仮面ライダーディケイド ~The Darkness History~   作:萃夢想天

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どうも皆様、最近眠気が増してきた萃夢想天です。

何かに集中しようと決心した途端に、睡魔に集中力を貪られる日々でして。
これでもちゃんと睡眠はとっているはずなんですが……寝つきの問題ですかね?


書いてるだけで眠くなる話題はここまでにして。


今回は、タイトル通りの回になります。
士とユウスケが向かった先に現れたドーパントと戦い、風都を守れ!
みたいな感じになると思いますが、文才はお察しなのでご了承ください。

それと気になったのですが、『仮面ライダーエグゼイド』の話の展開が
やたらと早過ぎやしませんかね? ホイホイと強化したと思ったら一人脱落。
挙句に闇(病)堕ちする主人公の覚醒とか、もうほぼ終盤の勢いじゃないですか!
このペースで本当に一年保てるんですかね………後半がgdる可能性ががが。


研修医の明日はどっち⁉ は、置いといて。
それでは本編を、どうぞ!





Ep,32『Rの覚悟 / 風都防衛戦』

 

 

 

 

 

____________風都市内、湾岸エリア

 

 

左 翔太郎と共に占拠された風都タワーへ向かう途中、街の各所にドーパントが出現したという

報告を受けた士とユウスケの二人は、それぞれ二手に分かれて怪人の暴動を食い止めに向かった。

 

そしてこの湾岸エリアでは士が既に、<闘志の記憶(メタル ドーパント)>と戦闘を開始していた。

 

 

『ウオオラアアァァァアアァッ‼』

 

「チッ! 鋼鉄のくせして、なんて身のこなしだ」

 

 

当初は風都警察署から派遣された警官隊が、街を守るために奮闘していたのだが、地球の記憶を

その身にまとって暴れ回る怪物に常人が敵うはずもなく、ただ怯えながら銃を乱射することしか

出来なかった。しかし今、彼らは銃を撃つのを止めて、新たに現れた仮面の英雄の姿を見ている。

 

この風都に暮らしていて、仮面ライダーの評判を知らない者はいない。

 

二人いるらしいことと外見以外の情報は無いが、それでも風都市民ならば仮面ライダーの事を

ある程度は知っていて当然のはずなのに、警官隊の全員が目の前で戦う戦士を知らないのだ。

口々に、「緑と黒の半分だって聞いてたぞ」とか「真っ赤に輝く大剣を持った奴」だとか、

自分たちの知る英雄像を語り上げるも、眼前の戦士と思しき情報は一つも上がらなかった。

それを不思議に思いながらも、警官隊はみな、その戦士と怪人の一騎打ちを恐る恐る窺っている。

 

そんな事など露知らず、仮面の戦士ディケイドとメモリの怪人メタルは、拳を振るい合っていた。

 

 

『ハッハッハーッ! ウルァ‼』

 

 

朝日の光を反射して煌めく銀色の全身を軋ませながら、硬質化された拳を振り抜くメタル。

"メタル"という一言から同時に抽出された鋼鉄の力と合わせて、その力は自動車を砕くほどだが、

それを全身の筋肉を使って勢いよく振り抜いたりなどしたら、どうなるか言うまでもない。

が、しかし。この場にいる常人は離れた場所で震える警官隊だけで、そこに立つ戦士は違う。

 

「ぐあぁ! く、野郎………お返しだ、はぁ‼」

 

金属が硬いものと衝突した際に鳴る特有の音を響かせながらも、拳を仮面に受けたディケイドは

一歩どころか数センチほども退くことなく、逆に拳を腕ごと弾いた反動で鋭い蹴りを叩き込む。

異世界を渡る仮面ライダーの装甲はやはり硬く、全身金属のようなメタルの身体を歪ませるに

至ったものの、それでも余裕そうな笑みを漏らす敵に再び、達人の域に達した蹴りを喰らわせた。

まさに、一進一退といえる卓越した近距離戦により、互いの装甲を傷つけ火花を散らせている。

 

「………クソ、やっぱ硬いな。頑丈過ぎだろ、その身体」

 

 

だが、意外にもこの状況で劣勢を感じていたのは、ディケイドの方だった。

 

先ほどから互いに一歩も引かない肉弾戦(インファイト)を繰り広げているものの、確実に相手にダメージが通って

いるのかどうかと聞かれたら、頷ける自信がディケイドには無い。それほど、敵は硬いのだ。

拳をぶつけても蹴りを入れても、攻撃された側である相手の硬度が高過ぎてこちらが痛いほど。

逆に相手からの攻撃は、それが拳であっても蹴りであっても、こちらの装甲を容易に上回る硬度で

あるため、確実なガードか回避をしない限り、手酷いダメージが装甲を突き抜けてきてしまう。

このまま戦闘を長引かせれば面倒になる。そう考えたディケイドは、ある策を思いついた。

 

 

「…………賭けて、みるか」

 

誰に言うでもなくそう呟いた彼は、腰のライドブッカーから一枚のカードを取り出してバックルに

装填後、機構を動かしてその情報を読み取り自身の肉体に反映。別の姿へと変身を遂げる。

 

 

【KAMEN RIDE KABUTO】

 

 

ディケイドのバックルから電子音声が鳴り響き、新たな姿に変わったことを平淡に宣言する。

 

その全身を、太めのラインが刻まれたような外観の、黒いスーツが包み込んで肉体を覆い、

カブトムシの強固な外殻を連想させる、独特なフォルムの紅蓮の装甲が日輪を受け光り輝く。

青いコンパウンドアイを下から上へ二つに裂き、複眼状の双眸へと変化させていきながら、

さながら昆虫の王を彷彿とさせる形状の角が、蒼天を貫くが如く直立し、機械音を鳴らす。

 

風都の風を受けてそこに立ち上がったのは、最高最速の世界を往く仮面ライダーカブト。

 

両手をパンパンと埃を払うように打ち鳴らした彼は、そのままもう一枚のカードを取り出し、

ベルトのバックルへと装填しようとしたのだが、そこであることに気付いてそれを止めた。

 

 

(そうか………クロックアップを使ったとしても、ヤツにダメージを与えられねぇのか)

 

 

世界の総てを置き去りにできる速度を手に入れ、誰も追いつけない速さの世界を往く力を

手にしても、全身が鋼で構築しているような防御力を持つ相手には、攻撃自体が通らない。

速度をどれだけ上げても、どれだけ手数を増やしても、あの防御を突破できる力が無いなら、

焼け石に水にもならないだろうと悟り、カブトは手にしていたカードの使用を断念する。

 

唸り声をあげながら突っ走ってくるメタルの拳を回避しつつ、どうにか現状を打開する方法を

見つけ出さなくてはと焦るが、速さと防御の事を考えていた彼の頭脳が、考え方を切り替えた。

 

 

(速さじゃ防御は貫けない……………なら、防御で防御は破れるよな(・・・・・・・・・・・)?)

 

 

そう思い立ったカブトは、メタルの大振りの右拳をいなしてから背中を蹴り飛ばして距離を置き、

鋼の怪人が向き直ってくる前にライドブッカーから新たなカードを取り出し、それを発動させる。

 

「攻撃が最大の防御なら、防御は最大の攻撃ってな」

 

【FORM RIDE KABUTO MASKED】

 

 

先程とは少しだけ違った電子音声の後には、まるで異なる姿となったカブトが立っていた。

 

不純物を一切含まない聖水の如き青のコンパウンドアイに、頭部を覆い隠す銀色の強化外殻装。

蛹を連想させるほどに丸く太い肩部アーマーに、制作した『ZECT』のロゴの入った円形パーツ。

ワゴン車のフロント部のように、前方へ突き出たチェストボディと、同じく銀色の各アーマー。

 

打って変わってガッシリとした構造の鎧をまとうのは、マスクドフォームの仮面ライダーカブト。

 

絶対的な『速さ』を求めたライダーフォーム。それとは真逆のコンセプトで設計されたこの姿は、

完全無比なる防御の力と圧倒無類を誇る攻撃の力を宿す、まさに堅牢な殻に身を覆う蛹そのもの。

重厚な鎧を着込んだカブトは、ギシギシと全身の鋼を唸らせるメタルに、人差し指を折り立てた。

 

 

「さぁ、地球の記憶の結晶と、人間の科学の結晶…………どっちが(かたい)かハッキリさせるか」

 

 

好戦的過ぎる態度で豪語したカブトは、全身を包む硬さと重さを新たな武器とし、打って出る。

それに対してメタルもまた、相手からの挑発を受けて拳をわなわなと震わせて距離を詰め始めた。

 

そこからはまさに、小細工無しの真っ向勝負だと言わんばかりに、互いの拳がぶつかり合う。

 

右の拳が鋼を殴り、左の拳で鋼に殴られ。右足が鋼を蹴り、左足で鋼に蹴られ。

左の手が銀鎧を叩き、右の手で銀鎧に叩かれ。左膝が銀鎧を打ち、右膝で銀鎧に打たれ。

 

怯む様子もないまま完全なるゼロ距離攻撃での猛襲を繰り返し、その都度火花と音が舞い響く。

怪人の拳がゴギャンと音を鳴らしてカブトを殴れば、同じ音を鳴らしてカブトが怪人に反撃する。

もはや警官隊の誰かが、隙を見て援護射撃をしようなどと思わせないほどの領域で、殴り合う。

火花が散り、金属同士がぶつかる音が響き、戦士たちの雄叫びが街の風と共に周囲に伝播する。

 

ディケイドが新たに考えたこの策は、実に単純明快な思考の元に導き出されたものだった。

いわゆる『攻撃は最大の防御』という考え方は、攻撃を受ける前に敵に攻撃することによって、

自らに傷をつけられる前に倒してしまおうという、至極短絡的なノーガード戦法である。

しかし実際、この戦い方に明確な間違いはない。敵から攻撃を受けなければ、敗けることはない。

果敢に攻め立て続けることで、自らを攻めさせる時間も隙も与えないというのは、確かに有効だ。

だが、その攻撃が相手の防御を崩せなければ、その方程式は成り立たない。

 

如何に優秀で殺傷能力の高い矛を持っていても、敵の盾がそれを阻むのなら、勝てるはずがない。

敵の防御の方がこちらの攻撃よりも優れていたのなら、その攻撃は通じていないも同然である。

 

では、自身がその絶大の防御力を手にしたらどうなるか。答えは当然、勝つことはできない。

あらゆる攻撃をも弾く防御力を得ても、敵を倒せる攻撃力が無いのならばこれも意味がなく、

攻撃と防御の立ち位置が入れ替わっただけで、結局また振出しに戻ることとなってしまう。

 

けれどディケイドはそこで、別の考え方を編み出した。

 

敵の攻撃を寄せ付けぬほどの硬度を誇る盾を得たうえで、どのようにすれば敵を倒せるのか。

 

 

答えは____________攻撃を弾けるほど頑丈な盾で、直接相手を殴ればいい。

 

 

攻撃を超えた防御を持つ敵には、同じレベルの防御の力を武器としてぶつければ通じる。

それこそがディケイドが考えた策、『攻撃は最大の防御ならぬ、防御は最大の攻撃』だ。

 

防御の力が本当に盾のようなものであれば、この方程式も成り立ち難かっただろうが、

ここにおける防御とは、敵の攻撃を受けてもびくともしない頑丈かつ堅牢なボディを指す。

 

よって、この馬鹿げた方程式が奇跡的に成り立ってしまうのだ。

 

 

「やあッ‼」

 

『ウルアァ‼』

 

 

もう何度目になるかも分からぬほどの拳の打ち合いで、一際大きく耳障りな音が響いた。

 

________メキャッ

 

 

すると、衝突した拳と拳の間から、そして全身を覆っている強固な鎧から、嫌な音が漏れる。

本来曲がるはずのないものが、凄まじい力によって強引に捻じ曲げられる、そんな音が。

 

 

(…………金属疲労、か? まぁこれだけ派手にやり合えば、疲労の速度も度合いも早まるか)

 

 

その音に目ざとく気が付いたカブトは、競り合いになっていた拳を引っ込めると同時に蹴りを

メタルの胴体へ叩きこみ、一旦距離を置こうと三歩ほど後方へ下がり、自分の状態を確かめる。

 

変身直後には全身をほぼ完璧に覆っていた強外殻装甲も、そのほとんどに大きな亀裂が入り、

特に敵の攻撃を多く受けた胴体部辺りは幾つか欠けていた部分もあり、近接戦の壮絶さが窺えた。

そんな自分を冷静に見つめた後で、その視線をゆったりと体勢を整えているメタルへ向ける。

どうやらあちらも、体のあちこちにヒビが入っているようで、最初より動きがぎこちない。

 

これを好機だと捉えたカブトは、確実に敵を倒すために構えを取り、拳に力をこめる。

それを見たメタルも同様に、右の指を順番に内側へ折りたたみながら鋼鉄の握り拳をつくった。

 

 

『ウオオラアアァァァアアァッ‼』

 

 

盛大な雄叫びと共に拳を振り上げて突っ込んでくるメタルを前に、カブトはただ構え続ける。

駆け足で距離を詰めるメタルは、五秒もしないうちに自身の拳の射程圏内にカブトを収めた。

しかしそれは同時に、カブトの拳の射程圏内にメタルもまた侵入したということに他ならない。

 

疾走し、振り上げた拳をその身に乗った速度と共に打ち出すメタル。

それに対し、その場に留まって相手の一撃を見極めんとするカブト。

 

一秒にも満たない刹那に、ボロボロになった両者の拳は、打ち合わずにすり抜けていく。

 

 

(狙いはやはり____________クロスカウンターか!)

 

 

それまでは接触させて侵入を拒んでいた拳を、あえて受ける覚悟で自身の一撃を放つという

このクロスカウンターという状況に際して、どういうわけかカブトは拳の進撃を半ばで止める。

カブトの左拳はメタルの右頬にはまるで届かず、突き出された右肘の辺りで動かなくなった。

 

だが、メタルの拳は動いたままで、そのままカブトの左頬に向けてなおも突き進む。

そしてその鋼の鉄槌がカブトの仮面を捉えようとした直前で、その動きが不可解に止まった。

 

否、メタルの拳は、止められていた。

 

 

「やはりそうくると思ってたぜ」

 

『アァ⁉』

 

「この間合いまでくれば充分だ。速さも硬さも関係なく、この一発を当てられる!」

 

『ウ、ガアァッ‼』

 

 

ブルブルと震えるメタルの拳は、カブトが突き出していた左手が右肘を掴み取ったことで、

そこから先へと伸びなくなっていたのだ。前へ進まない拳には、何の威力も恐怖もない。

そうして状況が拮抗しているうちに、いつの間にか手にしていたカードがバックルへ装填され、

空けられていた右手によって機構を動かされて情報を読み取り、その効果の発動が開始された。

 

 

【FINAL ATTACK RIDE kA,KA,KA,KABUTO】

 

 

最終攻撃の名の下に、バックルからは三つの黄金の輪が、カブトの紋章を中心に展開されて、

その輝きが霧散していくと同時に、カブトの全身を覆っていた強外殻装甲が一斉に弾け飛ぶ。

 

四方八方へと飛び散っていく銀色の鎧を至近距離で浴び、さしものメタルもようやく怯む。

だが、そのメタルの右腕はカブトがガッチリ捕まえていて、逃げようにも逃げられない。

よろけたメタルの目の前で、再びカブトが蛹を突き破って赤い角を蒼天を貫くように立てる。

 

ライダーフォームへと舞い戻った彼の右足には既に、高速圧縮されたエネルギーが充填されて

おり、その余剰分が青白い雷光となって迸るが、それを気にする余裕などメタルには無かった。

 

いや、与えられなかった。

 

 

「やあぁぁぁあああ‼」

 

『ウゴォォアアアァァアアァァッ‼⁉』

 

 

右肘を掴んだ左手を身体を軸にして引き寄せて、その回転の力を同調させた右足の蹴りを放つ。

限界まで膨らんだ風船が破裂するように、度重なる打ち合いで摩耗し、疲労していた全身が

ついに悲鳴を上げてカブトの必殺技の高エネルギーに耐え切れず、金属が沸き立って爆散する。

 

金属の砕ける音と共に、噴き上がる爆炎の中で<闘志の記憶(メタル メモリ)>は跡形もなく砕け散った。

 

 

「さて、残るは金色と青色と赤色、それとラストとかいう親玉だけか」

 

 

勝利の余韻に浸ることもなく、淡々と現在の状況を確認したディケイドは、いちいちこうして

ドーパントと当たっていくよりも、それを支配下に置くラストを倒してしまえば万事解決だろうと

考え、乗ってきたマシンディケイダーのアクセルを吹かして一路、風都タワーへと発進した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

____________風都市内、風都スタジアム前

 

 

火炎と高熱を自在に操る怪人、<炎熱の記憶(ヒート ドーパント)>は今、目の前の存在に怯えていた。

 

彼女に相対しているのは、その背の後ろに火傷だらけになっても街の平和を守ろうと奮闘した

警官隊を庇い、周囲で燃え広がっている灼熱の赤を受けてより一層照り輝く赤をまとった、

仮面の英雄クウガである。

 

しかしヒートは、ただクウガを恐れているのではない。

 

ここに現れてから既に十分ほどは経過しているが、ヒートはまるでダメージを負っていない。

それどころか、むしろクウガの方がこちらの放つ火炎球によって深く大きな傷を負っている。

なのに、倒れない。

 

何度も火炎で焼いたし、何度も熱で炙ったし、何度も高温で殴ったし、何度も高熱で蹴り抜いた。

それでも、クウガは倒れない。いや、倒れたとしてもすぐに起き上がりまた向かってくるのだ。

 

何をしても立ち上がってくる底知れぬ不屈さに、ヒートは恐怖から微かに身震いまでしていた。

 

 

「………ハァ……………ハァ」

 

 

今だって、放った火球を左肩に喰らって鎧が焼け焦げ、もんどりうって悲鳴を上げていたのに、

それもしばらくしたら悲鳴を噛み殺しながら立ち上がり、こちらを真っ直ぐ見据えて拳を握る。

その異常としか言い様のない耐久力と忍耐力に、ヒートは恐怖を感じずにはいられなかった。

 

 

「ハァ……う、くっ!」

 

 

一方のクウガは、逆に焦燥を募らせていた。

 

彼は今、守る戦いを強いられている。自身の背の後ろには、怪人に対して抵抗もままならない

弱者たる警官隊が、火傷を負って動けずに固まっているのだ。そんな状態でドーパントと戦う、

それが難しくないわけがない。守ることと戦うことの両方を遂行する難しさに、クウガは焦る。

 

ここで自分が戦わなければ、後ろにいる人たちが殺されてしまう。

人の笑顔が、奪われてしまう。

 

誰かの笑顔を守るために戦う彼は、誰かの笑顔を奪わせないために、退くことは許されない。

それでもヒートは、クウガの何度やられても起き上がる不屈さに怯え、先程から一向に接近を

せずに、十数メートルほどの距離から火球を射出するだけという、単調な攻撃法を選んでいた。

 

 

『クゥゥ…………ヤッ! ハァッ‼』

 

「く、あっ!」

 

 

それでも、遠距離戦をすることができない状態のクウガは、必死に火球を避けるしかなかった。

火が燃え広がっているスタジアム前の広場を、横に後ろにと転がって何とか回避し続けるも、

それもあまり長くは続かず、痺れを切らしたヒートの巨大火球を避けきれずに左足が被弾する。

 

いくら超古代の力で肉体を変質させているといっても、痛いものは痛いし、熱いものは熱い。

肉が焼き焦がされていく激痛を、歯を食いしばって耐えるクウガは、そこである物を見つけた。

 

 

「こ、コレって_________ガイアメモリ、だよな?」

 

 

火炎弾を避け続けていたクウガは、広場の片隅にあるアーチのたもとに落ちていた物体を

素早く手に取り、その形状が翔太郎たちに見せてもらったガイアメモリと一致していると気付く。

こんなところに、無造作に置いてあるはずがない。では、コレはいったい何だ?

 

戦闘行動中の影響で頭の回転が常時の数倍に跳ね上がった彼は、手にしたメモリを裏返す。

表側に貼られていたラベルには、何やら幾つもの機会が合体したような『 U 』の文字があった。

 

「U? Uってどこかで…………あ‼」

 

 

つい最近聞いたばかりの一文字を見て、その物体がガイアメモリである証明を得る。

 

「Uのメモリ……アルティメット、か」

 

 

昨日死んでしまったという翔太郎たちの依頼人が、捜索してほしいと言っていたメモリを

偶然にも発見してしまったクウガは、その右手に持ったメモリのボタンを押してしまった。

事前に聞かされていたような機械音声が響くと予想していた彼は、更なる驚愕に陥る。

 

 

【UNLIMITED】

 

「___________え? アンリミテッド?」

 

 

聞こえてきた音声が、予想とはまるで違ったことに驚き、もう一度ボタンを押したのだが、

帰ってくるのは平淡で機械的な同じ音声。よく聞いてみても、アルティメットではなかった。

【アンリミテッド】、直訳してしまえば【無制限】

 

明らかにこの存在がおかしい事には、流石のクウガでも気付いた。けれど現状、彼一人では

何もすることができない。敵に勝つことも、人々を守ることも、メモリの真実を追うことも。

どうにかしてこの事を伝えるために、生き延びなくてはならないと思考を瞬時に切り替えた

クウガは、懐にしまおうとしたメモリをもう一度見た瞬間に、あることを思い出した。

 

それはこのメモリを、Uのメモリを探してくれと頼んできた彼が語った、メモリの特性の話。

 

 

(使用すればするほど人の心を蝕んでいく、麻薬と似た危険な兵器!)

 

 

羽田睦の生前の話を思い出したクウガは、その話と手にしたメモリの能力を予想して、

この状況をどうにか打破できるかも知れない策を、策と呼べそうにない賭けを思いついた。

 

今自分が手にしているメモリは、アンリミテッド。つまりは、無制限の記憶である。

それがもし、使用者に文字通りの無制限の力を与える能力を持っていたとしたら、どうか。

そしてその力が、既にメモリによって怪人となった相手にも、通用するのかどうか。

 

失敗したら、それこそ無制限の力をも取り込んでしまい、今以上に手が付けられなくなる。

そうなったらもう、自分どころか後ろの警官隊、それどころか士達にまで被害が及ぶかも

しれない。しかし賭けに勝ち、無制限の力が溢れ出て敵がそれを制御できずに暴走したら。

 

 

(そうなれば俺にも、勝機はある‼)

 

 

自らが勝つために、自らが守りたいものを守るために、クウガは一か八かの賭けに出た。

 

右手に<無制限の記憶(アンリミテッド メモリ)>を握りしめて、しばらく様子を見ていたヒートへめがけて一直線に、

火球が飛んでこようが火炎を放射されようがお構いなし、とばかりにがむしゃらに駆ける。

それまでは攻撃を避けようとしていたクウガが、いきなり攻勢に転じたことで動揺を隠せない

ヒートは、避ける気が微塵も感じられない愚直な突進を見て、かえって恐怖が助長された。

 

『クッ! ハァ‼』

 

 

アレだけ一方的に攻撃を受けても立ち上がる奴が、今度はただ愚直に突き進んでくる。

それを見て思うのは、回避を諦めたバカの特攻か、もしくは形勢逆転を告げる破城槌か。

どちらにせよ、たまらなく恐ろしく感じるのは、変わらないだろう。

 

効率も燃費も考えずにドンドン炎を放ち、ガンガン熱を上げていくも、まともに当たらない。

わずかな恐怖で手元がおぼつかないことに、ヒート自身が気付いていなかったのだが、

そうして灼熱と猛火の短距離走が終わりに差し掛かり、クウガはそこから一気に跳躍した。

地面から足を離した以上、ロクな回避はできないはずだと残り少ない平常心が語り掛け、

ヒートは空中に居るクウガへ向けて、今自分が出せる最大火力の炎弾を指先に生み出す。

ところが、それを射出しようと振りかぶった直後、彼女の視界はクウガの右膝に覆われた。

 

 

「おりゃああぁぁぁあああ‼」

『ウグェ‼』

 

 

ただの跳躍ではなかった。クウガが行ったのは、上方ではなく前方へと飛び出す跳躍だった。

その結果、前へ向かっていくエネルギーを加えられた右膝蹴りが、攻撃のチャンスだと意識を

一瞬だけ逸らしていたヒートの顔面へと叩き込まれたのである。

 

かなりの速度から突き出された膝を顔に受け、思いっきりのけぞってしまうヒートを左手で

逃がさないように捕まえたクウガは、右手にしっかりと握っていたメモリを深々と突き刺した。

 

 

【UNLIMITED】

 

『キャアアアァァアアァアアアアッッ‼⁉』

 

 

瞬間、突き刺したメモリが冷淡に自身の記憶を告げて、ズブズブとヒートの体内へ潜っていく。

やがてメモリが完全に飲み込まれていった直後、甲高い絶叫と同時に怪人の身体が燃え盛った。

 

結果的に言えば、クウガの目論見は成功した。

 

彼が打ちこんだ<無制限の記憶(アンリミテッド メモリ)>は、ヒートの体内にあった<炎熱の記憶(ヒート メモリ)>に対して予想通りの

効果を十全に発揮し、文字通りにヒートの能力を無制限に発動させ続ける暴走状態へ陥らせた。

自分自身でも制御できなくなった炎熱は、自身の耐熱性能すらも凌駕する超温にまで達して、

その肉体を内側からじわじわと完全燃焼させていき、まさに生き地獄を味合わせていた。

自分すらも焼いてしまう劫火に苦しむヒートに、クウガは一瞬手を差し伸べかける。

あまりにも、あまりにも彼女が苦しみもがく姿が可哀想に思えて、見ていられなかった。

しかし、それでも無制限の力は衰えることなく、さらに炎の勢いを激しくさせていく。

 

『_____ァ、ァア』

 

 

そしてとうとう、ヒートの肉体が臨界点を突き破り、溶岩のように溶けて流れ始めた。

人型をしていたモノが、グチャグチャに融解していく様子を目の当たりにした警官隊は皆、

誰もが等しくその光景に耐え切れなくなり、胃の中にあったものを胃液ごと吐き戻していく。

そんな中、誰かを守るために誰かを倒す使命を果たしたクウガが、それを目撃する。

 

 

『…………ヒド………ヨ、カ…………ミ……』

 

 

下半身がもうほとんど溶けて原形を留めていないソレが、手を空に伸ばして呟く姿を。

それはまるでどこかに、誰かに対して伸ばしていた手のように思えて、クウガは静かに俯く。

やがて何かを求めるように虚空を彷徨っていた指が溶け、腕と共にドロドロに溶けて落ちた。

 

何も言えないまま、何も言わないまま、<炎熱の記憶(ヒート メモリ)>は音もなく溶解した。

 

 

「__________クソ‼」

 

 

何ともいたたまれない気持ちが心を支配し、クウガは向ける先のない怒りを言葉にして吐く。

今の惨状を生み出したのは、紛れもなく自分だ。しかし、こんな酷い事が起きたのは何故か。

それはこの街を、街の笑顔を奪おうとしてメモリを悪用している者が、いるからに違いない。

 

 

「絶対に、許さない………ッ‼」

 

 

クウガは今、激しい怒りに燃えている。

 

今の彼は、この街を守る正義でもなければ、この街に害をなす悪でもない。

 

彼はただ、そこにある笑顔を守りたいがために、涙を流して痛む拳を振るうのだ。

 

 

最後にそう吐き捨てたクウガは、風都タワーにいるであろう諸悪の根源に対する怒りを胸に、

乗ってきたビートチェイサーのアクセルを踏み抜き、全速力で風の吹く街を駆け抜けていった。

 

 

 








いかがだったでしょうか?

ヒートとメタル、ここで撃破です。本編だとあの二人かなり強いですけどね。
尺の都合というやつです。けれど個人的には、上手く個性を出しながらの戦闘が
描けたのではないかと満足しております。残るはトリガーとオカマーか…………。

それと書きながら思ったのですが、現在放送中のエグゼイドの新フォーム
【仮面ライダーエグゼイド レベルX】について、個人的な推測をば。

一人が二人に分裂するのって悪くないです。むしろ好きですガンガンやったれ。
じゃなくて、展開上あのフォームは、前作のゴーストにおける【闘魂ブースト】と
同じ立ち位置に当てはまるのではないかと。多少の修正はあれども闘魂(父さん)とは
劇場版先行公開フォームという点で共通してますし。でも、どうなんでしょう?
そうなるとアレで中間形態か………また遺影フォームの再来にならないといいですが。

個人的解釈は、また別の機会といたしましょう(今更


それでは次回、Ep,33『Nを継いだ者 / 忍び寄る終焉』


ご意見ご感想、並びに批評も大歓迎でございます!

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