雨に濡れ落ちた花   作:エコー

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比企谷八幡の休日は妹のモーニングコールから始まる。
雪ノ下雪乃の休日は魔王の雄叫びから始まる。

今回はちょいエロです。
一応、直接的な語句、表現はナシで書きました。
こんなの書いたもんだからR15にするはめに…

ではどうぞ。


3 彼と彼女の休日

 

3 彼と彼女の休日

 

5月31日 日曜日早朝。

 比企谷八幡の部屋。

 

『比企谷くん…』

 雪ノ下雪乃は潤んだ目で俺を見つめる。

 その白く透き通った肌は紅潮し、熱を帯びている。

『本当にいいのか、雪ノ下』

 互いの素肌が触れ合っているせいか、俺も雪ノ下も呼吸が荒い。顔を真っ赤にして両手を広げて、雪ノ下は俺をいざなう。

『ん、きて…』

 俺は雪ノ下に誘導されるまま分け入った。出来るだけ、やさしく、やさしく。

『…ん、んぐっ…はぁはぁ…』

 熱い。雪ノ下に包まれている箇所だけでなく、全身が熱を帯びているように。

 俺の胸の中には喜びが溢れ、透き通った雪ノ下の双眸には涙が溢れていた。

『んっ…んふ、んっく…ふぁ……あっ、あっ、あ。ん…』

 夢中で雪ノ下を愛する。雪ノ下はそのしなやかな肢体を時折反らせて、応えてくれる。

 そして、俺に限界が訪れた。

『…雪ノ下っ!』

 俺の全てを受け止めてくれたその白い肌は、朝日に照らされて紅潮していた。

『あ、あ、あ…はちま…ん…っ』

 

『…はち…まん…おにい…ちゃ…んっ!」

 

「おにいちゃん!」

 え?

 耳元に聞こえる妹の小町の叫び声で、俺は現実に引き戻された。

 そこは俺の部屋。勿論そこに雪ノ下がいる訳は無く、夢であったことを思い知らされる。しかし、ひとつだけ夢ではないことが起きていた。

「あれ…」

 やべえ、パンツの中がえらいことになってる。

 つーかなんで小町がいんの!?

「おにいちゃん、まーだ寝てるのかね。今日はいいお天気だよ。ささ、お洗濯するから脱いじゃって~」

 強引に布団を剥ぎ取りうとする妹。いつもならその遠慮の無さも可愛いから許すが今日は事情が事情である。

「わ、よせ、ばか…」

 下半身だけは見せてなるものかと、必死の抵抗。

 何故かって?勿論、妹の教育上良くないからに決まってる。

「ん~? なんでそんなに拒むのかなぁ?」

 小町はニヤニヤしながら、更に布団を強く引っ張る。この掛け布団だけはぜっったいに死守せねば。負けられない戦いがここにある。

「あ、あとで自分で洗濯機に入れとくからっ」

 ジトっとこちらに向ける小町の目がこわい。妹に恐怖を感じる兄って…不憫だ。

 

 だが、小町は。

「ふふーん…あっそ。じゃお願いね~」

 意外とあっさり退いてくれた。しかし、小町の不意打ちがカウンター気味に飛んできた。

「あ、そうそう。夢の中で、雪乃さんとナニしてたのかなぁ~?」

 夢を思い出して顔が真っ赤になる。ニヤリと嫌な笑いを浮かべる小町。

「ゆ、雪ノ下あぁ~なんて叫んじゃって」

 (夢の中で)昇天した時の雪ノ下の紅潮した顔がフラッシュバックされる。

「う、うっさいばか、あっちいっててよっ」

 何故か若干乙女な俺の必死かつ弱々しい抵抗に笑いながら小町は部屋を出た。

「…やれやれ。夢とはいえ雪ノ下とあんなことしたなんて、誰にも言えねぇな。しかも夢精まで…」

 その時俺は、ドアの外に小町の気配が残っていることに気づかなかった。

「ふむふむ。そうだねぇ。小町は聞いちゃったけどねぇ~♪」

 小町のニヤニヤは果てしなく加速していく。

「ね、夢の中の雪乃さん、どうだった? 優しかった? 気持ちよかった?」

 小町さん、そういう興味本位で実の兄のトラウマを増やしにかかるのはやめていただきたい。

「…そーいえばっ」

 急に人差し指を立てた小町の声色が変わる。

「小町最近チーズタルトにはまってるんだよねぇ~」

 わかってるよね、という目で俺を見下す、いや見下ろす小町。どうやら雪ノ下に内緒にする為の口止め料はチーズタルトに決定したらしい。

 やはりわが妹には勝てないな。あらゆる意味で。

 小町という超弩級小型台風が去った後、俺はベッドの縁にに座りなおす。

「…ふう、とりあえず起きなきゃな」

 今日の俺は、予定が一杯だった。もちろん殆ど単独行動だが。

 さて、まずはトイレだ。

 べ、別に変な意味じゃないんだからね。

 

 はあ、あんな面倒な依頼、受けるんじゃなかった。

 

    ☆     ☆     ☆     

5月31日 日曜日

 雪ノ下雪乃の部屋。

 

「ひゃっはろ~雪乃ちゃん」

 朝一番の着信は、休日の機嫌を左右するには充分効果的だった。

 電話の内容は、たいした用件ではなかった。比企谷くんと仲良くしているのかとか、比企谷くんとの仲は進展したのかとか、比企谷くんとのデートに良い場所を見つけたとか、何か変わったことはないかだとか、本当にどうでも良い内容だった。私はパジャマの襟を直しつつ適当に聞き流す。

 ただ、遊びに来たいという陽乃姉さんの申し出だけは断固拒否した。

「さて、と」

 眠気覚ましと、気分を変えるために紅茶を淹れる。今朝の茶葉はオレンジペコ。

 

 ティーカップを片手に自室のパソコンの電源を入れる。立ち上がるのを待ってデスクトップ画面に置かれたファイルを開く。

 ファイルの中身は、『アザレアの亡霊』についての新聞記事や報道の記録だ。

「何故この季節にアザレアの花なのかしら…」

 季節は梅雨間近。もうアザレアの季節は終わる頃だった。

 

 アザレア。

 別名、西洋ツツジ。4~5月頃に開花する。

 花は八重咲きで鉢植えなどで売られていて、有毒物質であるグラヤノトキシンとロードヤポニンを含む植物。

 

 私が植物のアザレアについて知っているのはこの程度だ。

「アザレアって、何かの比喩表現なのかしら。それとも何かのキーワードかしら」

 大体において、事件現場に同種の遺留品を残す犯人は、自己顕示欲が強いか、またはその遺留品そのものに強い思い入れやメッセージ性を持つ場合が多い。

 その観点から、アザレアを何かの比喩、もしくはメッセージに使用しているとしたら、何を喩え何を指しているのか。

「とにかく的を絞る必要があるわね」

 パソコンをネットに接続し、アザレアについて検索してみる。

「駄目だわ。もっと関連付けるキーワードが無いと的を絞ることさえ出来ないわ」

 事件のことを念頭に置きつつ、私は朝食の準備を始めた。

 

    ☆     ☆     ☆    

6月1日 月曜日

 放課後。奉仕部部室。

 今日もここに比企谷八幡の姿は無い。

「ヒッキー、どうしちゃったんだろう」

 由比ヶ浜結衣にいつもの太陽のような笑顔は無い。

「さあ。登校はしているのでしょう? だったらただのサボりよ」

 紅茶を入れながら受け答える雪ノ下。

「うん。でもなんか変なんだよ。話しかけても生返事だし、昼休みもいつもの場所にいないし。何より理由無しにサボったりしないじゃん」

「…そう。ね」

 由比ヶ浜の前にマグカップが差し出される。

「ありがと、ゆきのん」

 窓際の自分の席に戻り、雪ノ下も紅茶を口に運ぶ。

「熱っ」

「だ、大丈夫?」

「大丈夫よ。ごめんなさい。ちょっと考え事をしていたものだから」

 取り繕う雪ノ下を由比ヶ浜は見つめる。

「ゆきのんも…なんか変」

 さすが空気を読むのが特技というだけあって、由比ヶ浜の人間観察眼は鋭かった。

「ヒッキー、このまま来ないつもりなのかな…」

 由比ヶ浜は、先週の件をかなり気にしていた。

「さあ、あの男の考えることは解らないわね」

 依頼は無く、それから程なくして解散となった。

 

    ☆     ☆     ☆    

「遅いな…」

 その頃、俺、比企谷八幡は市内のとあるコーヒーショップにいた。

 

 




お読みいただきありがとうございます。
第3話、いかがだったでしょうか。
冒頭は、まさかの夢オチです。ベタですみません。

これに懲りずにまたご来訪ください。

ではまた次回。

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