雨に濡れ落ちた花   作:エコー

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この物語も今回で終わり。

では、どうぞ。





27 彼と彼女と彼女の間違いはまだ続く

27 彼と彼女と彼女の間違いはまだ続く

 

「ヒッキー、あたしと…えっちしよ」

「…は?」

 ビチヶ浜さん、今なんと仰いましたのでしょうか。

 生まれて初めて聞いた言葉に、頭は完全に業務停止処分。

 一瞬、いや十回くらい耳を疑った。「瞬」てどんな単位? 数学苦手な俺はわからん。

 とにかく訳わからん。

 椅子を鳴らして雪ノ下雪乃が立ち上がる。

「ゆ、由比ヶ浜さん!?」

 アホのビチヶ浜さんは俺にピタっとくっついて雪ノ下に赤ら顔スマイルを送る。

 同様に顔を紅潮させている雪ノ下は二の句が継げずに、あうあうと下顎を上下させている。

「あたしは全然構わないもん。ヒッキーのこと…す、好きだし」

 え? 何さらっとすごい事言ってくれちゃってるのこの子ったら。こっちまで赤面しちゃうじゃないの。

 それにしても部員全員が赤面してる部活動ってなんなの。

 不意に由比ヶ浜結衣が俺に舌を出してウインクしてくる。

 なんだ。何か裏があるのか?

 状況を考える。

 柔らかくて大きいな由比ヶ浜のおっ…じゃない、さっきは由比ヶ浜が騙された格好になった。ならばこれは…

「だってヒッキーは両手ケガしてるじゃん? だから、その…ひとりでするのも無理だよね。ならあたしが…」

 それは介護の領域じゃないだろうが。つーか言いながら俺の肩に『の』の字を書くな。

 もうお前の魂胆は解ってるから。

「…由比ヶ浜さん。本気で怒るわよ」

 雪ノ下の反応を見て、由比ヶ浜はにやっと笑う。その変貌振りに、明らかに雪ノ下はたじろいだ。

「え? なに…由比ヶ浜さん…?」

 何かが弾けた様に由比ヶ浜が笑いこける。俺も釣られて笑ってしまう。

「…雪ノ下、やり返されたな」

 未だ事態が飲み込めずにいる雪ノ下に説いて進ぜる。

「あのな、おまえがいけないんだぞ。由比ヶ浜をからかったりするから」

「…あ」

 今度は自分がからかわれる側になっていたのだと雪ノ下は漸く気づく。

 みるみる雪ノ下の顔は赤くなり、しまいには机に突っ伏してしまった。

「やったよヒッキー、ゆきのんに勝った~」

 無邪気に喜ぶ由比ヶ浜。さっき『えっちしよ』なんてビッチ発言をした奴とはとても思えない。

「でも、おまえもやりすぎだぞ。さっきのやつ、一瞬本気かと…え?」

 不意に由比ヶ浜は俺に身体を寄せ、腰を浮かせる。そして。

 

 ちゅっ。

 

 頬に由比ヶ浜の唇の感触を感じた。

「へへへ、これでゆきのんとおそろい、だね」

 なんだその「あの子が持ってるからあたしもオモチャ欲しい」みたいな理論。

 よそはよそ、うちはうち。そう親から言われなかったか?

 もうひとつよく言われたのが「お兄ちゃんなんだから我慢しなさい」である。ま、仕方ないな。俺が親でも目が腐った長男よりも小町のほうが断然可愛い。

 小町よ感謝しろ。お前の可愛さは、俺が可愛さの相続を全て放棄したからなんだぞ。

 つーか由比ヶ浜、急にキスなんかするなよ。ちょっとだけ現実逃避しちゃったじゃないか。

 雪ノ下は、口をパクパクさせている。滅多に見られない光景だが、俺は俺で心臓が跳ねまくっていてそれどころではなかった。

「てかさ、やっぱりゆきのんもヒッキーのことを…だったんだね」

 攻勢と見るや雪ノ下を攻め立てる由比ヶ浜の姿は、まるで悪戯っ子のように魅惑的で、顔を覆う雪ノ下は、まるで無垢な少女のように純粋に見えた。

 

「ゆきのんてば、素直じゃないんだから」

 雪ノ下は顔を真っ赤にして、その長い黒髪で手遊びをする。

「もう、由比ヶ浜さんに仕返しされるなんて…」

 本当に悔しそうに横を向く雪ノ下に、由比ヶ浜が抱き付く。

「ゆーきのん、可愛いっ」

 

 そして一言。

「あたし、ゆきのんには負けないからね」

 雪ノ下も、その主語も目的語も無い言葉に返す。

「私も、負けないわ」

「何の勝負だよ、まったく」

 二人の標的になっていることに気がつかない振りをしながら、俺はいつものように読みかけの本を開こうとした。

 両手の怪我を忘れて。

「いてて」

 仕方なく俺は喧々諤々、いちゃいちゃゆるゆりしている雪ノ下雪乃と由比ヶ浜結衣を眺めた。

 雪ノ下雪乃が襲われ、由比ヶ浜結衣は憤慨し後悔した。

 俺は、両手を負傷したが何とか無事だ。

 

 事件のことを思い返してみる。

 雪ノ下陽乃への逆恨みから始まったこの事件。

 この事件は、俺達にとってどんな思い出になっていくのであろうか。

 二度も怖い思いをしてしまった雪ノ下雪乃。

 友を救おうとしてもがき苦しんだ由比ヶ浜結衣。

 そして、結局雪ノ下陽乃さんに良い様に操られたとしか思えなかった、俺。

 

 気づいたのはひとつ。

 友達じゃなくても、仲間じゃなくても、繋がりはあったんだ。

 あの時、倉庫の中でみんなに囲まれた時、俺は確かに感じていた。

 

 俺がしてきたことは、今回の事件も含めて間違いだらけなのかもしれない。

 しかし、その間違った方法の結果、それでも雪ノ下雪乃を救うことは出来た。

 雪ノ下の心の傷は、由比ヶ浜がいれば大丈夫だろう。二人はそれだけの関係を築いているはずだ。

 ならば俺は、いつもの俺に戻るとするか。

 この先に何があっても、この平和な日々がつつがなく続く事を願いながら。

 

「…なにカッコつけてんのよヒッキー、キモいっ」

「そうね、とっても気持ち悪いわ。特にその優しい微笑が、ね」

                                            了

 

 




今回もお読みいただき、ありがとうございました。
そして第1話から続けてお読みいただいた方々、本当にありがとうございました。

今回の物語は、当初は完全な推理モノにするつもりでした。
しかし文章力の無さとアイデアの貧困さが影響して、こんなカタチになりました。
楽しんでいただけたでしょうか。
表現、文章、言い回しなど、解り難かったでしょうか。

もしよろしければ、ご意見ご感想などお寄せくだされば幸いです。

では、ありがとうございました。

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