仮面ライダーディケイド ~The Darkness History~   作:萃夢想天

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どうも皆様、萃夢想天です。

先週は投稿できずすみませんでした。仕事が入っておりまして。
加えて間が空いたので、(いつもの事ですが)少々文章がおかしな
部分が見受けられると思います。ゴカベンヲォ(0M0;)

今回はWFJとクウガの共闘回になります。


それでは、どうぞ!





Ep,28『Fの共闘 / 過去の来襲』

 

 

 

風都が誇る自然あふれる公園内で、予期せぬ事態が発生した。

 

平日ではあるものの穏やかな昼下がりということもあって、多くの家族連れやご年配の方々が

街中を流れる風を感じに訪れていたのだが、そんな人々の安寧は突如として打ち砕かれた。

 

春先の風が若葉を運ぶ中に現れたのは、凍てつく冷気をまとう異形に灰色に隆起した巨体の異形。

その二体は自身の内包する"地球の記憶"による能力で、平和だった場所を瞬く間に荒らし回り、

平穏を享受していた罪なき人々に、涙を流させていた。

 

そして、その場所には、その涙を流させることを最も嫌う仮面の英雄がいた。

 

 

「ガァッ‼」

 

『グウウゥ⁉』

 

 

左手首から先が巨大な鉄球になっている灰色の異形、バイオレンス・ドーパントの巨体が

大きくよろめき呻き声をあげる。凡人にはできないそれを成し得たのは、白黒半身の戦士。

この街の罪を数えさせる仮面の英雄、『仮面ライダーW ファング/ジョーカー』だった。

頭部のアンテナや両肩部、両腕部に鋭い意匠を見せる彼は、猛然とバイオレンスを攻める。

さながら野獣の如き雄叫びとともにWが、未だ怯んでいる灰色の巨体へと駆け出していき、

彼我の距離がゼロになる直前でその両足は疾走を止めて大地を蹴り、キックを浴びせた。

防御を取る暇もなく繰り出された攻撃に、バイオレンスは再び呻き声をあげて転がる。

しかし今度は再び距離を開ける愚を犯さず、内部で鎖と繋がっている左手の鉄球を放ち、

追撃を与えようと接近していたWをけん制し、その隙に立ち上がって体勢を立て直した。

バイオレンスの放った鉄球を横転して躱したWは、本体へと戻ろうとする鉄球よりも早く

移動を開始して、まだ伸びたままになっている鎖を掴んで引っ張り、バイオレンスの本体を

無理やり自分のいる地点へと動かす。そしてその場で跳躍、よろけながらこちらへやって来た

巨体をその驚異のジャンプで飛び越えると同時に、バイオレンスの背面へ両足蹴りを繰り出した。

 

 

「ガァウ‼」

 

『グォォ!』

 

 

引っ張られる力に加えて、背面ドロップキックによって更なる運動エネルギーを与えられた結果、

自分本体へと戻ってくる鉄球を躱すことができずに正面からぶつかり、大きなダメージを受ける。

<暴虐の記憶>によって超人化(もとい怪人化)しているとはいえ、アスファルトや車体などを

容易く粉砕する巨大な鉄球をその身に受けて無事でいられるはずもなく、襲いくる激痛に悶えた。

苦痛に身をよじる怪人の背後では、連撃を重ねたWがまたしても追撃に移ろうとしていた。

隙だらけのバイオレンスの背面に回っている白黒半身の戦士は、自身の腰にあるバックルへと手を

伸ばして、白骨化した恐竜の頭部を思わせる部分にあるレバーへと右手を置き、一度押し込んだ。

 

 

【ARM FANG】

 

太古の昔に絶滅した竜たちを彷彿とさせるノイズ混じりの咆哮の直後、Wの姿に変化が生じる。

彼の<牙の記憶(ファングメモリ)>の力を宿す右半身、その右腕の尖っている部分が一瞬だけ震え、

次の瞬間には刃渡り20cmはあろう白磁の曲刀が現れた。正確には、彼の右腕から、生えていた。

ソレが右腕にあることを確かめたWは、全身を震わせながら声を荒げ、猛然と駆け出していく。

 

「ウガァァッ‼ ガウッ‼ ガァァッ‼」

 

『ゴアアァァ‼』

 

 

飢えた獣が獲物を仕留める姿を彷彿とさせる仕草で飛び掛かったWは、凄まじい連撃を浴びせる。

右腕から生える曲刀を振りかざし、およそ理性ある人としてではなく、内に眠る野生に身を任せた

戦闘スタイルで斬りつけた。分厚く硬い灰色の巨体をものともしない攻撃は、手も足も出せずに

一方的な攻撃を受け続けていたバイオレンスに恐怖を植え付けるが、Wはその手を緩めはしない。

 

右腕を振り抜いて鋭い一閃を放ち、続けざまに一歩踏み込んでから右腕を外側へと薙ぎ払う。

肩の方へと弓なりに曲がっている曲刀は、バイオレンスの強靭な肉体すら容易に切り裂き続け、

以降も繰り出され続ける連撃の度に深く鋭い切り傷を刻みこんでいった。

 

 

『オイよせフィリップ! 落ち着け‼』

「ガアァァァ‼」

 

『止まれ相棒‼ 今更ファングの凶暴性なんかに呑まれんな‼』

 

「ガウウッ__________う、くっ…………ああ、また迷惑をかけたみたいだね」

 

『やっと俺の声が聞こえたか。ったく、クールになれよ、相棒?』

 

 

バイオレンス以上に暴力的な戦闘を行っているフィリップに、変身して彼の精神内にいる相棒、

つまり翔太郎が平静を保つように訴えかけ、しばらくしてその効果が表れた。

いつもはすぐに熱くなる翔太郎を止めるのがフィリップの役目だが、時折こうしてその立場が

逆転することがあり、そういう時は大抵翔太郎が苦労するはめになったりする。

今回も同様だったが、それ以上に彼は変身して戦っている相棒が豹変した理由が気になっていた。

 

 

『なんだってお前、克服したはずのファングの凶暴性にまた負けちまったんだ?』

 

「………ごめんよ、翔太郎。ただ、少し思い出してしまったんだ」

 

『思い出した? 何を?』

 

「今から一年と半年前の、あの事件だよ」

 

 

わずかに声を震わせてフィリップが答えたのは、彼らの手で解決された"とある事件"のこと。

悪夢の始まりを告げた当時の状況を思い出した翔太郎も、感慨深そうに精神内で首肯する。

 

『………確かに、アイスエイジとバイオレンスの組み合わせは、あの時と同じだな』

 

「だから、多分その時を思い出したことによるストレスが原因だと思う」

 

『そうか…………とにかく、今は余計なこと考えずに、街の涙を拭うことが先決だ!』

 

「そうだね。ありがとう相棒、君のおかげで正気に戻れた」

 

自身の暴走を引き留めてくれたことに感謝を述べて、フィリップは改めてバイオレンスへと

向き直り、客観的かつ冷静な思考で現状の分析を開始し、戦闘行動を再開させる。

 

彼が現在使っている<牙の記憶(ファングメモリ)>には、本来の効果ともう一つの効果が備わっている。

本来の効果とは、その名の通りに牙を生成し、その鋭さを武器と呼べるまでに硬質化すること。

そしてもう一つの効果は、牙をもつ生物が元々宿している、闘争本能と生存本能の極端な刺激。

 

人は進化の過程で牙という優れた武器を自ら排し、代わりに知性という変幻自在の武器を得た。

しかしその内側には、原初の記憶ともいうべき野生の本能が眠っており、進化の代償として

捨てたはずの牙を取り戻させ、今度こそ捨てる必要がないほどに洗練するという願いがある。

生物としてより強者となるため、生物としてより生き永らえる為、最強の武器をその身に宿す。

牙をもつ他の生物に蹂躙された太古の時代の人々が共通して抱いた、そんな願いの副産物。

それこそがフィリップを守るために他の全てを本能のまま引き裂く、<牙の記憶(ファングメモリ)>の力。

 

この力を初めて使って以来、フィリップは暴走を引き起こすことを恐れて<牙の記憶(ファングメモリ)>を自分から

遠ざけていた。しかしこのメモリは彼を保護するためにある人物が制作した一点物(ワンオフ)で、独立した

プログラムによって稼働する高性能なメモリとなり、常に傍らで彼を危機から救ってきた。

やがて自分の力と向き合う決心をした彼は、相棒を命の危機から救うために覚悟を決めて、

再び力を使い暴走を引き起こすも、翔太郎の必死の説得もあってどうにか制御を可能にした。

 

力の制御を会得した頃と似た状況だと思い返していたフィリップは、微かに微笑む。

 

 

「この力は僕一人のためにあるんじゃない。この街の誰かを救うためにある」

 

『分かってるじゃねぇか、相棒。さぁ、仕切り直しだ!』

 

「ああ、行こう」

 

 

改めて最高の相棒だと実感した二人は、ダメージから復帰して突進してくるバイオレンスを

その紅蓮の双眸に収めて、今度は野生の本能に呑まれることなく人としての理性に則って戦う。

 

猪突猛進という言葉を体現してくる灰色の巨体を前に、Wはバックルのレバーへと右手を置き、

先ほどとは違って今度は二回連続で押し込み、<牙の記憶(ファングメモリ)>の更なる力を呼び起こした。

 

 

【SHOULDER FANG】

 

 

レバー1回分の時より若干ノイズが酷くなった咆哮が響き、またも彼の右半身に変化が生じる。

右腕より上の、右肩の刺々しい意匠が震えた直後、先程展開していた【アームファング】を

そのまま小さくしたような曲刀が右肩部から生え出し、それを白磁の右手が素早く掴み取った。

 

右手に握った【ショルダーファング】を、Wは間髪入れずに迫りくるバイオレンスへ投じる。

すると弓なりの形状が加えられた回転と空気抵抗に作用して、まるでブーメランのような軌道を

描いてバイオレンスを側面から切り裂き、不意を打つ攻撃によってその突進を中断させた。

 

 

『グバァァァ‼』

 

「まだまだ行くよ」

 

『ああ、かましてやれ!』

 

小曲刀を投擲したWは迷うことなく走り出し、こちらの接近に気付いて鉄球を射出しようとする

バイオレンスの意図を察しながらも、放たれた弓矢の如く一直線に向かっていく。

急速に迫ってくる白黒半身の戦士の、次の行動を警戒したバイオレンスはわずかに思考を巡らせ、

真正面に向けて鉄球を放つのではなく、少し横へずらして横薙ぎに振るうように鉄球を射出した。

これならば鉄球のみを避けても、連なって動く鎖にぶつかって少なからず行動を阻害させられると

考えた上での攻撃だったが、バイオレンス自身は間違いなく完璧な対策だと思っていた。

 

しかし、Wの頭脳であるフィリップには、それすらも計算の内であった。

 

鎖とその延長線上にある鉄球の二種類の攻撃を見たWは、さながら棒高跳びの選手を思わせる

跳び方で跳躍し、走ってきた勢いも合わせて空中で二回ほど体を横向きに回転させた。

思ってもみなかった回避にたじろぐバイオレンスだったが、本当に驚くのはここからだった。

どこからか風を切り裂きながら何かが接近する音が聞こえたと知覚した直後、射出した鉄球と

それを繋ぐ鎖に衝撃が迸り、水平に振るわれるはずだったそれらは斜め下の地面へ急降下した。

自身の左手から先に起きた出来事を、灰色の異形は、そのやたら小さな双眸で視認していた。

彼の攻撃を妨害したのは、つい先ほどWが投じた白磁のブーメランのような小さな曲刀だった。

バイオレンスの肉体を切り裂いていた小曲刀は、まるで攻撃のタイミングに合わせるように

灰色の巨体をグルグルと旋回し続けて、射出した鎖が伸びきる瞬間にそれを斬りつけたのだ。

その事実を悟ったバイオレンスの双眸が次に収めたのは、振り降ろされゆくWの白い右足。

 

 

「『はあぁぁっ‼』」

 

 

裏拳の要領で繰り出された横向きの踵落としによって、バイオレンスの頭部が揺さぶられる。

勢いの乗った重い一撃で後方へ倒れる灰色の巨体を、滑らかに着地したWが冷静に見つめて、

何事も無かったように立ち上がって回転しながら戻ってきた小曲刀を同じ色の右手で受け取る。

 

荒々しい野獣の如き猛攻と、計算し尽くされて洗練された無駄のない連撃によって、

既にバイオレンスには立ち上がる体力も立ち向かう気力も、微塵も残されてはいなかった。

伸びきってたわんだ鎖をジャラジャラと掻き鳴らし、深刻なダメージを負った肉体を痙攣させて、

またしても襲い来るであろう白と黒の仮面の戦士の攻撃を恐れる。

 

だがバイオレンスの恐怖からくる心配は、杞憂に終わる。

 

 

「翔太郎、(とど)めだ」

 

『ああ、メモリブレイクだ』

 

 

Wが次に繰り出そうとしているのは、追撃ではなく、終撃だった。

 

バックルの<牙の記憶(ファングメモリ)>側にあるレバーを、今度は3回連続で押し込んで力を引き出す。

2回の時よりもさらに酷くなったノイズ混じりの咆哮が、相手に恐怖を刻み付けるように響き、

白磁の右半身と漆黒の左半身を、湧き上がる本能を具現させた青白い炎が包み込んでいく。

 

【FANG / MAXIMUM DRIVE】

 

 

極限発動(マキシマム ドライブ)を電子音声が宣言し、それと同時にWが青白い炎に包まれた体をゆっくり屈ませる。

体から一歩分だけ前に押し出した右足の側面に、まとった炎が固形化された大曲刀を生成させ、

これから繰り出される一撃の鋭さと強さを無言のままに物語る。

屈ませた両膝を瞬時に伸ばして跳び上がり、中空で巨大な牙を生やした右足を横薙ぎに振るう。

そのままではまるで届かない攻撃だったが、全身にまとう青白い炎がWの体の背後に集まり出し、

推進機関さながらの推進力を生み出し、生じた勢いで全身を反時計回りに回転させつつ落下する。

 

牙の記憶(ファングメモリ) >の力が敵に刻み付けるのは、その頭文字を冠する『 F 』の深い傷跡。

 

「『ファングストライザー‼』」

 

 

落下しつつ回転するWは、その突き出した右足の牙で落下地点にいたバイオレンスを切り刻む。

圧倒的なまでの力の奔流に競り合うことなく押し負けた灰色の異形は、内部に蓄積されていた

エネルギーの全てを振動させられて、内側から膨れ上がるそれに耐え切れず爆発四散した。

 

 

『グオオオオォォッ‼‼』

 

 

巨体に似合った野太い断末魔と共に、<暴虐の記憶(バイオレンスメモリ)>は粉々に打ち砕かれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

白と黒のWが勝利を収める五分ほど前から、同じ場所でもう一つの戦いは始まっていた。

 

バイオレンス・ドーパントと共に街に涙を流させた白い異形、アイスエイジ・ドーパント。

そしてその驚異の凍結能力と対峙する、赤い装甲と金の角を持つ、仮面ライダークウガ。

 

両者の戦闘は、すぐそばで行われているもう一組のそれとは、真逆の結果を表していた。

 

 

『ヒーッハハーッ‼』

 

「ぐ………クソ! コイツ、氷を操れるのか⁉」

 

 

現状を見る限り、優位に立っているのは明らかに、アイスエイジの方だった。

クウガの方はというと、赤いはずの彼の装甲の何箇所かは、真っ白に氷結しきっていて、

肩で息をするように激しく上下させていることから、苦戦を強いられているように見える。

外見上装甲に見えるソレも、クウガの超古代の霊石の力によって変質した肉体に過ぎない。

つまり彼はアイスエイジの放つ氷結の効果を直に受けているに等しいため、両者を比較しても

疲弊しきっているように見えるのは当然のことであった。

 

白い異形と赤い戦士が戦闘を始めてから、両者の戦闘中の立場が逆転したことはなく、

常に氷結能力を自由自在に操って戦うアイスエイジの方が、優勢のままだった。

 

しかし、それだけでクウガが戦う事を止めるはずがなく、抗う事を諦めるはずがない。

 

 

「ハァ……ハァ………そ、そうだ! アレを使って!」

 

 

懸命に逆転の糸口を探していたクウガは、何もない拓けた公園内に落ちていたソレを凝視する。

彼の視線の先にあった物は、何の変哲もない単なる木の棒だった。だが、それで充分でもある。

 

 

「行くぞ! 超変身‼」

 

凍ってしまった部分を庇いつつ器用に転がり、クウガは目的のソレを手に取って高らかに叫ぶ。

彼の意思を受けたベルト________アークルが使用者のイメージを霊石に伝播させて能力を使用、

物質の構造を変異させるその力によって、手にしていた木の棒を専用のドラゴンロッドに変えた。

そしてアークルはさらに、変異させた武器を使うのに最も適した肉体へとクウガそのものを変え、

赤い鎧から一転して青い軽鎧に、鎧と同じ赤だった双眸も変化して青に姿形を変化させる。

 

ドラゴンフォームに変わったクウガは、手にしたドラゴンロッドをアイスエイジへ向けた。

 

 

「うおりゃあああ‼」

 

武器を得て精神的に余裕が生まれたのか、防戦一方だったクウガが逆に打って出る。

範囲(リーチ)の広さを生かした攻撃は素人臭い棒術ではあったものの、それなりの戦果を挙げた。

徒手空拳のみだった赤いマイティフォームとは違い、直接手で触れない利点を生かした攻撃は

少なくともアイスエイジに通用しており、クウガはここぞとばかりに素早い連撃を叩き込む。

 

突き出し、打ち払い、薙ぎ払い、体全体を回転させて勢いをつけて突き込む。

 

二つの腕だけでは捌ききれない手数の攻撃に、アイスエイジは狂った笑いを止めて悲鳴を上げる。

だがクウガは追撃の手を緩めず、流れる水をいなすような動作でドラゴンロッドを振るい続けた。

 

 

「せっ! はっ! どりゃあ‼」

 

『ウギッ‼ ヒギャアッ‼』

 

 

こちらの攻撃が通用することに勝機を見出し、クウガは絶え間なく攻撃を浴びせ続けるが、

しばらくしてから手にしているロッドの先端から、氷にヒビが入ったような音が聞こえてきた。

その音に気付いてふと手を止めたクウガは、自身が手にしていたものの変化に驚く。

 

 

「そんな! ロッドの先が、凍りついてる………!」

 

 

彼がその青い双眸で見つめるのは、真っ白に氷結しきったドラゴンロッドの先端部分。

しかも異常事態に気付かず振るい続けていたためか、一部が壊れて深刻な被害を受けている。

これ以上使い続けていたら、武器は完全に破壊されていただろう。いや、最悪の場合ロッドから

冷気が伝ってきてクウガの両腕までも凍らせていたかもしれない。そう考えて彼は身震いした。

 

 

『ウヒャーッヒャヒャー‼』

 

「コイツ、最初からこうする気だったのか!」

 

意外と知恵が回るな、などと変なところで冷静なクウガは内心で愚痴をこぼす。

しかし現状はピンチであることに変わりはなく、彼に打つ手がないことも事実だった。

 

彼の持つ他の二つの形態、ペガサスとタイタンに変身したとしても、勝ち目は薄いと分析する。

タイタンは攻撃と防御に特化した形態ではあるが、如何に強靱でも冷気への耐性など無ければ、

専用武器であるタイタンソードも冷却能力による自己崩壊を起こさない特性を有していない。

ペガサスの射撃ならば有効だろうと考えたクウガだったが、彼がペガサスフォーム時に持つ

専用武器のペガサスボウガンの弾丸は、矢ではなく空気弾。凝結させられては勝ち目がない。

どうしようもない絶望感がクウガの心の内に流れ込み、それは時と共に膨れ上がる。

自分一人では勝つどころか勝機の一片すらも見出せない現状に、仮面の下で歯噛みした。

 

『ヒヒッ! ヒャーッハッハッハー‼』

 

「クソ、どうすればいいんだ⁉」

 

 

ジリジリと近付いてくる強敵を前にして、クウガはどうしようもない無力感を味わう。

マイティの拳でも、ドラゴンの棒術でも、ペガサスの射撃でも、タイタンの斬撃でも、

きっと迫りくる白い異形に勝つことはできないだろう。彼は内心で敗北を認めていた。

武器としての役目を終えたロッドは力なく公園の芝生に落下し、クウガは白い異形を見つめる。

 

やられる。もうだめだ。

 

(夏海ちゃん、守れなくてゴメン…………済まない、士!)

 

 

他者に素顔を見せないための仮面の下で、彼は最後まで自分以外の誰かを思い続けていた。

 

自分の後ろにいるであろう、戦う術を持たない少女を守り切れなかった、力不足の悲嘆。

この街のどこかにいるはずの、異世界から来て今日まで共に歩み続けた、仲間への懺悔。

 

やがてクウガの全身に影が差し、手の届く距離にまでアイスエイジが迫っていた。

 

 

『ヒャッハハハーッ‼』

 

 

クウガがこれから襲い来るだろう攻撃に身を強張らせる。

 

 

だが、この街には英雄がいた。

 

 

【SHOULDER FANG】

 

ノイズ混じりの咆哮と共に異形を切り裂く、白磁と漆黒の仮面の英雄が。

 

 

「小野寺ユウスケ、伏せてくれ!」

 

『当たってケガしても知らねぇぞ!』

 

 

白と青との戦いとも呼べぬ一方的な戦闘の中へ、突如割り込んできた白黒半身の戦士は、

右肩に再び生成させた小曲刀を掴んで投擲し、見事にソレをアイスエイジへと直撃させた。

 

悲鳴を上げて斬撃の痛みに悶える異形目もくれず、Wはすぐさまクウガへと駆け寄る。

 

 

「無事かい? 小野寺ユウスケ」

 

「あ、は、ハイ。何とか」

 

『危なかったな。つーかアンタ、最初に見た時と色とか変わってねぇか?』

 

 

駆け寄ってきた仲間の声に安堵の溜め息を漏らし、クウガは持ち前の明るさを取り戻す。

逆にWは戦闘前にチラリと見た彼の姿が微妙に変わっていることに気付き、疑問を抱いたが、

視界の端でヨロヨロとアイスエイジが体勢を立て直したのを捉えて、瞬時に意識を向ける。

 

突然の奇襲を受けたアイスエイジは怒りに震え、さながらヤマアラシのように背中から無数に

生やした細長いトゲ状の針に力を込めて、追尾ミサイルを思わせる攻撃を放ってきた。

 

「くっ、数が多過ぎる!」

 

「俺もやります!」

 

 

迫る無数の針を前にして、二人の戦士は勇気を奮い立たせて立ち向かう。

Wは投じた小曲刀を再び手にして投げ飛ばし、寸前に立てた計算通りの軌道を描かせて針を斬り、

クウガは壊れかけのロッドを拾い、体の前に突き出して回転させて飛んでくる針を撃墜した。

無論射出された針にも触れたものを氷結させる力があり、クウガのロッドは今度こそ砕け散る。

全ての針攻撃をしのいだ二人のライダーは、次はこちらの番だと攻撃を仕掛ける。

 

 

「アイスエイジの氷結はかなり厄介だ。でも、それはあくまで触れた場合」

 

『ショルダーファングなら、凍っちまう前に相手から離れるから問題ねぇ』

 

自慢げにそう語ったWは、戻ってきた小曲刀を再び手にしてからアイスエイジに投げつける。

弧を描きながら白い異形の全身を切り刻むその牙は、確かに氷結の影響を受けつけておらず、

直接触れられない相手にダメージを与える手段としては、現状最有力な方法となった。

やがてアイスエイジの全身に切り傷をつけた小曲刀がWの元に戻り、同時に異形が崩れ落ちる。

どうやら先程までWが戦っていたバイオレンスとは違い、あまりタフなタイプではないらしい。

 

 

『チャンスだ、一気に決めるぜ!』

 

「分かってる。メモリブレイクだ」

「お、俺だって!」

 

 

芝生の上に倒れこんだ異形を見やり、好機と踏んだ二人__________三人は必殺の構えを取る。

 

クウガは再び肉体を変質させて赤いマイティフォームに戻り、両手を開いて腰を落とし、

そこから屈めたままの姿勢で半歩分前に突き出した右足へと、超古代の力を集束させる。

横に並んだWは再びバックルのレバーに右手を置き、三回連続で右手を下へ押し込んだ。

 

 

【FANG / MAXIMUM DRIVE】

 

 

ノイズが奔る大咆哮の後、Wの白黒半身の体が青白い炎に覆われ、右足に牙が生成される。

そしてクウガの右足の裏側、大地を踏みしめる部分からわずかに炎が噴き出していた。

 

両者ともに万全となった瞬間、示し合わせることもなく、同じタイミングで動き出す。

 

クウガが前方へ疾走し、Wが中空へと跳躍する。

疾走から一転、赤い戦士は軽い跳躍の後に勢いに任せて空中で一回転し、

跳躍から数秒、白黒半身の戦士は右足を横薙ぎに振るいつつ落下していく。

 

赤と青白。二つの異なる炎をそれぞれまとった戦士が、決意を秘めた一撃を繰り出す。

 

 

「うおりゃああああああ‼」

 

「『ファングストライザー‼』」

 

 

雷光をまとった赤銅の炎と、恐ろしき竜の頭部を象った青白い炎が、異形を焼き焦がした。

 

 

『ヒギャアアアァァァア‼』

 

狂ったように笑っていた異形に似つかわしい断末魔と共に、<氷河の記憶(アイスエイジメモリ)>は砕かれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昼下がりの公園に現れた二体の異形。メモリを砕いたことにより、その素顔が暴かれた。

 

『どうなってんだ、コレ』

「…………一年半前と、まるで同じだ」

 

 

白磁と漆黒の仮面の下で、フィリップと彼の精神内の翔太郎が見たのは、見知った二人組。

 

他人には真似できない様な独特のファッションに、爆発したかのようなパーマ頭の男と、

明らかに季節感を間違えているとしか思えない、サンタのコスチュームを着た男の二人。

 

そう、メモリの怪人として暴れていたのは、ウォッチャマンとサンタちゃんだったのだ。

 

「これは偶然じゃない。間違いなく、仕組まれている」

『ああ。ここまでピッタシだと、逆に笑えるくらい不自然だな』

 

 

白黒半身の戦士の体から二人分の声が聞こえてくるものの、気になったユウスケは、

マイティフォームに戻っても回復しきれない凍傷部分を押さえながら尋ねる。

 

 

「それって、どういうことですか?」

 

「今言った通り、これは明らかに仕組まれた必然なんだ。一年半前に起きた事件の

始まりとなった、ドーパントが街中に突如として出現しだした、あの時と同じ!」

 

『あの時も、アイスエイジとバイオレンスのメモリが、この二人と引き合っていた。

二人とも自分からガイアメモリに手を出すような人間じゃないって、俺たちは知ってる』

「誰かが裏で糸を引いている可能性が出てきたね、翔太郎」

 

『ああ』

 

 

二人だけで話が進められたようにも感じたものの、会話の中の言葉を繋ぎ合わせた結果、

ユウスケにも今の状況がおかしいということが理解でき、話についていけた。

とにかく何をすべきかをこの世界の二人に聞こうと口を開きかけたクウガだったが、

それより数瞬早く、Wの左半身がけたたましい叫び声を発した。

 

 

『あああああああああああああッ‼』

 

「うわっ⁉」

 

「……いきなりどうしたんだい、翔太郎」

『ヤベェ、俺の方にもドーパントがいたの忘れてた!』

 

「ええ⁉」

 

「翔太郎、急いで戻るんだ! 君の他のメモリが奪われたら!」

 

『分かってる! ああクソ、フィリップ!』

 

Wの左半身、翔太郎が入り込んでいる黒い左側のボディが忙しなく動き、逆に反対の白い

右半身は落ち着き払っていて、慌てることなくバックルに手をかけて機構を動かした。

変身する時に左右に開いたスロットを元の状態に戻すと、肉体を覆っていた装甲が白と黒の

細やかな破片となって街の風と共に散り散りになって飛んでいった。

それでもベルトは装着しているため、翔太郎とフィリップの精神はまだ繋がっているため、

彼らは互いの状況と情報を共有し合う。

 

 

「君の方で変身して、早く街の現状を把握しないと!」

 

『分かってる! よし、ベルトもメモリもちゃんとある!』

 

「急ごう、翔太郎」

 

『ああ、分かって____________あん?』

 

「どうしたんだい、翔太郎」

 

現在街のどこかに捨て置かれている翔太郎の肉体に本人の意識が無事に帰還したようで、

ベルトを介して通じている意識を利用して、フィリップは翔太郎の現状の把握に努める。

ところが、急がなければマズイ状況であると判断したばかりなのに、元に戻った相棒の

様子がおかしいことに気付き、フィリップは最悪を想定しつつ尋ねた。

 

だが、翔太郎から帰ってきた返事は、彼の予想だにしないものだった。

 

 

『……………戦ってる』

 

「なんだって?」

 

『戦ってんだよ、ドーパント二体と』

 

「誰が?」

 

要領を得ない相棒からの言葉に焦りを募らせるが、次の返事にフィリップは驚愕する。

 

 

 

『__________仮面ライダーが』

 

 





いかがだったでしょうか?

この章を書くために現在Wを見直している最中ですが、ヤバいです。
やっぱり平成二期、いわゆる「カウントダウン世代」のライダーは
本当にストーリーの構成がしっかりしていて、かつカッコいいので、
私の中にある特撮魂に火がつきます! 男の義務教育って奴ですね‼

特にWは大好きなんですよ。
出演ライダーの一人一人が主人公級で、かつデザインが秀逸で!
どこを褒めたらいいのか分からないほど、作品全体が最上級なんです!

個人的見解はこれくらいにして。

Wっぽい戦闘と描写を心がけてはいますが、どうでしょうか?
特に個人的にストライクなWFJの活躍は、書いていてワクワクしてます。
ここからはWファンの皆様に失望されない様な作品となれるように
精一杯頑張らせていただきますので、どうか応援していてください!


珍しく長ったらしくなってしまった………。


次回、Ep,29『Jは見た / 仕組まれた戦い』


ご意見ご感想、並びに批評も大歓迎でございます!

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