仮面ライダーディケイド ~The Darkness History~   作:萃夢想天

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どうも皆様、やんごとなき事情ゆえに更新が遅れた萃夢想天です。
約一か月も更新を滞らせてしまったことを、ここにお詫び申し上げます。
ええ、夏風邪をこじらせましてね。中学時代の悪友になんぞ会わなければ。

さて個人的な話はこれにて。

今回からいよいよ、新たな世界へと突入いたします。
次なる世界で何が待ち受けているのか、ディケイドの運命は!


平成2期の世界へ、いざ、どうぞ!





Ep,24『Wの世界 / 破壊者の来訪』

 

____________夢を、見ていた。

 

 

 

【スキャニング・チャージ!】

 

「はあぁぁああ! セイハァーーッ‼」

 

 

岩肌が露出している切り立った崖や荒れ果てた大地に響く、盛大な爆発音。

 

 

【LOCKET / DRILL / LIMIT BREAK!】

 

「ライダーロケットドリルキィーーーック‼」

 

 

鳴り止まない暴虐の嵐の中で絶え間なく飛び交い続ける、絶叫に近い怒号。

 

 

【チョーイイネ! キックストライク! サイコー!】

 

「はっ! だぁぁあああぁああ‼」

 

 

聞けば誰もが耳を塞ぎたくなるほどに異常で、異様で、痛烈な戦士の悲鳴。

 

 

【オレンジ スパーキング‼】

 

「ゼイハァーーーーッ‼‼」

 

 

それらの中心には、一人の『悪魔』が孤独に立ち尽くしていた。

 

【FaInaL AtTacK RidE De,dE,de,DECADE!】

 

その全身を染め上げる、色褪せた返り血の如きマゼンタカラーに、

淡く、けれど決して弱くはない光を宿したライトグリーンの双眸。

左肩から胸部を斜めに貫いた十字架のような、白と黒のライン。

両腕と両足を包む装甲の内側に映える、ボディとは対照的な白さ。

 

 

「…………こ、の……悪魔め………」

 

 

爆音と同時に吹き上がった業火に焼かれた一人の仮面の戦士が、

心の底から湧き出る憎しみをぶつけるように『悪魔』に吐き捨て、倒れた。

 

広大な戦場の中で立っているものは、自分を置いて他にはいない。

数えることすら億劫になるほどの戦士たちを、自らが戦って倒したからだ。

そのまま少し視線を下に向け、つい先ほど倒したばかりの戦士たちを見やる。

 

 

上から赤、黄、緑と三色のパーツを組み合わせたような仮面の戦士も、

全身を白で統一している、やけに尖った頭部をしている仮面の戦士も、

頭部と胸部を赤く煌めく巨大な宝石で覆う、黒ローブの仮面の戦士も、

オレンジ色の武者鎧を装備し、二振りの刀を持っていた仮面の戦士も。

 

全てから憎まれる自身に挑み、無様にもその命を散らした哀れな敗者の末路を

その双眸に焼きつけたところで、少し離れた場所にいた戦士が立ち上がり始めた。

ボロボロの身体を庇うように時間をかけて這いずるように立ち上がった戦士は、

『悪魔』と称された自身を中心に倒れ伏している仲間を見つめ、激昂のままに吠える。

 

 

「許さねぇ‼ よくも、よくも俺たちの仲間を‼」

 

『火野映司………如月弦太郎………みんなを、よくも!』

 

傷だらけの身体を怒りで震わせながら、その仮面の戦士は『悪魔』を睨みつける。

しかし彼の、彼らの激しい怒りを真っ向から受けたところで、何も変わらない。

ただただ『悪魔』は目の前の戦士の風体を嗤い、嘲り、弱者だと吐き捨てる。

多くの同胞の命を奪い尽くした『悪魔』は、まるで自ら憎まれようとしむけている

かのように、眼前の戦士の義侠の心を燃え尽きさせようと命尽きた戦士の顔を踏んだ。

 

 

「だからどうした。お前らが何人束になろうが、俺には敵わないだろうが」

 

まさしく『悪魔』を体現するかのような行いに、立ち上がった戦士が咆哮を上げる。

 

 

「コイツだけは、コイツだけは絶対に許せねぇ‼ 行くぜ相棒ォ‼」

 

『ああ、分かっている。僕もコイツだけは許せない。行こう、相棒‼』

 

 

一つの身体から二つの声を放つ仮面の戦士、【仮面ライダーW(ダブル)】が轟き叫ぶ。

するとその左側が黒く、右側が緑色だった身体の中央に白銀の煌めきが迸り始め、

Wがそれを声帯が張り裂けんばかりの雄叫びを上げながら、光を両手で引き裂いた。

 

 

【XTREME!】

 

『俺が、俺たちが! 風都を守る探偵で、仮面ライダーであり続ける限り‼』

 

『僕らは決して折れはしない! 例え相手が、同じ悪魔だったとしても‼』

 

緑と黒の装甲の間に、万物の存在全てを掌握せし知性の結晶の如き白銀の色を

挟み込んだWは、自身の体内に渦巻く全ての力を両足へ集結させ、一気に跳躍する。

そして上空で唐突に吹き始めた膨大な量の風を背に受け推進力とし、Wが蹴りを放つ。

だが迫り来る凄まじい力を前にしても、『悪魔』は立ち尽くし、不敵に笑うだけだった。

 

 

「ハッ! 極限(エクストリーム)だろうが究極(アルティメット)だろうが、俺はその領域を超えている!」

 

豪胆に語ったマゼンタの悪魔は、急降下して迫るWの蹴りに拳を放ち_____________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「____________ぅあ、ああ…………ああ?」

 

 

奇妙な呻き声と共に、門矢 士は目を覚まして起き上がった。

上から見ても分かるほどにびっしょりと服を濡らした汗のせいなのか、

それとも、自分がついさっきまで見ていた、あの謎の夢のせいなのか。

 

 

「仮面ライダー、ダブル………風都、探偵………奴の事だよな」

 

 

頭を押さえながら夢の内容を少しずつ思い出し、そのまま少し右に視線を向ける。

彼の視線の先にあったのは、記憶に新しい、新たな世界を示す背景フィルムだった。

そこに描かれている戦士のような人物の姿は、先の夢に現れたものと非常に似ていて、

もしかしたら自分が見ていた夢の原因はこれなのかもしれないと思案し始めたその時。

 

 

「あ、士! 良かったぁ、目が覚めたんだな!」

 

「士君! 良かったです、なんともなさそうで」

 

「………ユウスケ、夏ミカン。いきなりどうした?」

 

 

士にとっては見慣れてしまった顔ぶれ、旅の仲間であるユウスケと夏海が何やら口々に

「良かった」だとか「安心した」だとかと呟きながら、士の両脇にくっついてきた。

寝起きで働かない頭でこの状況を冷静に分析しようとしたものの、結局諦めて尋ねる。

 

 

「だから、お前ら急に何なんだよ」

 

「何って、士………覚えてないのか?」

 

「覚えてないって、何をだよ」

 

「士君、本当に覚えてないんですか?」

 

「だから何をだよ!」

 

「士、お前いきなり倒れたんだぞ?」

 

「そうです。あの絵を見て少ししたら倒れて、今までピクリともしなくって」

 

「…………倒れた? 俺が?」

 

 

ユウスケと夏海の言葉を聞き、若干信じられないといった表情で自身の両手を見つめる。

これまで幾つもの激戦や死闘を繰り広げ、それらに悉く勝利して来た自分がまさか、

たかが絵を見たくらいで意識を失うだなんてことあり得るはずがない。

 

そう思うことは簡単だったが、次に彼が見た物が二人の言葉が真実であったと告げた。

 

 

「………午前8時、だと?」

 

 

士が目にしたのは、写真館の撮影ホールの扉の上に飾ってあった置時計の針の位置。

短針が8を指し、長針が12から少しだけ右にずれた場所を指していたのだ。

ここで士は、自分の中にある記憶と現状が一致しない違和感を感じた。

 

士が思い出すのは、自分が倒れたらしい時間よりも、少し前の記憶。

カブトの世界の住人たちとパーティーをして騒ぎ、彼らが帰ってから数分後の事。

あの時士はカメラを片手にユウスケや夏海を撮影しつつ、時間の確認もしていた。

覚醒直後のぼんやりとした頭でゆっくりと思い出した記憶は、午後18時の事だった。

 

つまり自分は、約8時間も意識を失っていたことになるのか。

 

 

「………なるほどな、だいたい分かった」

 

 

だんだんと冴えてきた頭を持ち上げながら椅子に座り、心配そうに見つめてくる二人に

お決まりの言葉を言い放ち、心配は無用だとばかりに鼻を鳴らして言葉を続ける。

 

 

「俺が8時間も眠っちまってたって事実も、この世界のライダーの事もな」

 

「そーなんだよお前ぐっすり眠り過…………なんだって?」

 

「この世界のライダーって、あの絵のことですよね? 何か分かったんですか⁉」

 

「ああ。ま、すぐに分かる。行くぞ夏ミカン、ユウスケ」

 

 

肩をコキコキと鳴らしながら座ったばかりの椅子から立ち上がり、そばに置かれていた

士愛用のマゼンタカラーのカメラをしっかりと持ち、二人を先導するように写真館を出る。

突飛な行動をする彼を見て、「またか」と二人で腹立たしそうな顔で見つめ合うものの、

それが彼だからという結論に至り、置いて行かれないようにと歩き去る彼を追いかけた。

 

 

「はぁ~いお待たせ~。朝一番のモーニングコーヒ…………アレ?」

 

 

そして写真館の館長である栄次郎は、自信作のコーヒーを手にしばし呆然となった。

 

 

「さて、今度はどうなるんだろうな」

 

 

一方写真館を出た士は、別の世界に来た時に起こる謎の『着せ替え現象』とも言える、

士個人にのみ作用する不可思議な衣装チェンジが来るのを今か今かと待ちわびる。

実はユウスケや夏海が見たがるこの着替え、一番楽しみにしているのは士なのだ。

 

世界が自分に与えた"役割"だと認識しているこの現象の結果で、彼のその世界での

モチベーションが決まると言っても過言ではない。実際、アップダウンは激しいのだ。

ちなみに前の前の世界、ブレイドの世界ではアンデッドの総支配人。

前の世界であるカブトの世界では、料理経験も無いのに由緒正しきディスカビル家の料理人。

このように、与えられた"役割"の重要さによって、士のその世界の気分が決まる。

 

今回もまた世界が自分に何らかの"役割"を課すのだろう。期待に胸躍らせて待つ。

 

「士ー! 今度はどんな格好になったんだ………って、なんだ。何も変わってないじゃん」

 

「ホントですね。士君、もしかしてもう着替え終わったんですか?」

 

「……………いや、来ない」

 

 

しかし彼らの予想に反して"役割"の現象は現れず、士は私服姿のままだった。

そのまま様子を見ようと待ってはみたものの、結局五分経っても現象は起こらなかった。

今までにないパターンだと三人は驚くものの、頭の回転が速い士はすぐに屁理屈を語る。

 

 

「な、なるほどな。つまり今度の世界は俺に、ありのままでいろってことだ」

 

「どういう事だ?」

 

「つまり、俺はこの状態でも、世界の中で何かしらの"役割"を担ってるってことだ」

 

「なるほど! 流石士だな!」

 

「…………それホントなんですか、士君」

 

「なんだ夏ミカン、この俺の名推理にいちゃもんつけようってのか?」

 

 

士の演説を何も考えず信じ切るユウスケと、胡散臭いものを見る目で士を見る夏海の

二人からの視線をその背中に受け、若干無理やり過ぎたかと士は内心で焦り始める。

そんな焦りを悟られぬためにも、彼は急な話題転換で乗り切ろうと図った。

 

 

「とにかく、今必要なのはこの世界のライダーの情報だ。こんなところでぐずぐず

してても何も始まらない。そうだろ? だったら行くぞ、俺についてこい」

 

善は急げと言うだろ、と半ば強引な言い訳と共にまたも勝手に歩き出す士。

良くも悪くも普段通りな彼を見て、急に倒れたという不安も心配も必要ないのだと

取り残されそうになっている二人は考え、先を歩む男の背を律儀に追いかける。

 

「それにしても士、一体どこに向かってるんだ?」

 

「………………俺についてこい」

 

 

新たな世界での船頭を買って出た戦友の無計画さを、不安げに見つめながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァ………ハァ………ハァ………ハァ」

 

 

海とつながる巨大な運河を見渡せる河川敷の道を、一人の男が駆けている。

 

 

「ハァ………ハァ、んくっ!」

 

 

男は時折背後を気にしつつ、もつれそうになる足を全力で動かしている。

そんなパッと見、無様に見える彼の姿を、道行く人々は自分勝手に卑下する。

しかし全力を持って走り続けている彼には、周囲の人々の顔色を窺っている暇は無い。

 

 

「おのれ………おのれぇ!」

 

口惜し気に息も絶え絶えな状態のまま吐き捨てた男は、再び背後に目を向けた。

けれど視線の先には、朝のジョギングを楽しむ人々などしか見受けられない。

ここまでくれば。安心したような面持ちになった男は走るのを止め、息を整える。

 

 

「__________どこへ行かれるのですか?」

 

「ッ‼」

 

 

男が全速力で走ったために乱れた呼吸を元通りにしようと試みた瞬間、声が聞こえた。

まるで自分がどこかへ行くことを咎めるかのような物言いに、男は冷や汗を流す。

肉体的疲労と精神的圧力から起こる震えを悟られぬようにしながら、男は叫んだ。

 

 

「おのれ! この世界まで私を追って来たのか!」

 

「当然でしょう、それが命令なのです」

 

「捕まるわけにはいかない! 私が、私が捕まるわけには!」

 

「往生際が悪いですねぇ__________鳴滝さん」

 

 

ツバが広めのチューリップハットに同色のくたびれたコートを羽織り、

どこにでもあるような普通の眼鏡をかけた、中肉中背の謎めいた男。

彼こそがディケイドを目の敵にしている、【鳴滝】と呼ばれる男だった。

 

普段はディケイドが巡る世界の行く先々へ先回りし、そこで旅路の妨害とも取れる

ような行動や暗躍をして、裏でディケイドの抹殺を目論んでいる人物でもある。

しかしディケイドである士は知らないことだが、旅の同伴者である夏海に対しては

幾度となく警告のような言葉を残し、敵意が無いことを証明するような素振りも見せた。

まるで謎めいたことしかしないその男が今、突如現れた声の主に追い詰められていた。

 

 

「く、来るな!」

 

「そうはいきません。『あの御方』のご計画には、あなたが必要なんですから」

 

「私は何もしない…………お前たちのおぞましい計画に、手など貸さんぞ!」

 

「それは困りましたねぇ。さて、ではどうすればお願いを聞いてもらえますか?」

 

 

そう言って鳴滝に少しずつ詰め寄っているのは、彼よりも若い青年だった。

どこにでもある白地のTシャツにジーンズ、髪は少々色の薄い茶色の短髪の彼は

特に目立って危険な凶器なども所持しておらず、鳴滝が怯む理由は見当たらない。

それでも現状を見れば、どちらが優位に立っているのかは火を見るよりも明らかだった。

 

 

「あまり抵抗されるようなら、私だって手荒な真似をしなければならなくなりますが」

 

「何故だ、何故今になって私を狙う⁉ 私はもう!」

 

「ですから、『あの御方』のご命令なのです。生きて連れてこいとね」

 

「私は、私は………!」

 

 

散歩を楽しむかのように明るい笑顔で歩み寄る青年とは対照的に、鳴滝は少しずつ

後ろへと震える足を巻き戻していき、ついに耐え切れなくなって後方へ駆け出した。

しかし追い詰められた焦りからか、彼の足は追いつかずにもつれてしまい、転んだ。

起き上がろうと腕に力を込めた直後、自分のすぐ後ろで足音が止まったことに気付き、

もはやこれまでか、と鳴滝が絶望を色濃く顔に浮かび上がらせた、その時だった。

 

 

【ATTACK RIDE BLAST!】

 

「何だッ⁉」

 

どこからか電子音声が響き渡り、直後に青年の背後へ青い光弾が襲い掛かった。

そのすぐ後に巻き上がった火花と着弾時の煙が二人の視界を遮り、何が起きたのかを

分析するための判断材料を不透明にした。そうしている間に鳴滝の腕が何者かに掴まれ、

力の加減を全くされないまま後方へと大きく放り投げられた。

 

 

「うっ!」

 

「やぁ、お久しぶりですね。間に合った良かったですよ」

 

「……………貴様ぁ」

 

石畳の道に腰を打ち付けた鳴滝に、襲撃者が飄々とした態度で語りかける。

そして背後に光弾をばらまかれたはずの青年は無傷のまま、現れた闖入者を睨む。

 

鳴滝と青年の前に現れたのは、仮面ライダーディエンドこと、海東 大樹だった。

 

海東は先程銃撃を放った愛用の銃、ディエンドライバーを器用に回してから再び

眼前の青年へと銃口を向け、鳴滝に向けたのとは正反対の声で厳かに話し出した。

 

 

「君の方は本当に久々だね。もう二度と出会いたくはなかったよ」

「それはこちらのセリフだ、海東……私は貴様が殺したいほどに憎い‼」

 

「だろうね。だからこうして来てあげたんだ、ありがたく思いたまえ」

 

青年もまた、鳴滝に見せた余裕が嘘のように掻き消された声と表情で海東を睨み、

両者は互いの一挙手一投足を見逃さぬとばかりに睨み合ったまま動かなくなった。

そんな状態の海東の後ろで守られるような形となった鳴滝は、彼に尋ねる。

 

 

「海東君、君は………新たな力を求めて世界を旅していたのでは⁉」

 

「ええ、してきましたよ。ひとまず【仮面ライダードライブ】の世界はね。

その後で気になって様子を見に戻ってきたらこの有様さ、まさに危機一髪だ」

 

「…………すまない、海東君!」

 

「いいんですよ、鳴滝さん。今のうちに逃げてください」

 

 

鳴滝の質問に律儀に応えた海東は、そのまま彼に逃げるよう伝える。

海東の言葉を聞いて一瞬反論しようとしたものの、状況がそれを許さなかったようで、

謝罪の言葉を述べながら、彼は後ろを向いて一目散に駆け出し、姿を消した。

 

青年は追っていた鳴滝を逃がした海東を見て、ますますその視線に憎しみを込める。

対して海東も普段の掴みどころの無いような態度は鳴りを潜め、殺気を剥き出しに

して眼前の青年にそれを躊躇なくぶつける。

 

 

「……………海東、お前を殺すのは後だ。今は『あの御方』のご命令の完遂が先決」

 

「そうやって逃げるのかい? 良くないねぇ、君のその逃げ癖は」

 

「何とでも言えばいいさ。自分の世界から逃げ出した(・・・・・・・・・・・・)お前に言われたところで大して

心にも響かないし、何より僕を怒らせようって魂胆が見え見えだ」

 

「ああそうかい。だったら力づくでも今ここで君を倒す」

 

「倒せないよ。僕はこのまま鳴滝を追うから、君の相手はコイツらだ」

 

 

力強く銃口と殺意を向ける海東だったが、彼の常套句を怒りを押し殺しながら

噛み砕いた青年の発した言葉によって向けるべき殺意と銃口がぶれることになった。

青年は薄ら笑いを浮かべながら左手を頭上に掲げた。すると彼の背後にどこから

ともなく濁ったような灰色の薄い膜が現れ、その膜へと姿を消してしまったのだ。

そして青年と入れ替わるようにして幕の中から姿を見せたのは、異形の怪物だった。

 

 

『『『ギャギャア!』』』

 

『ウオオォ! グオオォォォオアア‼』

 

「………やれやれ、面倒な置き土産を残していったものだ」

 

 

少しも危機感を感じさせない口ぶりで語る海東の前には、多くの怪物が現れた。

その怪物は、彼が最近巡ってきたばかりの世界にいるはずの異形たちであった。

 

泥で塗り固められて作られたような上半身と、その中央に佇む頭蓋に似た頭部。

上半身とは対照的に、皮膚を引き裂かれて丸見えになった人体のようにも見える

筋肉繊維や外骨格を剥き出しにして、両腕の鋭く長い爪を振り回して暴れだす異形。

 

筋肉繊維が赤や緑や青と個体ごとに若干違いがみられる怪物は、【インベス】

 

そして彼らとは形状や姿は全く異なるものの、全く同じルーツを経て生み出された

獣の姿を宿した人型の異形たちは、【中級インベス】という。

 

恐ろしく盛り上がった上半身からぶら下がる両腕を振り上げ、普通のインベスが

何体か海東の元へと駆け出すが、迫り来る異形たちにも彼は一切動じない。

右手に携えた銃を自らの顔の横へ持ってきて、左手にいつのまにか持っていた

ライダーカードを銃の横にあるソリットに装填し、銃の前方部をスライドさせる。

そしてそのまま銃口をインベス達へと向けて、合言葉と共にトリガーを引く。

 

 

「変身!」

 

【KAMEN RIDE DIEND!】

 

銃口から放たれた弾丸が炸裂し、インベスに着弾したそれらが長方形の板状の物質に

変換されてき、それら全てが海東のいる場所へと回転しつつ舞い戻っていく。

その間に彼の周囲に赤、青、緑の三色に分かれた戦士の残像が周囲を囲むように飛び交い、

やがて彼を中心として集結し、全身をゼオンカラーに染めた仮面の戦士を登場させた。

「さて、さっそく試してみようか。手に入れたばかりの力を」

 

 

不敵な笑みを仮面の下に浮かべながら、銃撃に怯んだインベス達に見せつけるように

左腰のカードホルダーから抜き取ったカードを手に収める。そしてそのカードを先程と

同じように愛銃ディエンドライバーに装填しようと手を動かした時だった。

 

 

(へん)________(しぃん)‼」

 

【ACCEL!】

 

 

河川敷の道から見て坂になっている場所の向こう側から、何やらバイクのエンジンを

吹かすような騒々しい音が連続して響き始め、しばらくしてから音が収まった。

そして音が収まったと同時に、その坂の向こうから猛烈な勢いで駆けてくる者がいた。

 

 

「市民からの通報を受けてきてみれば、何だこの状況は‼」

 

「………これはこれは。厄介な時に来てくれたもんだね、刑事さん」

 

 

現れたのは、全身をメタリックレッドの重装甲で覆った仮面の戦士。

仮面の戦士としては異形に近い、碧いコンパウンドアイに白金のアンテナ。

まさしく燃え盛る紅蓮を鎧として凝固させたような、メタリックレッドの重装甲に、

背部や両脚部に見える、バイクのホイールを思わせるディティール。

 

インベスとディエンドの目の前に現れたのは、このWの世界にいる仮面ライダーの一人。

そして、街を脅かす悪を許さず、正義の炎にその身を焦がす、無頼漢なその男の名は。

 

 

「___________さぁ、振り切るぜ‼」

 

 

加速の記憶(アクセルメモリ)』の過剰適合者。

 

愛するものを守るため、決して死なない不死身の男。

 

風の吹く街『風都』を守護する二人の英雄の一人。

 

 

______________奴の名は、【仮面ライダーアクセル】

 

 





いかがだったでしょうか?

明らかに投稿が遅れていたため、今回は時間が取れた今日書いちゃいました。
べ、別に普段と違う時間帯や日にちに投稿して、読者の数を増やそうだなんて、
そんなこと考えてないんだからね!(誰得のツンデレである)

あ、ちなみにですが、今回のディケイドについてのある表記ですが、
あれはわざとですのでご安心を。眠いからってわけじゃないからね!


それでは次回、Ep,25『Wの世界 / 街を泣かせない男』


ご意見ご感想、並びに批評も受け付けております!

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