仮面ライダーディケイド ~The Darkness History~   作:萃夢想天

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どうも皆様、『オーバーロード』が面白い萃夢想天です。
2期アニメ化してほしいと思うのは私だけではないはず!

恒例の私事はここまで。

前回から突入したWの世界、今回は士たちのターンになります。


それでは、どうぞ!





Ep,26『Aの消失 / 不思議な依頼』

 

 

 

 

 

この世界に姿を現した謎の男、鳴滝と不思議な少年が海東と三つ巴になっていたその頃、

光写真館から飛び出していった士を追って、夏海とユウスケは新たな世界を探っていた。

 

彼らの拠点である光写真館が転移していたのは、巨大な都市区画の中心部であったのだ。

調査していくと、その都市が『風都』と呼ばれる場所であると判明したのだが、この事実を

聞いた士の反応は芳しくなかった。不思議に思う二人に、士は珍しく丁寧に解説した。

 

 

「風都って街の名前を、聞いたことあるか? しかも、都だぞ都」

 

「それは、ないですね」

 

「俺もない」

 

「だろうな。日本の首都は東京都で、残る都道府県の都を意味するのは京都府だからな。

そこに風都なんて市も無けりゃ、独立して都と呼ばれている街なんかもありゃしなかった」

 

 

士の解説をここまで聞いて、夏海とユウスケはようやく得心が言ったように頷いた。

そう、彼が言ったように、この世界では日本に新たなる都が設立されているのだ。

地理的状況から鑑みるにこの風都と呼ばれる都市は、東京都と同じ機能を果たしているらしく、

事実彼らが知っている東京都の地理に当てはめても、思い当たる場所などもあった。

分かりやすい場所を上げるなら国会議事堂などだが、今はそこに焦点を当ててはいない。

 

 

「ってことは、この世界は俺らの巡ってきた世界とは明らかに違う『何か』がある」

 

「何か、ですか?」

 

「それが何かまでは分からん。が、とにかく用心するに越したことはないってわけだ」

 

 

今警戒するべきなのは、これまでの世界と何かが違うという事実に対してだと語り、士は首から

いつもぶらさげている愛用のカメラを手に持ち、特に被写体もいないのにシャッターを切った。

撮影から数秒後に吐き出されたフィルムと手に取り、そして分かっていたように失望して捨てる。

 

「どうやらここも、この世界も俺に撮られたがってないらしい」

 

 

もはやお決まりとなりつつある台詞を久々に聞いた二人は、そろって苦笑いを浮かべる。

しかし警戒すべき点を挙げられたと言っても、彼らには現状するべきことがない。

いや、与えられていないといった方が正しいだろう。今回は世界が、彼らに役目を与えていない。

 

これまでに旅してきた世界と、再び巡りなおすこととなった二つの世界を含めてそれらは常に、

士に大して何らかの役割を与えてきた。会社の総支配人や、名門家の専属料理長などがそうだ。

ならば今回もそれがあるのだろうと当たり前のように思っていたのだが、今回はそれがない。

今までの旅路では一度もしていない経験である。それが、士の警戒心を異常なほど高めた。

 

だとしてもこのままではらちがあかない。故に、この場は行動あるのみであった。

 

 

「士君、とにかく今はこの世界の仮面ライダーについての情報を集めましょう!」

 

「情報、ね。前の【クウガの世界】みたく、外敵扱いされてたらどーすんだろうな」

 

「外敵じゃない! 俺は未確認四号だ‼」

 

「要は他のグロンギ共と同種扱いってことじゃねぇか。大して変わらん」

 

「なんだと⁉」

 

「二人とも、ケンカは止めてください!」

 

 

なのにこの場の誰もがまとまろうとしない。完全なる個人主義者が筆頭であるからだ。

他人を煙に巻く発言で飄々とした態度を取り続ける士と、すぐ熱くなる無鉄砲なユウスケ。

二人の人柄をよく知る自分だからこそ喧嘩になるとは分かっていたが、それ故に止められないと

頭の片隅で理解していた。男という生き物は、意地を張りたがるものだと半ば諦観すらしていた。

こうなったら下手に関わるよりも、好きなだけ言い争わせていつものようにユウスケが話に

乗せられて、収まりがつくのを待つしかないと計算式を立てた夏海が肩を落とした。

しかし思わぬところからかけられた声によって、その計算式は別の答えを導き出す。

 

 

「あらあらぁ~? これはもしや、痴話ゲンカって奴じゃないのぉ~?」

 

「あらま本当だ! 止めた方がいいかな?」

 

「ボキは遠慮しま~す!」

 

「ならわたしも遠慮しまーす!」

 

「「どうぞどうぞ」」

 

 

聞き込みや士の当てもないぶらり旅でやってきていた河口場に、漫才のような声が吹き抜ける。

それくらいであれば赤の他人と無視できるが、彼らの話の内容とその外見を見て無視することは

出来なくなってしまった。

 

士とユウスケが食って掛かるのを見ていたのは、サンタの格好をした男とパーマ頭の男だった。

片方はいい。爆発したかのようなパーマの男など、都会であればいてもさほどおかしくはない。

しかし問題はもう片方の、サンタの格好をしている男の方だ。今の季節は、初夏のはずなのに。

日本は北半球に位置しているが、南半球ではクリスマスの時期は夏真っ盛りということになる。

重ねて言うが、ここは日本だ。北半球なのだ。12月の25日は、寒さ深まる真冬時であるのだ。

不可思議な連中が現れたと考えた士は、関心を寄せる対象をユウスケから彼らへと向ける。

 

 

「なんだ、お前らは?」

 

「ど、どどどうしようサンタちゃん! イケメンのお兄さんの方に声かけられちゃったよ?」

 

「だ、だだ大丈夫さウォッチャマン! わたしたちは善良な、一般市民だもの!」

 

「そ、そっか~!」

 

 

士に声をかけられた二人は、互いを愛称のような名で呼び合っている。

見た目からして、サンタちゃんとやらがサンタ服の男だろう。ではもう一人のパーマ男が

ウォッチャマンとかいう輩なのだろうと士は分析する。

 

 

「何を言ってるか知らんが、これは痴話ゲンカじゃない。これは、(しつけ)だ」

 

「何が躾だ!」

 

「ユウスケ、お前俺とやる気か?」

 

「やってやろうじゃんか!」

 

 

誤解を解こうと二人の男の前に歩み出た士は、調子に乗って自身を上に見立てて話す。

ところがそこにユウスケが再び食らい付き、またも中断された喧嘩が再開してしまった。

 

 

「「あわわわわ!」」

 

 

いさめるのを手伝ってもらおうにも、先の二人組は抱き合って震えだす始末。

もはや彼らに扱い慣れた自分しか、止められる者はない。決断した夏海の行動は素早かった。

 

 

「こうなったら、光家秘伝・笑いのツボ!」

 

「「ははははは! あはっ、はっ、あーっはっははは‼」」

 

「「ひぃぃぃっ!」」

 

「………ハァ、最初からこうすればよかったんですよね」

 

 

いがみ合う士とユウスケの首のある部分を親指で指圧し、笑いの奥底深くに叩き落とす。

呼吸と直立すら困難となった二人の男と、それを行った女性を交互に見つめた後に、

さらに強く抱きしめ合って震えだしたサンタちゃんとウォッチャマン。

合計四人の男を指先一つで沈黙せしめた夏海は、要らぬ気苦労だったとため息を漏らした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

士とユウスケの二人が笑いのツボから復帰してから、十数分が経過した。

彼らは現在、風都の河口場ではなく街の中心部から少し外れた場所に赴いていた。

しかし今回は、士の先導による当てもなくさまようような愚行によるものではない。

 

「ほらほら! あそこだよぉ、夏海ちゅわ~ん!」

 

「あそこよあそこ! ほらぁ、わたしの言った通りでしょー!」

 

 

卑しい商人というものを体現するかのようなゴマすりの姿勢をしている二人の男に案内され、

新たに夏海を筆頭とした士一行は、一応の目的を達成することができたのだった。

 

「この風都で探偵と言ったら、ここしかないのねー!」

 

「あ、それボキが言おうとしてたのにぃ~!」

 

「ふふーんだ! わたしが先に言っちゃいましたー!」

 

「あ、あの、教えてくれてありがとうございました」

 

「「いえいえ、夏海さんのためならこれくらい」」

 

「………ホントに何なんだ、お前ら」

 

 

その目的とは、この風都にいる"探偵"についての情報を掴むことだった。

 

光写真館から外出した直後、夏海とユウスケはこの世界の事を少しだけ士から聞いていた。

曰く、「この世界のライダーは、探偵をやっているらしい」との事だったが、

どうしてカブトの世界で倒れた彼がそんな事を知っているのかと少し疑ったりもした。

けれど士は、ライダーについては博識だ。自分の記憶は無いのに、それ以外には聡いのだ。

そのうえ、長く旅を共にしてきた夏海にとって、士の言葉は信頼に足るものでもある。

だから彼の言葉を信じて、先程の二人組にこの風都の探偵についてを訪ねたのだった。

 

夏海がその事を伝えた直後から、二人組は言い争うようにここまで案内してくれたのだが。

 

 

「とにかくここが、この風都で一番の探偵がいるところなんですね?」

 

「うんうん! 実はボキの大親友なんだよね~!」

 

「あ、ずるいぞウォッチャマン!」

 

「サンタちゃんだって抜け駆けしようとしたじゃな~い!」

 

「あーもう! とにかく、ここに凄腕の探偵さんがいるんだろ? 行こうぜ士!」

 

「ん、ああ」

 

 

いつまでも夏海に媚びを売り続ける二人組を取り払うようにしてユウスケが声を荒げ、

一歩後ろで全員をカメラ越しに覗き見していた士を引っ張り、先へ行こうと歩き出す。

またも独断専行する彼らにおいて行かれまいとして、夏海も簡素にだが礼をしてから

二人の後を追いかけてゆく。後に残ったのは、醜い争いをして肩を落とした二人組だった。

 

やたらと夏海に取り入ろうとした二人組から離れてみて、三人は改めて目的地を見つめる。

しかし彼らの予想とは裏腹に、探偵のいる場所と案内されたのは、古いビリヤード場。

平坦な屋根に取り付けられたカモメ型の風見鶏のペンキも剥げ、より一層の哀愁と重ねた

月日の重みを感じさせる外観となっていたが、それでも看板のビリヤードの文字は健在だ。

少なくとも巨大な都市である風都一番の探偵がいる場所だとは、到底思えなかった。

 

 

「あ、本当に看板があった」

 

「なになに? 『鳴海探偵事務所』、『所長 鳴海 亜樹子』?」

 

「亜樹子って、女の人の名前ですよね」

 

「だろうな」

 

「じゃあ、女探偵ってことかぁ! なんか、素敵だなぁ………」

 

「ユウスケ、不潔です」

 

「なんでッ⁉」

 

 

そんなオンボロビリヤード場の屋根を支える主柱に、お手製の立て看板がかけられていた。

探偵というからには男だと思っていた三人は、その溢れんばかりの乙女チック絵描きセンスに

驚き、そして同時に「これで探偵が務まるのか」と頭に思い浮かべるが、考えを振り払う。

人は見かけにはよらないという言葉がある。それをまたも同時に思い浮かべた士たちは、

数秒の迷いはあったものの、看板の案内に従ってビリヤード場の二階へと上っていく。

二回を上がってすぐの場所に扉があり、そこにも鳴海探偵事務所の札が設置されている。

ここまでされれば疑う気も起きなくなる。士を先頭に配置し、意を決して扉を開けた。

 

 

「ちわー、探偵ってのはいるかー?」

 

 

士の軽口と共にゆっくりと開かれたドアの先には、壁を背にして立つ一人の男の姿があった。

何故か室内なのに帽子をかぶり、そのつばを指で軽く押し下げるようにして俯く、一人の男。

どんな理由があるにしても、その姿を入室一番に見せられた士には、こう思う他なかった。

 

 

「何を気取ってんだ?」

 

「なんだとゴラァ‼」

 

 

士に"気取っている"と揶揄されたその男は、先程までのクールな態度を一変させて、

その感情の赴くままに怒号を放つ。しかし咳払いを一つした後に、同じ体勢に戻る。

何がしたいんだと問おうとする士を手で制し、謎の男はまたも気取った態度で口を開いた。

 

 

「それで、今日はどんな風を街に運んできたんだ?」

 

「………自分がかっこいいとでも思ってるのか? 哀れだな」

 

「なんだとゴラァ‼」

 

 

またも憤怒し、今度は掴みかかろうとさえしてくる男を前に、夏海とユウスケは硬直する。

しかしその男が士たちに危害を加えることはなかった。いや、出来なかった。

 

男は部屋の奥から出てきた背丈の低い女性に耳を掴まれ、引きずられていったからだ。

 

 

「アンタって奴は本当にぃ~~‼ 売上下がったらどないしてくれるん⁉」

 

「亜樹子ォ! おまっ、なんでハードボイルドが分からねぇんだよ!」

 

「ぐちぐち言うな、ハーフボイルドの癖に!」

 

「誰が半熟だコラァ‼ 撤回しろ亜樹子、今日の俺は過去最高にハードボイルドなんだよ!」

 

「知らんわそんな事!」

 

 

部屋の奥に設置されている執務用の机の前まで引きずられた男と、引きずった女の二人が

ぎゃあぎゃあと言い争い始める。客を放っておいて騒いでいいのか、と士が内心で男女の

やり取りを眺めるが、結局二人の口論は女性の出したスリッパによって決着がついた。

 

 

「おりゃあ!」

 

「いってぇ‼ オイ亜樹子ォ‼」

 

 

おそらく便所用のスリッパに見えるそれを、女性が男の頭部へとすっぱ抜いたのだ。

幸いにも男は帽子をかぶっていたため損傷はない。だから室内で帽子をかぶっているのかと

士は勝手に納得し、それでも眼前で繰り広げられる茶番に口を挟めずにいた。

 

 

「なに? アタシに手ぇだすの? そんな事したらりゅー君が黙ってへんで!」

 

「ハッ、何が"りゅー君"だ。 照井の奴は捜査で署の方に缶詰だろうが」

 

「………りゅ~くんなにしてんね~ん! はよ帰ってきて~!」

 

「だぁああもー! 泣くなっつーの‼」

 

 

士たちの見ている前で突如始まった茶番は、突如幕を下ろしたのだった。

何故女性が泣き始めたのかも分からぬままに、三人は互いの顔を見合わせる。

仕方なく声をかけようとしたその時、不意に横にある帽子掛けが音を立てて開いた。

否、帽子掛けであると思っていた壁は、巧妙に隠された扉だったようだ。

その扉がいきなり開き、奥から現れた人物が驚きに目を開く夏海とユウスケを見て

状況を察して場にいる全員に聞こえる声量で言葉を発する。

 

 

「亜樹ちゃん、お客さんが来てるんだから泣いてる場合じゃないと思うよ?」

 

「それもそうね!」

 

「………ハァ、助かったぜ相棒」

 

「毎度毎度よくやるね、相棒」

 

 

帽子掛けの扉の奥から現れたのは、何故かクリップで髪を留めている細身の青年だった。

明るい緑色とクリーム色のストライプが映える服装に身を包む青年が、左手に抱える本を

開いて中を読むように覗き込みながら、帽子の男と泣き止んだ女性に話を切り出している。

士たちからしてみれば、いつ終わるとも分からない茶番に終止符を打ってくれた恩人とも

言うべき青年へと感謝の視線を向ける。

 

開幕直後の嵐は収まり、改めて士たちと帽子の男たちの六人はテーブルを挟んで向かい合う。

 

 

「先程は失礼しましたー、私がこの探偵事務所所長の、鳴海亜樹子です」

 

「そしてこの俺が、どんな難事件であろうとも必ず解決するハードボイルド探偵の」

 

「んでこっちのが、ハーフボイルドの左 翔太郎くんでー」

 

「ハードボイルドだっつってんだろ亜樹子ォ!」

 

「うっさいわ! それでー、こちらの大人しいのが、フィリップ君でーす」

「どうも」

 

 

先程までやかましく泣いていた女性が、自分の両隣に座る男と青年を紹介していく。

紹介に預かった二人に夏海は軽く頭を下げ、今度は自分たちを紹介し始める。

 

 

「私は、光 夏海と言います。それで、まずこっちにいるのが」

 

「世界中の誰もが求めてやまない最高の逸材、門矢 士様だ」

 

「士君で、こっちにいるのが、小野寺ユウスケです」

 

「どもっす!」

 

 

相変わらずの俺様節を語る士に向けて、夏海は無言のまま右手の親指を見せつける。

その威圧感を感じた彼は、自分の首筋をガードしながら「おぉ、怖ぇ」と小さく呟き、

ユウスケはそんな士のピンチ(?)に気付きもしないまま人懐っこい笑みを浮かべる。

これでこの場にいる全員の紹介が終わり、いよいよ本題に入る。

 

 

「それでー、今日はご依頼の事でいらっしゃったんですかー?」

 

「え、ええ。まぁ、依頼と言いますか、聞きたいことと言いますか」

 

「おい夏ミカン。自分にできることを金まで払ってさせようとするのが探偵って奴らだ。

そんな連中に聞きたい事があるなって言ってみろ、すぐに報酬の話をもちかけられるぞ」

 

 

話し合いの開幕直後に、士の口から爆弾が放り込まれた。

 

即座に鋭い視線を向ける翔太郎とフィリップだが、士本人にはまるで届いていない。

出会って五分ほどしか経っていない人によくもそこまで酷い事を言えるものだと、

良くない方の才能に感心、というより辟易しながらも夏海がフォローに回る。

 

 

「す、すみません! 士君は、その、人との付き合い方が絶望的に悪くて!」

 

「おい夏ミカン」

 

「ごめんなさい! 確かに口も態度も性格も、どれ一つとってもいいところなんか無い

士君ですけど、それでも悪気なんかないんです! 本当にごめんなさい!」

 

「俺も謝ります。士は本当に他人を思いやれない奴なんです。すみません!」

 

「お、おう。別にお嬢さんが謝る事なんか何もないさ」

 

「そーよそーよ! 男が女の子に謝らせるなんて、サイテーね!」

 

「女性に優しく振る舞うのが、男としての器量であり魅力だと聞いたことがある」

 

「…………………勝手にしろ」

 

 

弁解しようにも口を開く暇すら与えられず、彼はあっという間に5対1の環境へと

放り込まれてしまい、すこぶる機嫌を悪くしてカメラをいじくり始めた。

こうなるとしばらく士は根に持つだろうが、少なくともこれからの話し合いに水を差す

ようなことはされないだろうと、心から謝りながらも障害が一つ減ったことを内心喜んだ。

 

翔太郎たちからすれば、一緒に来た仲間の一人をよくもそこまでボロクソに言えたものだと

半分感心していたのだが、夏海もユウスケもその本心など知る由もなかったが。

 

とにかく士がいない子扱いされた今、ようやく円滑に話を進められる状況が作られたのだ。

 

 

「えっと、とにかく私たちは【仮面ライダー】について色々と知りたいんです」

 

「か、仮面ライダーに? そ、そりゃまたどうして?」

 

「翔太郎、声が上擦ってるよ?」

 

「んっんん! それで、訳を聞かせてくれるかい、お嬢さん?」

 

「その、信じてもらえないかもしれませんが」

 

 

夏海の語った【仮面ライダー】という単語に動揺を浮かべた翔太郎を怪訝に思いながらも、

彼女はそのまま自分たちの本来の素性についてを明かそうと、再び口を開いた。

が、しかし、そこから彼女は言葉を発する機会を失ってしまう。

 

 

「失礼する、鳴海探偵事務所の皆さん」

 

 

応接室も兼ねている探偵事務所の玄関に、スーツ姿の男がいきなり現れたのだ。

扉もノックをせず入ってきたその人物に、誰もが警戒心を露わにして問いかける。

 

 

「誰だ、アンタ?」

 

「あのー、申し訳ないんですけどー、今依頼のお話中でしてー」

 

「依頼なら、私も同じだ。いや、こちらの方がおそらく優先度が高い」

 

 

唐突な登場からそのまま、そのスーツの男の話と歩みは止まる事はなかった。

ずかずかと探偵事務所内に入り込み、座り込んでいる翔太郎たちに視線を向けて、

またしてもいきなり話を切り出し始めた。

 

 

「私からの依頼だ。もちろん、君たちを仮面ライダーと知っての事だが」

 

「「ッ⁉」」

 

スーツの男の言葉に、翔太郎とフィリップの二人が同時に反応する。

男の話と相まって、流石にこの場でその反応が何を意味するかを理解できないほどの

無能はここにはいない。だからこそ驚いていた。探偵が、仮面ライダーだと知って。

 

夏海やユウスケの驚愕とは別の驚きによって硬直していた翔太郎とフィリップは、

潜り抜けてきた場数が違うと言うべきか、すぐに立て直して冷静に男を見つめる。

 

 

「アンタ、何者だ?」

 

「少なくとも一般人ではないね。君は、誰なんだい?」

 

「…………私は、私の名前は、羽田睦(はたむつ) 永久(ながひさ)。依頼があってここに来た」

 

「質問に答えてないぜ。アンタは、一体何者なんだ」

 

 

羽田睦を名乗るその男の答えに、翔太郎は先程以上に低く重い言葉で問いただす。

ついさっきまでの明るくおちゃらけたような彼はいない。そこにいたのは、探偵だった。

 

風都唯一にして"準"最高の探偵の言葉に、羽田睦は重苦し気に言葉を重ねた。

 

 

「私は、<ガイアメモリ>の関係者だ。だから、君たちに頼みがある」

 

「なんだと?」

 

「………今は話を聞こう、翔太郎」

 

「そうかよ。分かったぜ、相棒。んで、羽田睦さん。ご依頼は?」

 

 

羽田睦の口から漏れた、ガイアメモリという言葉によって翔太郎たちはその全身を

これでもかと言わんばかりに硬直させていた。理由が分からない夏海たちにとっては

何が何だかさっぱりであるが、当人たちからしてみれば、とても重要そうであったのだ。

 

未だにいじけている士同様に無言となった夏海たちをよそに、羽田睦は言葉を紡いだ。

翔太郎によって促された彼の言葉は、この場にいる誰もの想定を遥かに超えていた。

 

 

「________『U』のメモリを、究極のメモリを探してほしい」

 

 

 

 

 






いかがだったでしょうか?

少々台詞や情景などをカットしすぎましたが、おおむねセーフですかね。
前回があんなのだったのに、今回は戦闘一切なし。
まぁ息抜きも大事ですよね。大事ですよね、何事も(遠い目


それでは次回、Ep,27『Uを探せ / 一年半前の悪夢』


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