仮面ライダーディケイド ~The Darkness History~   作:萃夢想天

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どうも皆様、先週は体調不良を理由に更新をサボった萃夢想天です。
本当に申し訳ございませんでした。言い訳の次第もございません。

私の代わりに、ランサーが罰を受けますので(←この人でなし!)

さて前回は、急遽ぶっ込んだ黒い社長らの影響でストーリー自体がさほど
進行しなかったのですが、今回も同じくストーリーが進みません。
その代わり、ストーリーの核心に触れる話となっております。

なお、今回の話は『仮面ライダーW 劇場版AtoZ』をご覧になっていない方
などにとっては、少々分かりにくいものとなっていますが、ご了承ください。


それでは、どうぞ!





Ep,35『Eの為に / ただ独りの英雄』

 

 

 

 

 

 

「翔太郎! しっかりしてくれ、翔太郎!」

 

 

風都の中心に位置する風都タワーの近くまでやって来たフィリップと士とユウスケは、道路脇で

人目から隠されるようにして倒れていた翔太郎を発見し、大慌てで彼の元へと駆け寄る。

Wの秘密兵器とも言える八輪駆動の装甲車、リボルギャリーから飛び降りたフィリップは、

相棒の無事を確かめるべく脈や呼吸の有無を確認して、命に別条がないことを知って安堵した。

 

ユウスケも同様に、仲間である翔太郎が生きていたことに息を漏らし、彼に痛手を負わせた相手、

恐らくは首謀者であろうあの仮面ライダーラストに対して、さらなる怒りの炎をたぎらせる。

しかし彼ら二人とは逆に、士は一人だけ冷静な態度を崩さず、周囲の状況を分析していた。

 

 

「街路樹が三本も、根元から丸ごと無くなってる。コンクリも一部だけ剥ぎ取られたみたいに

無くなってるし、いったいここで何が起きたんだ? コイツはラストって奴の力なのか?」

 

「…………それについてなんだけど、門矢 士」

 

「ん? どうした、フィリップ?」

 

 

翔太郎が倒れていた道の端から見ても、戦いの後と思われる痕跡は惨状の一言に尽きる勢いで、

士が見たとおりに道沿いに植樹されていた街路樹は何本かが消え、道路も一部が欠けていた。

あまりに不自然なその光景を訝しむ士に、翔太郎の生存を確認して冷静さを取り戻すことが

できたフィリップが話しかける。顔を向けずに返事をした士に、癖毛の少年は細々と語りだす。

 

 

「これはあくまで仮説だけど、あのラストと彼の能力。対峙してみて、気付いたことがある」

 

「ほう?」

 

「ラストの使うメモリには、こちらの力を終わらせる…………つまり、ほとんど無効化してしまう

能力が宿っている。僕ら二人のガイアメモリの力だけでは、どうあっても勝ち目が無かった」

 

「攻撃そのものを終わりにさせる、ってことか。面倒だな」

 

「ああ。けど、そこが妙だ」

 

「なに?」

 

「…………ここからが僕の立てた仮説だ。ラストの終焉の能力は、僕の中にある地球の本棚の

データベースには載っていなかった。そもそも、<終焉の記憶>自体、地球が今もなお

記憶を記録し続けている以上、存在することが不可解だ。地球が終わりを迎えない限りね」

 

フィリップの打ち出した仮説の前置きの部分で、ユウスケは脱落したが、士は理解した。

「なるほどな。確かに、あるはずのない物があるのは妙な話だ」

 

「それもそうだけど、本当に妙なのはあのラスト自身のことだよ」

 

「どういう事だ?」

 

「………物質を悉く終わらせ、存在を終焉へと帰す能力。何故彼に扱う事が出来る?」

 

「え? えーと、どういう事なの?」

 

「お前は黙ってろユウスケ。けど、言われてみれば確かにな」

 

「そうだ。何もかもを終わらせる力なら、自身の存在すら終わるはずだ(・・・・・・・・・・・・・)

 

 

そう言い切ったフィリップは、困惑するユウスケを無視して思案する士の横顔を見つめる。

視線を受けた士自身もまた、見られていることを分かっていながらも考えることを止めない。

 

フィリップが言う仮説とは、万物を終わらせる能力自体が使用者に効果を発揮しないことの

矛盾についてを述べている。木やコンクリなどの物質を触れただけで終わらせられるのなら、

最も近くに存在する物質、つまり使用者自身の肉体が何故終わりを迎えないのか、という事だ。

 

仮面ライダーWであるフィリップは、サイクロンメモリを使えば風を、ヒートメモリを使えば

炎熱をまとう事が出来るのだが、それでも風による攻撃や火炎攻撃が効かないわけではない。

物理的な損傷が皆無になることなどありえない以上、それは当然ラストにも当てはまるはずだ。

 

そう考えての仮説だったのだが、士はしばらく考え込んだ後に表情を変え、いつも通りの不遜な

態度になってフィリップの仮説を退ける。

 

 

「いくら考えても分からない事は、考えるだけ無駄だ。倒せないわけじゃないだろう?

それに、終わりにさせる能力が効かないものなんて、もう終わってるもの以外にあるか?」

 

「………………門矢 士、今なんて?」

 

「だから、考えるだけ無駄だって」

 

「もっと後だ‼」

 

「………終わりにする能力が効かないってとこか?」

 

「そうだ、その通りだよ。終わらせられないものは、既に終わっているもの…………」

 

 

何でも無いように呟いた士の言葉に、勢いよく食いついたフィリップがまたしても長考状態に

陥ってしまったため、事の張本人はため息をつき、手持無沙汰なユウスケは一先ず目覚めない

翔太郎を安全な場所へと運ぼうとした。その時、目覚めない彼の手に握られたものに気付く。

 

 

「コレ、ガイアメモリ? しかもこの色、サイクロンとジョーカー?」

 

「何だって⁉」

 

「あ、えと、フィリップ君。コレって君たちの持ってるやつと一緒だよね?」

 

「…………確かにサイクロンとジョーカーだが、どうして翔太郎が?」

 

 

意識が戻っていないはずの翔太郎の左手には、何故か二本の色鮮やかなメモリが収まっていた。

ユウスケが取り上げたそれらを見たフィリップは、長考状態から一瞬で現実へと舞い戻り、

自分たちがよく使用する適合率の高いメモリと同一であると確かめ、また思考の海へ飛び込む。

 

目まぐるしい情報の波をかき分けながら、フィリップは現状を少しずつ解明し始める。

 

まず、翔太郎の手に握られていた二本のガイアメモリ、サイクロンとジョーカーについて。

これらの存在は、恐らくテロリストであるラストたちが探していると言う"未発見の二本"だと

推測できる。一年半前を思わせる犯行予告の映像の中で、ラストが探していると言っていた。

しかし、どうして翔太郎がそれらを持っているのか。フィリップにはそれが分からなかった。

ドライバーを介して意識を共有できる二人にとって、情報交換など以心伝心どころではなく、

こうして有力な情報を得ることが出来たのなら、自分も把握していなければおかしいのだ。

けれど、フィリップはユウスケが気付くまで、翔太郎の持っていたガイアメモリの存在は

知りもしなかった。翔太郎が意図的に隠すことなど有り得ないため、変身が強制解除された

あとで、何者かが翔太郎の手に握らせた可能性が極めて高い。でも誰が、何のために。

 

 

(…………とにかく、僕らのメモリがラストの攻撃によって使用不能にされた以上、

戦力になるメモリが手に入ったのは幸運だ。しかも、僕らと適合率の高いこの二本が)

 

 

いくら考えても答えを見出せなくなったフィリップは、考えに考えを積み重ねても現状を

変えられないと思考を打ち切り、手に入れた二本のメモリを懐にしまい、タワーを見上げる。

 

 

「………翔太郎は、僕がいなくなった後もこの街を、たった一人で守り続けていた。

街を守る仮面の英雄に、なろうとしていた。なら今度は、僕がこの街を守る番だ」

 

決意を新たに固めた彼は、倒れたまま目を開けない相棒の役目を受け継ぎ、闘志を燃やす。

だが彼をこのままにしておくことも出来ないと、ユウスケと士に助力を求めて持ち上げ、

意識のない彼が目覚めることを祈り、安全と思われるリボルギャリーの中へ運び込んだ。

 

「翔太郎、君の勇気を、僕に分けてくれ」

 

 

そっと仰向けに置いた翔太郎の上着の内ポケットから、こっそりとあるものを拝借した

フィリップは、外でタワーを睨みつけて待っている二人と合流し、三人で並び立つ。

 

 

「終わらせるんだ。あの日の僕と、今の僕は違う!」

 

「俺もやるよ、フィリップ君!」

 

「ま、乗り掛かった舟だ。さっさと終わらせて、俺の役目も見つけないとな」

 

 

決意と、怒り。二つの燃え盛る感情を胸にした三人の戦士は、風都タワーへと突入した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三人が風都タワー内部へと突入する少し前、タワー最奥部に鎮座する光線兵器の置かれた

制御ルームへと続く廊下にて、息も絶え絶えに苦しみながら歩く、紫紺の戦士がいた。

 

 

『ハァ……ハァ………ぐ、クソ! 亡霊(スカル)め、よくも俺の邪魔を!』

 

 

深緑の複眼から憎しみを滾らせるラストは、先の戦闘によってスカルから受けたダメージに

苦痛の声を上げながらも、壁に手をつきながらゆっくりと進み、目的の部屋に辿り着く。

よろけながら部屋の扉を開け放ち、転がりながらも部屋の中心に無言ながらも厳かな雰囲気を

漂わせている切り札、光線兵器エクストリームビッカーが順調に作動しているのを確認して

怨嗟がこもった嘲笑を浮かべる。

 

 

『だがこれで! ようやく俺は! あの人たちの無念を晴らす事が出来る‼』

 

狂ったように笑い声をあげるラストの背後に、残った配下である二体のドーパントが現れ、

彼からの次なる指令が下されるのを待ちわびる。黄の異形は体をくねらせ、青の異形はただ

寡黙に立ち尽くすのみだったが、佇まいから感じられる気概だけは真に迫っていた。

 

彼らの用意と戦意が万全であることを感じたラストは、振り向きざまに腕を振るって告げる。

 

 

『行け。Wは無視して、残る二人の闖入者(イレギュラー)を血祭りに上げろ‼』

 

ラストから下された命令に従い、黄色と青の異形はそれぞれ目標を決めて部屋から去った。

指示通りに動く二体の背を見送った後、紫紺の戦士はそびえ立つ切り札の前に傅く。

 

 

『ついにここまで来た__________________十三年越しの復讐が‼』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こーら、そんなに急いだら危ないわよ。お父さんならすぐに会えるから」

 

 

無数の人混みがごった返す中、少し離れた場所から朗らかな母親の声が聞こえてくる。

いつもよりも若干間延びしたこの声は、きっと父親に会えることを喜んでいるからだろう。

 

 

ああ、いつぶりだろうか。この夢を見るのは。

 

 

これは私の人生を、生きる意味を変えた運命の日の記憶。

生まれ故郷である風都という街に、AからZまでの26もの運命が、舞い降りた日でもある。

そして奇しくもこの日は、街のシンボルの風都タワーで、セレモニーが開かれる日だった。

 

私の母親はいたって普通の専業主婦で、父親は風都タワーに勤める誠実な男だ。

当時の私は、日頃忙しくて帰ってくることが少ない父親に会えるのを、楽しみにしていた。

母親も同じ思いだったのだろう。タワーで行われるセレモニーが開始するより一時間も早くに、

三十周年記念花火大会特集の会場へ、私を連れて行ったのだから。

 

夫婦円満、絵に描いたような幸せな家庭であった。

 

広いホールエリアの特設会場に着いた私と母は、既に取材の準備を始めていた報道陣や他の

観客たちの間をすり抜けて、取りあえず腰を下ろせる場所を探して一息つこうとした。

実際、風都タワーはエレベーターやエスカレーターで上ると言っても、全長が高いために

苦労を強いられるわけだ。まだ9歳、小学校3年生程度の私の体力では長続きなどするはずも

なく、一心地つける場所に到着したことにより、父に会うための早起きも相まってしまい、

睡眠欲が沸き起こりその場で眠ってしまう。その時母は、父を探してくると言って少しの間、

私から離れていったとおぼろげな記憶の中で覚えている。まぁ、ここまでは些末な話だ。

 

幼かった私の運命を変える出来事は、この後にやってくる。

 

 

「死神のパーティータイムだ!」

 

 

一発の銃声が響き、歓喜と高揚で笑顔が溢れていた会場を、一瞬で混乱へと叩き落す。

 

大勢の悲鳴と絶叫がタワーで反響し、私はあまりの騒音によって軽い眠りから目覚めた。

目を開けてみると、つい先ほどまでいたはずの観客たちがどこにもおらず、そればかりか

マスコットのふうとくんの頭部が転がっている始末。私は、言い知れぬ恐怖に身震いした。

 

いなくなった母を探そうにも、風都タワーは街の観光スポットであったため、非常に広い。

いくら幼いとはいえ、ここから離れれば母とも会えなくなってしまう可能性は考慮出来た。

その時私は、母ではなく父に頼ることを閃き、父が勤めていた従業員の部屋へ駆け出した。

 

子供用の内部マップも備わっていたおかげで、私は目的地へと辿り着く事は出来たのだが、

肝心の父の姿はどこにも見当たらず、そればかりか大人の姿は一人としてなかった。

 

流石にこれは異常事態であることに気付いた私は、すぐにこのタワーから出ようとする。

 

 

「あぁ~ら、こんなところにカワイイ坊やがいるなんて!」

 

 

しかし、目の前の部屋へと続く道の奥から、背筋が凍るほど不気味な男の声が響いてきた。

普段の私なら、見知らぬ大人と言えども助力を乞うこともしただろう。だが、しなかった。

何故なら声の主は、外見からして普通ではなく、黒い鞭を右手で振るっていたのだから。

 

 

「震えちゃって、カワイイのねぇ。だいじょうぶ、オネエさんが守ってア・ゲ・ル♡」

 

 

そう言いながら歩み寄って来たのは、やはり男であった。いかも、かなりの偉丈夫である。

言動からして女のようではあったものの、当時の私は生のオカマというものを知らなかった

ので、目の前まで接近してきた謎の男の言葉にただ、震えて身を縮ませるしかなかったのだ。

 

ゴツゴツとした男の左手と手をつないだ私は、案内されるがままにタワーの中心部へと連行

されていき、本来なら関係者以外に立ち入りが禁じられた最奥部へ続く扉を共にくぐる。

初めて訪れたその部屋の中心には、見たことも無い巨大な装置と、玉座のような腰掛けが

堂々とそこに鎮座していた。幼い私にとって、それが何かなど分かるはずもなかったが。

 

 

「オイ京水遅ぇぞ何してた! って、なんだその子供は⁉」

 

「うふふ、私と克己ちゃんの隠し子なのよぉ♡」

 

「うわ、オッサンマジキモ。子供にまで手ぇ出すとか」

 

「アンタは黙ってなさい! 私の方が色々とおっきいんだからね‼」

 

「…………………どう見ても逃げ遅れ」

 

 

巨大な装置を前にして圧倒されていると、私をここへ連れてきた女言葉の鞭を持った男が、

最初から部屋にいた仲間らしき人たちと騒がしくし始めた。見る限り、男が三人、女が二人。

約一名分からないものは区別不能として、私はこちらを凝視してくる強面の男を見つめる。

 

ボサボサの髪に、青のメッシュを入れた鋭い目つきの男。どうやら、彼らのリーダーらしい。

一人の女性を除いた他の五人は皆、同じような服装に身を包み、独特な雰囲気を醸している。

その中でやはり、黒髪青メッシュの男だけはさらに別格の、恐ろしい気配をにじませていた。

 

母親とはぐれ、父親の行方も知れぬ状況で、見知らぬ大人の中へ放り込まれた幼い私が

恐怖を感じないはずもなく、自分の置かれている状況など顧みずに思わず泣きそうになる。

むしろ、今までよく泣きださなかったものだと今にして思うが、とにかく私は泣きかけた。

 

すると突然、青メッシュの男が私の前へと歩み寄り、磨いていたナイフの切っ先を向ける。

 

 

「泣くなボウズ。泣いてるだけじゃ、何も守れない。何もかも、失っていくだけだ。

お前が大切に思っているものも、過去も未来も、今日という日も、全てな」

 

 

冷酷な表情で見下ろして語る男に、私は先程とは別の恐怖に駆られ、泣くのを必死に止める。

あのまま聞き分けもなく泣きわめいていたら、眼前のナイフは私に突き刺さっていただろう。

死を予感させる男の態度と行動とは裏腹に、私は彼の言葉を、理解できなくとも心に刻んだ。

理由など分からない。恐ろしげな男からの威圧が、幼い子供心には大きいものだったからか、

あるいは、そう。もしかしたら当時の幼い私でも、彼の真意の一端を理解出来たのだろうか。

 

目の端からこぼれる涙を拭き取り、頑張って泣くのを我慢する私の前に、人影が降り立つ。

 

 

「ちょっと克己! いくら何でも、子供相手に酷くない?」

 

「そうよ克己ちゃん! この子は私が引き取って、大事に育てるから!」

 

揃いの黒い服を着た若い女性と、先程の女言葉の男の二人が、私を庇うようにリーダーの

男と真っ向から対峙していた。彼女らの背中しか見えなかったが、勇ましさを背に感じた。

そんな二人の言葉など意にも介さず、肩を掴んで私の前から無理やりどかせた青メッシュの

男は、再び恐怖の感情によって顔を歪めて怯える私に近付き、頭に手を置いて語りかける。

 

 

「自分が大切だと思うものくらい、自分の力だけで守り切ってみせろ。

いつまでも誰かに守ってもらえる気でいると、いつか本当に何もかも失くしちまうぞ」

 

「…………克己」

 

「克己ちゃん…………」

 

「この俺のように。そして、俺たちのようにな」

 

 

最後に頭を強く揺らしてから、青メッシュの男は私から離れ、またナイフを磨き始めた。

ただ、この時はもう既に、私の中から彼への恐怖は薄れていた。否、無いも同然となった。

彼が私の頭から手を放す際に、見てしまったからだろう。悲しげに揺らぐ、彼の瞳を。

 

きっとこの時、この瞬間、私の中で彼が『憧れの存在』となったのだ。

 

「さて、そろそろ時間だ」

 

 

何かが芽生え始めたのを自覚する間に、男たちはいそいそと何かの機材の準備を始める。

先程、報道陣がいた場所にあった機材と同じに見えたため、きっとTV関係の機械なのだと

推測した私は、部屋の隅にいるのも居心地が悪かったので、彼らの手伝いを願い出た。

 

大人六人と子供一人が準備を終え、緊張した面持ちになった黒服の彼らを見やる。

すると青メッシュの男が全員に何やら指示を出して、横並びになるように仕向けた。

全員が整列したのを見計らうと、彼は私を連れて機材のそばへ寄らせ、指示を出してきた。

 

 

「このボタンを押せ。そしたら、そこで黙って俺たちのやることを見ていろ」

 

 

部屋に入って来たばかりの頃よりは、多少傾けやすくなった首を縦に振り、列に男が戻った

瞬間を見計らって、言われた通りにボタンを押す。すると、風都中のTVに中継が入った。

放送開始のブザーが鳴り始めた時、横列の中央にいた青メッシュの男が、姿を変える。

 

 

その全身はまさに、他の一切が付着することを許されない、永劫の美たる白磁に染まり、

太腿と腕に一ヵ所、胸部を包むようにして一ヵ所、黒色の奇妙なスロットがズラリと並ぶ。

無数のスロットと同じ色合いをした、死を呼ぶ神が己が身を隠す外套の如き漆黒のマントに、

そこからわずかにはみ出た両腕は、指先から肘にかけて覚めるような青色の炎が奔っている。

 

さながら無限を表現するような、∞の形をかたどっている陽黄色に輝く複眼状の双眸と、

さながら永久(ENDLESS)を体現するような、純白の王冠にすら思える横向きに倒した鋭いEのフレーム。

 

残滓に蒼白い炎が散る中で、漆黒のマントを左手で颯爽と振り仰いだ、その姿こそ。

 

「俺の名は、【仮面ライダーエターナル】」

 

 

永遠(エターナル)こそ、私が初めて出会った【英雄(仮面ライダー)】だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼らは風都中に、街を救ってきた英雄に宣戦布告をした後、私を逃がしてくれた。

最初こそ人質に取られるものかと思っていたが、仮面ライダーに変身した青メッシュの男、

『大道 克己』という人は、そういう事をするのは主義に反すると言ってくれたおかげだ。

 

正面入り口は警官隊で封鎖されていたため、物資搬入口から『プロフェッサー・マリア』と

他の仲間たちから呼ばれていた女性の手ずから、私は風都タワーより脱出することが出来た。

一人だけ白いドレスを着ていた熟年の女性だったが、とても優しくて温かく、良い人だった。

マリアさんも、そして克己さん以外の仲間も全員、小さな機械のようなもので怪物の姿に

変身するのを見たけれど、その性格までもが変わっているわけではないと知り、安心できた。

視線は鋭く、近寄りがたい雰囲気の人たちだったけれど、幼い私を想って逃がしたのだ。

 

黒髪の女性レイカさんは、真っ赤に燃える怪物ヒートに。

筋肉質の大男ゴウゾウさんは、銀色に輝く怪物メタルに。

細身で無口なケンさんは、右手が銃の青い怪物トリガーに。

女言葉なキョウスイさんは、手が無い黄色い怪物ルナに。

優しかったマリアさんは、風を操る緑の怪物サイクロンに。

みんな、みんないい人たちだった。怖くても、温かくて。私を生かしてくれた良い人だった。

 

 

しかし、私が生まれた街は、そんな彼らを『悪』として、殺した。

 

 

風都タワーからさほど離れていない場所で警察に保護された私は、ほどなく両親と面会。

検査を受けて、念のための入院で一晩を明かして、改めて自分が生きていたことに驚く。

それと同時に、自分が生きていられたのは、彼らが助けてくれたからだと理解していた。

だから私は両親に、彼らにお礼が言いたいと言ったのだが、予想していた返答は裏切られる。

 

 

「あの人たちはね、テロリスト…………悪い人たちだったのよ」

 

「ああ。でも、大丈夫だぞ。仮面ライダーが、悪い人をやっつけたんだ」

 

 

両親の安堵した声色と裏腹に、私の心は一瞬で蒼褪め、冷め切った。

彼らは今、なんと言ったのか。あの人たちが、私を助けてくれた彼らが、悪い人?

彼らは今、なんと言ったのか。あの人たちを、噂の仮面ライダーが、やっつけた?

 

その後も両親は、昨日の出来事の中で私が生きていたことが何よりの幸運だとのたまい、

そればかりか、私がこうして生きているのは、あの人たちを倒した仮面ライダーのおかげ

だと言い放った。両親が心底嬉しそうに語ったその言葉を聞き、私の心は黒一色に染まる。

 

『仮面ライダーのおかげで、街は救われた』

 

『仮面ライダーは、正義のヒーローだった』

『仮面ライダーが、街の平和を守ったのだ』

 

 

新聞でも、TVのニュースでも、学校でも、塾でも、あまつさえ家庭の中でも。

私があの出来事を体験してからしばらくの間は、仮面ライダーが街の英雄となった。

 

だが、町中が歓喜に酔いしれる中、私だけは憤怒に身を焼かれていた。

 

私の中にある仮面ライダーは、純白の体を持った、あの人だけなんだ。

この街にいる仮面ライダーは、私の英雄を殺した、悪魔のような奴だ。

 

彼らが助けてくれたから、今もこうして私が生きていられるんだ。なのに、どうして。

 

 

「ふざけるな‼‼」

 

 

私の中で今も褪せることなく輝き続ける純白の英雄は、街と人々に悪魔だと蔑まれ、

私の中で今も許すことなく憎み続けている偽の英雄は、街と人々に英雄と讃えられ。

 

何度も何度も、彼らは悪などではないと反論したが、彼らが街に及ぼしたとされる

被害の爪痕を引き合いに出されると言い返す事が出来なくなり、悔しさに涙を飲んだ。

 

あの日から私は、私の中にいる英雄を穢した偽りの英雄と、それを擁護する街を憎み、

優しくて温かかった彼らを殺して平和を語る偽善者を恨み、それが暮らす街を蔑んだ。

 

「仮面ライダーは、たった一人だけだ……………エターナルだけが、仮面ライダーだ‼」

 

 

幼かった私の心にとって、憧れの存在であり、私を救ってくれた彼らをけなして安寧を

貪る街の人々など、もはや人間としてみる気概すらも無くなり、全てが疎ましくなった。

 

しかし、力など無かった頃の私は、知る由もなかった。

この絶望から数年後、入社した企業の影とされる謎の資金援助団体『財団X』と呼ばれる

存在とのつながりを持ち、そしてこの絶望への復讐を果たす力を得ることが出来るなど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

全身に奔っていた戦いのダメージによる痛みも引き、ラストは眼前の兵器を見上げる。

彼が幼かった頃に見たものとは少し違うが、それでも当時と変わらぬ威圧感と神々しさを

兼ね備えたような外観を前にして、彼はこれから為そうとする復讐に意識を向けなおす。

 

英雄の存在を知り、その英雄を街そのものと偽物に奪われ絶望した幼少期。

英雄の誤解を解き、どうにか改善を図ろうとして見向きもされなかった青年期。

英雄の死を憂い、本物を『悪』と、偽物を『善』としてきた腐った街を憎む現在。

 

全ては、この日の為だけに。

 

 

『俺が終わらせる、この街の全てを‼ 欲に駆られ、加担しておきながら偽物に救いを求め、

あの人たち、俺の英雄を見殺しにしたこの腐りきった街の全て‼ (ラスト)が終わらせる‼』

 

 

怒りに燃え、憎しみに吠え、狂気に叫ぶ仮面の戦士は、その覚悟と怨念に身を委ねる。

 

 

 

 









いかがだったでしょうか?

最初に、劇場版を見ていない方には申し訳ないと言っておきながら、
劇場版を知っている方も「こんなシーン知らんぞ」な展開で申し訳ありません‼

今回は独自展開、独自設定を満載にしております故!
題は、「Wとエターナルの戦いの裏に、こんな優しさがあったら」という
考えを元に作られたものでした。私個人で言えば、この感じは気に入ってます。


先週はさぼってしまい、申し訳ございません。次は無いよう気を付けます。


それでは次回、Ep,36『Tの狙撃 / カウントダウン・ナウ』


ご意見ご感想、並びに質問や批評など、大募集でございます!
(前回質問をいただいたのですが、何故か消えたしまったので)

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