ベルの大冒険   作:通りすがりの中二病

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師弟

 

「…余の弟子に、か?」

「はい!僕を、僕を弟子にして下さい!お願いします!」

 

土下座をする様な勢いで、ベルは渾身の篭った言葉と共に頭を下げる

そのベルの様子を見て、バーンは射抜く様な視線でベルを見る

ベルの今の気持ち、それはバーンにもある程度は理解できる

強い力に魅せられる、強い力に憧れる、強い力に惹きつけられる、老若男女関係なく他者を魅了する単純明快な解。

 

しかし、それとこれとは話は別である。

 

如何に相手が自分の恩人と言えど、仮にも『大魔王』が今まで培ってきた力と技術はそう易々と授けられる事は出来ない

今まで大魔王が数十年数百年数千年という時を掛けて磨き、培い、鍛え、体得した力と技は安くも軽くもない。

 

それは例え相手が命の恩人であっても、純心無垢な子供であっても同じ事

つまらない輩や脆弱な輩にはその片鱗すら触れさせる気はない。

 

それがバーンの答えだ。

そして何より

「ベル・クラネルよ、そもそも其方は勘違いしておる…例え余に弟子入りしたとて、勇者や英雄にはなれん」

 

そして魔王は告げる、その根本から立ち塞がる問題の根を。

 

「余は魔王だ、決して勇者や英雄ではない」

 

魔王は告げる、その存在の在り方を、互いの存在の意味を。

 

「ベルよ、其方が読んできた本や話では魔王はどの様な所業を行ってきた?」

「…それは…」

「人を救っていたか?街や都市を守っていたか?一国の王や姫君に賞賛され褒美の一つでも賜っていたか?」

「………」

「――違うであろう?人を襲い人を殺し、街や都市を火の海と瓦礫の山に変え、世界中に死と恐怖と絶望を振り撒く存在…それが魔王だ。それは余とて例外ではない」

「で、でもバーン様は!」

「この村の者には其方を含め少々世話になった、魔王には魔王なりの礼儀はある

余はこの村を襲う理由はなかった、だがもしもそれに足る理由があったのならば…余は躊躇いなくこの村の者全てを皆殺しにしただろう

ベル・クラネルよ…余の弟子になるという事はそういう意味だぞ?」

 

その瞬間、全てが変わる

二人を取り巻く世界が、その在り方を変える。

 

 

「――そして何より、安くないぞ?――」

その瞬間、ベルの全身が冷や汗を吹き出す。

全身を氷の槍で串刺しにされたかの様な痛烈な悪寒と衝撃

空気そのものが鉄塊となっているかの様な重力感

肺がまともに機能せず、呼吸すらまともにできない圧迫感

心臓を鷲掴みにされている様な恐怖感

脳髄を挟まれているかの様な危機感

魂を握り潰されそうな絶望感

痙攣するかの様に両手足はブルブルと震え、歯の根が合わずガチガチと音が出る

知らない内に目尻から涙が流れる、口の端から泡立った唾液が垂れる

反射的に膝をつき頭を垂れて、腹の中の物をぶちまけて、地面に平伏しそうになる。

「仮にも大魔王を名乗る余の集大成、幾百幾千という年月を重ねて鍛え磨いた我が力と技

迂闊に触れようものなら、いくら其方と言えど余は黙っておれぬぞ…それ相応の代償を覚悟して貰わねばならぬ」

それは恐らく、此処に来て初めてバーンが放つ空気

大魔王としての覇気であり闘気、大魔王バーンとしての威圧感であり迫力。

「――命懸け、では足りぬぞ?」

 

バーンからすれば、それは戯れやお遊び程度のレベル

だがしかし、それは嘗て六軍団長をも威竦ませ圧倒した大魔王の力の片鱗

それはベル・クラネルにとっては絶対的な恐怖の体現

瞬時に脳や頭を飛び越えて、魂でベルは感じ取る。

――死ぬ――

――殺される――

 

 

――逆らったら死ぬ――

 

 

――歯向かったら殺される――

――何か一つの切掛があれば、自分はこの人に殺されて死ぬ――

理不尽に命を嬲られて、不条理に蹂躙される…それが今ベルが居る世界

自分の意思など存在しない、自分の自由などありはしない。

 

きっと、虫から見た人間とはこんな感じに映るのだろう

ただそこにいただけで踏み潰される、ただ飛んでいただけで叩き潰される

捕まったら気の向くままに手足をもがれ、頭や胴体を引き裂かれる。

今のベルは、正にそんな状況の様に感じていた

全ては絶対的な神が決める事であり、絶対的な魔王が行う事

それに逆らえば即座に死ぬ、それが今ベルが感じる世界の在り方だ。

「――ベル・クラネルよ、其方に問おう

己が悲願、野望、願望、その達成のために幾多の屍の上を歩く覚悟はあるか?血の海を渡り修羅の道に進む事も躊躇わぬか?人道を外れ魔道の果てを悪鬼羅刹となって進み続け、己が覇道のためなら非道外道と成り果てる事も厭わぬか?其方にはその覚悟があるか?」

 

「…………」

「無いのなら止めておけ。その様な半端な覚悟で余の弟子となった所で、数日と持たず命を落とすだろう

弟子入りなら他を当たるが良い、余とて其方が無駄に命を落とす事は本意ではない…それが互いのためだ」

それで言うべき事は終わったのか、バーンは再び歩みを進める

俯き震えるベルの隣を通り過ぎて帰路を行く……それとほぼ同時だった。

「――覚悟は出来たのか?」

通りすぎるバーンの眼前に、再びベルは立つ

相変わらず体は小刻みに震えているが、それでも俯いたまま必死に呼吸を整えて

顔を上げる

紅い瞳と大魔王の瞳が再び交わり、ベルが口を開く。

「…僕、今までずっと…バーン様に聞きたくても聞けなかった事があります…お聞きしても、宜しいでしょうか?」

「…よい、申してみよ」

 

バーンの返事を聞いて、ベルは粗い呼吸を整える

心身を共に落ち着かせるように、深呼吸を数回繰り返して

 

 

「――バーン様が戦った『勇者一行』って、どんな人達でしたか?」

 

 

それは、今までベルがずっとバーンに聞きたかった事

聞きたくても今までずっと口に出来なかった問い。

「――強き者達だった。単純な肉体の強さだけでなく、屈強な精神力を兼ね揃えた強者だった」

 

どこか恨めしい様に、どこか悔しむ様に

 

「そして何より、諦めの悪い連中だった」

 

どこか面白そうに、どこか楽しそうに、バーンは語る。

 

「勇者と呼ばれた少年は、幾度となく余に立ち向かってきた。

力の差を見せつけ、父親が死に、仲間は倒れ、最強の武器も余は叩き斬った

だが勇者は余に立ち向かってきた、新たな力と武器を得て、仲間達と共に立ち上がり、絶望的な状況から余に立ち向かい続けた」

 

「………」

 

「だが、それでも余の方が上だった。勇者の新たな力と武器も、新たに得た技も、その仲間達も、余は再び打ち負かした

だがそれでも勇者は……いや、勇者達は諦めなかった」

 

――生憎と、私以上の切れ者ならもういる――

 

――くれてやるぞ!俺の生命!!――

 

――破ったぜえぇ!天地魔闘の構ええぇ!――

 

――バーン!もう絶対に放さないぞ!俺と一緒に…コイツを食らええぇぇ!――

 

 

「あの者は諦めなかった」

 

 

――あんた等みてえな雲の上の連中に比べたら、俺達人間の一生なんてどの道一瞬だろう?――

 

――だからこそ結果が見えてたってもがき抜いてやる!一生懸命に生きてやる!――

 

―― 一瞬…だけど閃光の様に!まぶしく燃えて生き抜いてやる!――

 

――それが俺たち人間の生き方だっ!――

 

――よっく目に刻んどけよ!このバッカヤロオオオオオォォォォ!!――

 

 

「既に敗北は決まっていた筈だった。例え余を殺していたとしても、奴等の敗北は既に履がえせなかった筈だ

既に殆どの仲間は戦闘不能だった、体力も魔力もほぼゼロだった、戦う術などなかった筈だ…だが、あの者達は諦めなかった」

 

「………」

 

「だがそれでも、余の方が上だった。如何に覇気や気迫があろうとも、魂だけでは余には勝てん、余を殺せん、余の勝利は揺るぎ無かった筈だ」

 

――まだ、手がある…最後の手が!――

 

 

 

「故に勇者は、『自分』である事を捨てた」

 

 

 

「……どういう、意味ですか?」

「奴は文字通り捨てたのだ、己が人である事を仲間の為に、平和の為に、勝利の為に捨てたのだ…奴はあの時、余を殺すためだけの魔獣となったのだ」

「っ!!?」

 

「恐ろしく強かった、仲間と世界を救う為に全てを捨てた勇者は…紛れもなく最強の存在だった」

 

――力が正義…常にそう言っていたなバーン!――

 

――これが、これが!これが正義か!!?より強い力にぶちのめされればお前は満足なのか!――

 

――こんなものが!こんなものが正義であってたまるかああぁぁ!――

 

 

「余にとって、力は絶対のルールであった。力こそが絶対の真理であり強者こそが正義だった

そして、余も捨てた。余も勝利の為に全てを捨てた、己が肉体を異形と化し勇者に挑み…」

 

 

――さよなら、大魔王バーン――

 

 

「――そして敗れた」

「――――」

「後は其方の知る通りだ。勇者に敗れた余は世界を超えて、未知の異世界であるこの地にまでやってきた

…恐らく最期の瞬間に、破滅する肉体を捨て本体のみを蘇生させ、不完全な移動呪文でも使ったのだろう」

 

そしてバーンは夜空を見上げる。

そこに浮かぶ満月をじっと見据えて、その先にあるであろう世界を見る。

 

「勇者に敗れ、魔王軍は壊滅し、己が力のほぼ全てを失い、未知の世界に流れ着き、あるのは今やこの老いた肉体だけだ」

 

そしてここで再びバーンの眼光が変わる

その目に強い意志と強大な信念を纏わせて、再び告げる。

 

「――だがなベルよ、余は諦めぬぞ

失ったモノは再びまた手にすればいい、力を失ったのなら再び身に着ければいい、軍も城もまた再び作り直せばいい」

 

「………」

「世界が違うのなら、再び渡ればいい。方法が解らぬのなら探せばいい、探しても見つからないのなら余自身が作ればいい…現に余はこうしてこの地にいる、ならば再び舞い戻れる道理はあるという事だ」

「…………」

 

「決して楽な道ではないだろう、恐ろしく困難を極める道になるだろう…だが、それでいい、そうでなくてはならん

そうでなくては、余は絶対に奴等を越えられないだろう

あの絶望的な状況から踏ん張り、這いずり、足掻き、そして余に勝利した勇者や大魔道士を超えるには、余もこの程度の状況を乗り越えなくては到底不可能だろう」

 

そしてバーンは視線を下に向ける、そこに入るベルに視線を置く。

 

 

 

 

「――ついてこれるか?――」

 

 

 

 

試すように問う、定めるかの様に尋ねる

大魔王の双眼の直視を受けて、ベルの体に走る緊張や重圧も先程とは比較にならない程に大きくなる。

 

それからどれだけ時間が過ぎただろう?

両者は黙り夜の帳が深みを増し、周囲の音は水場の音と僅かな虫の声だけ

 

夜の静寂が場を支配しておよそ数分たった時だった。

 

「…僕は今までずっと、絵本や御伽噺に出てくる勇者や英雄に憧れていました」

 

それはバーンが求める答えとは一致しない言葉

しかし完全に無関係とは思えないその語気に、バーンは少しばかり耳を傾ける。

 

 

「自分もこんな風になりたい、こんな風に強くなりたい、こんな風に格好良くなりたい、自分もこんな冒険がしたい

難攻不落のダンジョンに挑んで、強大なモンスターを相手に勇ましく戦って、お姫様みたいに可愛くて綺麗な女の人と仲良くなりたい…そう思っていました」

それは物心ついた時よりベルの心の内に秘められた願い

 

「大きくなったら迷宮都市に行って冒険者になる、いつか自分も絵本や御伽噺に出てくる勇者や英雄みたいになる、そして将来はそんな冒険者になる…それが僕が思い描いた自分の未来でした」

それは幼い少年がずっと胸に秘め、育んできた夢

 

 

「――でも、解ったんです。今のままじゃ無理だって、憧れているだけじゃダメなんだって」

 

 

しかし、それはこの日この夜この瞬間、砕けた。

 

「大きくなったらじゃ、駄目なんです」

 

少年が抱いていた理想が、砕け散った

 

「いつかじゃ、駄目なんです」

 

少年がずっと抱いていた夢や理想が、粉々に砕け散った。

 

「将来や未来じゃ、駄目なんです!」

 

何故なら、その夢や理想の体現が現れた。

 

 

「今のこの瞬間を踏み出さないと、駄目なんです!」

 

 

夢と理想の体現を見て、少年は『現実』を知った

 

「このままじゃ絶対、僕はそんな風になれない! このまま何となく毎日を過ごしているだけじゃ何も変わらない!

今ここで踏み出せなかったら、例え大きくなっても英雄や勇者なんかに絶対になれっこない!

今を頑張れなかったら、未来も将来もない!勇者にも英雄にもなれない!そもそも強くなんてなれない!」

だから、少年は最初の一歩を踏み出した

自分の夢と理想を、確かな『現実』にするために踏み出した。

「確かに僕は、バーン様の言う覚悟は出来ていません!

強くなるために誰かにひどい事をしたり、自分のために誰かを苦しめたりする事は出来ません!

そんな覚悟は絶対にできません!」

「……成程、つまりはそれが答えか?」

 

ベルの言葉、それをそのまま受け取れば弟子入り不可能

それはつまり、この問答の終わりを告げる筈だった。

 

 

 

「でも!それでも僕は貴方の弟子になりたい!」

 

 

だが、ベルは魅せられてしまった。

「僕は貴方から学びたい!他の誰でもないバーン様から学んでいきたい!」

 

ベルはどうしようもない程に、大魔王に魅せられてしまった。

 

「御伽噺の勇者よりも!絵本の中の英雄よりも!僕は貴方についていきたい!僕は貴方の…『大魔王バーン』の弟子になりたい!」

ベル・クラネルは誰よりも何よりも、大魔王バーンに魅せられてしまった。

 

「僕はバーン様の言う覚悟は出来ません!でもそれ以外ならどんな苦しい事にもどんな辛い事にも耐えてみせます!」

「先も言ったであろう?その様な半端な姿勢では数日持たん…それとも、その年で天に召されるのが望みか?」

「召されたくないです!死にたくないです!だから耐えます!耐えてみせます!

貴方の弟子になれるのなら!貴方の弟子である限り!どんな事にも耐え抜いて乗り越えてみせます!」

「――吼えたな、小僧」

自分勝手、支離滅裂

言ってしまえばそれは子供の我儘、夢見がちな餓鬼の発言、現実を知らぬ小僧の絵空事だった。

 

だがしかし、その一方でバーンはどこか感心していた。

大魔王の迫力と威圧を前にして、これだけの啖呵をきれる者は精々が『勇者一行』や一部の強者くらいだった

ベルの様な子供なら、それこそ恐れをなして失禁でもしながら自分に平伏している筈だった

現にベルは目に涙を浮かべ小刻みに手足を震わせている、その様はさながら怯える小動物だ。

――体は貧弱、心は脆弱――

――若くて青い、未熟で幼い――

――正に典型的な『弱者』――

 

だが、それでもベルはこうして自分の前に立っている。

 

ブルブルと体を恐怖で震わせながら、ガチガチと歯の音を立てながら

目からぽたぽたと涙を流しながら、ズズっと鼻水を垂らしながら

今にも逃げ出しそうな佇まいでありながら、今にも膝を折りそうな表情をしながら、今にも折れそうな心を抱えながら

 

今も尚、こうして大魔王の眼前に両足で立っている 。

今も尚、こうして大魔王と対峙している。

実力もない、魔力もない、知力もない

財力もない、武力もない、力がない

あるのは、ただ純粋な夢と憧れのみ

 

そしてそれのみで、この少年はこの大魔王と対峙している。

 

今までバーンが生きてきた数千年の中、今のベル程ほど情けない姿をした者はいないだろう

だが嘗て六軍団長ですら圧倒した大魔王の威圧の中、自分の意見をはっきりと口に出している。

 

 

――成程、確かに口だけではない様だな――

 

――希にみる大馬鹿か、底抜けの低脳か、次元の違いも分からない愚者か――

 

――それとも、紛れもない『本物』か――

 

「勇者に憧れる純心無垢な人の子が、よもや大魔王に弟子入り志願か…」

 

 

率直に言って、バーンから見たベルは『ただの少年』だった

年相応の振る舞いをし、未熟な体と心の成長途中の少年だった。

 

特別な才覚も素質も感じられないただの少年

そしてそんな『ただの少年』が、今こうして大魔王に自分の意見をぶつけている。

 

 

「――面白い、その様な喜劇もまた一興――」

 

 

だから興味が沸いた

この少年がどこまで行けるのか

力も才も感じられない、あるのは純粋なまでの憧れしかないこのただの少年が…果たしてどこまで行き着けるのか

 

何も出来ず朽ち果てるか、雑兵程度にはなれるのか、兵を束ねる位にはなれるのか

一騎士のレベルまでなれるのか、騎士団を率いるレベルになれるのか、それとも軍団長レベルまでになれるのか

 

 

それとも、更にその上まで行けるのか。

 

 

「良いだろう、其方の願いを聞き入れよう」

「っ!」

「だが、余は今まで特定の誰かを弟子にとった事はない。故にその手の事の加減は知らぬ

手取り足取り…等は期待するでないぞ?見込みが無いと解れば、その時は容赦なく切って捨てる

そうなりたくば、どんな事にも其方は自身の力で乗り越えなければならん…自身が先程口にした事だ、よもや今更撤回はできぬぞ?」

 

「――はい! よろしくお願いします!」

「良い。では追って詳細を伝える…今日はもう休むがいい」

「分かりました!今日はもう寝ます!」

 

 

そうして、二人にとっての始まりの夜は終わる

純心無垢な少年は、大魔王の弟子となったその夜は終わる。

 

――我ながら、随分と奇妙な事になったものだ――

 

闇夜の道を歩きながら、バーンは思う

あの戦いから今日に到るまでの、その足取り

 

勇者との決戦、凍れる時に封印した若き肉体の開放

数千年に及ぶ計画の失敗、鬼眼王と化した最終決戦、そして敗北

全てを失いながらも行き着いた未知なる異世界、そして其処で得た初めての弟子

 

「――フっ」

 

何気なく水面に視線を落とす

そこに映る自分の顔は小さく笑っていた。

どう転ぶかは分からない、だからこそ面白い。

どうなるかは解らない、だからこそ楽しい。

 

 

――其方はどこまで行けるか…ベル・クラネル?――

 

――小物として終わるのか、それとも大物に化けるのか――

 

――紛い物にすらなれずに終わるか、それとも正真正銘の本物に到るのか――

 

――もしも其方が余の期待に応えられたのなら――

 

――もしも其方が余が行く道についてこれたのなら――

 

 

 

 

――その時は、其方が我が『新生魔王軍』の最初の一人だ――

 

 

 

 

そして夜が明ける、朝日が昇り日付が変わる

バーンはその後、半日ほど村から姿を消して夕方頃に再び帰ってきた

 

「長らく支払いを待たせて済まなかった」

 

恐らく、その時が近年の中でも村一番の騒ぎだっただろう

バーンはどこからか大量の『魔石』を持ち帰ってきたからだ

素人目の判断でも、それは数万Vは下らない量だった。

 

本人曰く『運が良かった』『はしゃぎ過ぎた』らしいとの事

その一件以来、バーンは一部の村人から『魔王さま』と呼ばれる様になった。

 

次いでバーンは、村での空き家を買い取った

見知らぬ土地で居を構えるよりも、別宅でも良いから知っている土地に居を構えた方が都合が良いからだ。

 

「フハハハハ!退院祝いと新居祝いに来てやったぞ大魔王!」

「其方はもう少し静かにできぬのか」

 

家の準備が出来た夜、ベルとその祖父と共にささやかながら宴が行われた。

 

「フム、面白い風味の酒であるな」

「だろー?東国の名酒と言われる酒でなー、何でも米で出来ているんだと」

「余はどちらかと言えば葡萄酒を好むが…これはこれで興があるな」

「そんで次はこいつだ!コイツは火酒と言われるくらいの酒でなー」

 

と、二人でその日は飲み明かし…次の日ベルの祖父が再び地獄を見たのはまた別の話である。

 

 

そして、ベルがバーンの弟子入りの約束を取り付けて早五日

この日、二人は初めて「師弟」として対峙していた。

 

「さて、それでは準備は良いか?」

「はい!いつでも大丈夫です!」

 

二人が居るのは、二人にとって馴染みのある水場の近く

ベルは動き易い薄地のシャツに七分裾のズボン、バーンは村の服屋に仕立てて貰ったローブに外套を羽織っている

バーンの問いにベルは勢い良く答え、バーンは「よろしい」と頷く。

 

「さて、それでは早速……と行きたい所だが、その前に其方にしてもらう事がある」

「大丈夫です、準備運動ならちゃんとしてきました!」

「それもあるが、余の準備はそれとは違う――コレだ」

 

そしてバーンは持って来た所持品の中から、ソレを取り出した。

 

 

 

「――其方には先ず、コレを飲んでもらう」

 

 

 

それは一見すればただのグラスだった

しかしただのグラスと違い、その器の中身から白い蒸気の様なモノが絶え間なく湧き出しており、中身を完全に隠していた

そしてそのグラスを、ベルは興味深げにバーンから受け取り

 

「――うわー、面白いですねコレ。熱くないし冷たくも無いのにこんなに湯気が出てる…コレって何なんですか?」

「其方達で言う所のポーションに近いものだ。先ずはソレを飲み干して貰う、修行はそれからだ」

 

幼いベル自身そのグラスから奇妙な迫力というか、得体の知れない凄味の様なモノを感じ取っていた

確かにただの飲料ではなく、魔法薬の一種なのだろう。

 

 

……お薬かー、苦かったらやだなー……

 

 

と、ベルはそんな風に考えて

 

「それでは、頂きます」

 

そしてそのまま、一気にグラスの中身を飲み干した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ベールくーんのー♪ちょっといいトコみてみたーい♪

どうも作者です。前回から今回の話を投稿するまで二週間も掛かってしまいました(汗)
ベルくんとバーンさまの会話で予想以上にてこずり、今回の締めの部分までは絶対に書いておきたかったので少々時間が掛かってしまいました。
さて、なんやかんやでベルくんは無事バーン様に弟子入りです。
バーン様がベルくんを弟子にとった理由としては「ベルくんが弟子になったら面白そうだった」というのが一番の理由です。
ちなみにこの一件は前回のバーン様が言っていた「形ある褒美」には含まれていません。それはまた追々です。
それと渾身の誤字が発覚、ポップは大魔導師ではなく大魔道士でした!・・・ヤッチマッタ

そして作者的に驚いたのが…感想数がすげえ!
二話時点の感想数12→三話更新後・感想数36――マジで!っていう感じでした、ちなみに週間ランキングでも13-14位にも入っておりました。なんというか、皆さんありがとうございます!
感想の方は順じ返していきたいと思います。それでは次回にまた会いましょう!


追伸・作者とその友人達(いい年をした野郎共がガチ議論)が選ぶ「ダイの大冒険」で最も燃えたシーン

その1 カイザーフェニックスをかき消したポップ
その2 天地魔闘の構えを破った後のアバンストラッシュ、クロス、ライデインの流れ
その3 最終決戦でまさかのニセ勇者一行登場
その4 真魔剛竜剣を使うダイ
その5 ハドラーの最期
番外  レオナ姫のぽろり

――全部最終決戦です(笑)他にも数え切れない位でてました(ポップやノヴァの覚醒とかゴメちゃんを守る獣王遊撃隊とか)ダイの大冒険は名シーンじゃないシーンの方が多分少ないですね。

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