仮面ライダーディケイド ~The Darkness History~   作:萃夢想天

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どうも皆様、2016年の最後に部屋のプチ掃除をした萃夢想天です。

今回は先週の日曜日に書く予定だったんですが、喉を痛めてしまってから
ずっと熱っぽさが引かずに二日ほど寝込んでおりまして………ええ、風邪です。
運動不足の解消に鼻歌交じりに寒空を30分も散歩するんじゃなかった(猛省

言い訳はここまでとしまして。

コレが私の年内最後の投稿と成ります。加えて、投稿遅れてますからね。
それなりのけじめとして、気合を入れて書かせていただきます!
(この言い方だと、普段は気合入れてないみたいで不謹慎ですねw)


ソレでは年内最後のSSを、どうぞ!





Ep,31『目覚めるL / テロ事件再び』

 

 

_________羽田睦 永久という男は、最初から存在しない

 

 

フィリップが口にしたその一言は、緊迫したこの場面にいる者をさらに困惑させた。

最初にその言葉を聞いて反応を見せたのは、フィリップの相棒であり、依頼人を目の前で失った

左 翔太郎であった。彼は常に意識しているハードボイルドの仕草も忘れて、食ってかかる。

 

 

「オイ、そりゃどういうことだよ相棒! 羽田睦さんが最初から、存在しないって」

 

「順を追って話そう。まずは落ち着くんだ、翔太郎」

 

 

頭に血と熱が昇る翔太郎とは裏腹に、どこまでも冷静であるフィリップが相棒の興奮をたしなめ、

ひとまず自分の話をキチンと聞いてもらえるように、相棒が椅子に座り直してから話を再開した。

 

 

「僕は最初に、門矢 士の言ったように羽田睦 永久が殺される理由を探ることから始めてみた。

と言っても、君たちには何のことだか分からないだろうから、僕の力を掻い摘んで説明しよう」

 

 

およそこの場における最年少の人間が放つものとは思えない雰囲気をまとい、フィリップは話の

根幹になるであろう『自分自身の存在』について、若干の躊躇の間の後に語り始める。

 

 

「僕はただの人間ではなく、地球というデータベースによって構築されたデータの塊なんだ。

幼い頃に、僕の父が発掘した遺跡の井戸……地球の記憶の中枢ともいえる場所にアクセスできる

ポイントへ誤って落下した僕は、わずか三歳でこの世を去り、データ人間として蘇った」

「データ人間………」

 

「だから僕は、このメモリに自分の意識を再データ化してインプットし、翔太郎の持つベルトの

スロットへと転送することが出来る。WがWとして成り立つのは、僕がデータ的存在だからさ。

さて、そして地球という膨大なデータの貯蔵庫によって構築された僕は、この世界で唯一、

地球そのものへのアクセス権を有することが出来た。無限のデータベースを個人で閲覧できる」

 

「それが、さっき言ってた、『地球(ほし)の本棚』ってヤツ?」

 

「正解だ、小野寺 ユウスケ。地球が今この瞬間にも記憶、記録しているあらゆる事象や現象を

リアルタイムで僕は閲覧し、その知識を蓄えることが出来る。人型のデータバンクという認識で

構わない。とにかく、僕は今地球の本棚を使って、羽田睦 永久という一個人の記録を調べた」

 

__________地球の本棚の解説

 

 

フィリップの壮絶な過去からの贈り物ともいえるこの能力の、簡単な解説をしよう。

ほとんどの事はフィリップ自身が語っていたが、ここではその補足という形で詳細を示す。

 

まず、彼の能力である地球の本棚とは、地球そのものという無限のデータベースのことであり、

彼はそこへアクセスし、内部にある途方もないデータを全て閲覧することが出来る稀有な存在だ。

地球がこの時にも記憶・記録し続けている「地球上にある全て」には、当然ながら一個人という

限定的な情報も含まれているため、それら全てを彼は誰に咎められることなく網羅してしまえる。

良く言えば、地球上に存在する全てを解明できる稀代の天才。

悪く言えば、地球上に存在する全てを丸裸にする最悪の合鍵。

 

誰よりもこの世界を詳しく知ることが出来る、まさに『地球(ほし)の申し子』と呼ぶに相応しい彼が

保有することを許された究極にして最強の能力。それがこの、『地球(ほし)の本棚』である。

 

 

「________という具合に、僕は彼の事を検索してみたんだが………どうかした?」

 

「「い、いや、別に………」」

 

 

それまで淡々と語っていたフィリップの表情が、そこで初めて曇り模様を見せた。

彼の対面に座っていた夏海とユウスケの二人が、そろって引きつった笑みを浮かべたからだ。

彼女らがそのような反応を見せた理由までは、言うまでもないだろう。この場でそれが分からない

人物がいるとすれば、世界を知ろうと思えばいつでも知れたが故に無知であり続けたデータ人間

こと、フィリップその人だけだ。そして今、絶賛その通りの状況となっている。

 

引き気味に苦笑いを浮かべ合う二人を横目で見つつ、話の続きを待っている二人の気配を敏感に

感じ取ったフィリップは、クセっ気の強い前髪を指でいじりながら、話の続きを語りだす。

 

 

「話を続けるけど、僕は羽田睦 永久という一個人に絞って検索をかけてみた。

ところが、その検索には一冊も引っかからなかったんだ。これが意味するところは一つ」

 

「…………羽田睦 永久という人間が、そもそもどこにもいやしない」

 

「そういう事だ。まあ今まで僕らが経験してきたことからくる推測だけど、可能性としては

偽名という手もある。ただこの場合は、他の角度から検索をかければつながるはずなんだが。

ソレすらも無かったとなると、やはり羽田睦 永久という人間自体の存在が無い方が理に適う」

 

「……じゃあ、アイツは誰なんだ?」

 

「だから、それを今調べてたんだろうが‼」

 

「調べても分からなかったんだろ、だったらどうしようもないだろうが」

 

「あァん⁉」

 

 

話の途中だというのに、またも衝突を始める士と翔太郎を各陣営の常識人たちがなだめる。

両者ともに睨み合いながらも息を落ち着かせ、話を継続できる状態に戻ったのを確認してから、

フィリップは三度目になる中断からの再開を始めた。

 

 

「とにかく、現状はとても不安定だ。僕らに依頼を持ち掛けてきた羽田睦 永久という人間が

そもそも存在していなかったという事実と、彼が僕らに探させようとしていたメモリの行方。

このどちらも彼や、あの謎の仮面ライダーの思惑が介在しているとしたら、非常に危険だ」

 

「………フィリップ、あの紫の野郎のメモリ、見えたか?」

 

「済まない。羽田睦 永久の方にばかり目がいってしまって」

 

「だよな……あんな状況でもそんなとこまで見れるわけないもんなぁ」

 

「あのオッサンとライダーが、敵同士なのかもな」

 

「憶測だけれど、今のところは有力な線ではある。門矢 士、君の意見も可能性としてはあるよ」

 

 

疑うという事に際限は無いとばかりに、どんどん後ろ暗い方向へと思考を沈めていく三人を、

直接その場に居合わせていなかった二人、夏海とユウスケがどうするべきかと視線を泳がせる。

ただ、フィリップの話から二人も、羽田睦 永久という男への印象がガラリと変わったのには

間違いはない。誰しも皆、殺された彼の不可解さに囚われて、不信感を募らせていった。

 

既に時刻は午後の五時に到達しようとしていた頃、事態は急展開を迎えることとなる。

 

それまで一つの謎という深みにはまっていた五人のいる事務所に、新たな人物がやって来たのだ。

そしてここに来た二人の男が、停滞していたフィリップたちに予期せぬ風雲急を告げる。

 

 

「オイ翔太郎! なぁオイ、心気臭ぇツラしてる場合か? 街がエライことになってんだ!」

 

「探偵ェ! い、いつも出しゃばってくるんだから、こういう時も、で、出番だよな⁉」

 

「なんだよ突然、(ジン)さんにマッキーじゃねぇか」

 

「………刃野(じんの)刑事に真倉(まくら)刑事、今は亜樹ちゃんがいないから依頼は無理ですが」

 

 

鳴海探偵事務所の扉を壊さんばかりの勢いで突入してきたのは、風都警察署の刑事コンビの二人。

髪をオールバックにキメて、常にツボ押し器を片方の手に携帯している冴えない中年と、

パリッとしたスーツを着こなし、まだ青臭さの抜けない印象を抱かせる映えない若手である。

今にも「ややこしや~」と言って舞い出しそうな中年が、翔太郎と古い付き合いの刃野幹夫で、

自尊心はあるのに下手に人が良すぎて空回りする若手が、翔太郎を毛嫌いしている真倉俊という。

彼らは風都警察署の刑事であるが、その所属は「超常犯罪捜査課」という、聞き慣れない部署。

何を隠そうその部署は、殺人でも麻薬でもなく、ガイアメモリとドーパント犯罪に対してのみ

捜査活動を許可された、選りすぐりの敏腕エリートが集う場所。と言えば聞こえはいいのだが、

実際は彼ら二人と同部署の課長である【仮面ライダーアクセル】こと照井 竜の三人しかいない。

尤もらしい理由を挙げるなら、超常犯罪捜査課を立ち上げた照井から声をかけられたから、だ。

設立当時は、ドーパントという未知の怪物と渡り合う覚悟が風都署には無く、街外から派遣された

照井に全権を押し付けて自分たちは物見遊山を決め込もうとしていたので、刃野と真倉の二人は

そのあおりをモロに受けることとなったのだ。見方を変えれば被害者に等しい人物である。

 

何かと事件現場での協力や衝突など、接点が多いためにお互い持ちつ持たれつでやっていたが、

これまでの比ではない慌てぶりで転びながら突入してきた二人に、翔太郎が話しかける。

 

 

「一体何がどうしたんだ? あ、まさか街にドーパントが現れたってんならもう」

 

「なんでオメェがドーパントのこと知ってんだ? ま、まあいいや、それもそうなんだが、

違うんだよ翔太郎! お前、テレビ見たか? 見てない? お前まさかテレビ見てないのか⁉」

 

「探偵~‼ どうなっちゃってるんだよこの街は~~‼」

 

「だぁーーもぉーー‼ 一旦落ち着けって! で、刃さん、テレビがどうしたって?」

 

「だぁからオメェ、テレビ見たかって! 見てないんだったら早くつけろ!」

 

「んな事言ったって、ウチにはテレビなんか…………あ、ガジェットなら」

 

 

しきりに「テレビを見ろ」と喚く二人をなだめつつ、翔太郎はテレビの代わりに普段ケータイの

代わりに連絡手段として使用しているメモリガジェットの、液晶画面をビデオ中継モードへと

切り替える。それをこの場の全員にも見えるよう、部屋の中央のテーブルにソレを置いた。

 

ガジェットのライブ機能で代用して映し出された画面を見て、翔太郎とフィリップは驚愕する。

 

 

「な、こ、コレ___________」

 

 

幾つもの感情がねじ曲がったことを示す表情を浮かべる二人の前で、その放映が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小さな液晶画面に映ったのは、風都市民であれば誰もが知っている街のシンボルの最奥部。

そして、そこに設置された幾本ものコードが接続された椅子のような物体と、並び立つ異形たち。

 

その悪い意味で見覚えがあり過ぎる異形の並ぶ中心に、紫紺の仮面をつけた戦士が立っていた。

 

 

『_______風都市民諸君に告げる』

 

 

四体の異形を従えるように並立させているその仮面の戦士は、不遜な態度で次の句を述べた。

 

 

『_______我が名は、ラスト。【仮面ライダーラスト】』

 

 

右手の親指のみを突き立てて、自分自身へと向けて証明とし、話を続ける。

 

 

『ガイアメモリに命運を握られた、哀れなる箱庭の住人たちを、解放する者だ』

 

 

あらかじめ用意していたかのような言葉の後に、異形たちが己の肉体の鼓動を見せつける。

 

赤い身体を持つ者は、その指先から燃える火の球を浮かび上がらせ、

青い身体を持つ者は、その右肘から先に延びる砲塔を正面に構える。

黄の身体を持つ者は、その両腕の代わりに生えた触手を波打たせて、

銀の身体を持つ者は、その鋼鉄の如き全身に力を込めて肉を震わす。

 

ずらりと並んだ異形たちを映したカメラは、再び中央の仮面の戦士の前へと戻った。

 

 

『この最新型ガイアメモリと、巨大光線兵器【エクストリームビッカー】を我々は

有している。もはやいかなる武力であろうとも、干渉することはできないだろう』

 

紫紺の仮面に二つ並ぶ深緑の双眸が見上げたソレが、照明の輝きのもとに照らし出され、

大きな椅子に見えていたものが巨大な光線兵器であることが、観衆の目に晒される。

それは奇しくも、一年半前に起きた悪夢を、全く同じ形で辿っているように思えた。

 

そこからさらに、仮面の戦士の演説は続く。

 

 

『この風都タワーを拠点に、我々は、風都を自由の楽園へと変える』

 

 

両手を大きく広げて見せた戦士の姿はまさに、世のしがらみから解放された者として

見えてもおかしくはないだろう。この光景に、一年半前の悪しき前例が無かったらだが。

 

それまで饒舌に演説を語っていた紫紺の戦士が、「ところで」と前置きを述べて話を変える。

 

 

『あと二つ………この街に、我々が望むガイアメモリが残されているのだ』

 

 

左手の指を二本だけ立てた状態でカメラの前に突き出し、それを下に向けて往復させる。

その動作はきっと、「この街に」というアクションで、言葉を強調させているのだろう。

やけにプロじみた演技を見せる仮面の戦士が、前置きと現状を語ったうえで本題に入った。

 

 

『その二本のメモリ、もし見つけたのなら、風都タワーまで持参していただきたい。

それが我々の求めているものであれば…………該当者に十、いや百億ほど贈呈しよう』

 

 

およそ一個人や五人程度の団体が提示するには、あまりにも荒唐無稽な金額が提示され、

コレを見ている"正常な"風都市民は誰もが、彼らの望むメモリを探し当てることを、

そしてそれの見返りとして渡される賞金の使い道を夢見始め、各々の目を曇らせていく。

さながら、一年半前に街を地獄へと変えようとした、白い悪魔の再来であった。

 

映像を見ている者の反応を心得ているように、仮面の戦士は締めくくる。

 

 

『諸君らの健闘を祈る_________以上だ』

 

 

その簡潔な言葉を最後に、映像は途切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

探偵事務所内の空気は、最悪の一言に尽きた。

 

事態を知らせに来た刃野と真倉の二人は慌てふためき、探偵コンビはかつての悪夢をなぞる現実に

恐怖と絶望、そして憤りがごちゃ混ぜになっていて言葉が出せず、異世界側の三人に至っては、

急激に変化した状況の中で慌てることも驚愕することもなく、ただ現状の把握に努める他ない。

 

しかし、人間といえども彼らは、真にこの街を想う英雄であった。

 

それまで沈黙を貫いていた翔太郎とフィリップが黙って立ち上がり、片や帽子掛けから勝負用の

ツバが広めの帽子を手に取り、片や開いていた本を閉じて帽子掛けを模した扉へ向かって動いた。

何も言わずにいた二人が取った行動に対して、刑事二人はただただ困惑して喚き散らすばかりで

あったが、異世界側の三人__________特にライダーの士とユウスケはその行動を理解していた。

 

 

「行く気だな?」

 

「………それ以外に、何かあるかよ」

 

 

ぶっきらぼうに呟かれた士の一言に、寡黙に身なりを整えていた翔太郎が抑圧した声で返答する。

明らかに、自分自身の内側からあふれそうになる感情を、どうにかして抑え込んているという

感じの声色であったものの、士はそれを無視すると、置いていたカメラを手に取って軽く告げた。

 

 

「俺も行く」

 

「……何だと?」

 

「聞こえなかったのか? 俺も行ってやるって言ってんだ」

 

 

振り返って鋭い視線を叩きつけてくる翔太郎に、気付いてる素振りすらなく士は淡々と続ける。

 

 

「アイツはお前一人………お前ら二人だけじゃ倒せない。だから、俺も行って手伝ってやる」

 

「どういう意味だ」

 

「言葉通りだ」

 

 

口数少なく言い放たれる言葉によって、互いのまとう雰囲気が段々と険悪なものになっていく。

これから共闘しようという者同士が抱えるべきではない悪感情を、敏感に察知したユウスケが

両者の間に割って入り、持ち前の人の警戒心を削がせる万人受けする笑顔で話をまとめる。

 

 

「つ、士の物言いはともかく! 翔太郎さん、俺も一緒に行ってもいいですか?」

 

「お前まで……」

「じ、自分たちの仕事に誇りを抱いているのは分かります! 俺がいた世界でも、責任感に

厚い人がいましたから…………でも、だからこそ、俺もそんな人の力になってあげたいんです!」

 

「わ、私からもお願いします! 士君とユウスケを、連れて行ってあげてください!」

 

 

ユウスケの「誰かの笑顔を守りたい」という純真無垢なる訴えに揺らぐ翔太郎を見た直後、

すかさず夏海も傍観者の立場から身を乗り出して、士とユウスケの動向を強く願い出た。

そこからさらに二人は、勢いよく頭を下げてもう一度「お願いします!」と口をそろえる。

 

人の情と可愛い(もしくは綺麗な)女性に対して無条件に甘くなる半熟野郎(ハーフ ボイルド)は、こうなると

もうどうにもできなくなる。必死の懇願をする二人を前に、ほんの少しの葛藤をしてから

とうとう諦めたように深い溜息を吐き、帽子のツバを指ですくってから渋々承諾した。

 

 

「分かったよ。アンタらがそこまで言うんなら、俺に止める権利はねぇ。だろ、相棒?」

 

「ああ。それに今回ばかりは、人手は多い方がいい。照井 竜の容態も気になるしね」

「そっか、照井の奴…………クソ、何がどうなってんだよ‼」

 

「それを確かめるために、行くんだろ?」

 

 

様子を見に行かせた亜樹子からも未だ連絡は無く、ただただ自分たちの置かれた状況の

不可解さに苛立つ翔太郎に、士が何でもないような口ぶりですべきことだけを述べる。

数時間前まで戦いを繰り広げていた相手に核心を突かれ、翔太郎はまた少し不機嫌に

なりながらも、士の言葉の正しさをキチンと理解できたために何も言えず鼻を鳴らした。

 

こうして、争っていた両者が手を組み、病院に搬送されたという照井の容態を確認した後、

謎の仮面ライダーとおぼしき一団が占領した風都タワーに乗り込むという作戦が決まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

明朝、午前八時を少し回った頃、鳴海探偵事務所から三台のバイクが飛び出していった。

 

この事務所にいる仮面ライダーが乗りこなす緑と黒の、ハードボイルダー。

世界の破壊者である彼がこよなく愛するマゼンタの、マシンディケイダー。

異世界からやって来て誰かの笑顔を守ろうとする赤の、ビートチェイサー。

 

正義の心を燃料とする彼らの愛車(二輪)たちは、風都を包む不穏な空気を裂くような

勢いで、街のシンボルであり中心部に位置する巨大なタワーへと一路邁進していく。

 

寡黙にエンジンを吹かす三人。本当ならば、ここにはもう一人の戦士が加わるはずだったのだ。

この街を脅かす悪を決して許さない不屈の男、この街にいる二人の英雄、その真紅の戦士が。

だがこの場に彼の姿はない。昨夜容態を見に行った亜樹子から連絡が入り、意識不明の重体で

依然予断を許さない状態であると涙声で聞かされたため、三人は彼抜きでの行動を決意した。

不安はある。照井 竜という人間の強さと、不死身とさえも謳われるその不屈の闘志を知る

翔太郎とフィリップからすれば、彼一人がいないだけで、かなり心細い思いを感じられる。

しかし、二人は一人として戦うが、決して独りではない。新たに戦列に加わる仲間が出来た。

少々危惧する点はあるのだが、その戦闘能力に至っては自分たちWを寄せ付けないほどのものが

あることは、実戦を経て体験済みである。もう一人の戦士は、底抜けに明るく好感が持てる。

 

照井はきっと目を覚ます。そしてもし彼がこの事件を知れば、必ず傷だらけの身体で駆けつける。

何より心強い事ではあるが、そんな事をさせていいはずが無い。仲間をこれ以上、無理に戦いへ

巻き込もうなどとは思えないし思わない。だから、ここにいる三人だけで、決着をつけてやる。

 

忌まわしき一年半前の悪夢を模倣する、仮面ライダーラストを名乗る謎の人物との決着を。

 

三人のバイク集団で先頭にいる翔太郎は、そんな思いと共にバイクのグリップを強く握る。

人知れず誰よりも優しい決意に心を燃やしていると、バイクのミラーに赤いランプが映った。

やけにチカチカする赤と、白黒ツートンカラーのあの車体は、間違いなく警察のパトカーだ。

そう思って横へ顔を向けた翔太郎は、並走してきたパトカーから顔を出す顔なじみに驚く。

 

 

「刃さん! マッキー! 何だってこんなとこに?」

 

「オイ翔太郎! お前、仮面ライダーと友達なんだろ⁉ 助けてくれよ今大変なんだ‼」

 

「探偵‼ 俺たちは暴徒化した市民をタワーから遠ざけるから、早く仮面ライダーを呼べぇ‼」

 

刃野刑事と真倉刑事の二人は、狭い車体の窓から這いずるように身を出して、口々に叫ぶ。

 

一応翔太郎たちは、自身が仮面ライダーであることを秘匿して暮らしている。

"仮面ライダーはこの街の英雄"というスタンスを貫くため、敢えて正体を隠しているのだ。

無論、ドーパント絡みでの依頼の際に、依頼人やその周囲の人間に変身したところを目撃

されたりすることなど多々あるのだが、その場合は依頼人からの謝礼金を一割削る代わりに、

箝口令(つまりは他言無用)を要求している。これによって、彼らの秘密は守られていた。

今いる二人の刑事もまた、翔太郎やフィリップ、上司の照井が仮面ライダーだとは知らない。

だから翔太郎はかつて、苦し紛れに自身と仮面ライダーは友人だという設定を口にしてしまい、

『風都一騙されやすい男』(彼と懇意な者曰く、騙され上手)な刃野がソレを鵜呑みにしたのだ。

 

そんな大恩ある刑事からの要請に首を傾げていると、パトカー内の無線に新たな一報が届いた。

 

 

『風都市内、湾岸エリアと風都スタジアム付近にて、武装集団の一員と酷似したドーパント出現。

警察署各員に通達。至急応援を急行させ、市民の安全の確保とドーパントの侵略を阻止せよ』

 

 

無線越しに伝わった話を聞いて、翔太郎はどうしようもなく焦るが、ふと背後を振り返る。

普段の彼は独りで、かつての自分も一人で困難に立ち向かっていたが、今はもう違う。

共に謎の集団の脅威を阻もうとする同志がいる。いくら気に食わなくとも、実力は折り紙付きだ。

 

ヘルメット越しに視線を送った翔太郎、そして彼の無言のメッセージは、頷きによって返った。

湾岸エリアにはマシンディケイダーを駆る士が、風都スタジアムには(自然公園と場所が近いため)

ビートチェイサーを駆るユウスケが、それぞれ車体を左右に動かして方向を変えて向かっていく。

そんな二人の小さくなる背中を見つめた翔太郎は、感謝の意を心中で述べると自身も前を見据え、

その先にそびえ立つ鋼色の巨塔へとハードボイルダーを駆って猛進していった。

 

 

「オイ、俺たちも行くぞ」

「了解です!」

 

非力ながらも街の平和を守ろうと闘志を燃やす、二人の刑事コンビもまた、別の現場へ急行した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

__________風都市内、湾岸エリア

 

 

既に近隣区域の住民の避難を完了した警察は、着実に迫りくる鋼色の怪人と交戦していた。

ところが、その強靭な肉体に弾丸は通じず、金属音を奏でてデタラメに跳ね返るばかりで、

戦果を挙げることなく徐々に追い込まれていた。

 

 

『ハッハッハッハ! ウラァ‼』

 

 

濁った赤い隻眼を宿すその怪人は、溢れ出る力を発散させるが如く拳を振るい、万物を砕く。

バリケードにしていたパトカーが破壊されて炎上する。これで、五台目が炎の中に消えた。

人ならざる者の脅威に竦み、警官隊は誰もが恐怖に震えて意味も無く弾丸を放ち続けていく。

無論ソレに効果は見られず、ひしゃげた鉛玉がアスファルトの地面に無作為に転がるだけ。

 

もう駄目だと怯え切った表情で泣き喚く警官たちの横合いを、一台のバイクが駆け抜ける。

 

 

『ウゴァッ⁉』

 

 

突然現れたマゼンタの突進に反応しきれず、分厚い前輪に胸部を強打された怪人は吹き飛ぶ。

何が起きたのかと警官隊が唖然とする中、乗ってきた愛車から華麗に降りた男はひとりごちる。

 

 

「………世界を救ってやるってのなら、まずは街の一つでも救わねぇとな」

 

『ギギギギ………ウルァァァアアァッ‼』

「それに、写真が撮れなくっても、この街の風は案外気に入ってんだ」

 

『ウオオオォォォッ‼』

 

「_______変身」

【KAMEN RIDE DECADE】

 

 

五人の警察官が手も足も出せなかった怪人と、一対一で向き合っていた青年の姿が変わる。

どこからともなく現れた人物は、瞬く間に灰色の装甲に覆われ、直後に色彩が加えられた。

 

その全身を染め上げるのは、幾多の戦場で浴び、色褪せた返り血の如きマゼンタカラーの装甲。

淡く、それでいて決して弱くはない光を宿した、混沌を見据えるライドグリーンの双眸。

左肩から胸部へと斜めに貫いていった十字架のような、白と黒が絶妙に映えるライン。

両腕と両脚を包む装甲の、その内側にある、返り血の如きマゼンタとは対照的な純白。

 

街の涙を拭う二色のハンカチも、街の悪を許さない正義の真紅も、ここにはいない。

しかし、悪を許さず、正義を燃やす仮面の戦士ならば、仮面の英雄ならば、いる。

 

 

「さて、片付けるか」

 

 

そう呟いたディケイドは、<闘士の記憶(メタル・ドーパント)>に臆することなく対峙した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_________風都市内、風都スタジアム前

 

 

ここでも警官隊が、迫りくるドーパントを相手に意味のない抵抗を続けていた。

否、意味が無いというのはあくまで、損害を与えたかどうかの視点での話だが、

この場に於いてその事実に目を向ける者は一人としていない。皆一様に、必死だった。

 

自分たちが暮らす街を、自分たちが愛する街を、絶対に守って見せる。

 

絶対的な力の差に怯えながらも、それでも銃を握って抗戦の意思を捨てない彼らの顔には、

暴虐という名の悪を振りかざす怪人たちから、守るべきものを守る使命感が刻まれていた。

 

『フフフ………アハッ♪』

 

しかし、それでもやはり現実は変わらない。人間と怪物では、その力の差があり過ぎる。

指先に火球を生み出した女性的シルエットの赤い怪人は、軽い口づけとともに指に宿した

その灼熱の弾丸を、全身を火傷やすすだらけにしながらも健気に立ち向かう凡人たちへ

向けて、実に楽しそうに放った。

 

 

「_________変身‼」

 

 

確実に肉を焦がし骨を焼き尽くすはずだったその焔は、バイクと共に現れた戦士に阻まれる。

赤く強靭な鎧に身を包み、黒い外皮にて四肢を覆った、誰も知らない仮面の戦士。

光を浴びて輝くその二本角や、肩部や腕部、脚部にある装飾の金色が、正義の赤を照らす。

超古代の力をその身に宿した、完全無欠にて正真正銘の仮面の英雄が、バイクを降りた。

 

 

「皆さん、あとは俺に任せてください!」

 

 

背後でただただ呆然とする警官隊に一声かけ、クウガは再び正面にいる怪人を見据える。

攻撃を邪魔された相手は苛立っているようだが、彼は悪戯に命を、笑顔を奪う行為を許さない。

 

「来い! 俺が相手だ‼」

 

 

自らの意思を叫んだクウガは、<炎熱の記憶(ヒート・ドーパント)>に怒りを向けて対峙した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

___________風都タワー前

 

 

 

今回の事件の主犯である人物を倒すため、タワーへと向かっていた翔太郎だったが、

鈍色の巨塔へ続く道の途中であろうことかバイクを降り、ヘルメットを取って前方を睨む。

 

そこには、彼が、彼らが倒すべき(てき)がいた。

 

 

『待ちわびたぞ、仮面ライダーWの左側』

 

「テメェ……ラスト‼」

 

『仮面ライダーラストだ、間違えるな』

 

「ふざけんな!」

 

 

紫紺の装甲に覆われた謎の戦士、ラストが仁王立ちで、仮面ライダーの到着を待っていた。

翔太郎の言葉を冷静に訂正するものの、その翔太郎が激昂して声を震わせて叫んだ。

 

「仮面ライダーって名前は、風都のみんなが付けてくれた名前なんだ。

テメェみてぇな偽物が、『大道 克己』を真似するふざけた奴に名乗る資格はねぇ‼」

 

 

一年半前に起きた悲しい悪夢に散った、一人の男の名を語った翔太郎が誇りを告げる。

ところが、その名を口にした途端に、ラストのまとう雰囲気が、余裕から殺意に変貌した。

 

 

『貴様こそ………貴様こそ! あの人の名を口にする資格など、あっていいはずがない‼

この俺を救ってくれた恩人を、その仲間を、無残にも殺しつくした貴様らには‼』

 

「何だと?」

 

『…………時間の無駄だ、言っても分かるまい。さぁ、来い。過去の仮面ライダー。

風都が自由の楽園という名の地獄に変わる時、俺の復讐は果たされる(・・・・・・・・)‼』

 

 

殺気をばらまくラストの言葉を聞き、この街にとって放っておけない敵であることを

改めて確認した翔太郎は、好き放題言ってくれる目の前の悪に対して、覚語を決める。

 

 

「覚悟しろ……………テメェは、俺たちが止める‼」

 

『やって見ろ! お前たちに、本当の終焉(ラスト)をくれてやる‼』

 

 

互いに互いを睨みつけ、翔太郎はドライバーを装着して事務所に残った相棒と意識を繋げ、

彼の意識と共に転送されてきた若草色のメモリを右側に装填し、自身の黒いメモリを挿す。

 

 

「『変身‼』」

 

 

バックルのメモリスロットが左右に展開し、緑と黒の小さな破片が風都の風に乱れ舞い、

やがてそれらが翔太郎の体に収束されていき、右半身が緑の、左半身が黒の装甲に覆われる。

突風ともそよ風ともとれる独特なメロディと、強調されたブラックサウンドが鳴り響く。

 

あらゆる束縛をものともせずに流れゆく、一陣の風の如きライトグリーンの右半身に、

あらゆる逆境を乗り越えて、自らが望む勝利をその手に掴むヘビーブラックの左半身。

 

そこに現れ立ったのは、<疾風の記憶>と<切札の記憶>を複合させた仮面の英雄。

 

今、正義を冠する仮面ライダーWと、悪をかざす仮面ライダーラストが対峙する。

 

 

 






いかがだったでしょうか?

年末スペシャル超特大版! いやぁ、大晦日の朝に早起きして書きました!
正直、私のこの一年はほとんどSSに費やされているのではないだろうかと
今になって気付きました。来年は、今より更新が遅れるやも………。

そういえば、前回のエグゼイドで私、興奮してしまいました!
【仮面ライダーゲンム Lv.10】という新たな白黒ライダーの誕生ですよ!
前々から言ってますが、私は白黒二色のライダーが死ぬほど好きでして、
今回のゾンビゲーさんも、かなり好みの部類に入ります! 見てて良かった!


それでは皆様、これが萃夢想天の2016年最後の更新と成ります!
そして来年もまた、これまで以上に作品に力を入れていきますので、
どうか応援のほど、よろしくお願い申し上げます!

皆様、無病息災であらせられますよう、お祈りしております!
これから冬もますます厳しさを増しますので、御身体をご自愛くださいませ!


それでは次回、Ep,32『Rの覚悟 / 風都防衛戦』


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