仮面ライダーディケイド ~The Darkness History~   作:萃夢想天

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どうも皆様、今度は「アクセルワールド」にハマった萃夢想天です。

いけませんねぇ私は。すぐに色々なものに興味を移してしまって。
コレだから何事も長続きしないんだって分かってはいるんですが………。


自己解決(自暴自棄)


今回はフィリップやユウスケが苦戦している間の、士と翔太郎サイドでの
お話になります。風都を脅かす悪と対峙した時、彼らは何をしていたのか。
そちらを今回で描きたいと思っています。というか書きます。


それでは、どうぞ!





Ep,29『Jは見た / 仕組まれた戦い』

 

 

 

 

フィリップとユウスケが、アイスエイジとバイオレンスの二体を倒して変身を解除する前。

正確には、彼らが変身して仮面ライダーとなる十分ほど前にまで、時間をさかのぼる。

 

風都タワーが見える自然公園にユウスケ達四人が到着した頃、もう一つの組みになっている

三人の男もまた、同じように風の都の象徴である鋼色のシンボルを見つめていた。

 

 

「アレが、風都タワーね………」

 

「オイ、写真なんか撮ってる場合じゃねぇだろ。観光気分ならとっとと帰んな」

 

「なんだ、知らないのか? こういう時に撮る写真ってのは、後々何か証拠となるような

物を映してることだってあるんだぜ? 勘だけで街中駆け回る二流探偵とは違うんだよ」

 

「ンだと?」

 

「まあまあ二人とも、今は協力してメモリを探すのが最優先だ」

 

 

街の中を気ままに流れる風を導く巨大風車を、首からぶら下げた愛用のカメラで映す士と、

その一見能天気に見える行動を諫めようとして切り返され、早くもヒートアップした翔太郎。

そしてそんな二人を一歩下がった位置から見つめ、仲裁を行おうとしている羽田睦の三人は、

探偵事務所を出てから様々な場所を練り歩き、現在は風都の海の入り口である湾岸エリアへと

足を運んでいた。

 

人の多い場所での聞き込みは、最初から想定した通りに期待できる情報は得られず空振り。

ならばと仕方ないと溜息と共に呟いた翔太郎が二人を連れてやって来たのが、ここだった。

この湾岸エリアの倉庫街と呼ばれる場所は、風都内のストリートギャングや若い不良たちの

溜まり場となっている節があり、かつてその影響からか、ガイアメモリの力に憑りつかれた

若者たちが『ミュージアムを継ぐもの / EXE(エグゼ)』を名乗ってメモリ収集を行っていたという過去が

ある。今回翔太郎がここを訪れたのも、そういう裏に通ずる道から情報を得るためだった。

 

士は自分たちが街の探索で訪れた波止場の近くだと脳内マップに記憶しつつ、前方を歩く

翔太郎と自分たちの後ろからついてくる羽田睦の二人に、黙ってついていくしかなかった。

道を挟んで建ち並ぶ巨大な倉庫の扉を開け、中に誰かいないかと探る翔太郎たちだったが、

湾岸エリアの倉庫街探索を始めて十分も経つ頃、その顔が驚愕に染められた。

 

 

「な、んだありゃ⁉」

 

「あれは………?」

 

「_________ドーパント!」

 

 

五つ目の倉庫の扉を押し開けて中を覗いた彼らの視界に、あってはならない異形が映り込む。

その姿を目視した翔太郎と羽田睦は驚きと共に焦りも同時に浮かべるが、士だけは理解できずに

大して驚くこともないまま平静を保ち続ける。しかし、扉を開けた音で相手方に勘付かれた。

 

 

「ヤベェ!」

 

翔太郎の鬼気迫った表情と声に押され、羽田睦と士はほとんど同時に背後へ身体を投げ打つ。

すると直後に覗き込んでいた倉庫内で大爆発が起こり、窓ガラスやトタンの外壁などが次々と

四散していき、まるで見てはならないものを見たことを後悔させるように、倉庫の中にいた

二体の異形が、ゆっくりと三人のいる方へと歩みだしていた。

 

この街では確かにガイアメモリが流通し、その力に溺れた者が異形となって暴れ回ることなど、

よくあることではないにしろ、珍しいことではない。だから、翔太郎もこの手の出来事には

慣れっこのはずだった。ところが、迫りくる異形の外見を目視してから、彼の鼓動が徐々に、

そして不規則に急上昇し始めていた。そう、恐怖と驚愕による、感情の暴走によって。

 

 

「嘘だろ………【青いナスカ】に、【ウェザー】だと………」

 

 

限界までその双眸を見開いてあえぐ翔太郎の視線の先で、二体の異形が立ち止まる。

 

同時に歩みを止めた二体の左側は、さながら全身を群青色に染め上げた忍と騎士のハイブリッド。

黒一色の中に、古代の神秘を連想させる地上絵の紋様を描く仮面(ペルソナ)を顔の前方部に装着し、

青から先端にかけて橙色に変わっているマフラーのような布を、首から背部へと垂らしている。

胴体や両肩部、手腕から両脚に至るまでのあらゆる場所に、金や黒の意匠で古の時代から地上に

刻まれた幾何学的な絵画が描かれており、その重厚な色合いが醒めるような青とよく映える。

 

街を揺蕩う風を一身に受けて佇む青の異形の名は、<地上絵の記憶(ナスカ・ドーパント)

 

左側の潮気が混じった街風を浴びる青とは対照的に、右側の異形はさながら重なった雷神と風神。

全体的な印象はさながら、日本に古くから言い伝わる、神代(かみよ)の世界に生ける調停者の風貌で、

肉体の半分以上を占める色は、空に漂いながら形を変える雲の白と、深く恐ろしい雷雲の黒。

そこに腕や腰に収まるベルトのような部位には、轟く雷鳴の如き黄金の色が激しく輝いている。

そして異形の肉体の随所に見られる、三日月や太陽、電雷に群雲を象徴するような掘り込み。

 

世界を覆いつくし、神とさえ呼ばれた事象を関する異形の名は、<天候の記憶(ウェザー・ドーパント)

 

どちらもこの街の英雄とは浅からぬ因縁を持っていた異形であるが故に、その片割れである

翔太郎は少なからずショックを受けていた。当然、ガイアメモリを使って街の住人が怪人へと

変貌を遂げたこともそうだが、それ以上にその二つのメモリが、今になって自分の前に現れた

運命からの皮肉に、苛立ちを覚えていた。

 

 

「なんだってこの二つのメモリが………クソ、どうなってんだ!」

 

「アレはやはり、<地上絵の記憶(ナスカ)>のメモリに、<天候の記憶(ウェザー)>の……」

 

「これがこの世界の怪人、ドーパントか」

 

 

目の前にある現実に舌打ちする翔太郎と、淡々と事実として認める羽田睦。そんな二人とはまるで

違った目線で世界の現象を観察する士。それぞれ異なる反応を示したものの、結果として眼前にて

立ち尽くしている二体の異形を前にして、逃げ出そうなどと考えることは一瞬たりとなかった。

 

このままでは埒が明かないと理解した翔太郎は、すかさず懐から取り出した物を腰にあてがう。

 

 

「何が何だかさっぱりだが………とにかく今はやるしかねぇ」

 

「みたいだな。手ぇ貸すぜ、この世界の仮面ライダー」

「あン? ハッ、好きにしな」

 

 

抜群のファッションの中に唯一メカチックな部品が混ざり、それが新たにベルトへと変わる。

それを見て、戦う意思を汲み取った士もまた、懐からディケイドライバーを出して装着した。

二体の異形に立ち向かうように並んだ二人は、それぞれが変身するためのツールを手に取り、

お互いの工程を踏むための作業に入ろうとするが、ここで片方に問題が発生した。

 

 

「あン? なんか言ったか?」

 

「は?」

 

「コッチもだ、いっちょ頼むぜ相棒!」

 

「いきなり何言ってんだ」

 

「はぁ? オイちょっと待てフィリップ!」

 

 

士の右側にいた翔太郎が突然独り言を発し始め、訳も分からないままに慌てだす。

いきなりの態度の急変ぶりにたじろぐ士だったが、彼ら二人の背後にいた羽田睦が物陰に隠れ

ながらも、こちらに聞こえるような声量で現状の解説を語る。

 

 

「士さん! 彼は、仮面ライダーWは二人で一人に変身する特殊なライダーなんです!

そのもう一人とは、腰にあるベルトによって意識を共有することが可能になるので、

今はその相棒であるフィリップという少年と心の中で会話しているんだと思います!」

 

「二人で一人、だと? そんな無茶苦茶な奴がいるのか」

 

 

この際後ろの男が、何故そのような事を知っているのかという疑問はおいておこうと決めた士は、

自分が言った「二人で一人が無茶苦茶」という言葉に何かを感じ、とある世界を思い出した。

その世界の仮面ライダーは、一人の普通の人間に四体の個性的過ぎる異形たちが代わる代わるに

へばり付き、荒くれ者から嘘つき釣り師、相撲空手家に踊るトリガーハッピーにまで性格と戦法を

豹変させていた。苦い記憶を掘り起こして嫌な気分になりながら、士は再び翔太郎を見つめる。

 

「はぁ………仕方ねぇ。アンタ、通りすがりの仮面ライダーだって言ってたよな?」

 

「ああ、それがどうした」

 

 

つばの広い帽子を右手でかぶり直しながら、翔太郎は自身の左にいる士へと向き直って語る。

 

 

「いいか、仮面ライダーって名前は、この街では希望の象徴。そして願いの証でもある。

アンタにはそんなつもり無くてもよ、俺たちはそういう覚悟と義務を背負って戦うんだ。

この街に生きる人たちがつけてくれた、仮面ライダーの名前に恥じないようにな」

 

「…………それがお前らの、戦う理由」

 

「そうだ。だからお前もその名をこの街で名乗るんなら、通りすがらねぇで街を守れ。

こうしている今にも街に涙を流させようとする奴から、逃げ出さねぇで必死に抗え!」

 

「それが、それがお前の信じる仮面ライダー、か」

 

「そうさ。そんで、今相棒がピンチなんだ。この場はアンタに頼めるか?」

 

 

迫真の表情で、『仮面ライダーの流儀』を語り尽くした翔太郎は、一転して士に願い入れた。

彼の口ぶりから先程羽田睦が言っていたように、二人で一人の仮面ライダーへと変身するために

相棒であるフィリップの元へと向かわねばならないのだろうと考え、士は無言で首肯する。

肯定の意を受け取った翔太郎はニヒルな笑みを浮かべた後、上着の内ポケットから取り出した

漆黒のガイアメモリを右手に収め、起動するためのボタンを人差し指で軽く弾いた。

 

 

【JOKER】

 

「変身!」

 

 

右手のガイアメモリを起動し、電子音声のアナウンスが響いた直後にそれをベルトのバックルの

左側へと装填し、左手で帽子を押さえたままで仮面の英雄に姿を変える決意を口にした。

 

すると突然、翔太郎の体が揺れ始め、あたかも自我を喪失したかのように倒れこんでしまった。

慌てて駆け寄って声をかけようとする士だったが、流石にそこまでは時間が許してくれなかった。

 

『フッ……ハァッ‼』

 

『フハハハハハッ‼』

 

「チッ、二対一か。面倒くさそうだがやるしかないな、変身‼」

 

【KAMEN RIDE DECADE】

 

 

静止状態から一転、果敢に攻めかかってくる二体の異形を視界に捉えた士は、倒れた翔太郎を

どうにかすることを一旦諦めて後退し、見慣れた仮面の戦士のカードをバックルに装填する。

直後に電子音声が読み込んだ情報をガイドして反映、九つの分身が一つに合わさってから色が

加わり、その無機質な双眸にライトグリーンの光を宿してディケイドという戦士に変身した。

突然現れた仮面の戦士に狼狽することもなく、青と白の異形は距離を詰めて攻撃を仕掛ける。

 

 

「ほ、本当にお前も………仮面ライダー、だったのか」

 

「オイお前、早く逃げないと、安全は保証できないぜ!」

 

「あ、ああ」

 

 

しかしディケイドの方は、戦闘行動よりも人命の保護を優先しなければならず、自身の背後に

隠れている羽田睦の存在を思い出し、この場からすぐに立ち去るように手短な警告を発する。

ディケイドの姿に驚愕を示した彼だったが、自分の安全を考えて即座に立ち上がって逃げた。

倉庫街から道なりに逃げる羽田睦の背を眺めてから、ディケイドは異形たちに対面する。

 

「さて、これで心置きなくやれそうだな」

 

『ハアッ‼』

 

『フンッ‼』

 

 

唯一の不安要素を追い払ったディケイドは、後は心配いらないとばかりに軽口を叩き出し、

それを受け取ったナスカとウェザーは、まるで彼の言葉に反抗するかのような反応を見せる。

ナスカは空間から長剣を召喚して駆け出し、ウェザーは右手に何かを溜める仕草のままそこに

立ち止まって動かない。二体の行動を即座に分析したディケイドは、接近するナスカに挑む。

 

 

『セアッ‼』

 

「うおっ!」

 

『ダアッ‼』

 

「危なっ………近接型か」

 

 

手にした長剣を振りかざし、右に左にと剣先を滑らせて攻撃するナスカに対し、ディケイドは

それらを紙一重で回避し続けて、相手が接近戦に強いタイプであると割り出した。

いくら相手が実力未知数の敵であっても、ディケイドである自分には決して勝てるわけがない。

そう信じて疑わないディケイドだったが、次の瞬間には彼の視界からナスカがいなくなっていた。

 

 

「なに? どこに消えたん___________ぐぁっ⁉」

 

 

突然消えたように見えたナスカが、今度は逆に急に目の前に現れて剣を振り下ろしていた。

長剣による鋭い斬撃を浴びたディケイドは、胸部に奔る痛みに仮面の下の顔を歪ませつつ、

自分が明らかに油断していたことを実感して歯噛みする。そして、改めて敵を観察した。

 

 

「コイツ、高速で、ぐっ! 移動してる、ガハッ‼」

 

『ハァッ‼』

 

「クソ………やあっ‼」

 

『ハッ!』

 

 

そしてディケイドは、それまでの無数の死闘からくる経験則で、ナスカが瞬時に視界内から

消えるトリックを暴き出した。それは、透明化でも瞬間移動でもなく、一時的な高速移動。

ただしナスカの加速はディケイドが今体験している通り、目で追えるような速度ではなく、

闇雲に拳を振るってもかすることすら叶わずに距離を置かれ、また高速で接近される。

異常な速度でのヒットアンドアウェイに身体を踊らされて、ディケイドは苛立つ。

しかしそこへさらに、立ち止まって右手をゆっくり動かしていたウェザーが動いた。

 

『ハッハッハ、フンッ‼』

 

「な____________うがああああァァァッ‼」

 

 

ウェザーが右手を天高く突き出した直後、倉庫街の上空に濁った黒色の暗雲がたちこめて、

そこから幾重もの束になった赤い稲妻が迸り、その雲の真下にいたディケイドを襲った。

予想だにしなかった雷撃を受けて、あまりのダメージ量に思わず膝を地につけた戦士は、

未だに中空に漂い続けている雷雲を一睨みしてから、忌々しげにウェザーを見据える。

 

 

「ハァ……ハァ………ウェザー、なるほど。天候を自在に操作できるってわけか」

 

『フハハハハハッ‼』

 

『フン………ハァッ‼』

 

「そんでそっちのお前は、ナスだっけ? ハエみたいにブンブンと鬱陶しい奴だな」

 

 

ひとしきり赤雷の雨を浴びせたウェザーと、その反対側からディケイドを挟み込むように

近付いてくるナスカに、色褪せた返り血の如きマゼンタカラーの戦士は悪態を吐く。

しかし今度は彼の言葉に反応するような素振りはなく、ただ目の前にいる傷を負った戦士を

圧倒的有利な状況下で屠ることだけを考えているような二体は、徐々に彼我の距離を縮める。

 

だが、こんな程度でディケイドが負けを認めるはずもない。

 

 

「高速移動、か。だったらどっちが早いか試してみようぜ?」

 

素早く立ち上がったディケイドは、左腰にあるライドブッカーからエンジン音を響かせつつ

カードを取り出し、その裏面に書かれた仮面の紋章(ライダークレスト)を見せつけてからバックルに装填した。

 

【KAMEN RIDE KABUTO】

 

 

聞き慣れた電子音声がディケイドの鼓膜を揺すると同時に、彼の姿も変化していく。

 

全身を太めのラインが刻まれたような外観の、黒いスーツが包み込み肉体を覆い、

カブトムシの強固な外殻を連想させる、独特なフォルムをした紅蓮の装甲をその身にまとう。

青いコンパウンドアイを二つに裂き、複眼状の双眸へと変化させていきながら、

さながら昆虫の王を彷彿とさせる形状の角が、蒼天を貫くが如く直立して機械音を鳴らす。

 

二体の異形の前に姿を現したのは、最高最速の世界を往く、【仮面ライダーカブト】だった。

 

 

「青いナスとかいうの、まずはお前からだ」

 

『フッ………セアアッ‼』

 

「付き合ってやるぜ! もっとも、こっちの世界じゃ一秒未満だがな!」

 

【ATTACK RIDE CLOCK UP】

 

 

カブトの姿にカメンライドしたディケイドは、両手をパンパンと合わせて打ち鳴らして、

もう一度ライドブッカーから別のカードを取り出して再びバックルへと装填した。

途端に電子音声が鳴り響き、そこに記されていた情報を忠実に彼へと反映させる。

 

直後、世界に流れていた時間は、急速に遅れ始めた。

 

否、この世界に流れる時間が、カブト一人に追い抜かれ、抜き去られたのだ。

 

たったの一秒が凄まじく引き伸ばされた、クロックアップの世界に到達したカブトは、

全てが静止して見えるほどの速度の中で、懸命に足を動かすナスカを鼻で笑う。

 

 

「たかだか高速移動できるだけのお前に、世界を置き去りにできる俺には勝てない」

 

 

万物の流れを逸脱した速度で語るカブトは、ブッカーソードを逆手持ちで構えて、

変身した場所から一息に飛び出し、ゆったりと動くナスカと交錯するその瞬間に、

無数と呼ぶことすら億劫になるほどの斬撃を刻みつけて、駆け抜ける。

 

直後、彼が世界そのものを追い抜く時間が、終わりを告げた。

 

 

【CLOCK OVER】

 

『グアアアァァッ‼』

 

 

電子音声の変わらない声のトーンを掻き消すように、ナスカの断末魔が響き渡り、

紅蓮の爆炎を上げたと同時にドーパントの肉体から、<地上絵の記憶(ナスカ メモリ)>が排出されて砕けた。

ウェザーの視点から見れば、今のカブトとナスカの攻防は一秒すら経過しておらず、

カードを装填したカブトの姿が揺らいだように見えた瞬間、ナスカが爆散させられていた。

目の前で起きたことが理解の範疇に無く、ウェザーは動揺して天候操作の右手を下ろす。

そしてそれをしかと見ていたカブトは、逆手に持ったブッカーソードを元の状態に戻し、

そこからブッカーガンへと機構を変形させて右手に持ち、隙だらけの身体に銃弾の雨を降らせる。

 

「さっきのお返しだ。雷と違って、いくらでも撃てるがな」

 

『グオオオッ‼』

 

 

次々と発射されていくマゼンタ色の銃弾は、一発のミスもなく的確にウェザーの身体を穿つ。

意趣返しとばかりに引き金を引きながら語るカブトの言葉など、耳には届いていないだろう。

やがて容赦ない暴風雨ならぬ暴弾雨を浴びたウェザーは、力なくその両膝を地面に落下させ、

エネルギー弾特有の粒子煙を全身から立ちのぼらせて、情けない格好で空を見上げる。

相手が沈黙したところで、普通は気を緩ませる。だが、生憎相手は、普通ではなかった。

 

 

【FINAL ATTACK RIDE KA,KA,KA,KABUTO】

 

「寝てな」

 

 

黄金色に輝くカードをバックルへ装填し、金色の輪を展開する。

電子音声のアナウンスが終わると同時にカブトが駆け出し、右足に青白い雷鳴が迸り出す。

直感的にマズイと悟ったのか、倒れたウェザーが両手を広げて膨大な量の風をかき集め始め、

やがて巨大な突風へと育ったソレを、前方から突っ込んでくるカブトへと投じた。

 

 

『ハアアッ‼』

 

「無駄な足掻きだ」

 

【ATTACK RIDE ILLUSION】

 

 

大自然の猛威が迫る中でも、カブトは冷静にカードを取り出し、バックルへと装填する。

使用したカードは【アタックライド イリュージョン】、その効果は自身の分身を作り出すこと。

 

カードがめくられるようにカブトの身体が歪み、そこから新たに四人のカブトが現れた。

突然敵が増えたことに驚愕の声を禁じえなかったウェザーは、突風のコントロールをほんの少し

だけだが手放し、それが原因で収束性を失った風はみるみる内に静まり、街の風へと溶ける。

それでも召喚したばかりの四人のうち、三人は殺傷性の残っていた風にその身を引き裂かれて

消えてしまったのだが、残った最後の一人と共に駆けるカブトは、同時に中空へ跳躍した。

 

前方へ駆ける力と上方へと跳ねる力、二つの力が合わさり、繰り出された蹴りの威力を高める。

 

 

「「やああぁぁぁあああ‼」」

 

 

二人のカブトが落下しつつ同時に放った、空中回し蹴り(ライダーキック)が炸裂し、ウェザーの肉体に直撃し、

世界を覆い尽くすほどの事象を掌握する<天候の記憶(ウェザーメモリ)>は、その爆炎に消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二体の異形、ナスカ・ドーパントとウェザー・ドーパントとの戦闘を無事に終えた

カブトは、バックルの機構を動かして元のディケイドの姿へと瞬時に巻き戻る。

 

ところが、背後に気配を感じたディケイドが振り返る。

 

 

「お前は、探偵の。もう起きて大丈夫なのか?」

 

「…………今のは」

 

 

身を翻したディケイドの視線の先にいたのは、十分ほど前までは記憶に留めていたはずの、

倒れた翔太郎だった。いきなり意識を失ったことに関して珍しくディケイドが心配を

示したものの、そんなものに構うことなく、翔太郎は呆然と仮面の戦士を見つめている。

どうしたのかと尋ねたくなったディケイドだが、流石に今回はピンときた。

 

 

「ああ、アイツらか。俺が全部倒しといた。なんだ、とっといてほしかったのか?」

 

「………メモリブレイクは、マキシマムじゃなきゃ、不可能なはず」

 

「なにをブツクサ言ってんだ。さっさとあのオッサン見つけてメモリ探すぞ」

 

「…………違うライダーに変身、世界を破壊、世界のルールを破壊………」

「どうした?」

 

 

今目覚めて状況が把握できていない翔太郎が、ドーパント二体を相手に自分が勝利を

納めた事実が信じられないのだろうと考え、特に問題はないと判断したディケイドは、

本来の目的であるメモリ捜索とその依頼人を探し直そうと、変身を解きかけた。

 

だが、それら全てが誤りであったと気付くのは、この直後だった。

 

 

「まさかお前が、お前が【世界の破壊者】なのか⁉」

 

「なっ_________お前、どこでその名前を!」

 

 

翔太郎の口から発せられたのは、ディケイドにとっては懐かしくも忌々しい異名。

自分の世界を見つけようと世界を巡る度に、あらゆる世界から弾かれる要因にして原因。

その名を口にされた直後から、翔太郎の目が明らかに変わるのをディケイドは感じた。

今の彼のような目を、何度も見てきた。そう、それは、自分を敵と認識した者の目。

 

急変する状況に困惑するディケイドをよそに、翔太郎がその顔に憤怒を浮かべて動き出す。

 

 

「お前らが来る前に、鳴滝って名乗る男が現れて俺たちに言ったんだ。

『もうすぐこの世界にもディケイドがやって来る。世界の破壊者である奴の行くところ、

赴く世界は全て破壊し尽くされ、最後には奴以外の何者も残りはしない』ってな!」

 

「鳴滝だと⁉」

 

「どうやら心当たりはあるみたいだな………行くぜ、フィリップ!」

 

 

続いて翔太郎から語られた言葉に、今度はディケイドが怒りを示す番になった。

鳴滝という男は、かつてディケイドの旅の先々で待ちかまえ、赴く先の世界で彼の敵を

作り出してぶつけさせ、どうにかして彼の旅をそこで終わらせようと目論む謎の男だった。

しかし巡り直す羽目になった【剣の世界】でも【カブトの世界】でも、鳴滝の介入を思わせる

状況に陥ることはなかったというのに、何故新しい世界で鳴滝の罠が待ち受けていたのか。

 

浮かび上がる疑問に答えを見出すより早く、翔太郎が行動を終えていた。

 

 

「『変身‼』」

【CYCLONE / JOKER】

 

 

いつの間にかバックルに二本のガイアメモリを装填していた彼は、スロットを左右に展開し、

メモリの起動音と同じ電子音声を発させた後、両方の人差し指と中指を立てて腕を広げる。

すると彼の周囲に突然風が巻き起こり始め、それがどこからか緑と黒の小さな破片らしき物を

運んできて、彼の肉体にまとわりついて徐々に全身を覆う装甲へとその姿を変えた。

 

突風ともそよ風とも取れる独特なメロディと、強調されたブラックサウンドが鳴り響く。

あらゆる束縛をものともせずに流れゆく、一陣の風の如きライトグリーンの右半身に、

あらゆる逆境を乗り越えて、自らが望む勝利をその手に掴むヘビーブラックの左半身。

そこに現れ立つのは、<疾風の記憶>と<切札の記憶>を複合させた仮面の英雄。

 

その名も、【仮面ライダーW サイクロン/ジョーカー】

 

 

急に変身してみせた戦士を前に、混乱に陥っていたディケイドもようやく我を取り戻し、

先程戦ったナスカのように風にたなびくマフラーを見つめながら、ブッカーガンを構える。

それに対して、街の中を流れる風を身に受けた英雄は、怒りを紅蓮の双眸に宿しながら、

その背に街の人々の希望と涙を背負い、左手を銃のように形作ってディケイドへ突き立てた。

 

 

「『さぁ、お前の罪を数えろ‼』」

 

 

 






いかがだったでしょうか?

ようやく基本フォームのWCJを出すことができてホッとしています。
前回まさかの初っ端FJだったので、怒られるのではないかと密かに
ビクビクしていたんですが………杞憂に終わって何よりですね。

士がディケイドであると知った翔太郎が、Wとなり襲い掛かる。
訳も分からず応戦するディケイド。その影に知る鳴滝の存在。
そして動き出す、風都を震撼させた一年半前の悪夢。


次回、Ep,30『恐怖するC / 暴かれる謎』


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