やはり俺の魔物の王を決める戦いは間違っている。   作:ホッシー@VTuber

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先週は更新できなくて申し訳ありません。久しぶりに修羅場でした。一応、活動報告でお知らせしたのですが、楽しみにしていた方々、申し訳ありませんでした。
ですが、おかげさまで何とか修羅場を乗り越えましたので今週から通常通り、週1更新に戻ります。



これからも『俺ガッシュ』をよろしくお願いします。


LEVEL.98 強者の背中を2人は眺め、その光景を心に刻む

「こ、孤高の群青!? どうしてこんなところに!?」

 黒い魔物の鳩尾に裏拳を当て、吹き飛ばしたサイを見てパティが叫んだ。ティオの話では魔界にいた頃のサイは『孤高の群青』と呼ばれ、他の魔物から一目置かれていたらしい。だからこそ、パティも目を見開いて驚いているのだろう。孤高と呼ばれた魔物が俺たちを守っているのだから。

「そんなこと聞いたって――」

 そう言いながら吹き飛ぶ黒い魔物を一瞥した後、先ほどまでガッシュを羽交い絞めにしていた魔物に視線を移した。今度は自分から突っ込まず、右手でちょいちょいと相手を挑発する。挑発されたその魔物は一つ吠えた後、サイに向かって突進した。

「――この状況は変わらないでしょ」

「ッ! 駄目、ドグモス!」

 ドグモスと呼ばれた魔物が拳を振るうと彼女はそれを右腕で受け止め――いや、違う。受け止めたのではない。“受け流した”。受け流されたドグモスはバランスを崩したのか前のめりになり、そこにサイの後ろ回し蹴りが叩き込まれた。蹴られたドグモスはそのまま天使の魔物に激突し、もみくちゃになって起き上がろうとしていた黒い魔物にぶつかる。あの一瞬で3体の魔物を無効化してしまった。これが『孤高の群青』の実力。

「清麿、ガッシュ! 大丈夫!?」

 再び最初の構えを取り、パティたちの出方をうかがっているサイを呆然と見ていると恵さんとティオが駆け寄って来た。

「何故、ここが?」

「人を小バカにしたようなおじさんに聞いたの」

「な、ナゾナゾ博士? ティオたちのところにも現れていたのか?」

「ええ、3週間前くらい前にね。で、今日いきなり恵の携帯に電話が入ったの! 清麿たちがピンチだから助けに行ってくれないかって」

「丁度、八幡君とサイちゃんと一緒にいたからサイちゃんの術でここまで飛んで来たの。ガッシュ君や千年前の魔物たちの魔力をサイちゃんが感知してくれて……間に合ってよかったわ」

 どうやら、ナゾナゾ博士のおかげで俺たちは助かったらしい。だが、八幡さんたちといたと言っていたが、肝心の彼の姿はない。どうしてしまったのだろうか。

「さ、さすが孤高の群青……戦闘能力だけはピカイチね。でも、魔界で一度も術を使えなかったことは知ってる! それにパートナーともはぐれちゃってるみたいだし? あ、もしかしてまだ出会ってないのかしら? だって、孤高の群青だものね!」

「……」

 やられてしまった魔物たちを見ていたパティだったが、すぐに腕を組んでサイを挑発する。だが、サイは何も言わない。それにしても『一度も術を使えなかった』とはどういうことなのだろうか。確かにサイの術に攻撃呪文は一切ない。しかし、肉体強化系の術が豊富で彼女の身体能力と掛け合わせるととんでもない力を発揮する。昔のサイを知っているティオに視線を向けるが、ティオはただ悲しそうに目を伏せているだけだった。気になるが今は目の前の敵に集中しよう。術は使えないので足手まといにだけはならないようにしなければ。

「戦闘能力が高いだけじゃこの戦いは生き残れない! ギラン!」

「ボルゥ!」

 3体の中で一番早く起き上がった黒い魔物――ギランがサイに向かって術を放とうと身構えた。それでもサイは動かなかった。八幡さんがいない今、彼女は術を使えない。このままでは――。

「恵、例の呪文よ!」

「はい!」

「例の……呪文?」

 だが、サイの代わりに動いたのはティオと恵さんだった。確かにティオたちの術ならサイを守ることができる。でも、わざわざ『例の呪文』と言ったのは何故だ?

「『ギガノ・ガランズ』!」

 そんなことを考えているとギランのパートナーが呪文を唱え、ギランから巨大なドリルが射出された。それとほぼ同時に恵さんも呪文を唱える。

「『ギガ・ラ・セウシル』!」

(ッ! 新呪文!?)

 ティオの術が発動するとギランとドリルを囲むように円形のバリアが張られた。見た目は『セウシル』と同じ。だが、その壁は敵を囲っている。まるでバリアでできた檻のように。

「な? 敵の周りに円形の壁?」

「ええ、壁よ。でも、身を守るものではないわ。そうね、ガッシュの盾の呪文と少し似ているかしら」

 ニヤリとティオが笑うとギランの放ったドリルがバリアの壁にぶつかり、“跳ね返った”。跳ね返ったドリルはそのまま――。

「そう、自分の攻撃が全部バリアの中で跳ね返る……自業自得の術よ!」

 ――ギランに直撃した。

「すごいのだ……」

 その光景をガッシュは唖然とした様子で眺めていた。これがティオと恵さんの新呪文。まさに自業自得の壁。

「確かに私には攻撃呪文はないし、強力な盾の呪文もない」

 そして、聞こえる。音もなく、気付かれることもなく、忍び寄る声が。急いで声のした方を見るとギランの本の持ち主は地面に倒れ、その傍に燃える魔本を放り投げるサイがいた。あの騒ぎの中、誰にも勘付かれることなくギランのパートナーへ奇襲をかけたようだ。

「どんな噂を聞いたのかは知らないけど……残念ながら私が一番得意なのは“隠密行動”なんだよね。術も使えなかったんじゃなくて、必要なかったから使わなかっただけだし」

 呆れた様子でパティに言ったサイは左手に持っていたジッポライターを一度だけカチンと開閉した後、証拠を見せるように姿を眩ます。そして、いつの間にかティオと恵さんの前に移動していた。

「なっ……いつの間に!?」

「これぐらいで驚かれちゃったら拍子抜けしちゃうかも」

 肩を落としてため息を吐いた後、例の構えを取るサイ。左手を隠すような独特な構え。

「なんかいつの間にかティオたちも強くなってるみたいだし。早いとこ、テストプレイも終わらせないとね」

 先ほどからテストプレイと言っているがサイは千年前の魔物たちをただの練習台としか見ていないのか? いや、待て。そうだ、強くなっていると言えば――。

「ティオ、恵さん。いつの間にこんな新呪文を?」

 敵がサイを警戒して身動きが取れなくなっているのを確認した後、ティオたちに質問した。

「あなたもナゾナゾ博士と戦ったのなら理由はわかるでしょ?」

「……俺たちを成長させるための戦い」

「人を小バカにした態度は腹が立ったけどあの博士のおかげで私たちは強くなれた」

 そこで言葉を区切った2人はこちらを振り返り、微笑んだ。

「「あなたたちを助けられるくらいにね」」

「……」

 ああ、そうか。俺たちだけじゃなく、2人も強くなったのか。こんなにも、強く。

「でも、まだサイちゃんには届いてなかったみたい……」

「いきなりあんなことしちゃってくれて……本当、いつになったら追い付けるのかしら。私たちが術を防いでくれるって信じてくれたみたいだからまだいいのかもしれないけど」

 笑っていたティオと恵さんだったが、すぐに落ち込んだように肩を落として少し離れた場所にいるサイの背中に視線を向けた。『ラウザルク』を取得して強くなったと思っていたが、あの子の強さはもはや別次元である。パートナーなしで3人の魔物相手を難なく熟し、あまつさえ一瞬の隙を突いて魔本を燃やした。恵さんたちには申し訳ないが、おそらく彼女たちの支援がなくてもサイならあの状況をどうにかできただろう。

「ガッシュ、見ておけ」

「ヌ?」

「……あれが強者の背中だ」

 ガッシュと出会って間もない頃に出会ったブラゴ。

 少し前に俺たちを一方的に追い詰めたバリー。

 そして――術すら必要のないサイ。

 きっと俺たちが王様を目指す途中、壁となって立ち塞がる魔物たちだ。乗り越えなくてはならない存在だ。

「……ウヌ」

 俺たちを守るように構える彼女の背中を眺めながらガッシュは一度だけ頷いた。悔しいがサイと戦うことになったら俺たちは何も出来ずに負ける。一方的にではない。いつの間にか、だ。そして、サイだけでも驚異なのにサイの思考を読み、考え、すぐに行動でき、魔物相手でも正面からぶつかれるあの八幡さんがパートナーである。たとえサイに攻撃呪文がなくても俺たちは負ける。それだけはわかった。

「すごいのう、清麿」

 その時、不意にガッシュが笑顔を浮かべてそう言った。何だろうと俺はもちろん、ティオと恵さんもガッシュを見る。

「私はサイが味方でいてくれて嬉しい。あんなに強い者が私たちの味方になってくれているのだ。これほど頼もしいことはない」

「……あら、私たちだってサイほどじゃないけど頼もしいわよ? サイ、ちょっと時間稼いで!」

「了解。それじゃ、行って来まーす」

 ガッシュの言葉に一瞬だけムッとしたティオだったが俺の方をチラッと見た後、サイへ声をかける。今まで動かなかったサイがティオの言葉に頷き、魔物たちへ突っ込んだ。

「恵、二つ目の新呪文よ!」

「わかったわ」

「新呪文が……もう一つ?」

 ナゾナゾ博士との戦いで呪文が2つも増えた、ということだろう。『ギガ・ラ・セウシル』は自業自得の壁を貼る術だった。では、もう一つの新呪文の効果は一体?

「いくわよ、ティオ!」

「ええ!」

 恵さんの掛け声に頷いたティオは両手を真上へ掲げた。そして、恵さんの持つ魔本が輝く。

「第五の術、『サイフォジオ』!」

 術が発動するとティオの頭上に剣が現れた。刀身の上に赤い球体があり、その左右に翼のようなものが生えている。もしかして、攻撃呪文?

「清磨、避けないでね!」

 だが、何故かティオはこちらを振り返った。そのまま両手を勢いよく振り降ろし俺に向かって――。

「せえええええええい!」

「おぉおおおおおおおおおおおお!?」

 ――剣を突き刺した。




お話はこのようにゆっくり進みます。
急いで味気ないのも嫌なので……早く続きが読みたい方、申し訳ありません。









今週の一言二言

・なんというかマスターってすごいなって思いました。え? 私?
黄金林檎温存のためにほとんど出撃してません。サブナックさんを師匠でワンパンするのが楽しかったです。


・あ、メリークリスマスです。

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