やはり俺の魔物の王を決める戦いは間違っている。   作:ホッシー@VTuber

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LEVEL.102 彼は意外と人気がある

 バレンタインデーイベント当日――と言っても今日はバレンタインデーではない。今日のイベントは『チョコ作りの予行練習』。バレンタインデー(聖戦)に向け、女子(戦士)が予めチョコ作りの練習(武器の整備)をするのが目的である。そのため、当日では駄目なのだ。まぁ、本当はチョコを受け取らない葉山にチョコを食わせることが目的だが。後、けーちゃんの『はじめてのちょこづくり』。

「チョコー、チョコー、チョコー、チョーコー」

 放課後、イベント会場である駅近くのコミュニティセンターに奉仕部4人で向かっているのだが、隣を歩くサイがご機嫌な様子でそんな即興の歌を口ずさんでいた。

「サイ、ご機嫌だね」

 そんな彼女に前を歩いていた由比ヶ浜が振り返りながら話しかける。由比ヶ浜の隣にいる雪ノ下も微笑ましそうにサイを見ていた。まぁ、気持ちはわかるよ。こんな美幼女がニコニコ笑いながら歌っているのだから。あぁ^~心がぴょんぴょんするんじゃぁ^~。

「ハチマンにどんなチョコあげようかなって! なんかすごく楽しい!」

「「……」」

 若干顔を紅くして笑うサイと俺を冷たい目で見る2人の温度差が激し過ぎる件について。俺は何もしていません、無実です。

「そう言えば、今日って来るの?」

 俺に冷たい視線を送っていた由比ヶ浜は小さくため息を吐いた後、唐突にそんなことを聞いて来た。来るって誰が? 戸塚は来ると言っていたが。どんなチョコを作るのだろうか。俺にくれるかな、戸塚。今からドキドキしてしまう。

「メグちゃんのこと?」

 戸塚のことを考えているとサイが首を傾げながら聞き返すと正解だったのか由比ヶ浜はうんうんと頷いた。確かに大海は今まで文化祭やらクリスマスやらほとんど関係のないイベントに参加していた。だからこそ今回も参加するのではないかと思ったのだろう。

「いや、参加しないぞ。仕事あるらしい」

「……何故、それを比企谷君が知っているのかしら」

「だって、ハチマンとメグちゃんってよくメールしてるし」

「ひ、ヒッキーが……メール!?」

 あの由比ヶ浜さん、何故そんな目で俺のことを見るのでしょうか。君からのメールもちゃんと返していますよ?

「だっていつも『ああ』とか『そうだな』とかじゃん! それなのにメグちゃんとはメル友ってどういうこと!?」

「どういうことって言われても……来るから返してるだけだが」

 それに由比ヶ浜への返信も大海への返信もさほど違いはない。大海からのメールは基本的に『今日の出来事』とか『仕事の話』だし。

(それに……忙しいのは当たり前だからな)

 すでに高嶺たちが千年前の魔物に襲われてから3日が経った。現在、高嶺があの古いタイルを手掛かりに敵の本拠地を調べている状況である。一応手伝おうかと聞いてみたがバレンタインデーイベントのことを知っていたらしく、そっちに集中してくれと遠慮されてしまったのだ。まぁ、こちらは素人だから足手まといになってしまう可能性もある。

 また『本拠地が分かり次第、乗り込むから準備をしておいてくれ』と言っていた。出来れば小町の受験が終わった後にして欲しいが状況によって小町の受験が終わる前に本拠地に向かうかもしれない。大海も休みを取るために必死になってスケジュールをつめて仕事をしている。今も目を回して仕事を淡々とこなしていることだろう。

「あたしにもちゃんと返信してよ!」

「だからしてるだろ」

「しーてーなーいー!」

「……ユイ、違うんだよ」

 頬を膨らませて怒っている由比ヶ浜の袖を引っ張って首を振るサイ。その表情は呆れと諦め。何故そのような表情を浮かべているのでしょうか。

「……違うって何が?」

「ハチマンはね、メグちゃん相手でもユイと同じ感じで返信してるの。『そうか』とか『大変だな』だけ。意見を聞かれた時も必要最低限だし」

「……ヒッキー」

 先ほどまで怒っていた由比ヶ浜はジト目で俺を睨んだ。いやだってアイドルからのメールとかどう返信していいかわからないし、お前の場合、どうでもいいことばかりで返信しようにも『ああ』とか『そうだな』ぐらいしか言えないんだよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 サイと由比ヶ浜からメールの返信の仕方についてご教授頂いているといつの間にかコミュニティセンターに辿り着いていた。自転車を駐輪場に停めてから4人揃ってコミセンの中へ入る。そこではイベント準備で一色をはじめとする生徒会メンバーがぱたぱたと忙しなく走り回っていた。それを玄関口から眺めていると俺たちに気付いた一色が歩み寄って来る。その腕の中には紙の束が抱えられていた。

「あ、せんぱーい。早いですねー」

「うす」

「うーす!」

「こんにちは一色さん」

「やっはろー! 何か手伝うことあるかなーと思って」

 軽く挨拶を交わした後、由比ヶ浜に聞かれた一色はうーんと首を捻った。後、サイさん。俺の真似をしてはいけませんよ、はしたない。

「そうですねー。あ、じゃあこれ貼るの手伝ってください。入り口に貼っておけばオッケーなんで細かいところはお任せな感じで」

 そう言って渡されたのは急増のB2サイズポスターだった。まぁ、ポスターと言っても色とりどりの極太ペンで手書きされたものだが。そのポスターには『未経験者歓迎! ノルマなし! アットホームな雰囲気です! 将来独立するためのノウハウと経験』と書かれていた。完全にブラック企業臭がするのですが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結局一色もポスター貼りに参加したり、手伝いに来た戸部と副会長と俺で材料の詰まった段ボールを運んだりしているとぼちぼちいい時間になってきた。一色、雪ノ下、サイ、ついでに由比ヶ浜は何を作るか話し合っている。雪ノ下とサイはともかく一色もお菓子作りをよくするそうで実力もあるらしい。え? 由比ヶ浜? 知らない子ですね。

 それから予算目的で一色に呼ばれた海浜総合高校生徒会&お手伝いメンバーや城廻先輩とゆかいな仲間たち(先代生徒会)、陽乃さんが現れ軽く挨拶を交わした。いや、まぁ城廻先輩が必要以上に俺に話しかけて来たせいで先代生徒会メンバーたちの(眼鏡)が光ったり、サイが陽乃さんを威嚇したり色々大変だったがイベントは何の障害もなく始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 正直、こんなイベントに参加する人は直接俺たちが声を掛けた人やたまたま学校の掲示板に貼り出されていたポスターを見て興味本位で訪れた人ぐらいだと思っていた。実際、参加メンバーは少なかった。20人いるかどうかである。しかし、問題は――。

「比企谷先輩って甘いのとか好きなんですか?」

「え、えっと……嫌いでは、ない、です」

「えー、先輩が甘いの好きとか意外かもー」

「でも、さっき入り口でMAXコーヒー飲んでたよ?」

「え!? MAXコーヒーってあの甘いやつ?」

 ――戸惑う俺に気付かず楽しそうにチョコを作っている1年女子グループだった。一生懸命チョコを作っているサイの近くを徘徊していると名前を呼ばれほいほい近づいてしまったのだ。抜け出そうにもタイミングを計ったように話しかけて来るので逃げられず周囲の知り合いに視線だけでSOS信号を送っている状況である。しかし、頼みの綱であるサイはチョコ作りに夢中。あの子、料理大好きだから一度調理を始めてしまうと話しかけても気付かないことが多いのだ。他の人も人に教えたり教わったりで忙しいのか俺のサインには気付かない。ダレカタスケテー!

「先輩、MAXコーヒー好きなの?」

「あ、ああ……」

「うっそー! なんか可愛いー!」

「じゃあ、チョコもとびきり甘くしなくちゃね!」

 そう言って笑い合う後輩女子3人。そう言えばマラソン大会の時に俺のことを応援していた子たちだ。戸塚曰く俺は後輩女子に人気らしいが正直意味がわからない。眼科行く?

「……ハチマン、何してるの?」

 その時、俺の後ろから聞き覚えのある妖精さんの声が聞こえた。それと同時に背中に走る悪寒。おそるおそる振り返るととても美味しそうなチョコケーキ(ワンホール)を持ったサイが笑っていた。後輩女子たちの相手をしているのに必死で思いの外、時間が経っていたようだ。

「さ、サイさん? あの、これはですね?」

「もー、ハチマンったらー。ちょっと目を離すとすぐどっか行っちゃうんだからー」

 ニコニコと笑うサイはゆっくりと俺に近づいて来る。後輩女子たちもサイの威圧にビビったのか小さく悲鳴を上げた。

「ほら、いこ」

「……はい」

 器用にチョコケーキの乗った皿を片手で持ったサイは俺の右手を掴んで引っ張る。それを拒否する勇気は俺になかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 チョコケーキおいしかったです。

 











今週の一言二言


・心臓集め――じゃなかったお団子集め楽しいなー。お団子の後は監獄塔かー、懐かしいなー。ところでバレンタインデーイベの情報まだです?
あ、孔明さんも無事に絆10になりました。

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