やはり俺の魔物の王を決める戦いは間違っている。   作:ホッシー@VTuber

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LEVEL.109 群青少女は災いの箱を開け、幸せの基準値を知った

「パルコ……フォルゴレ?」

 聞き覚えのない名前に思わず聞き返してしまう。大スターとか言ったけど俺には顎の割れたテンションのおかしい外人にしか見えない。だが、大海は違ったようでハッとした表情を浮かべる。

「あ、あぁ! あの!」

「大海知ってんのか?」

「ええ、日本であまり名前は聞かないけど外国で有名なスターよ。前にテレビで見たの」

「おお、そちらのお嬢さんは私のことを知っているのか! いやぁ有名なのも考えものだね!」

 うぜぇ。やべぇ、この人めっちゃうざい。仲間になると言っていたが上手くやっていけるかな。葉山の時のような拒絶反応は起こしていないようだがサイもジト目でフォルゴレのことを見ているし。

「さて、お嬢さんたちの名前を教えてくれるかい?」

「あ、はい! 大海恵って言います。こっちはパートナーのティオ。よろしくお願いしますね、フォルゴレさん」

「……比企谷八幡」

「……サイ」

「ハハ、皆よろし――」

 笑顔を浮かべながら手を挙げて言ったフォルゴレの言葉を遮るように下の方から悲鳴が聞こえる。そちらに視線を移すとキャンチョメがガタガタと震えながらティオを見ていた。

「うわああああ! や、やっぱり『首絞めティオ』だああああ!?」

「う、ウヌ……『首絞めティオ』?」

「あ、あんた何言ってんのよ! 変なこと言うと許さないわよ!」

 キャンチョメの言葉にティオは顔を紅くして絶叫する。おそらく『弱虫ガッシュ』や『孤高の群青』、『孤独のハイル』のようなティオの二つ名なのだろう。それにしても『首絞め』ってどんな二つ名だよ、どんだけ首絞めたんだよ。記憶のないガッシュも何度も『首絞め』を受けているのかドン引きした様子でティオを凝視する。

「ちょ、ちょっとティオ静かに……」

 ガッシュの目を見てまた騒ぎ始めたティオの肩を掴んで宥める大海。アジトの前で騒いだら敵が来るかもしれないからな。サイが何も言わないので今のところ大丈夫だとは思うけど。

「ハハハハ! 恵、大丈夫さ。誰が来たって私が君を守ってあげるよ!」

「……」

 慌てている大海を見て何か勘違いしたのかフォルゴレは笑いながら親指で自分を差しながら宣言した。何よりも騒いでいる奴らを見て無表情になった高嶺がちょっと怖い。サイも呆れたようにため息を吐いている。

「キャンチョメはティオを知っておるのか?」

「何言ってるんだよガッシュ! 魔界で2人していじめられてたじゃないか!」

「が、ガッシュ! そんなのでたらめよ!」

「……もう少し声抑えてね」

 さすがに見ていられなくなったのかサイが話している魔物組に注意するとキャンチョメが初めてサイを見て首を傾げる。

「えっと……誰?」

「はぁ!? なんで私のこと覚えててサイのこと覚えてないのよ!」

「さ、サイ……ッ!? ま、まさかあの『孤高の群青』だって言うのかい!?」

 サイの正体が『孤高の群青』だと知ったキャンチョメは目を見開いて数歩ほど後ずさった。そこまで驚くことなのだろうか。キャンチョメの反応に『孤高の群青』本人も吃驚していた。

「えっと……がおー」

「ぎゃあああああああああ! 食べないでええええええ!」

「ええい、やかましい! 静かにしろ! 敵に見つかって仲間を呼ばれたら終わりなんだよ!」

「オイオイ清麿。スターの私は黙ってたって目立ってしま――ゴブゥ!」

 可愛らしく両手を猫の手にしてサイがキャンチョメを脅かすと彼は大泣きして絶叫した。それでさすがに我慢の限界が来たのか高嶺が怒鳴り、笑って茶々を入れたフォルゴレの顔面を思い切りチョップする。全力でチョップしたのかフォルゴレはバタリとその場に倒れてしまった。

「うわああああ! フォルゴレええええ! 鉄の――」

 倒れたフォルゴレに駆け寄ったキャンチョメは左腕を何度も振りながら聞き覚えのない歌を歌い出した。すると、倒れていたフォルゴレもキャンチョメにつられるように歌い始め、すぐに立ち上がる。え、復活の呪文みたいなやつなの? 無敵じゃん。いや、待て。俺もサイに優しく歌いながら励まされたらできるわ。俺も無敵だったのか。

「……清麿、大丈夫なの? キャンチョメって弱いのよ? 中に入っても酷い目に遭うだけだわ」

 そんな適当なことをティオが高嶺にそう言う。確かにこれだけ臆病なら戦闘になった時に動けるとは思えない。むしろ、騒いで敵に見つかる危険が増すだけだ。

「いや――」

「――そんなことないよ」

 何か言いかけた高嶺の言葉を遮ったのはサイだった。全員の視線が彼女に集中する。

「確かに……えっと、キャンチョメ、だったっけ? 魔界にいた頃の彼は弱かったかもしれない。でも、ここまで生き残ってるってことはそれなりに理由はあるんじゃない? それこそガッシュが証明してるでしょ? 昔は弱くても強くなれるって」

 そう言った彼女は笑みを浮かべる。他の人には微笑んでいるように見えるかもしれない。だが、俺にはその笑顔に自虐的な意味が込められているとすぐにわかった。

 パンドラの箱、という話を知っているだろうか。あれはギリシャ神話の中に出て来る話であり、ゼウスが全ての悪と災いを封じ込めた箱を人間界に行くパンドラに持たせた。しかし、人間界に来たパンドラは好奇心でその箱を開けてしまう。そのせいで箱から全ての悪と災いが飛び出し、人類は不幸に見舞われるようになってしまい、パンドラは慌てて箱を閉めた。そして、箱の中に希望だけが残った、という。

 聞く分にはパンドラのせいで人類は不幸になってしまったように聞こえる。だが、この話には別の解釈があった。それはパンドラが箱を開ける前、人類は不幸――絶望を知らなかった。だからこそ、自分が不幸であるのか、幸せであるのか、絶望しているのかわからなかった。そして、パンドラが箱を開けたことで人類は気付く。自分がどれだけ不幸だったのか、幸せだったのか、絶望していたのか。人類は幸せの基準値を知ってしまったのだ。人類は皮肉にも絶望を知ったから希望を知ることができたのだ。

 サイは魔界にいた頃、『孤高の群青』と呼ばれ、恐れられていた。だが、サイも知ってしまったのである、人の温もりを。孤高であることが当たり前だった彼女は温もりを知り、失い、孤独になることを恐れ、他人に近づかなくなった。日常を知った彼女は魔界にいた頃は欠かさなかった鍛錬をサボり、弱くなった。俺とサイが出会ってからそろそろ1年が過ぎようとしているのに未だ魔力感知は全盛期に比べ、性能は低く、俺という枷を得たせいで好き勝手に暴れられなくなってしまった。

 彼女は知っているのだ。昔は弱くても強くなれることを。昔は強くても弱くなってしまうことを。

「……ああ、サイの言う通りだ。キャンチョメの術はとても役に立つ。俺たちの本当に心強い力になってくれるよ。ここで仲間になれて本当に嬉しかっ――」

「――わああああああああ!」

 そんなサイの言葉の真意に気付くことなくいい感じに締めくくろうとした高嶺だったが森の方で野鳥が飛び上がった音に驚いたキャンチョメの悲鳴に言葉を掻き消されてしまう。えぇ、これだけで吃驚してしまうん? この子、どんだけビビりなの? 驚愕のあまり腰が抜けてしまったのかキャンチョメは『フォ、フォ、フォ、フォ、フォ、フォル……』と言いながらフォルゴレへ助けを求めた。

「大丈夫、魔物じゃない。普通の鳥だ」

 すぐに高嶺が敵ではないと教えたがそれでもフォルゴレに抱えられたままビクンビクンと跳ねて死にそうになっているキャンチョメ。このまま魔本が燃やされないまま、魔界に帰ってしまいそうだ。

「清麿、キャンチョメの心臓が飛び出しそうだ!」

「……本当に役に立つの?」

 彼の胸に手を当てて叫んだフォルゴレを見てティオはサイと高嶺にもう一度問いかける。

「「……」」

 彼らの答えは無言だった。ついて来なきゃよかったかもしれない。アジトに突入する前から俺は不安になってしまった。

 










今週の一言二言


・はがオケでやっとゆかりさん当たりました。去年からずっとガチャ引き続けていましたのでめっちゃ嬉しかったです。

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