仮面ライダーディケイド ~The Darkness History~   作:萃夢想天

36 / 41


どうも皆様、春公開の「超スーパーヒーロー大戦」に加えて、
「仮面ライダーアマゾンズ シーズン2」が待ち遠しい萃夢想天です。

さて、長らく更新を途絶させてしまい、申し訳ありませんでした。
他のSSでも弁明しておりますが、個人的に忙しいことが山積みでしたので、
こちらに手をつけるのが難しかったのです。これからまた、通常更新に戻ります。


それでは、どうぞ!





Ep,33『Nを継いだ者 / 忍び寄る終焉』

 

 

 

ディケイドとクウガが、それぞれの敵であるメタルとヒートを打ち倒し、ラストというライダーが

待つ場所であり本来の目的地でもある、風都タワーへとバイクに乗って一路向かっている頃。

 

風都タワーへと続くその道の途中では既に、緑と黒の戦士が紫紺の戦士と戦闘を開始していた。

 

 

「ゥオラァッ‼」

 

『ふんッ‼』

 

 

否、それは単なる戦闘などではなく、もはや激闘といって差し支えないほどのものである。

 

右が緑で左が黒のWが、サイクロンとジョーカーの二つの特性を活かした近接戦で、拳や蹴りの

乱打を放てば、ラストはそれら全てを的確かつ迅速に防ぎ、返すようにカウンターを繰り出す。

一進一退、着かず離れずの大接戦を続けていた二人のライダーだが、少しずつではあるが両者の

均衡が徐々に、傾き始めていった。顕著ではないほどの差が、Wをわずかに追い詰めていく。

 

 

『はぁッ‼』

「うおっと!」

 

蹴りを中心に攻撃を続けていたWに、右足の蹴打を弾いたラストがステップを織り込んで接近し、

徒手空拳の間合いに踏み込んだ瞬間、大きく開かれた右手での掌底がWの左肩部を若干かすった。

しかし接近されているという事は、自身も敵に接近しているのと同義。攻撃によって右腕を前に

伸ばし切っているラストの体勢は、胸部から腰元、つまり胴体がガラ空きになっているため、

絶好のチャンスであることは疑いようもない。それを見逃さず、Wは渾身の左膝蹴りを打ち込む。

 

 

「せりゃ‼」

 

 

ジョーカー側の左膝が見事に直撃し、ラストの腹部の装甲と触れている実感をWに与えてくる。

だが、ここで翔太郎は、ある違和感を覚えた。本来ならば、感じられるはずの無い感覚に戸惑う。

彼の左膝は確かに、隙だらけのラストの胴部へと打ち込まれており、ダメージとなっているはず

なのだが、どうにも妙に思えてならない。攻撃を受けた際に見られる反応が、感じられないのだ。

 

『翔太郎! 危ない‼』

 

「なに__________ぐッ⁉」

 

『戦いの最中によそ見とは…………舐めるな‼』

 

 

翔太郎が感じた違和感に対しての疑問。その一瞬の思考の停滞が一欠片の隙となり、ラストの

左腕を覆う装甲と装甲の細い溝から噴き出る紫紺の(もや) が、戦士の左腕をどんどん

包み込む。それにいち早く気付いて警告したフィリップだが、ほんの数秒の差で遅かった。

 

ラストの紫紺の靄がかかった左手が、Wの左胸部へと触れた瞬間、腰のドライバーに

装填されている漆黒のメモリが不自然なスパークを発し、それが黒い左半身へ伝播する。

 

 

「何しやがった⁉ ぐ、クソ! なんだこのバチバチ‼」

 

『まさか…………翔太郎、バランスが一気に崩れた! 早く別のメモリに変えるんだ‼』

 

「あ、ああ。分かったぜ相棒」

 

【METAL】

 

【CYCLONE / METAL】

 

 

急激な変化に驚く翔太郎に代わって、状況の把握に努めたフィリップが即座に指示を飛ばし、

訳が分からないままに信頼する相棒の言葉に従って、鋼色のメモリと漆黒のメモリを交換した。

疾風の記憶(サイクロン)>と<闘士の記憶(メタル)>を複合させた姿へと変化したWは、目の前で悠然とたたずむ

紫紺の戦士を見つめる。けれど、翔太郎もフィリップも、互いに異なる疑問を抱いていた。

 

 

(さっきまでの攻撃、まるで効いてないみたいにピンピンしてやがる………どうなってんだ?)

 

(おかしい。あんな急激に左右のバランスが崩れるなんて……………ヤツのメモリの能力か?)

 

 

翔太郎は先ほどの攻防の最中で、フィリップはつい先ほどの異常な事態で、それぞれ感じた

不可解な違和感を頭に浮かべ、肉体と精神を結合させているために互いがソレを把握する。

二人が二人の感じた感覚を共有し、それについて熟慮し始めた時、ガイアメモリについて詳しい

フィリップは、ある仮説にたどり着く。そしてそれは、状況を鑑みてより説得力を増していく。

 

その思考による動揺を目敏く察知したラストは、両手から靄を発生させつつ笑いながら語る。

 

 

『さっきまでの威勢はどうした? まさかもう疲れたとは言わないよな?』

 

「へっ、誰が言うかよそんなこと!」

 

『それは何よりだ。だがそれはそれとして、右側の方は気付き始めた頃かな?』

 

『なっ⁉』

 

『図星らしいな。ならば答えを教えてやろう。俺の持つこの、ラストのメモリの力を‼』

 

 

驚愕によって右目を赤く明滅させるWをよそに、ラストは両手からあふれ出る紫紺の靄を

どんどん放出させ、それを大きく横薙ぎに振り払った。だが、何の変化も見られない。

 

ラストが何をしたのかと敵を注意深く観察するフィリップだったが、今回は彼よりも先に

翔太郎の方が、場に現れた変化に気付き、動揺を見せることとなった。

 

 

「風が、風が止んだ………?」

 

『…………本当だ。風が止んでいる』

 

「バカな! ここは風都の風が収束される、風都タワーの近くなんだぞ!」

 

『理論上は止むはずがないのに…………』

 

『この程度で驚かれては困るな』

 

 

風都という街の構造を熟知している二人だからこそ、その驚きは並大抵ではなかった。

そんなWを鼻で笑うような台詞を吐いてから、ラストは本線道の植え込みに根を張った

細身の街路樹へ、靄に包まれた右手を伸ばして触れた。直後、著しい変化が現れる。

 

 

「なっ⁉」

 

『木が、枯れていく………』

 

『枯れるのとは、少し違う。メモリの力で今、この木は【終わって】いるのだ』

 

 

そう語っている合間にも、街路樹は若々しい緑を失っていき、ついにはボロボロと

音を立てて崩れ落ちていき、その木片ですらも粉微塵となり、風都の風に消えていく。

目の前で起きた現実に理解が及ばない翔太郎はただ、驚きに目を剥くばかりだが、

ここにきてフィリップがついに、ラストのメモリの力とその特性を理解しえた。

 

 

仮面ライダーラスト。彼がその手中に収めているものこそ、<終焉の記憶(ラスト メモリ)>である。

終わることを表す終焉、その言葉を関するこのメモリは、地球上の万物万象あらゆる

【終わり】を発現し、迎えさせることができる能力を有している。

この世の全てには終わりがあるが、それは決して"死ぬ"や"消える"と同義では

なく、それでいて地上における物質非物質限らずに共通する絶対の概念なのだ。

ラストが木に触れた瞬間、その時に木という物質は【終わり】を迎えさせられ、

地上に存在することはできなくなった。故に枯れ、朽ち、散って、消えていった。

 

敵からの攻撃を受ける際に能力が発動すれば、攻撃によるダメージやその効果などが

発揮されるよりも先に、それ自体が【終わり】を迎えることとなり、無効化される。

先ほどのWの蹴りによる攻撃も、その能力が使用されていたことで効果が発揮されず、

一切のダメージを受けていなかった。これが、翔太郎が感じていた違和感の正体だ。

 

 

『風も、火も、殴打も、銃撃も、何もかも!

触れた瞬間に全てを【終わらせる】この力を以て、復讐を果たす‼』

 

 

ラストの使うメモリの効果が如何に恐ろしいか、それを身を以て体験させられた翔太郎と

フィリップは、復讐せんと襲い掛かってくる紫紺の戦士に対して、一挙手分行動が遅れた。

そのわずかな間にも、ラストはすさまじい勢いでこちらへと向かってきている。

とにかく、現段階では打つ手がないことを悟り、フィリップは固まってしまったままの

相棒へ、回避に専念するようにと旨を伝えた。

 

 

『うかつに触られたらどうなるか、僕にも分からない。あの能力は危険だ』

「あ、あぁ。だな」

 

『ヤツに触れないようにする方法は、ただ一つ』

 

「野郎を近づけさせなきゃいいんだろ!」

 

【LUNA】

 

【TRIGGER】

 

回避の旨を伝えたフィリップは、それと同時に緑色の右腕で黄金色に輝くメモリを取り出し、

片や翔太郎もまた、全く同じタイミングで、漆黒の左腕で群青色のメモリを取り出した。

その二つのメモリの起動ボタンを押し、メモリ内部に抽出されている記憶の名を、電子音声が

その場にいる三人に等しく告げる。彼らが取り出したのは、Wが有する七つのメモリの二つ。

疾風のサイクロン、切札のジョーカー。

炎熱のヒート、鋼と闘士のメタル。

 

フィリップのためだけに作られた、牙と本能のファング。

 

そして今、彼らが腰のドライバーの機構を動かし、換装したそのメモリこそが最後の二本。

一度中央に寄せたスロット部分を掴み、再び左右にWの文字を作るように展開させた。

 

 

【LUNA / TRIGGER】

 

 

Wを中心に光が生じ、そこに黄金色の破片と群青色の破片が群がり、徐々に全身を覆って、

最終的にそれらはこれまでと同じようにWを守護する装甲となった。左が青、右が黄金の。

 

儚さと神々しさが合わさる幻想的なメロディと、弦をかき鳴らすシュートサウンドが響き渡る。

 

崇められし威光と讃えられし神秘で守られた、輝ける月輪の如きライトゴールドの右半身に、

正確無比な射撃と見敵必滅の火力を引き出す、機械仕掛けの如きターコイズブルーの左半身。

 

新たに顕現したのは、<幻想の記憶(ルナ メモリ)>と<射手の記憶(トリガー メモリ)>を複合させた、仮面の英雄。

 

【仮面ライダーW ルナ/トリガー】

 

彼らが保持するメモリの中で、唯一といっていい遠距離武器を使用できる姿となったWは、

変身と同時に左胸部に転送されてきたメカチックな銃、【トリガーマグナム】をその手に取る。

黄の右腕で銃口を向け、空いた左腕を胸に添えつつ、Wは迫りくるラストへ引き金を引いた。

動作が正常に作動して、引き金を引き絞ることで銃口から発射された弾丸は、真正面から

向かってくるラストへめがけて直進___________せずに軌道を変え、左肩部へ着弾した。

 

『ぐっ…………そうか、ソレが<射手の記憶(トリガー メモリ)>の力か‼』

 

「トリガーだけじゃねぇ」

 

『このWの真髄は、<幻想の記憶(ルナ メモリ)>にこそある』

 

 

思わぬ方向から射撃を受けたラストは進軍を止め、銃口を向けているWを睨みつける。

だが、青の左半身がラストの言葉を一部だけ否定し、黄の右半身がその補足を行った。

 

Wが言ったように、先ほどの物理原則上ありえない角度で曲がる現象は引き金(トリガー)ではなく、

むしろ弾道が不規則に変わる神秘(ルナ)にこそあるのだ。

 

射手の記憶(トリガー メモリ)>は、メタルと同じような、複合性のあるメモリである。

トリガーという言葉では、文字通りに引き金の付く物、つまり銃火器(あるいはボウガンなど)が

想起されることだろう。実際、このガイアメモリは確かに、地球が記録してきた遠距離武器の

記憶が抽出されている。しかし、それだけではこのメモリはただのガラクタに成り下がるのだ。

これは良く考えれば誰にでも分かることであり、至極当たり前のことでもある。

答えは簡単。『如何な優れた遠距離武器とて、それを放つ者がいない』のならガラクタだ。

 

古代の弓も然り、ボウガンも然り、小銃も拳銃もミサイルも、引き金を引く者がいなければ、

それはただの"物"でしかない。何の脅威にも成りえない、ただそこにあるだけの"物"となる。

そう考えると、引き金を持つ物と同時に、引き金を引く者が同じ記憶として抽出されても

別段おかしな話ではない。いや、そうでなくては、使うことなどできなかったのだから。

 

しかし、これで分かる通り、<射手の記憶(トリガー メモリ)>には特別な能力などありはしない。

 

このメモリが持つ能力は、射撃の武器と射撃のスキルを与えるだけで、放った弾丸を不規則に

曲げたり、弾道を狂わせてありえない方向から着弾させたりなど、そんな芸当は不可能である。

だが実際、それが現実に起きている。そしてそれを可能にさせたのは、もう一つのメモリだ。

 

幻想の記憶(ルナ メモリ)>こそが、この理論上は不可能な芸当を可能にした力の根源である。

こちらはサイクロンやヒートと同じ類のメモリだが、あの二本以上に汎用性に富んだメモリで、

先に解説したトリガーとの相性が最も良いとされるメモリでもある。その力はまさに、神秘。

人と呼ばれる知性体は、古来より様々な物質や現象に"神秘"的な何かを感じずにはいられぬ

種族であると同時に、それらを畏れながらも崇め、奉るという行為を絶えず繰り返してきた。

特にそれらは、人の手の及ばない現象や事象にこそ、強い傾向がみられるものである。

例えば火、例えば水、例えば風、例えば土_____________あるいは、光。

 

夜という暗闇と獰猛な野生生物が支配する残酷な時間を知る人間たちは、いつしかそれらを

克服するために、火を光源として使用するようになり、闇を払拭する光を、畏れ敬い崇めた。

人間の目では見通すことのできない夜闇を照らし、昼ならば世界の全てを明るみに出すほどの

光が、手の届かぬ空の彼方で燦然と輝いている。手の届かぬ強きものに、人は頭を垂れた。

 

今日まで地球が記録してきた人類史に於いて、"光"とはまさに、人間を救う"神秘"の象徴

であり、決して手の届かぬ、届いてはならぬほどの御力をかざす"幻想"の御業の顕現なのだ。

人々が崇め、敬い、尊び、讃えてきた"光"という形無き"神秘"は、人々を癒す月の光のようで

あるとして、ガイアメモリにより記憶として抽出された。実際にそんな力など無いとしても、

人類の過去が、歴史が、未来永劫まで語り継いでいくのだろう。

 

あるかどうかも分からない、その"幻想"を。

 

 

森羅万象の理に囚われることのないルナの力と、正確無比な人類の知恵たるトリガーの力が

合わさることで、通常ではありえない角度や軌道から、確実に敵を捉える弾丸を放てる。

 

その事を完璧に理解しているWは、怯んだ状態のラストへ向けて、容赦なく引き金を絞った。

タタン、タタンと続けざまに放たれていく常識破りの銃撃は、全て的を外れることなく着弾し、

終焉の能力によって守られているラストの全身から硝煙を上げさせる。

 

「クソ! フィリップ、コイツ弾が当たってもビクともしねぇ!」

 

『あの靄のようなものが、おそらく敵の能力を発動している状態を示している』

 

「なら、どうすりゃいい⁉」

 

『とにかく、あの靄をどうにかする方法を考えないと…………』

 

『そんな時間を、俺が与えると思うのか‼』

 

「『‼』」

 

 

攻撃の一切が通じていないと実感し、なおも対策を立てようとするWではあるが、目の前で

多角的射撃を何度も受けているのに、よろけることすらしない相手を見ていると、勝機が

本当にあるのかと疑ってしまう。特に、理論的に考えすぎるフィリップなどはそうだ。

物理的な手段で靄を突破する方法を模索するも、どの方法も終焉の能力をかいくぐって

ラスト本体へダメージを与えられるかどうか、決定的な算段を立てられないでいた。

そんなフィリップが最後に考え付くのは、Wにおける、最強最後のメモリの使用。

 

二人を文字通りに一人にするあのメモリならばあるいは、と思考を構築して可能性を

広げていく右半身だが、わずかに思考の海に溺れていたことが、逆に仇となった。

 

 

『はぁッ‼』

 

「うっ___________ガハッ‼」

 

『翔太郎⁉』

 

 

右半身が可能性の模索に没頭する中、左半身は肉薄してくる紫紺の戦士を迎撃しようと、

トリガーマグナムの引き金を引き絞り続けていたのだが、それも長くは持たなかった。

予測不能な弾道による射撃を、あるいは弾き、あるいは躱し、あるいは無力化してWへ

接近していったラストは、とうとうその青と黄の二色に分かれた首筋を右手で捉える。

 

ただの人間とはいえ、成人男性である羽田睦を片手で持ち上げ、首の骨をへし折った

ほどの膂力を誇る腕に掴まれたWは、苦しげな声を上げながら、徐々に体が浮いていく。

五秒も経たぬ内に爪先がアスファルトを離れ、水を求める魚のように足場を欲して

もがくものの、それをラストが許すはずもなく、抗えば抗うほど高度は上昇していった。

 

完全に地面への帰路を立たれたWは、トリガーマグナムのグリップ部で拘束する右腕を

殴打するも、苦し紛れの抵抗にすらならずに、噴き出した紫紺の靄で掻き消されていく。

「ぐっ…………か、ああッ!」

 

『翔太ろ________く、なんだ⁉ 意識が………』

 

『さぁ始まったぞ、終焉が。お前たちを待っている、向こうで呼んでいるぞ!』

 

『だんだん、翔太郎とのリンクが…………とぎれ……て………』

 

『言い忘れていたが、<終焉の記憶(ラスト メモリ)>は特別製でな。困ったことに、能力を発動している

時は、誤って生きているものに触れてしまった場合、それすらも【終わらせて】しまう』

 

『なん、だっ…………て………⁉』

 

『そう、【終わる】のさ。生命ですらも終焉へ誘う、この力はまさに無敵だ‼

もっとも、この力はあの人のものとは違って、永遠ではないがな………………』

 

 

どこか遠くを見るような物言いとともに、ギリギリと音を立ててWの首根を締め上げて

いくラストは、少しずつ抵抗しなくなり、動きが鈍くなっている敵を見て勝利を確信した。

生命を終わらせることができると言ったのは、嘘ではない。

しかし、風や弾丸などとは違い、生命あるものを終わらせるのには少々時間がかかる。

成人男性程度ならば、少なくとも9秒程度は触れ続けていなくてはならないほどに。

だからあの時、本当なら時間をかけてやろうとしたのに、Wと異世界から来たライダーの

妨害を受けたせいで、即座に殺さなくてはならなくなった。あの男の、首の骨を折って。

昨日は計画通りにはいかなかったが、今回は確実に9秒以上触れてから止めを刺す。

 

そう考えながら、首筋を締め上げる右手にもっと力を加えていくラストと、

紫紺の戦士とは対照的に、もはや右手の銃を取りこぼすほど力を無くしたWの二人。

 

 

『確か、こう言っていたな___________「さぁ、お前の罪を数えろ」‼』

 

目の前で存在を終焉へと堕とされていく仮面の英雄に、同じ仮面の下で笑みを浮かべ、

完全なる勝利を得るために彼は、右腕を覆っている靄の濃度を、さらに増大させた。

 

Wの首が掴まれてから実に、7秒が経過した直後だった。

 

 

「________________________」

 

 

一発の銃声が、ラストとWの間に響いたのは。

 

 

『ぐあぁぁッ‼ な、なんだ⁉』

 

 

唐突に訪れた痛覚への刺激に耐えられず、その衝撃も相まってWからあっさりと手を

放してしまったラストは、自身の右腕を包む終焉の靄があることを確認した。

この靄がある限り、ありとあらゆる現象事象は【終わり】を迎えることとなるはず。

なのに今、右腕には痛みが迸った。何故だ、いったい何故。何が起きたのだ。

 

あまりの出来事に混乱しつつも、銃弾の飛来してきた方向へとその双眸を向ける。

 

 

『な……………お前は、まさか‼』

 

 

驚愕に仮面の下で目を瞠ったラストと同時に、終焉から解放されたWはもう既に

メモリの力とライダーとしての装甲がほとんど【終わらされて】いたために、

変身が解除されてしまっていた。細やかな破片が街の風に流される中、路面へと

倒れ伏した翔太郎は、朦朧として薄れていく意識の中で、何が起こったのかを知ろうと

顔をゆっくりと上げて、視線をさまよわせた。ぼやけた視界の中で、彼は、見た。

 

 

その全身を染め上げているのは、<切札の記憶(ジョーカー メモリ)>と似て非なる、純黒の装甲。

その人柄を表すような、自己主張が少なく厳かだが、いぶし銀に輝く頑強な六つの胸骨。

そのにじみ出る風格を醸し出すのは、首元を一巻きして包み隠す、薄汚れた白マフラー。

その腰に装着されているのは、Wとは異なり、ラストと同一の、ロストドライバー。

そして、翔太郎が途絶えかけた意識で最後に見たのは、いつも見ている彼の帽子。

 

翔太郎が目標に掲げている男が語った、『男の生き様、ハードボイルドの象徴』であり、

『男の目元の冷たさと、優しさを隠す』のが役目であった、誇り高き白地の帽子。

それを仮面の上から頭部にかぶせ、軽く、けれど確かに左手を添えたその出で立ち。

 

 

忘れるはずがない。忘れられるはずがない。

 

翔太郎にとって、ここにはいないフィリップにとって、この風都という街にとって。

 

 

その寡黙にたたずむ戦士は、二人といない本物の英雄なのだから。

 

 

「………おや……っ…………さん…………」

 

 

声になっていたかも分からぬその言葉を最後に、翔太郎の意識は黒く塗り潰された。

瞳を閉じた翔太郎の姿を、肩越しに見つめた純黒の戦士はただ、無言で彼を見る。

 

 

『ありえない………お前は、お前はもう、死んでいるはずだ‼』

 

 

黙して語らぬ戦士を目撃したラストは、自身の知る情報ではここに居るはずのない事を、

その根拠を取り乱しながら大声で叫ぶが、それを前にしてもなお、戦士は沈黙を貫く。

何が起きているのか、それについて考えることを放棄したラストは、両腕から大量の靄を

放出させて、現れてから微動だにしない戦士に向かって瞬時に間合いを詰める。

 

 

『いていいはずがない! ここでもう一度、死んでおけ‼』

 

 

紫紺の靄をまとわせた腕を振るい、身じろぎ一つしない戦士へとそれを叩き込もうと

したその瞬間、無言に徹していた戦士が動きを見せたと同時に、ラストが吹き飛んだ。

 

 

『ぐおおぉぉッ‼』

 

 

喰らった側も驚くほどに、華麗かつ的確にヒットした右の回し蹴りによって、

ラストが詰め寄っていた距離がスタートした時以上に広がり、紫紺の靄が滞留する。

万象を終焉に誘う靄を受け、それの中心に居てもなお、戦士は一言も発さない。

 

白い帽子に再び左手をやり、深めにかぶり直した戦士は、右手に持った黒一色の銃を

左手へと持ち替え、軽くなったその右手をゆっくりと、立ち上がったラストへ向けた。

 

 

『何故だ、何故お前がここに居る_____________鳴海荘吉ィィ‼‼』

 

雄叫びを上げるラストへ向けられた右手、その人差し指が、紫紺の戦士を指し示す。

 

それはまるで、断罪の開始を告げる晩鐘。

罪を犯した者へと告げられた、言外の宣告。

 

その顔を覆っている仮面は、感情を消して定めに徹する、髑髏の如く。

その頭頂部から額へと奔る黒い線は、迸る稲妻のように描かれた" S "の一文字。

その空虚な双眸からは、骸となりてなお消えぬ、信念が言葉も無く放たれる。

 

 

骸骨の記憶(スカル メモリ)>の適合者にして、覚醒にまで到達した男。

愛する者を守るため、愛した街を守るため、死して不滅の『覚悟』を持つ男。

 

風の止まない街、風都を守り続けてきた、たった一人の孤独な英雄。

 

 

その名は、【仮面ライダースカル】

 

 









いかがだったでしょうか‼

さぁ、そろそろこの【Wの世界】もいよいよ佳境に差し掛かってまいりました‼
やはりWの名を関する以上、この御方を出さないわけにはいきませんね‼

私は彼ほど、『男』という文字が似合う戦士を、他に知りません。

『漢』ならば、たくさんいます。いえ、もちろん『漢』も素晴らしき人たち
ばかりなのは違いありませんし、優劣をつけようなどとも思っておりません!

ですがやはり、『男』とはこういう生き物なのだと考えさせられますよ。

おやっさんの強さと気高さを少しでも表せるよう、努力していきます‼


それでは次回、Ep,34『Sが守るもの / 風都が愛した男』


ご意見ご感想、ならびに批評も大募集でございます‼

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。