ベルの大冒険   作:通りすがりの中二病

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出会い

むかーし、むかし…ある所に平和な国と世界がありました。

人々は皆平穏な毎日を過ごし、幸せな日々を送っていました

しかし、そんな平穏な日々は長くは続きませんでした。

ある日突然、その世界の平和は終わりを迎えました

世にも恐ろしい力を持った『魔王』が、その世界を支配しようとしたからです。

魔王は地上の魔物達を従えて、あらゆる国を襲いました

人々は家族や友達、そして自分達の世界を守るために戦いました

しかし、魔王軍の力はとても強大でした

村や町は燃やされ、王様のいたお城や宮殿は跡形もなく壊され、多くの人が倒れていきました

人々は魔王を恐れ、そして世界は魔王に支配されようとしていました。

 

しかしそんな中、希望を捨てず戦う者がいたのです。

 

――勇気あるもの『勇者』――

彼は人々の為に自ら剣をとって戦いました

お城に攻めてきた魔王軍と戦い、打ち勝ちました

魔物達の攻撃によって傷ついた仲間たちを守り、救いました

魔王によって攫われそうになったお姫様を見事助けました。

 

そんな強い勇者でも、魔王軍との戦いは熾烈を極めました。

 

ある時は魔物によって深い傷を負いました

ある時は傷ついたまま何日もの間休む事も眠ることも許されず、戦い抜く事もありました

ある時は人々を守りきれず、涙を流しました

ある時は自分の仲間すらも置いて、一人で戦う時もありました。

 

ある時は魔王共々、強大な力に巻き込まれ、長い間眠り続けた事もありました。

 

そんな彼の勇敢な姿を見て

そんな彼の優しさに触れて

そんな彼の希望を忘れない心を知って

 

人々は再び、勇気と希望を胸に抱き、再び魔王軍と戦う為に奮い立ったのです

勇者とその仲間達と共に、彼らも再び戦い始めたのです。

 

両軍の戦いは

そして勇者と魔王との戦いは、最後の戦いを残すのみとなりました。

 

見るもの全てを恐怖させる様な魔王城、その最も奥深い魔王の間

そこに勇者と魔王は対面していました。

 

そして、勇者の剣と魔王の呪文がぶつかり、最後の決戦が幕を上げました。

 

魔王の力はこれまで戦ったどの魔物よりも強く、恐ろしいものでした

魔王が炎を出せば全ての物を焼き尽くし、魔王が氷を出せば全ての物は凍りつき

魔王の爪は全ての物を簡単に貫き、魔王の両手から放たれる閃光は全ての物を破壊しました。

 

しかし、そんな恐ろしい魔王に勇者は最後まで戦い……そして、勇者の剣が魔王を切り裂きました。

 

魔王城に響く魔王の断末魔、そして魔王は倒れ…勇者が勝ちました。

 

魔王の敗北に、勇者の勝利に、人々は涙を流して喜びました

そして世界に、再び平和が戻ったのです。

 

――めでたし、めでたし――

 

 

「はあー、面白かった」

 

開いていた本をパタンと閉じて、白い髪を揺らしながら背筋を伸ばしてベル・クラネルは呟いた

今読んでいた本、それは彼の育ての親である祖父が所持している英雄譚の御伽本である。

 

今ベルが読んでいたモノは、そんな中でも王道的な話だ

勇者がいて、魔王がいる、魔物がいて、魔法もある

幼少の頃、誰もが一度は耳にした事のある話のものだ

そしてこの手の話は、年が二桁になる前に卒業するものだが…ベルは違った。

 

祖父の日々の教育もとい『男の義務教育』の賜物であろう、御伽噺、英雄譚、冒険活劇の数々

それはベルの心の中に、確かな刻印となって刻まれていた。

 

いつかは自分もこんな冒険をしてみたい

魔物と戦い、世にも恐ろしいダンジョンに挑み、財宝を手にしたい

剣を振るい、魔法を撃ち、仲間と共に苦楽を共にし、心躍る冒険をしてみたい。

 

そして、可愛くて綺麗な女の人とお近づきになりたい…そんな夢や憧れを胸に秘めていた。

 

 

「…っと、いけない。そろそろ水を汲んでおかないと」

 

 

その事を思い出す、そろそろ水瓶に入れておいた飲み水が尽きそうだったからだ

本来はこういう仕事は祖父の役目なのだが、『どうしても外せない遠出の用がある』と言って数日間は家に帰ってこない

なのでこの数日の間は、ベルが一人で家事をこなさなければならないのだ。

 

「よっし!」

 

空いている水瓶を背負って、家を出る

途中で見知った顔と簡単な挨拶と言葉を交えながら、ベルは近くの水場へと足を走らせる

数分も足を走らせて、もう間もなく水場に着くという時だった。

 

「ん?」

 

何かに気づいて、ベルは足を止めてその紅い瞳を動かす

一瞬で視界に入った何かが気になったからだ

 

そして見つけた…地面に倒れ伏している、その老人を。

 

「!!? おじいさん、大丈夫ですか!?」

 

その事に気づき、ベルは水瓶を背負ったままその見知らぬ老人へと駆け寄った。

 

 

 

 

 

……ここは、どこだ…?……

 

いつ切れるかも分からない朧げな意識の中で呟く

体を起こそうと両腕両足に力を入れても、その指先すら動かない

全身は過労や脱力といったものを超えた、麻痺に近い状態だった。

 

いつ落ちるか分からない意識の中、いつ塞がるか分からない視界の中

必死の思いで瞳を動かして現状を把握する

どうやら自分が今にも死にそうな事だけは確かなようだ、無論それを易易と受け入れる訳にはいかない。

 

今見える自分の周りの光景に、思い当たる場所はない

というよりも、よくあり過ぎる景色なので場所を絞り込めない

 

周囲に人の気配もない、鳥や動物がかろうじて視界の端を通り過ぎるくらいだ。

そして次の瞬間、その音に気づいた

 

「…ミ…ず…?」

 

それは最早声ともいえない声、からからに乾ききった擦れ音

その耳で確かに捉える、小さく静かに響く水の流れる音に

その瞬間、喉の渇きを知覚する

その麻痺した状態から、ようやく体から発せられる信号を受け取る事ができる。

 

渇きを潤したいという純粋な欲求に、体が反応する

決死の思いで力を込めて、死ぬ様な思いで地面を這いずる。

 

最早それは、意識しての行動ではなかった

死ねない、死ぬわけにはいかない、そんな生存本能、生き物としての最大の本能に突き動かされての事だった。

 

一回もがくだけでも、全身全霊の力を込めねばならなかった

既に顔は泥まみれ土まみれ草まみれ、恐らく体はそれ以上だろう。

 

どれだけそんな事を続けただろう?

何時間も続けたのか?それともほんの数分なのか?もはやそれすらも把握できなかった

 

ただひたすら水の音へと向かって、その体を前へ動かし続け――そして、限界がきた。

 

……これまで、か……

 

輝く水面を前にしながら、もはや体には一欠片の力も残ってなかった

もう自分には力がない、前に進む力も、生きる力も残されていない

ここで死に、ここで終わり、後は朽ち果てて土に変えるだけ

 

そんな風に全てが終わりそうな時だった。

 

 

「おじいさん、大丈夫ですか!?」

 

 

その声が響く、視線を上げればそこには照り輝く太陽

 

そして、白髪の少年の戸惑った表情だった。

 

 

 

 

 

それから先は、ベルにとっては混乱と驚きの連続だった。

 

倒れた老人の「み、ず」という呟きをきいて、近くの水場で水を汲み老人に飲ませた

その後すぐに知人を呼びにいき、村医者の下へ運んだ。

 

「かなり衰弱してるな…見た目はエルフに似てるが、どうにも違うな…

とにかくやれる事はやったが、ここ二三日が峠になりそうだな」

 

峠を越すまでは、どうなるか分からない。

険しい顔で宣言する医者を見て、ベルは老人の症状の深刻さを悟る

そしてベルは、この老人の下にずっと付き添った。

 

ベルに両親はなくずっと祖父に育てられた、しかしその事を特に不幸な事だとベルは感じたことはない

祖父はいつも自分の傍にいてくれた、自分に優しくしてくれ、笑顔にさせてくれた

それ故にベルはどうしてもこの老人の事を放っておけなかった、それこそ朝から晩まで付き添った。

 

ベルは冷たいその手を握り締め、ひたすら励まし続けた

汗を拭き、時折水差しで水を飲ませながら励まし続けた

 

頑張れ、負けるな、死んじゃだめだ

苦しそうに呻く老人にベルはずっとそうして励まし続けた。

 

そんな日を一日二日三日と過ごし、明けて四日目ここで事態は動いた。

 

 

 

「…こ、こ…は?」

 

その老人が目を覚ました

未だ弱った体であるが、今までの様に呻く事無く状態は落ち着いていた 。

 

「…驚いた、まさか持ち直すとは思わなかった」

 

目覚めた老人に対し、初老の村医者は唖然とする様に言った

簡単な受け答えが出来るくらいにその老人が回復した事が分かり、今までの経緯をざっと説明し

 

「ベル坊が目覚めたら礼を言ってやりな」

「…ベル坊、とは?」

「そこでぐーすか寝てる坊主の事だ。ベル坊が見つけなきゃ、アンタは今頃墓の下だ」

「フム、成程」

 

小さく頷きながら、その老人は答える

自分が寝ているベッドの横に小さな白い影がある、歳は大体十歳前後と言った所だろう

その言葉を切っ掛けに、老人は徐々に朧げな意識の中での事を思い出す。

 

倒れていた自分を見つけ、水を飲ませてくれた事

ここまで運んでくれた事

生と死の間に漂っていた自分に、ずっと付き添っていた事

 

そんな事を思い出しながら、老人は医者と簡単なやり取りをして

「じゃあ、何かあったら呼んでくれ」と言い残し、部屋から出ていく。

 

「――クク、よもや人の子によって…九死に一生を得たか――」

 

その事を自覚し、自然と笑いが零れる

何という皮肉だろう、よもや自分があの人間によって命を救われるとは…と、その奇妙な運命に思わず自嘲にも似た笑みが溢れた。

 

それからほんの少し後の事だった、うーんと気だるげな声を上げてその白髪の少年が体を起こした。

 

「…あ」

「お目覚めかな」

 

老人の瞳と赤い瞳が交差する

ベルは一瞬呆ける様な表情をするが、その人物が自分が今まで付き添っていた老人だと気づくと

 

「…良かったあぁ…」

 

溜め込んだ息を吐き出して、心の底から安堵した表情で言う

 

「…どうやら、其方によって余は命を救われた様だな…心の底から礼を言おう」

 

昨夜まで死に掛けていたとも思えないその口振りと態度

その尊大な態度と物言いに、普通なら多少なりとも反発を覚えるが…この老人に限って言えば、それは当てはまらなかった。

 

「…あ、う…」

 

照れくさそうに頬を染めて、ベルはついそんな風に口ごもってしまう

その老人の感謝の気持ちと言葉を受け取った瞬間、まるで一国の王様から最上級の褒賞の数々を受け取った様な気分になったからだ。

 

それはベルにとって初めての感覚

その老人が発する、とても病み上がりとは思えない雰囲気

絶対の存在感、圧倒的な貫禄、確かに感じるその覇気や迫力

見る者を惹きつけて止まない、瞳を釘付けにせずにはいられないそのオーラ

 

こうして対面しているだけで恐れ多くなり平伏したくなる様な感覚

しかしこうして対面し、言葉を交わす事が許されただけでも、何物にも変えがたい至上の幸福の様に思えたからだ。

 

「…あ、の…」

「フム、何かな?」

「僕、ベル・クラネルって言います。おじいさんの名前は?」

 

恐らくその言葉を伝えるだけでも、ベルにとって勇気を振り絞った行動だったのだろう

たどたどしく、しかし確かな意思を持って言われた言葉を聞いて老人は再び小さく笑い

 

「クク、そうか。これは余とした事が聊か礼に欠けておったな」

 

老人は再びベルと向き合う、お互いがお互いの顔をしっかりと向き合う

そして、その老人は名乗った。

 

 

 

「余の名は、バーン」

 

――大魔王バーンだ――

 

 

 

 

 

 




と、勢いのままここまで作者の妄想を書き綴って見ました。
一応時期としては原作が始まる5~6年前の設定です。
作者の考えとしては原作ベルくんの「ヒーロー兼ヒロイン」というキャラが大好きなので、そこは一切崩さずに書いていく予定です。

ここまで作者の妄想に付き合ってくれた方々、ありがとうございます。

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