違約・女神転生 A-DDS(Another Digital Devil Story) 作:mimimimi
<東京タワーに住むモノ>
砂塵と雲に覆われ、久しく見せない陽の光を懐かしみ……かつては青かった灰色の空を、ボロボロの外套を羽織った女が見上げる。
すると、奇怪な声で鳴く、奇妙なシルエットの鳥型の悪魔が遠くで暴れているのが見えた。
女はため息を軽く付き、目線を下ろすと、視界に広がるは彩りの薄い荒れた大地。
かつての繁栄の名残である瓦礫を眺め、荒廃した世界を思い、女は深々とため息を付いた……。
沈んだ気分を盛り返すべく、囁くような言葉を世界にそっと告げ、女は軽快に指をパチっと鳴らす。
女の周囲に波紋が広がる。
大気に魔力が伝播され。あたかも
無言で唱えられたのは[マッパー]
周囲を策敵するための魔法。
女の目に重なって映るは、脳内地図と現実の風景。
大きく折れ曲がった、赤茶色のサビが浮いた大きな電波塔。
かつての繁栄は見る影もない。東京タワー跡地がソコにはあった。
ココは魔女の住処。
東京タワーの魔女―――
核の洗礼を浴びて文明が崩壊した世界で、かつての名残を大きく残す哀愁深き場所。
―――ココに住まう、女の呼び名である。
「ん……やっぱいるわね。
まったく、人がちょっと留守にしただけで、すぐに変なのが入り込むんだから……嫌になっちゃう」
索敵に引掛かかったのは、一匹の悪魔。
魑魅魍魎渦巻く大破壊後の世界で、逞しく生き、魔女と呼ばれるに至った彼女の感覚からしても、それなりの強敵。
「まあいいわ……排除しましょう」
住処の放棄と、戦闘のリスクを天秤にかけるも……女にとっての傾きは明らかで、殆ど迷うことは無かった。
「……おかしいわ。どうして、異界化してるの?」
東京タワー跡地、仮設住宅。
慣れ親しんだ場所に足を踏み入れ、ようやく異変に気づく。
景色が歪み、空間が歪む。
戦いの場において、一時的に結界を貼るのは珍しいことではない。
しかし、固有の結界と……“異界化”とでは話が異なる。
性質が違うだけでなく、単純に規模が違う。
“看た”感じでは、東京タワー跡地全域に及ぶいへんだが……拡張の気配が有る。
コレは……放置するには危険すぎる。
円環の理。世界の天秤が揺るがされる非常事態である。
「排除を選んで正解ね……ただ、一筋縄では行かなそうだけど……」
異界化した中、混沌とした不穏な空気に誘われ、悪魔が集う。
「咲けよ雷華っ! 裂けよ雷帝っ! マハ・ジオンガッ!」
集う悪魔も、集う雷雨に散らされ、道を開ける。
ソコは、魔女の通り道。
ココは、魔女の住処。
訪れるものは、破滅あるのみ。
「オルトロス……か、いい感じの大物ね」
「ガルルルルゥ……オンナ。オンナ! ウマソウ! オレサマオマエマルカジリっ!」
「さあて、貴方は悪魔、私は魔女。煮て食われるのは……どちらかしらね?」
非現実的な体躯の魔獣“オルトロス”
非現実的な魔術を操る“東京タワーの魔女”
“非現実”が、“現実”と成ってしまった世界の片隅で、人知れず……その根底を揺るがす、異変は起きる。
異界と共に広がる時空の穴。
創世の余波が崩した越えられないはずの壁。
かくして魔女と、魔獣は舞い降りた……。
ソコは東京。
大破壊を面前に控えた、文明の地。
影より這い出した悪魔が、表と裏で跳梁跋扈する……魔都“東京”
“時”と“世界”を越えて、彼らは出会う。
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―――
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PC04「よし、じゃ病院前からだな? まずは受付に行って……」
GM「あ、悪いが先に入院患者の導入が先だわ」
PC02「あれ? 私が先?」
GM「流れ的に、その方が良いっぽいんで」
PC04「ちょww」
PC03「ラスト確定のオレよりマシだろ」
PC05「その分、美味しそうな役どころだけどね」
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――
―――
――――
<病院に住むモノ>
「あの最後の葉っぱが枯れて堕ちる時……私の命も……」
「園村さん。アレは常緑樹ですよ」
「……てへ」
「ふふっ、さあ、体温計を出して……」
飾り気の全くない、見慣れた白い壁。
清潔なシーツで下半身を覆い、点滴を刺したまま。
電動で起こしたベットから、首を傾けて窓の外を見る。
不治の病に犯された、病弱な少女にとって、外の世界は憧れだった。
しかし、少女の儚い夢は、一人の男の野望によって、悪夢と成って世界を襲った。
“ノモラカタノママ”
されど悪夢は、一人の少年と友人たち。そして、他ならぬ彼女自身の手で終わりを告げた。
―――世界は悪夢から覚めた。
しかし、少女は悪夢のような現実からは、覚めようがなかった……。
遠くに見える東京タワーは、空気が悪いのか、少女の体調が悪いのか、霞んで見える。
軽く冗談を飛ばし、仲の良い看護婦と雑談しようとすると「ごめんね、今日はお偉いさんが来ていて、忙しいの」と断られた。
それでも、少女は生きている。
夢見たもうひとりの私。
理想に殉じた、もうひとりの自分。
貴方は私。
私は貴方。
窓際に飾られた花を見る。
心に浮かぶには、ニット帽を被った友人の笑顔。
そして……一緒にお見舞いに来た、無表情で、何を考えてるのかわからない。
でも、優しくて、厳しくて、とてもとても強い人。
そんな、大切な……私の……恩人。
「……平熱ね。
病状も安定しているし、このまま快方に向かえば退院も夢じゃないわ。
―――それじゃ、お大事に」
「ありがとう! そう私なら……ウィンブルドン行けるわよね? ねっ!」
「くすくす、旅行なら……ね」
ろくに動かない体を動かし、健気に振る舞う少女。
その心情を察し、明るく、敢えて軽く返す看護婦。
ココにあるのは優しい世界。
厳しい少女の現実に、彩りを与える美しくも……残酷な世界。
軽く手を振り、看護婦を見送った少女は、手をおろし息を切らす。
病気自体は快方に向かってるらしい。
だが、失った体力は戻らない。
退院出来たとしても、通院必須で、激しい運動など望めない。
ウィンブルドン出場はおろか、ただの観光旅行すら出来るか怪しいのが少女の現実だった。
しかし、少女の心に絶望はない。
自分が愛されている事を……今は、知っている。
自分を大切に思ってくれている人がいる事も、知っている。
そして、自分が大切にしたいモノ。
大切にしなくてはならないモノを、今の少女は知っている。
だから、今の彼女の顔に絶望の目は無い。
しかし、絶望の芽は、そんな少女の……すぐ側で、咲き乱れようとしていた。
「ウォォオオオオオンッ!!」
病院内に、ケモノの咆哮が響き渡る。
「キャー!?」
「うわああ!??」
「ば、ばけもの!!??」
「ど、どけ!! じゃまするなああ!! うわあ!?」
俄に騒がしくなり、悲鳴と怒声で、病棟の廊下が埋め尽くされる。
「………は汝………はわ…わ……………は心……よ」
ふと、声が聞こえた。
それは懐かしい声。
「わらわは汝……汝はわらわ……わらわは心の海より出でしもの……海原に住まう者を守護せし者なり」
“
心を脈打つ鼓動は力強く。
技は切れ、全身の感覚が研ぎ澄まされ。
体は活力が湧き上がり、気力は充実する。
動かない身体が動く。
―――もう何も怖くない。
かつて憧れた……理想の自分。
届かない夢に、再び手が届いた。
だが、少女の顔に浮かぶ表情は暗い。
少女の夢の始まりは、悪夢の始まりでもあると相場は決まっているからだ。
そしてそれは、間違いではなかった……。
かくして少女は舞い降りる。
かつて垣間見た、悪夢の世界。
もうひとりの自分が代わりに戦い、勝ち取った世界を侵す
今度こそ自分自身で戦わなくてはならない……悪夢が本当に成った世界で……。
「戦わなくちゃ……現実とっ!!」
ベットの脇。
もうひとりの自分の忘れ形見の入った袋。
アーチェリーを掴み取り、少女は、喧騒鳴り止まぬ廊下に飛び出したのだった……。
――――
―――
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PC02「樹海に背を向けた、私の伝説はココから始まるのっ!」
PC01「なんか性格違くね?」
GM「セベクスキャンダル後だし、ペルソナ2前だし、別にいいよ」
PC02「マッキーの不治の病は、中二病に改善されました! やったね!」
GM「改……善?」
PC04「死に至る病から回復してるから、改善は改善だな、一応」
PC03「肉体の死から、精神の死に、変わっただけな気がする……」
PC05「理想のマキちゃんはEDで消えた。それだけよ」
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東京タワーの魔女の本来の表記は“しょうじょ”ですが、ここでは敢えて“女”と表記しています。深読みするもしないも自由ですw