って視線を泳がせる。話そうか悩んでいるらしい。すぐに話して欲しいとお願いした。少しでもサイの情報が欲しい。それが説得の鍵になるかもしれないから。
「……あの群青色の目が、怖いんだ」
「目?」
「僕も、上手く言えないんだけど……あの目を見てるとここがキュって締めつけられて息が出来なくなるんだ。今は大丈夫だけど」
「あー、あの頃のサイの目はすごかったわね。キャンチョメとか目を合わせただけで泣いてたじゃない」
「な、泣いてない!」
胸を押さえていたキャンチョメがからかうティオに向かって叫んだ。すぐに高嶺が騒がないように注意する。ハッとして慌てて口を閉じるキャンチョメだったが不意にティオが首を傾げた。
「どうしたの?」
「あ、うん……そう言えばガッシュはサイのこと怖がってなかったなって思って」
「ヌ?」
いきなり自分の名前が出て来たからかガッシュが不思議そうに声を漏らす。ガッシュはキャンチョメと一緒にティオにいじめられていた。そのため、ガッシュもサイを怖がりそうなものだが。
「ううん、むしろ自分から話しかけてたわね。ハイルによく邪魔者扱いされて泣かされてたけど」
「ヌゥ……そうなのか?」
「何の話?」
「ぎゃあああああああ!」
偵察から戻って来たサイがいきなり話に入って来たせいでキャンチョメが絶叫した。おい、バカやめろ。見つかる。腰が抜けてしまったのかフォルゴレの元へ這って移動する彼を見ながらため息を吐いた。
「おい、サイ」
「えへへ、ごめんね。なんか反応が面白くって。ああ、それと近くとは言えないけど1体だけど魔物の魔力を覚えたよ。本当は姿も見たかったけど壁の向こうで見れなかった」
震えているキャンチョメが可哀そうに見えてサイに注意すると彼女は可愛らしく謝った後、高嶺に偵察の成果を報告した。
「未発見の部屋はあったか?」
「いくつかね。隠し通路とかもあったけど……正直全部記録するのは不可能かも。不可能と言うか時間が勿体ない。落石で塞がってるところもあったからね。敵も使わないと思う」
「そうか。ありがとう。なら計画に変更はなしだな」
サイと高嶺の話し合いが終わった頃にはキャンチョメも1人で歩けるようになったので再び歩き出した。その途中でキャンチョメたちに気配分散の話をしたり偵察から帰って来たサイがまたキャンチョメをからかったりしていると不意に高嶺が震えているキャンチョメに視線を向けた。
「そう言えばキャンチョメはナゾナゾ博士に何を言われたんだ?」
「う、うん……皆と戦おうって……」
どうやら彼らも高嶺たちと同じように千年前の魔物たちに襲われたらしい。そこをナゾナゾ博士に助けられ、千年前の魔物と俺たちが戦おうとしていることを聞いて駆けつけてくれたそうだ。ただ気になるのがナゾナゾ博士の考察だ。ナゾナゾ博士によると千年前の魔物は傷つくと決まってあるところへ帰り、元気になって再び襲って来た。しかも、それは一度や二度ではなく何度も。つまり、彼らには何かしらの回復手段があるということになる。それをどうにかしなければ追い詰めたとしても敵はゾンビアタックを仕掛けて来る可能性もある。それをされてしまったらジリ貧となって俺たちの負けだ。心の力は有限。サイでも数の暴力には勝てないだろう。まずはその回復手段をどうにかするべきだ。
「ウヌ、キャンチョメ。ともに頑張ろうぞ!」
「もちろんさ、僕の力はすごいんだぜ!」
「どうせ敵が来たらすぐ泣いちゃうんでしょ?」
「うるさい! 僕はもう泣かないんだ!」
「静かに」
ティオにからかわれて怒っていたキャンチョメをサイが止めた。更にいきなり姿を現したサイに悲鳴を上げそうになった彼の口を手で塞いで人差し指で『しー』とサインを送る。
「サイ、まさか」
「うん、いるよ。もう少し近づけば見えて来る」
高嶺の言葉に頷くサイ。そんな彼らの会話を聞いて全員が顔を強張らせる。そして、高嶺の代わりに前を歩き出したサイの後ろをついて行くと人型の魔物と竜型の魔物を見つけた。まだこちらには気付いていないようで壁を殴ったり落ちている岩を尻尾で砕いてストレスを発散していた。
「ッ――」
なんだ。今、なんか胸に違和感を覚えたような気がする。いや、違う、これは――。
「大きいのが1体、小さいのが1体か」
「やっぱり単独行動はしてないみたいだね」
「ああ、さっき覚えた魔物か?」
「ううん違う。覚えた奴は違うところにいるみたい。この近くには……ハチマン?」
「……何でもない。それよりどうすんだ? 遠回りするか?」
高嶺と話していたサイは俺の方を見て名前を呼ぶが首を振って今のところ異常はないと伝えた後、質問する。この近くに他の通路はない。あいつらを避けるには遠回りする必要がある。
「敵を見かける度に遠回りしてたらきりがない……かと言って全員で突っ込めば絶対に応援を呼ばれる」
「でも、先に行くためにはあそこを通るしかない」
「……よし、キャンチョメ、出番だ」
「……え?」
まさか名前が呼ばれるとは思わなかったのか千年前の魔物たちを見て震えていたキャンチョメが間抜けな声を漏らした。
「キャンチョメにはあの敵を離れた部屋まで誘き出して欲しい。この役はキャンチョメにしかできない」
「え、ええええええ!?」
「ば、バカぁ! そんなに無理に決まってるじゃないかぁ!」
「キャンチョメにしかできないんだよ!」
驚きのあまり悲鳴を上げるキャンチョメと声を荒げて文句を言うフォルゴレだったが高嶺も引くつもりはないのかそう断言した。キャンチョメたちの力を知らない俺が言うのは変だがさすがに無理があるのではないだろうか。こんなに怖がっているし、本人たちも泣きそう……あ、すでに泣いてるわ。
(でもなぁ)
サイなら確実に1体は倒せる。だが、相手は2体。1体を倒している間に逃げられる可能性がある上、戦闘になってしまった場合、こんな場所で戦えば絶対に他の魔物にばれる。高嶺に策があるならサイに倒して貰うのは最終手段にしてそれに乗るべきだ。
「頼めるか、キャンチョメ。この作戦はお前にしかできないだ」
「う……」
言葉を詰まらせたキャンチョメはチラリと千年前の魔物たちを見る。相変わらず彼らはストレス発散目的で遺跡を破壊していた。それを見た彼は冷や汗を掻きながら顔を俯かせる。離れた部屋に誘き寄せるということは俺たちはキャンチョメの傍にいられない。何があっても助けることができない。失敗=死の公式が立っている。そんな状況で泣き虫で臆病なキャンチョメが頷くとは思えない。
「……わかった、やるよ。僕にしかできないんだね」
しかし、俺の予想とは違い彼は頷いた。俺だけでなくティオやウマゴン、パートナーであるフォルゴレですら頷いたキャンチョメを見て驚いていた。
「……いいのね、キャンチョメ君」
「ああ……」
「キャ、キャンチョメ、正気か!?」
「うん……頑張ろうよ、フォルゴレ!」
大海とフォルゴレが声をかけてもキャンチョメの覚悟は変わらない。ただ彼の足は正直者だったようで震えすぎてタップダンスを踊っているように見えた。
「負けないよ……僕はみんなを助けるんだ! 僕は泣き虫じゃない。僕は無敵のキャンチョメ様だ!」
あんなに恐怖で震えているのに、冷や汗で脱水症状を起こしてしまいそうなのに、それでもキャンチョメは千年前の魔物たちから目を逸らさなかった。
今週の一言二言
・一言二言を書こうとした時、今週何もしていないことに気付きました。いや、小説とか生放送とかソシャゲとかはしているんですけど別段話すことがないと言いますか。