仮面ライダーディケイド ~The Darkness History~   作:萃夢想天

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どうも皆様、朝方から重労働させられて風邪気味の萃夢想天です。
くそう、明日は外せない用事があるってのに………ファッキン冬!

少々頭のあたりがボンヤリしているので、内容がいつも以上に
メチャメチャになってしまうかもしれませんが、どうかご了承ください。


それでは、どうぞ!





Ep,30『恐怖するC / 暴かれる謎』

 

 

 

 

風の吹き抜ける街、風都の片隅にある湾岸エリアにて、人知れず戦いが巻き起こっていた。

 

片や、異なる世界から現れ、様々なライダーの力を使う仮面ライダーディケイド。

片や、この街の人々から希望を託された緑と黒の英雄、仮面ライダーW(ダブル)。

 

誰も使っていない倉庫街の通路で、マゼンタの戦士と緑と黒の二色の戦士がぶつかり合う。

だがもしも、この状況を見ている第三者がいたなら、明らかな優劣の差を見せつけられて

いたに違いない。それほどまでに、両者の戦闘に関してのスキルとセンスは差が開いていた。

 

しかし、いかなる逆境においてもその身を砕いて戦うのが、仮面の英雄なのだ。

 

 

「ゥオラァッ‼」

 

「チッ!」

 

 

その言葉を裏付けるように、緑の右半身と黒の左半身の戦士Wが、鮮やかなステップを刻みつつ

両脚から蹴りの応酬を放ち、ブッカーガンでの射撃を行おうとしていたディケイドを怯ませる。

そこからさらに、黒い左半身から飛び出す拳や、緑の右半身から振るわれる右脚など、変化を

持たせた柔軟な攻撃の数々が、次第にディケイドの身体を後退させていき、ペースを奪っていく。

 

Wが現在使用しているガイアメモリは、<疾風の記憶(サイクロン メモリ)>と<切札の記憶(ジョーカー メモリ)>の二種類。

右半身のサイクロンは文字通りに、疾風をその身にまとう事や突風を巻き起こすなど、風という

概念に作用する力を持っていて、それを身体の動きに同調させる事で攻撃の威力や繰り出す速度を

通常の数倍にする効果がある。そして左半身のジョーカーは、逆境を乗り越えるための勝負強さ、

つまりあらゆる面での自己強化能力が備わっており、パンチやキックなどの身体能力に加えて、

本来ならばここぞという時の判断力や精神力などにも作用する効果を有している。

この二つの能力が相乗することによって、ディケイドの反応速度を超える攻撃を連続で繰り出す

ことが可能になっている。そして勿論だが、攻撃を受けている当人はその事実を知る由もない。

 

身体を独楽のように回転させながら蹴りを放ち、前進していくことでさらに追加で交互に脚を

振るわせて遠心力を得た蹴撃をディケイドに浴びせ、七度目の右の回し蹴りで大きく突き飛ばす。

予想以上の速さで叩き付けられたダメージに、地面を数回転するもすぐに体勢を立て直して、

片膝をついて肩を震わせたディケイドは、腰にマウントしていたライドブッカーに手をかける。

 

「スイカ模様が、調子に乗るな」

 

「誰がスイカ模様だとこの野郎!」

『落ち着いて翔太郎。もし【世界の破壊者】が彼なら、異世界の力は未知の脅威になる』

 

 

戦っている相手への皮肉を忘れない士と、挑発に踊らされる翔太郎にそれをなだめるフィリップ。

三者三様の反応を示す中、ディケイドは取り出したカードをバックルへと装填して機構を動かし、

カードに刻まれている情報を読み取らせて、その内容を自身の体へと反映させた。

 

 

【KAMEN RIDE BLADE】

 

 

カードの装填とともに立ち上がったディケイドの身体は、瞬きの間ほどの刹那で変貌を遂げる。

 

返り血の如きマゼンタカラーの装甲は、地球上での最高硬度を誇る美しき白金の聖騎士の鎧に。

黒一色であった腹直筋に似た部分は、本来の変身者が適合したスートであるスペードの紋印に。

淡くも強さを感じさせるライトグリーンの双眸は、溢れ出る正義を宿したような紅蓮の複眼に。

 

ディケイドが立っていた場所に現れたのは、仮面ライダー(ブレイド)だった。

 

カメンライドでブレイドにライドして、いつものように両手をパンパンと音を立てて打ち払い、

いきなり外見が完全に別物となったことに驚愕するWへ、助走無しの全力疾走で詰め寄る。

見た目からは想像もつかない速度で接近するブレイドを、脅威と認定したWの右側である

フィリップは、ボディである翔太郎から右半身の意識を奪ってブレイドに攻撃を仕掛けた。

 

 

『はぁッ!』

 

「甘いな。やぁッ‼」

 

 

街に流れる風をサイクロンの力で収束させた蹴りは、白金色の騎士装甲の前には効果は無く、

むしろ肉弾戦特化であるせいで接近しすぎたWに、ブレイドは渾身の左ストレートをぶつける。

正面から攻撃を防がれて、そのうえでカウンターを受けたWは、三歩ほどよろけて後退するが、

当然そんな隙をブレイドにライドしたディケイドが見逃すはずもなく、次の攻撃に移った。

 

微妙な距離が開いたために、瞬時の迎撃が来ないと悟ったディケイドはすぐさま、腰にある

ライドブッカーから新たに一枚のカードを取り出して、バックルへ装填。効果を発動した。

 

 

【ATTACK RIDE BEAT】

 

『翔太郎、何か来る!』

「やられる前にやりゃいいだけだ!」

 

 

ブレイドにライドするということは、ブレイドが使う能力を思うがままに使用できるという事

なのだが、そんな事をWが知っているはずもなく、ましてどのような力であるのかすらも把握

してはいない。この場合、翔太郎が早口で語った言葉は、決して間違っているわけではない。

間違っていたのは、【世界の破壊者】とまで呼ばれた男に、迂闊にも近づいたことだろう。

 

右半身のサイクロンが風を集め、それを微量の補助として瞬間的な行動をカバーさせた跳躍で

距離を詰めたWは、さっきのお返しとばかりに漆黒の左拳を握り締め、着地と同時に繰り出す。

呆然と突っ立っているだけのブレイドに不信感を抱いたものの、押し切れると思った翔太郎。

ところが、彼らの拳が白金の装甲へ辿り着くより一瞬早く、ライドブッカーから切り替えた

ブッカーソードのカード収納部が、漆黒の左拳の行く手を遮り、攻撃を不発にせしめた。

 

 

『バカな……今の一瞬で、正確に拳を受け止めるなんて』

 

「止めただけで終わるとでも思ったのか?」

 

「何________ぐあぁッ‼」

 

 

相棒の一撃が防がれたことに精神内で驚くフィリップに、ディケイドが吐き捨てるように

言葉を発し、その一言の意味を翔太郎が察するよりも早く、Wの身体が大きくのけぞった。

左肩から右脇腹に至るまでの長い切り傷から、金属同士がぶつかり合った証の火花が散り、

派手な閃光をぶちまけたと同時に、両者の鼓膜を不快げな高周の音波が無作法に揺らす。

Wを襲った謎の一撃の正体は、ブレイドが右手に握るブッカーソードの振動にあった。

 

彼が先程使用したカードは、本来はカテゴリー3と呼ばれるスペードの3『ビート』で、

ブレイドの世界ではパンチ力の底上げという効力を持ったカードである。

だがディケイドはそれが正確には、パンチ力アップではなく、振動による対物理性能向上

であると理解していた。そのため、そのカードの力を拳ではなく剣の刃部分に集中させて、

高周波で振動する凶器へと昇華させ、ほぼゼロ距離でそれをWへと振り下ろしたのだ。

毎秒数十~数百という数で振動する刃が、上昇した威力によって振るわれたらどうなるのか。

その結果は、今のWの受けたダメージが雄弁に物語っている。

 

飛び散る火花を返り血のように浴びながら、それでもブレイドは前進しつつWを斬り続ける。

左から真横へ振るい、返す刀で再び左肩から右脇腹までを削ぎ、深く踏み込んで一閃を放ち、

自身の左肩をぶつけるような姿勢になったブレイドは、そこから右脚を大きく蹴り上げた。

上半身を蹴りによって強制的にのけぞらされたWに、止めの一撃として剣で四回斬りつける。

 

 

「ぐああぁぁぁああッ‼」

 

『ぐっ………翔太郎!』

 

 

胴体を装甲ごと"X"の文字のように斬られたWは、そのまま無人の倉庫へと吹き飛ばされて、

長年使われていなかったからか、やけに量のある埃や塵をかぶって辺りを転げ回った。

そんなWを追って、ビートの効力が切れたブッカーソードを携えたブレイドが、倉庫の中へ

躊躇することなど微塵もなく侵入し、倒れているWの前で新たなカードを取り出してみせる。

 

 

【ATTACK RIDE TACKLE】

 

「はぁぁ…………」

 

『翔太郎、距離を取るんだ!』

「あ、ああ!」

 

次なるカードの発動を終えたブレイドは、ブッカーソードを不可解な姿勢で構え、そのことに

警戒心を助長させられたフィリップが、傷ついている相棒に危険を伝えてその場を離れさせた。

ところが、サイクロンの風で後方へ大きく跳んだWが次に見たのは、自身の着地地点のすぐ

目の前まで迫っている、白金の鎧を持つ戦士の姿だった。

 

 

「がはッ⁉」

 

Wの両脚が地面につくよりも早く、ブレイドの左肩がその身体をさらに後方へ吹き飛ばす。

ろくな受け身も取る間があるはずもなく、Wは倉庫のさらに奥へとその身を沈められた。

 

ブレイドが新たに使用したカードは、スペードの4『タックル』のカードなのだが、

コレに関しては説明のしようがない。文字通り、タックルの速度や力を補助するだけだ。

瞬間的な短距離移動にも使えないこともないが、そういうことにはあまり使われない。

だが今回はそんな癖のあるカードも、落下中の敵の追撃という大役を任せてもらえた。

今の一撃を受けた相手が、二度目の落下地点から中々這い上がってこないのを見て、

もう終わりか、と内心でガッカリしたように溜息をつき、ブレイドは背中を見せる。

 

 

【HEAT / JOKER】

 

 

しかし、そんなブレイドの背後から、急激な熱風が拳という形となって襲い掛かった。

 

 

「ヴォラァッ‼」

 

「ぐあッ!」

 

 

右半身を、緑ではなく赤色に染めたWが、燃え盛る火炎をまとった右の拳を振り抜き、

無防備な背中を晒していたブレイドへと突き刺し、そのまま豪快に押し込んでいく。

色が変わっただけではない。

彼の半身が変わるとは、つまりその性質も変化するということなのだ。

 

「どーしたァ! そんな、モンかよ‼」

 

「チッ! はぁッ!」

 

「うおッ………野郎、やりやがったな? お返しだ、オラもう一丁!」

 

 

先程とは打って変わって攻勢になったWは、右手の灼熱を漆黒の左拳にも火を灯す

ようにして、熱量を増した二つの拳によってブレイドを豪快に殴り飛ばしていく。

そして、それまでのツケと言わんばかりの勢いで、アッパー気味の右拳が炸裂した。

 

新たに切り替えられた右半身の赤は、<炎熱の記憶(ヒート メモリ)>によるもの。

フィリップ側であるソウルメモリ、つまり精神側のメモリに位置するこの赤いメモリは、

炎だけでなく熱に関する地球の記憶を内包している。その応用性はまさに、可燃性の物には

見境無く燃え広がっていってしまう炎の如し。または、万物全てに伝播する熱のように、

このメモリの力はWの戦力増強に大いに貢献している。

 

分かりやすい例を挙げるなら、今のように炎を身体にまとわせることが可能になること。

サイクロンの収束のような効果ではあるが、その攻撃性能の差は比べるまでもないだろう。

拳に、脚に、全身に、彼の肉体を包む<炎熱の記憶>が燃え盛る炎と熱を供給し続ける。

言うなれば、攻撃することに特化したWの一形態であろうか。

 

「………炎、か。コッチは雷電(サンダー)だから相性は、まずまずってところか?」

 

 

しかし、(今はブレイドだが)ディケイドも並大抵の存在ではない。

 

今の一撃でWの特性が変化したことと、その性能を把握した彼は、このまま先程のような

攻撃を浴び続ければ先に自分が倒れる事になるだろうと、冷静に判断していた。

そして再びライドブッカーからカードを取り出し、バックルに装填。効果を発動させる。

 

 

【ATTACK RIDE METAL】

 

「メタルだと? 野郎、俺たちにケンカ売ってんのか!」

 

『まだ見せてもいない手を、知られているとは思えない。まずありえないよ』

 

「ンなこと言ったってよぉ」

 

『ヒートジョーカーの攻撃性能なら、あの姿の防御を間違いなく突破できる。

サイクロンでの戦闘と今の数回の攻撃で、計算は完了した。いけるよ、翔太郎』

 

「………ああ。信じるぜ、相棒!」

 

 

バックルから発せられる電子音声を聞き、自身が持つとあるガイアメモリを連想したW

だったが、右半身に居る相棒によって落ち着きを取り戻し、再度両拳に炎を点火した。

戦意を見せるWを前にしても、ブレイドはまるで動じることなくその場で立ち尽くして、

何かをする素振りを一向に見せない。いや、何かをする必要がないと言うのが正解か。

 

不動の構えを見せるブレイドが、余裕をかましているのだと曲解したWは駆け出して、

己の二つの拳につけた炎を揺さぶりながら、彼我の距離が数歩までに達したところで跳躍。

落下のエネルギーを加えた左拳を振りかざし、勢いそのままにブレイドへと拳を突き出す。

 

だが、Wの拳も炎も、ブレイドの不動の構えを解くことは出来なかった。

 

「なに⁉」

 

『そんな馬鹿な! あの装甲の強度の計算は完璧なはず………』

 

「だから言っただろ、甘いってな。やぁッ‼」

「二度も食らうか‼」

 

 

まるで分厚い鋼鉄製の彫像を殴りつけたような感触に、Wは互いに違った意味で驚愕し、

その隙を突こうと仁王立ちの状態から右拳を振るおうとしたブレイドは、寸でのところで

我に返った翔太郎によってその一撃を阻まれる。そした互いに、膠着状態に陥った。

 

Wの攻撃が効かなかったのもまた、ブレイドの持つ能力の一つ、スペードの7『メタル』に

よる硬質化が理由である。こちらもほぼタックルと同じ、一時的にブレイドの装甲をさらに

上回る超高硬度の金属分子構造に変化させることで、全身を金属に変える力がある。

タックルと同じなのは、効果と名前が直結しているのと、発動時間が短いことだけだが、

実力差の拮抗している者同士の戦闘において言えば、その刹那で勝敗が決まるのだ。

 

元来の強度を遥かにしのぐ頑強さを得たブレイドの拳と、それまでとは比べ物にならない

攻撃性能を炎としてまとったWの拳が、さながら真剣の鍔迫り合いのようにぶつかり合う。

押しては押され、押されては押しを繰り返す両者だったが、それも数秒だけの間だった。

 

『あの防御力、厄介だね。翔太郎、ここはヒートと一番相性の良いアレでいこう』

 

「ああ、アレだな。分かったぜ」

 

「何が来ても同じだが、そっちがその気なら俺も遊んでやるぜ」

 

 

一つの肉体の中にいる二人が意思を疎通させ、それを聞いた悪魔もまた不敵な笑みで返す。

そこから出し惜しみをしないようにと、両者ともにキッチリ五回分拳を振るい抜いてから、

少し距離を取り、Wは新たな鋼色のメモリを、ブレイドは赤い戦士のカードを手にした。

 

 

【HEAT / METAL】

 

【KAMEN RIDE KUUGA】

 

 

熱く滾るようなヒートロックなメロディと、重厚な鋼鉄の如きアイアンサウンドが響き渡り、

それらとほぼ同時に、ディケイドにとっては聞き慣れた電子音声が、バックルから鳴り響く。

一瞬の時が過ぎればそこには、赤い右半身と鋼色の左半身となったWと、

赤い装甲に金色の二本角を輝かせた、超古代の文字をその身に刻んだ戦士クウガがいた。

 

「あれは………確か、フィリップの方に居た、ユウスケって奴の」

 

『ああ。小野寺ユウスケの変身した姿に、酷似し過ぎている』

 

「俺をあんなのと一緒にするな」

 

 

ポツリと漏らした呟きを聞いたクウガ(ディケイドだが)は、頭の中に思い浮かべたもう一人の

クウガと自分を同列に見てもらっては困ると言い放ち、そのまま距離を詰めようと駆け出す。

対するWもまた、別の場所で同じ姿を見たことで困惑したものの、相手がこちらに向かって

接近してきていることを視認して、迎え撃つように変身時に背中に転送されてきた物体を右手で

掴み取り、身体の前方へと持ってきて振り回した。そう、その物体は、細長い円柱状であった。

 

メタルシャフトと呼ばれる、Wが左半身をメタルに換装した際に用いる主力武器がソレだ。

細長い鈍色の鉄パイプのようだが、シャフトの中央にはメモリを装填するスロットがある。

それを出現させたのは他でもない、今のWの左側、<闘士の記憶(メタル メモリ)>による効果だ。

 

メタルと言うだけあって、誰もが鋼鉄を思い浮かべるであろうこのガイアメモリではあるが、

それはあながち間違ってはいない。このメモリには、勿論鋼鉄に関する記憶も内包されては

いるため、その効果も併用されていると言えば言えるので、違うというわけではない。

では何故、鋼鉄ではなく闘士なのか。

 

これは、鋼鉄を扱えるようになった人間が、真っ先に敵を倒す道具を作り出したと言う起源に

基づいているのだろうと推測されている。古来より人間は、同種族と戦う事で進化と発展の鍵を

手に入れ、それをより効率的に相手を倒すことのために使うように知能を発達させていった。

このことから、鋼鉄製の物を扱って戦う人間を『闘士』と呼ぶようになり、このメモリ内にも

そういった記憶が内包されるようになったのだろう。

 

鍛え上げられた鋼の記憶と、その鋼を使って敵対者と戦う闘士の記憶。

絶妙かつ密接に混じり合った記憶は、メタルという共通の言語から同時に引き出されてしまい、

一本のメモリにその記憶を集約しているとすれば、<闘士の記憶(メタル メモリ)>の特性は成り立つ。

 

そんな特性がある故か、このメモリは現在右半身にあるヒートの力と、非常に相性が良い。

ヒートの効力によって、メタルに内包された闘士の中の闘争心に文字通りに火がつけられ、

メモリ同士の相乗以上の効果を発揮することが可能になっている。それが、ヒートメタルだ。

 

「せりゃッ! はッ! そらよッ!」

 

炎熱をまとわせたシャフトを、歴戦によって磨き上げられた棒術にそって振るっていき、

付与されている灼熱も手伝ってか、近接戦特化型のクウガをまるで寄せ付けない戦いを始める。

自分の身体を主軸として、Wは右端と左端に灯る炎を、まるで自身の手のように滑らかに動かし、

どうにかして懐に潜り込んで攻撃を与えたいクウガの挙動を、一手たりとも許さず先に潰す。

右端でクウガの左肩を打ち、次いで左端を水平方向に振るって頭部を固める腕を弾いて解き、

自然な動作で右端を引き戻してから一気に突き出して、クウガの腹部へと熱い炎をぶつける。

これを何度も何度も浴びせ、クウガの生体鎧からは焦げたような臭いと煙が立ち昇り始めた。

 

これを好機と見たWは、一気に畳みかけようとシャフトを振るい、クウガに突っ込む。

 

「キッツイの、喰らいな‼」

 

 

激しい口調で発したセリフに合わせた、その一撃が振り下ろされる直前に、クウガが動いた。

 

 

【FOAM RIDE KUUGA DRAGON】

 

 

いつの間にか手にしていたカードをバックルに装填し、機構を動かして情報を反映させる。

するとクウガの赤い生体鎧が、ほんの一瞬の間に変形をはじめ、目が醒めるような青に変わり、

近接戦特化型のマイティフォームから俊敏性と脚力に特化したドラゴンフォームになった。

目の前に居た相手の外見が変化したことに驚く暇もなく、Wはシャフトと振り下ろしている。

迫りくる攻撃を前にしても、青に染まったクウガは動じることなく、一点を見据えていた。

 

 

「せやぁッ!」

 

 

そして高熱と炎をまとったシャフトがクウガを捉える直前、青い戦士が跳躍でそれを躱し、

慌てて向き直ろうとしているWの背後に着地して、死角から組み付いて両腕をホールドする。

いきなり戦法を変えてきた事についていけず、振りほどこうと必死にもがくWだったが、

身体を揺する動きを逆に利用されてしまい、脚を掛けられて体勢を崩されると投げ飛ばされた。

 

重力に従って落下したWは、すぐにあることに気付く。

 

 

「野郎、俺たちのシャフトを!」

 

『迂闊だったね、翔太郎。まさか武器を奪われるなんて』

 

 

起き上がろうとして気付いた違和感。その正体が、彼ら二人の前に居る戦士が、持っていた。

これまで幾度となく街を泣かせる悪党を懲らしめてきた、メタル専用の主要武器である

メタルシャフトが、青い鎧で身軽に動くクウガによって強奪せしめられてしまったのだ。

 

翔太郎としては、これが悔しくないわけがない。

 

 

「それは俺たちの武器だ、返せ泥棒‼」

 

「心配するな、すぐに俺のになる」

 

「何だと?」

 

「こういうことだ」

 

 

即座に食って掛かったWの言葉に、クウガもまた鼻に突くような態度の皮肉で出迎える。

しかし実際、クウガの言う通りの結果となった。クウガの持つ物質の材質を変えてしまう

能力、モーフィングパワーによって、メタルシャフトはクウガ専用のドラゴンロッドへと

変貌を遂げたのだ。目の前でクウガ本来の戦闘方法を垣間見せられたWは、唖然とする。

 

「好き放題やってくれたな、今度はこっちの番だ」

 

「ハッ! 人のモン盗っておいていい気になるな!」

 

『翔太郎、冷静になりたまえ。状況は依然、こちらが不利だ』

 

「メタルの武器が取られたんなら、トリガーでいけばいい。だろ?」

 

『………君は本当に安直だね。でも、それしか手は無さそうだ』

 

ドラゴンロッドを構えてみせるクウガに、負け惜しみにも聞こえる声がWの左から漏れるが、

逆に右からは状況を的確に判断する声も聞こえてくる。要するに、場面は膠着していた。

眼前のクウガに武器を奪われた二人は、Wの換装で最も瞬間火力の高いメモリを使う相談を

した結果、それの使用が現状で打てる最高の一手であると認め、バックルへと手をかける。

それを見たクウガもまた、次は何が来るのかと振りかかる未知への脅威に警戒心を見せた。

 

ところが、この均衡は唐突に破られる事となる。

 

 

「___________うわああぁぁあああぁぁッ‼」

 

「『「⁉」』」

 

 

互いを睨み合っていた三人だったが、どこからか聞こえてきた悲鳴に視線を彷徨わせ、

自分たちのいる無人の倉庫のすぐ近くからと分かると、同時に同じ場所へと駆け出した。

両者は戦いの途中ではあったのだが、中身は人間を守るために戦う仮面ライダーである。

人間が悲鳴を上げている以上、それはその悲鳴の主が何らかの危機に陥っているという事に

間違いはない。仮面ライダーの名を背負う事とは、人のために命を賭して生きる事なのだ。

 

そのためであれば、たとえ敵だったとしても一時的には見逃すし、手を取り合うこともある。

特にWは、自分たちの敵であったはずの人物と共闘した過去があったため、より顕著であった。

 

メモリの換装を中止し、ロッドを構えを解いて悲鳴の発生源へ向かった二人の戦士は、

自分たちのいた倉庫から見て右隣にある大きめの廃倉庫へと辿り着き、脚を踏み入れる。

 

そこで彼らを待ち受けていたのは、悲鳴を上げた人物と、悲鳴を上げさせた戦士。

 

 

「うあ………あぁ………」

 

「……………………………」

 

 

呻き声をあげて苦しんでいるのは、翔太郎と士が二十分ほど前まで一緒に居た人物。

鳴海探偵事務所へと依頼をしに来たスーツの男、羽田睦 永久であった。

彼はただ苦しんでいるのではなく、首を絞められている。地に脚はつかず、片手で軽々と

持ち上げられている彼は、助かろうと必死にあがいているものの、さほど効果は無い。

 

そして、羽田睦を片手で締め上げているのは、見たこともない戦士だった。

 

その全身は、Wとは違って一色に染まっている。配色は、夕陽を飲み込む始夜の如き紫紺。

頭部にある双眸は深い緑を湛えていて、目尻の上部分が長く、下部分が短く伸びている。

Wの額にある文字通りのアンテナは、左側が極端に短いVのような造形になっていて、

まだ完全なる闇に覆い尽くされる前の空に瞬く、星屑のような淡い銅色が紫紺に映える。

極めつけは戦士の腰部にある、スロットが右側一つしかない特徴的なドライバー。

 

今もなお続く気道の圧迫を止めさせようと、Wと青いクウガはまたも同時に駆け出した。

 

 

「羽田睦さん!」

 

全速力で大地を蹴るWの左側、翔太郎が自分たちに街を救う依頼をしてきた男の名を呼び、

もう一人のライダーであるクウガは、無言で羽田睦の首を絞める謎の戦士に跳びかかる。

 

しかし、来るのが遅すぎた。

 

 

「ぐうぅ、があっ、あ_____________」

「羽田睦さん! 羽田睦さん‼」

 

「……………………」

 

強化されたドラゴンの脚力と俊敏性を活かした奇襲を、謎の戦士は空いている左手で軽く

受け止めてしまい、驚愕に目を見張るクウガを突き出した左脚の蹴りで大きく吹き飛ばす。

依頼人を救おうとWが入れ替わるように接近したが、その直前に固いものを手折るような

聞き慣れない音が倉庫に鳴り渡り、それと同時に羽田睦の必死の抵抗が音もなく消えた。

現場を間近で見ていたWは、気付いた。今目の前で、依頼人が首の骨を折られたのだと。

 

また、依頼人を救えなかったのだと。

 

糸が切れた人形のように力なく倒れた羽田睦を、謎の戦士は一瞥しただけで興味を無くし、

悲しみと怒りに燃えるWとやられたままでは治まらないディケイドの前から姿を消した。

 

「………羽田睦さん」

 

「…………何者だ、アイツは」

 

 

後に残されたのは、物言わぬ亡骸と成り果てた男と、それを救えなかった仮面の戦士たち。

動かなくなってしまった羽田睦だったソレを、Wは悲しみを以て、ディケイドは疑念を

抱いて見つめる。それでも彼らの心には、人を救えなかった悔恨の思いだけが刻まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

依頼者である羽田睦が殺され、小競り合いをする気分では無くなった両者は、

フィリップから事情を聞かされて合流しに来た四人とともに、探偵事務所へと戻った。

先程まではいがみ合っていた両陣営も、今はただ、現実の重苦しさを受け止められず、

無為に時間と距離を作って気を紛らわせようと、静かに息を潜め合った。

 

午後四時を過ぎてから十五分後、探偵事務所ではなく、亜樹子のケータイが鳴る。

 

 

「はい、もしもし………え? あ、ハイ。そうですけど________えええええっ⁉」

 

 

最初は沈んだ声で受け答えしていた亜樹子だったが、すぐにそれは悲鳴に変わった。

 

 

「りゅ、りゅ、竜君が重傷で、意識不明で、集中治療室ぅ⁉」

「なに?」

いかにも慌てふためくような状態を体現して、亜樹子は荒ぶる。

そんな彼女の言葉を聞いた翔太郎とフィリップは、互いに視線を交錯させて、

すぐに確かめに行ってこいと荒っぽい口調で言って、亜樹子を事務所から送り出した。

 

「いったい、何がどうなってんだ………」

 

「さぁな。ただ、あの羽田睦ってのが殺されたのには、理由があるはずだ」

 

「……………今回ばかりは賛成するぜ、世界の破壊者さんよぉ」

 

「その呼び方は好きじゃない」

 

「ああそうかい」

 

多少勢いは削がれているものの、やはりまだ険悪な雰囲気を解け切れていない二人を

交互に見やり、ストッパーである亜樹子が消えたことを密かに悔やむ夏海とユウスケ。

なだめようとしても効果がない相手だと分かっているため、なまじ下手な事は言えない。

そう考えた結果として無言だった二人は、ここでもう一人無言のままの人物に救いを

求めて声をかける。

 

 

「ね、ねえフィリップ君。どうしたらいいのかな?」

 

「……………おかしい」

 

「え?」

 

ところが、帰ってきたのは予想していたものとはまるで正反対の確定文。

顎に指をそえるポーズを取り、本を開いた彼はそのまま士に視線を向けて語った。

 

 

「門矢 士。君が言うように、羽田睦 永久が殺されることになったのは理由がある。

しかも、僕ら以外にロストドライバーで仮面ライダーに変身できる、第三者によって」

 

「相棒、頼めるか?」

 

「分かった。『検索』してみよう」

 

 

二人の探偵の瞳に光が灯され、その表情には真剣味と生き生きとしたものが入り混じる。

いきなり動き出した二人に、何がどうしたのかと尋ねたい気持ちに駆られた夏海たち

だったが、相手の真面目を通り越したような表情を見て、自然と口が閉ざされてしまった。

 

閉じたばかりの本を再び閉じて、両手を一度顔の手前でクロスさせたフィリップは、

そのままゆっくりと、滑らかな動作で交差させた手を下から掬い上げるように広げる。

一瞬だけ彼の髪が逆立ち、その後は瞳が閉ざされ、姿勢を保ったまま無言に陥った。

 

フィリップが不可解な行動を取り始めて数分後、ようやく彼が目を開いた。

何やら微妙な表情の彼に、待ち侘びたとばかりに翔太郎が声をかける。

 

 

「ご苦労さん。で、何か分かったか?」

 

「……………ああ、一応は」

「一応? どういう意味だ?」

 

 

歯切れの悪い返事をしたフィリップに、ようやくどこかおかしいと気付いた翔太郎は、

彼の曖昧な言葉の意味を問い直し、それを受けたフィリップは逡巡した後に口を開く。

 

 

「今、『地球(ほし)の本棚』で、ある人物について検索してきた」

 

「ある人物だと?」

 

「………羽田睦 永久さ」

 

「なにか、あったんですか?」

 

 

士たち三人にはフィリップの口にした、『地球の本棚』の方が気になったりしたのだが、

より重要そうな単語が直後に飛び出てきたため、質問するのをぐっと堪えた。

一番早く堪えられた夏海が、他の三人を代表してフィリップに尋ねる。

 

わずかな沈黙の末、似つかわしくない厳かな雰囲気で、彼は語った。

 

 

「__________羽田睦 永久という男は、最初から存在しない」

 

 

 






いかがだったでしょうか?

実は今回も、戦闘シーンを一部カットさせていただいております。
理由はまぁ、無駄に長ったらしくなるからです。体の良い省略ですね。
引き金メモリとオカマメモリの活躍を期待した皆様、期待を裏切るような
ことになってしまい、面目次第もございません!

あ、ちなみに風邪気味なのは治りました(スッキリ

今回も戦闘描写には本当に気を遣いました。ええ、マジで。
何故かWの戦闘シーンは、自分でも驚くほど筆が進むんですよ。
この調子でガンガン行けたらなと思っております。


突如現れた、ロストドライバーで変身する仮面ライダー。
謎のライダーに殺された羽田睦の、真実を知ったフィリップ。
一年半前の悪夢が、ディケイドのいる風都に牙を向ける。


それでは次回、Ep,31『目覚めるL / テロ事件再び』


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