仮面ライダーディケイド ~The Darkness History~   作:萃夢想天

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どうも皆様、ゴーストの映画を見てきた萃夢想天です。
ダークゴーストの悪役感が個人的にすごく良かったと思いました!
あとナポレオン魂もカッコよかったです!(一休? 知らないな)
そして今回の映画では次回作の「エグゼイド」が初披露されましたね。

…………まぁ、その、アレです。もう仮面ライダーもここまで堕ちたかと。

最悪の場合は果物武者ライダーさん以下の視聴率になるやもしれません。
意外とドライブの視聴率は悪くなかったらしいですし(初耳でした)

さて、個人的な話はここまでといたしましょう。
今回でおそらくカブトの世界は完結すると思われます。
この世界がどのような結末を迎えるのか、そして次なる世界とは、
ワクワクしながら読んでいただけたらなと思っております!


それでは、どうぞ!





Ep,23『NEXT LEVEL ~光差す道へ~』

 

 

 

 

不気味な深緑色の体表を持つローカストワームの群体の中に、新たな戦士が現れた。

 

【仮面ライダーパンチホッパー】

 

かつてネイティブが地球を侵略しようと裏で計画を進行していた四年ほど前にワーム、

及びネイティブ対策用として人類が密かに製造していた量産型ライダーの基盤であり、

矢車と共に地獄の底を歩み続けて最後には死を選んだ哀しい男、影山 瞬の変身した姿だった。

 

影山が兄と慕った矢車が変身する『仮面ライダーキックホッパー』に瓜二つの外見で、

違う個所を挙げるならば、白く濁った双眸と右腕部に装着された脚型アンカージャッキの

二点ほどしかない。それほどまでに形状が似通った仮面ライダーの片割れが、今蘇った。

 

 

「おっし! やればなんとかなるもんだな!」

 

世界の全てを憎んだ影山は既に亡く、今変身しているのは彼と面識のあった田所だった。

本来ならばゼクターに選ばれた者以外には変身することはできないはずなのだが、

それは人間に限って言えばの話である。そして田所は、人間ではなくネイティブの生き残り。

そして本来マスクドライダーシステムを設計したのは彼と同種族のネイティブに他ならない。

だからこそ彼ならば人類に残された対抗手段を正しく扱えるはずだと天道は考えて、

田所にかなり前からホッパーゼクターの回収を命じていたのだった。

 

目論見通りの結果を見て、カブトに変身して戦っている天道が田所に語り掛けた。

 

 

「やはり、俺は正しい」

 

「あぁ、そうだな! 少なくとも天道、君が間違ったところは見たことが無い」

 

「まぁな。それより、くるぞ」

 

「分かっている!」

 

田所が天道の主張を全面肯定したところで、互いが背を向け合って蠢く異形たちの中心に陣取る。

彼らの視界には見渡す限りの同じ姿をした深緑色の怪物がひしめき合っていて、逃げ場は無い。

二人はそれぞれ自分の目の届く範囲の敵を攻撃するために、急所となる背中を互いに預けたのだ。

もはや一種の合唱のようにも聞こえてくる羽音と外殻の擦れる音の中で、二人は静まり返る。

そしてどちらかが動き出した瞬間に均衡が崩れて深緑色の群体が雪崩れ込むであろうと悟り、

うかつに手が出せずに膠着状態に陥りかけたその時、どこからか風を切る音が聞こえてきた。

徐々に近づいてくる音にローカストワーム達も気付き、周囲を見回しだした直後。

 

 

『ぐおぉぉ⁉』

 

 

カブトとパンチホッパーを取り囲んでいた大勢の群体の一番外周側に居た一個体が、

うめき声に近い悲鳴をあげてよろよろとよろめき、しばらくして音を立ててその場に崩れた。

何事かとローカストワーム達が倒れた同一個体の死骸に目を向けると、その背には一振りの剣が。

 

 

「はぁッ‼」

 

『何ッ⁉ うぐぁぁあ‼』

 

 

深緑色の異形達が戦慄する中、明らかに注意を逸らされたことに気付かず新たにもう一体が

悲鳴をあげてドサリと崩れ落ち、最初に倒れた個体とほぼ同タイミングで緑の炎を噴き上げた。

不意打ちのようにして二体の同胞を失ったローカストワーム達は、新たな敵の姿を捉える。

 

 

『貴様は、ガタック!』

 

『何故だ⁉ 貴様は我らが足止めしていたはず!』

 

 

異形達の歪な複眼が捉えたのは、この深緑色の地獄に似つかわしくない群青の戦神の雄姿。

右手にクワガタの顎を模したように湾曲したガタックカリバーを一振り携えて緑色の炎を

鎧に映し出すその姿はまさしく"戦の神"そのものであった。

 

ガタックはそこから雄叫びをあげながら剣戟と蹴りで無数の群体を相手取りつつ進み、

先ほど自分が投擲したもう一振りのガタックカリバーを左手で掴んで二本同時に振り抜く。

本来の二刀流スタイルを取り戻した彼の乱舞を受け、周囲に居た異形は緑の炎と化して散った。

突然の襲撃による混乱もあったのだが、ローカストワーム達はガタックの強さに息を呑む。

そうしている内にカブトとパンチホッパーを包囲する陣形が崩れ始め、さらに大きな隙を生む。

そしてその隙を、またしても唐突な奇襲によって突かれることとなった。

 

 

【ATTACK RIDE SLASH!】

 

「やあぁぁぁああ‼」

 

 

軽快な電子音声が響き渡った直後、ローカストワームの包囲網から緑色の火の手が上がる。

ガタックによる攻撃で聞いたのと同じような断末魔が群体から絶え間なく上がりだし、

その場の誰もが悲鳴の発生源の方へと視線を向け、そこに立つマゼンタの戦士を視認した。

 

 

「………よくここまで来られたな」

「やっと見つけたぜ、カブト」

 

 

ガタックと同じように緑の火の粉が噴き上がる中で剣を手にして立つディケイドの姿を見て、

カブトはそれが誰なのかを察して言葉を掛け、ディケイドもまた同様に声を掛けた。

二人の視線が緑の炎と深緑の異形達の間で重なり合い、無言のままに互いの健闘を労う。

そんな二人の再開を余所に、ガタックはカブトの隣にいるパンチホッパーの存在に驚いていた。

 

「その姿………まさか、影山さん⁉ 生きてたんですか‼」

 

「落ち着け! 加賀美…………俺だよ」

 

「えっ…………その声、まさか田所さん⁉」

 

「ああ。久しぶりだな、加賀美」

 

「田所さん‼」

 

 

かつての上司であり恩師でもある田所が目の前に居ることに、ガタックは声を震わせる。

「今まで一体どこに………急に連絡取れなくなったから、俺、心配で!」

 

「分かってる。心配するな、俺はこの通りだ」

 

「田所さん………良かったぁ」

 

「安心するのは早いぞ、加賀美。まずはここを生きて切り抜けるのが先だ!」

 

「は、はい‼」

 

 

パンチホッパーに変身している田所に諭され、ガタックである加賀美も気合を入れ直す。

そんな二人を遠巻きから見つめていたディケイドはそのまま歩いてカブトの横に並ぶ。

そうしてカブト、ディケイド、パンチホッパー、ガタックの四人の戦士が堂々と立ち並んだ

直後に、廃工場の地下であるこの場所の壁を突き破って巨大なクワガタが入り込んできた。

その場の全員の頭上を旋回した後で、それはディケイドの真横に人型に変形しながら着地する。

「遅かったな」

「悪い悪い、待たせたな!」

 

 

ディケイドの横に降り立ったのは、ゴウラムから元の真紅の鎧をまとった戦士、クウガだった。

パンチホッパーが呆然としている中で、異形達の目の前に五人もの仮面の戦士が揃った。

 

次々とやって来る仮面の戦士に驚いたローカストワームは、その事実に驚愕する。

まず手始めに自分たちの同胞をサナギ体のワームと共に送り出し、先兵として足止めをさせた。

もちろんそれを突破することは予測していたため、次に矢車を呼び出して対抗戦力である

マディカをぶつけることで戦力の消耗を量ったつもりでいた。しかし、現状は全く異なる。

自分たちの前には仮面の戦士が五人。誰一人欠けることなく、消耗した素振りも無く並び立つ。

どこで計画が狂ったのかと必死に考え起こすが原因が見当たらずに焦りばかりが募っていく。

焦燥に駆られた群体の中の一体が、わずかな声の震えをごまかすように声を荒げる。

 

 

『馬鹿な‼ 我らが同胞は………矢車は何をやっている‼』

 

『貴様ら! 異世界のライダー、貴様らが何かしたのか⁉』

 

「ああ、あのカマキリ野郎ならぐっすりお昼寝中だ」

 

『な……………そんな、馬鹿な事が』

 

何でもないように軽い口調で答えたディケイドに、信じられないものを見る視線を投げかける。

しかし実際に自分たちの目の前に確かに奴らはいる。それは紛うことない事実であり、真実だ。

自分たちの人間を超えた頭脳を以てしても計算できない力を秘めているのか、と異形は恐れる。

幾度となく見てきたカブト達とは明らかに違うタイプの装甲に覆われた二人の仮面の戦士、

ローカストワーム達はその鎧の赤が鮮血に、マゼンタが褪せた返り血に見えてくるようだった。

合流した五人の戦士は互いの無事を確認し合い、さらにクウガは本来の目的の達成を尋ねる。

 

 

「天道さん! 優未恵ちゃんは、アゲハさんは無事でしたか⁉」

 

「………問題無い。二人はもう逃がした」

 

「そうですか! はぁ~、良かった………」

 

 

淡々としながらもキチンと身の安全を確保したと告げるカブトの前で、クウガは安堵した。

まるで自分の事のように安心している彼を横目で見やりつつ、カブトは小さく呟く。

 

 

「本当に加賀美の生き写しのようにおかしな奴だな」

 

「俺もそう思うぜ」

 

 

カブトの小言をすぐ近くに居たディケイドは聞いており、その言葉に同意を示す。

自分の言葉に返事が返ってくるとは思ってなかったのか、カブトはディケイドの方を向く。

その蒼い双眸の先には、自分たちよりも二歩ほど前に歩み出しているマゼンタの戦士の

後ろ姿が映し出されていた。そしてディケイドはカブト達から四歩ほど手前で立ち止まる。

 

前に出た途端にローカストワーム達からの殺気と注目の的となったディケイドは、彼らの放つ

不協和音に近い雑な羽音も外殻が擦れる音も何もかもを無視して、唐突に語り出した。

 

 

「世界ってのは、何を中心に回ってるか知ってるか?」

 

『…………何?』

 

 

いきなり投げかけられた疑問。その意味と意図が分からずに異形達は静まり返る。

そんな彼らを気にすることなく、ディケイドは右手の人差し指を立てつつ話を続ける。

 

 

「この大きく広い世界は、一つの命を中心に回っている。

その命は他のどんな命とも変わらない、ごく普通のありふれた命だ」

 

『何の話だ‼』

 

「だが、そんなたった一つの命でも、自分を中心に世界を回すことができる!

それは、自分が守りたいものの為に、世界を敵に回すことができるってことだ‼」

 

「………………」

 

ディケイドは立てた人差し指をゆっくりと持ち上げ、自身の頭上に掲げて語る。

それはさながら、その指で世界という巨大な命を回しているかのようにも見えた。

堂々たる振る舞いと言葉に仮面の戦士たちは息を呑むが、ただ一人だけは冷静に彼を見ていた。

今ディケイドがとっているポーズをよく知る男、カブトはその蒼い双眸で見つめ続けた。

 

「自分が守りたいと思ったものが世界の敵なら、自分が世界そのものを敵に回せる!

そうして世界と戦い、守りたいものが平和に暮らせる新しい世界を作り上げる!

自分がその世界の中心であり続ける限り、守りたいものを脅かす存在は無くなる‼」

 

『えぇい貴様! さっきから何の話をしている⁉』

 

「アメンボから人間、人間として生きようとする地球の外の生物であっても守り通す!

この世界の中心であり続けようとしている男は、そういう男だ‼」

 

 

話の意味が分からずに痺れを切らし始めたローカストワーム達が敵意を剥き出しにして、

いつでも戦闘を始められるように臨戦態勢を取り始めるが、ディケイドはまるで動じない。

マゼンタの戦士が語っている言葉の意味を、彼の後ろに居る仮面の戦士たちは理解していた。

特にパンチホッパー、田所とガタック、加賀美の二人はその生き様を貫く男の事を知っていた。

だからこそディケイドの口上の中でも静寂を守っているカブトを見つめ、そして確信する。

ディケイドが語る男の正体と、その目的を。彼が語る戦士の生き様を、その真意を。

 

仮面の戦士たちの思いが一つになる中、ディケイドが声を大にしてさらに続ける。

 

 

「今この世界の中心にいるべきなのは、全ての命を導くことができるこの(カブト)だけだ!

お前らみたいな自分と同じ姿形をしてなきゃ仲間意識も湧かないようなヤツらが、

この世界の中心になんてなれるはずがない! そして、なる必要も、無い‼」

 

『黙って聞いていれば貴様‼ 図に乗るなァ‼』

 

『一体貴様は、貴様は何なんだ⁉』

 

 

とうとう痺れを切らした深緑の異形が怒りを露にし、ディケイドに何者かと問う。

ディケイドはその言葉を待っていたとでも言わんばかりに手を腰に当て、堂々と名乗った。

 

 

「通りすがりの仮面ライダーだ! 覚えておけ‼」

 

 

ディケイドがそう名乗った瞬間、彼の腰にあるライドブッカーからエンジンを吹かすような

音が響いてきて、そこから見慣れた三枚のカードが射出され、ディケイドの右手に収まった。

手にしたカードをライトグリーンの双眸が見つめ、満足げに頷くと二枚を左手に持ち替えて

残った一枚をバックルの機構を動かして装填し、その情報を読み込んで自身に反映させた。

 

 

【KAMEN RIDE KABUTO!】

 

 

ディケイドのベルトのバックルから電子音声が響いたのと同時に、彼の姿が変化し始める。

マゼンタカラーの装甲が、徐々に形状と色彩も併せて全く別のものへと書き換えらていく。

 

天を貫くように直立する、カブトムシを彷彿とさせる形状の赤い角。

その角が蒼いコンパウンドアイを二つに裂き、複眼状の双眸へと変える。

カブトムシの強固な外殻を連想させる独特なフォルムをした紅蓮の装甲をまとい、

全身を太めのラインが刻まれたような外観の黒いスーツが包み込み、肉体を覆う。

数秒後に変身を完了したディケイドの姿は、彼のすぐ後ろで立つカブトと同じものだった。

 

 

『『『何だとッ‼⁉』』』

 

 

目の前でマゼンタの戦士がカブトに変化していく様を見せられた深緑の異形達は驚愕し、

同一個体の全てが意思を共通させて同じ言葉を口に出す。

だが驚愕したのはローカストワームだけではない。ライダーたちも同様だった。

パンチホッパーとガタックは眼前にカブトが二人もいる現実に目を白黒させて驚いた。

しかしそんな驚愕の渦中にいるディケイドも、カブトも全く動じずにいる。

 

そのままカブトにライドしたディケイドは左手に移した二枚のカードの内、一枚を再び

右手に戻してバックルに装填した。先ほどのものとは違う、金色で縁取られたカードを。

 

 

【FINAL FOAM RIDE KA,KA,KA,KABUTO!】

 

 

再びディケイドのバックルから電子音が鳴り響き、金色のバーコードが浮き上がる。

カードを発動させ終えたディケイドは向きを変えてカブトの後ろへと回り込み、

自分の後ろへ来たことに戸惑いと警戒心を隠せずにいるその背中に両手を差し込んだ。

 

 

「んっ………?」

 

「じっとしてろ。ちょっとくすぐったいだろうけどな」

 

 

今まで感じた事の無い感覚にカブトが変な声をあげそうになるが堪えようとする。

その間もディケイドは彼の背中に手を差し込み続け、少し経ってから左手を頭の方へ、

右手を腰の方へと開くようにして引き抜き、両手で埃を払うような動作をして見せた。

 

そんなディケイドの目の前で、カブトの姿がとんでもない変貌を遂げていた。

 

カブトの背中が腰より少し上の辺りから前の方へと真っ二つに割れていき、

下半身は倒れてくる上半身との間に格納されるように折りたたまれ始め、

背中からカブトが腰に装着していたゼクターのレバーを巨大化させたものが突き出た。

その場にいる者の視線を釘付けにしながら、五秒足らずでカブトの全身は変化し終える。

カブトが変化したのは、彼が変身するために使用するのと同じ『カブトゼクター』。

しかし実際のものと違う点が一つ。それは、とてつもなく巨大になっていたのだ。

 

 

「天道ぉぉおお⁉ お前、天道に何を‼」

 

「落ち着いてください加賀美さん!」

 

「落ち着いてなんていられるか‼ 天道ぉ! 大丈夫かぁああ⁉」

 

「落ち着け加賀美! 俺にも何が何だか分からんが、ひとまず問題は無さそうだ!」

 

「そうですよ! 加賀美さん落ち着いて!」

 

 

あまりに急過ぎる展開にガタックが声を荒げてディケイドに突っかかろうとする。

それをパンチホッパーとクウガが両脇から抱き着いて必死になだめようとするものの、

既に頭に血が上り切ってしまっているガタックの耳には届かないようだった。

何とか押さえようとする二人を横目に、ディケイドは肩をすくめる。

 

 

【加賀美、俺なら何ともない。だから静かにしろ】

 

「て、天道! 天道なんだな!」

 

【同じことを何度も言わせるな。それにお前は、目の前の状況に集中しろ】

 

「…………そうか。お前がそうしろって言うんだから、そうした方が正しいんだろうな」

 

【当然だ。俺は常に、正しい】

 

「ああ、良く知ってるよ。おっしゃあああ‼」

 

【…………面白い奴だな、まったく】

 

 

荒ぶるガタックをなだめるために、巨大カブトゼクターとなったカブトが語り掛ける。

聞きなれた声を聴いたガタックは冷静さを取り戻し、カブトの指示通りに剣を構えた。

そんな長年の戦友の姿を見やりつつ、カブトは今度こそ誰にも聞かれない声量で呟いた。

 

 

『殺せ‼』

 

『先にヤツを殺せ! 姿が変わるあのライダーからだ‼』

 

『もう一度取り囲め‼ 今度こそコイツらを生かしては帰さん‼』

 

 

仮面の戦士たちが動きを見せたことで、深緑の群体も完全に戦闘行動へと移行し始めた。

ほぼ全個体が背中のバッタに酷似した形状の翅を振動させて低空に浮き上がり出して、

そのまま固まって陣を組んでいる五人のライダーたちを取り囲むように動いた。

 

次第に視界が異形達によって埋め尽くされていく嫌悪感に、仮面の下で苦い顔をする

パンチホッパーとクウガだったが、それでも戦士たちは既に己に覚悟を決めていた。

 

 

【…………ディケイド】

 

「あぁ、分かってる。次で決めるぜ」

 

 

カブトにライドしているディケイドに、巨大なカブトゼクターが語り掛ける。

その声に応じたディケイドは左手に持つ最後の一枚もバックルへと装填し、発動させた。

 

 

【FINAL ATTACK RIDE KA,KA,KA,KABUTO!】

 

 

最終攻撃(ファイナルアタック)を予告する電子音声がバックルから響き、カブトの戦士の紋章(ライダークレスト)が浮かび上がる。

そのアナウンスに導かれるようにして巨大カブトゼクターが動き出し、分厚い壁を突き抜けた。

突然カブトゼクターがいなくなったことに戸惑いながらも、深緑の異形達は戦士に飛びかかる。

全方位からローカストワームが放つ同時攻撃。それは中心部にいる四人の戦士を葬り去る。

 

 

____________はずだった。

 

 

突如彼らが飛びかかっていった後方の地下から、とてつもない衝撃が襲い掛かって来た。

その衝撃の余波や同時に吹き飛んできた瓦礫片などが、無防備な姿を晒す深緑の群体にも

降りかかり、大きく体勢を崩させた。

何が起こったのかを知るためにローカストワームは歪な複眼を自らの後方へ向ける。

するとそこにいたのは、地面を掘削して工場の地下から這い出てきたカブトゼクターだった。

奴は一度工場の外へ飛び出してそこから地下へと潜行。そこから弧を描くように突き進んで

自分たちの背後へと回って地面を突き上げることで邪魔をしたのだと全個体が推測した。

 

しかしそのわずかな推考の時間が、彼らに必殺の(いとま)を与えることになってしまった。

 

 

【Rider Jump!】

 

【One,Two,Three!】

 

「はぁぁ……………はっ!」

 

飛び散った瓦礫片が一つたりとも当たっていない(・・・・・・・・・・・・・)ライダーたちが、それぞれ必殺の構えを取る。

パンチホッパーはマウントしたゼクターのバッタの脚を模したレバーを左へ押し倒し、

超圧縮されたタキオン粒子を三回ほど連続で右足へと収束させて脚力を引き上げる。

ガタックはゼクターのフルスロットルボタンを三回連続で押してリミッターを解除して、

クワガタが閉ざした顎のようになっているレバーを左へ倒し、粒子を高速収束させる。

そしてクウガは腰を落としてから両手を開き、落とした腰と同じ場所までその手を下げて

右足へと霊石アマダムが生成する超古代の封印エネルギーを流し込み、解放の時を待つ。

 

そしてカブトゼクターがローカストワームをまとめて吹き飛ばした瞬間、

ディケイドは彼らに背を向けた状態で光が差し込む工場の天井を見つめていた。

 

ほんのわずかな時間がまるでクロックアップの時間軸のようにゆっくりと動き、

それはライダーたちが己の渾身の一撃を叩き込む寸前になった瞬間、元に戻った。

 

 

「ライダーパンチ‼」

【Rider Punch!】

 

「ライダーキック‼」

 

【Rider Kick!】

 

「おりゃあぁぁぁああ‼」

 

 

三人の戦士が高らかに叫び、一つの拳と二つの蹴りが深緑の群体へと突き出された。

バチバチと放電するようなエネルギーの余波が周囲の空間に悲鳴を上げさせながら

それぞれの標的へと突き刺さり、内包された力によって対象を完全に粉砕する。

 

パンチホッパーは超強化された脚力で崩れかけの天井すれすれまで飛び上がってから

右に倒したレバーを右へ引き戻しつつ右拳を引き、敵の密集地へ向けて振り下ろした。

即座に右腕に装着されたアンカージャッキが作動し、追加の衝撃波が万物を穿つ。

ガタックは左へ倒したレバーを再び右に押し戻してタキオン粒子を圧縮開放して

その場で跳躍。右足を鞭のようにしならせて横薙ぎに放つキックで敵を爆散させる。

クウガは封印エネルギーを溜めた右足をそのまま前方へ突き出し、力を解放する。

いずれの攻撃も全て深緑の異形達に着弾し、その全てを例外なく緑の炎へと変えた。

 

無数ほどにいた同一個体のほとんどを失い、その光景を目の当たりにした残りの

ローカストワーム数体は自分たちの威厳も何もかもをかなぐり捨て逃走を図ろうとする。

しかしそんな彼らを嘲笑うかのように、巨大カブトゼクターが残った異形達を

まとめてその角で突き飛ばした。そしてその先に待つのは、虚空を見上げた一人の戦士。

 

『ッ‼ 死ね、異世界のライダー‼』

 

 

突き飛ばされた勢いを逆に利用して、背を向けたまま天井を見上げるディケイドに

攻撃を加えようとするローカストワーム。同じく突き飛ばされた同胞もそれに続く。

四体ほど残っていた彼らはバラバラのタイミングながらも、多方向からの攻撃を加える

ことができればディケイドを倒せるはずだと能力で意思疎通させ、連携してかかった。

そのまま吹き飛ばされて二秒足らず。あと数センチで敵の背に致命的な一撃を与えられる。

そう確信して疑わずにいた彼らだったが、この時この異形達はあることを忘れていた。

 

 

それは____________この世界のカブトが最も多用した、回し蹴り(ライダーキック)の構え。

 

 

醜い深緑色の異形と化した三島がその事に気付いた時には、もう全てが遅かった。

それまで背後を見せていたカブトの姿をしたディケイド、その左足が向きを変えた。

そこから先はまさに神速。左足の向きを変えるのと同時に体もグルリと向きを変え、

飛びかかってくる四体の同一個体全員をその視界、及び攻撃の射程範囲内に捉える。

体の向きを変えた勢いを殺さずに右足を流れるような動作で振り上げ、空を薙ぐ。

彼が繰り出したのは、一点の曇りも無い完璧な回し蹴りだった。

 

 

「やあぁぁぁあああ‼」

 

 

カブトにライドした影響で超圧縮されたタキオン粒子をまとわせてのライダーキックは、

飛来してくる四体の異形の肉体を完璧に捉えて放たれ、その全てに着弾させていた。

必殺の一撃をその身に受けたローカストワームは断末魔すら上げる間もなく爆散し、

ワーム特有の緑色の炎を噴き上げて塵も残さずこの世から抹消された。

 

「…………………」

 

 

ライダーキックを炸裂させたディケイドはすぐに元のマゼンタカラーの姿に戻り、

旋回していた巨大カブトゼクターも彼の横に舞い降りて元のカブトへと戻った。

ディケイドはいつものように付着した埃を両手で払うようにパンパンと打ち鳴らし、

カブトは左手を腰に据えて右手の人差し指を伸ばしつつ頭上に掲げ、虚空を見上げる。

 

 

こうして彼らの、生きとし生ける全生命を守る男の戦いは、終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ディケイド達が無数のローカストワームとの死闘を終えてから、数分。

 

 

『はぁ………はぁ……………クソ‼』

 

 

巨大なカブトゼクターになったカブトが地下から突き上げた勢いで生じた瓦礫片に、

運良く埋もれてライダーたちの攻撃から辛くも生き延びたローカストワームがいた。

彼はその場で息を殺してライダーが帰って行くのを待ってから動き出したのだ。

 

瓦礫をどかしつつ立ち上がり、自分の肉体が受けたダメージを再確認する。

 

 

『………左腕と左翅が二枚ともやられたか、クソ‼』

 

 

彼が忌々し気に吐き捨てた通り、深緑の異形の左腕は肘から先が千切れて無くなっていて、

背部にあるはずの翅も左側は見るも無残な状態になってしまっていた。

こんな身体にさせられた原因を頭に思い浮かべつつ、自分が今すべきことを考える。

 

 

『とにかくまずは、力を取り戻すことが先決か。肉体の回復は望めないが、

同胞をまた生み出して数を揃えればどうとでもなる。まずは、そこからだな』

 

 

自分自身が再生することは望めないが、無傷の同一個体を作れば問題無い。

彼らは全個体が意識と目的を共有しているが故の思考であり、結論なのだった。

一度乗っ取ったZECT本部にある隠れ家へ帰投して時間を掛けて計画を立て直そうと

目論むローカストワームこと三島だったが、彼の足はある場所へと向かっていた。

 

瓦礫の山と化した廃工場跡地を幽鬼の如く歩いて数分後、目的地へと辿り着く。

そこにあったのは、数時間前に完成目前となった『彼らの切り札』だった。

 

『……………よし、これならまだ直せる。まだ夢は潰えていない!』

 

 

装置が破損していないかを確認し、大した事がないと知って三島の顔がほころぶ。

 

 

『今度こそ、今度こそ四年前に! そして私はネイティブもワームも、人をも支配する‼』

 

 

無人の廃工場跡地である瓦礫の残骸の中で、ローカストワームが独り笑い出す。

狂ったように、壊れたように笑い続ける彼だったが、ふとその笑い声が止んだ。

彼の背後から何者かが近づいてくる足音を、ワームの聴覚で拾ったからだ。

 

 

『誰だ‼』

 

 

もしやライダーが戻って来たのか、と内心で焦りつつも三島は振り返りつつ叫ぶ。

彼が振り返った先に現れたのは、くたびれた衣装と傷で汚れた矢車だった。

人類を裏切って自分の下についた人間であると知れた瞬間、三島は安堵の域を漏らす。

するとそれまでの緊張の糸が解けたのか、次第に苛立ちが彼の心に押し寄せてきた。

 

 

『貴様が無能なおかげでこのざまだ! これだから人間は嫌になる』

 

「…………………ああ、まったくだ」

 

 

嫌味を盛り込んだ三島の言葉を、どういうわけか矢車は一呼吸置いて同意した。

彼の言葉に妙な違和感を覚えた三島は、ふらついている彼をもう一度よく見る。

矢車の姿に不自然なところは見られない。敵にやられて傷や服の汚れが目立っては

いるものの、それくらいなら別段大したことは無い。

ただの思い過ごしかと気も揉んだ三島は、視線を矢車から逸らした。

 

 

【Henshin!】

 

 

その直後に、三島の背後から聞き覚えのある電子音声が流れた。

カブトやガタックよりも数段高めのこの音声は、つい先ほど聞いたばかりなのだから。

二つの意味で驚愕した三島が振り返った先に居たのは、もう矢車ではなかった。

 

バッタを後ろから見たようなフォルムの鋭角的な頭部に、両側頭部の脚型アンテナ。

カブトやガタックらとは明らかに異なる形状のマスクで、矢車の顔は覆われていた。

胴体には巨大なXを思わせるラインが奔り、両肩部には刺々しい外見の防具が装着され、

その左足にはまさしくバッタの後ろ脚の如き巨大なアンカージャッキが備わっていた。

 

かつて栄光の道を思うがままに往き、そこから突き落とされた哀れな敗者だったこの姿。

そしてそれは今も変わることなく、わずかに深みのある緑の鎧のくすみがそれを物語る。

そんな彼の、人間の憎悪や憤怒を凝縮させて業火にくべたような赤濁の双眸は変わらない。

闇を強要されて歪み淀んだその瞳は、己を含めた全てを嘲笑うかのように不気味に輝く。

地獄の底を歩み続ける日陰者の兄、【仮面ライダーキックホッパー】がそこにいた。

 

 

『………何を、してる……………?』

 

「…………ハァ、何をしてるんだろうな、俺は」

 

 

いきなり自身を仮面の戦士へと変化させた事について三島が尋ねたものの、

矢車はその質問に対する答えとは呼べない返答を口にして大きくため息をついた。

目の前の人間の行動の意図が理解できず、先程から湧き続ける苛立ちも相まって声を荒げる。

 

『答えになっていないぞ矢車………答えろ‼』

 

「………正直なところ、俺は今自分が何をしてるのかさえ分からん」

 

『何だと………?』

 

「………ただ、俺はさっきのアンタらの戦いを見て、気付いた」

 

 

変身した矢車、キックホッパーが両手をだらだらと揺らしながら静かに歩み寄り、

今まで感じた事の無い感覚が三島の異形となった背を泡立たせて、悪寒を味合わせる。

ゆっくりと迫るキックホッパーに反比例するように、少しずつ三島は後ろへ後退するが、

すぐ後ろには彼の切り札たるネイティブを部品とするタイムマシンが鎮座していた。

千切れた翅と外骨格に覆われた背中で、無機質で冷たい機械の存在を確かめる。

するとキックホッパーが突然左足を振り上げて三島、ローカストワームに突きだした。

 

『うっ、ぐぅ…………き、貴様ぁ!』

 

「………田所さんが変身したんだと頭では理解できていても、それでも」

 

【Rider Jump!】

 

「………俺にはアイツ(パンチホッパー) が、相棒に見えたんだよ」

 

背後には巨大な装置があるために身動きが取れないローカストワームを左足で

押さえつけるようにして、キックホッパーはゼクターのレバーを右へ引き倒した。

機械的なアナウンスがゼクター内のタキオン粒子を超圧縮して左足へと転送し始めた

ことを二人に知らしめ、キックホッパーの左足に粒子が次々に転送されていく。

この工程が何を意味するのかを知っているローカストワームは必死に抵抗するものの、

傷だらけだったとは思えないほどの脚力で押さえつけられ、逃れることができない。

どうにか脱出しようと試みている彼を余所に、キックホッパーは細々と語り続ける。

 

 

「………コイツ(ホッパーゼクター)が現れた時、相棒の声が聞こえた気がした。

前と変わらずこっちがうるさく感じるくらいの声で、『戦ってくれよ、兄貴』ってな」

 

『ぐっ、く、そぉ……!』

 

「………そしてあの場に行ってみれば、本当に相棒が戦ってた。

相棒とは違うとすぐに気付いたが、どうしても目に焼き付いて離れなかった」

 

『何を、する気だ! 放せ矢車ぁ‼』

 

「………光の差す道を歩いてる奴らと一緒になって戦ってる姿を見て、確信した。

アレは相棒じゃないと。だがそれでも、相棒の姿は光の中で眩しく輝いていた」

 

 

キックホッパーが語り続ける間もローカストワームは必死の抵抗を続けるが、

粒子が転送される度に強化されていく脚力に敵うことは無く再び押し戻されていく。

そうしている内に左足にタキオン粒子が最大まで充填され、解放の合図を送り出した。

両者の間で機械的に流れ続ける音が、さながら処刑のカウントダウンとなっていた。

 

いつ解放されてもおかしくない状況の中で、キックホッパーは小さく笑った。

 

 

「………おかしいよなぁ、あんな相棒の姿を見て、俺も思い出していた。

光の中で懸命に輝いていた頃の自分の姿をなぁ。だから、俺は決めた」

 

『いいからこの足をどかせ、矢車‼』

 

「………もう一度光を掴む。今度はまた闇に戻るなんて甘えたことは言わねぇ。

二度とどこにも戻らない、光が照らす道を歩むために俺も、相棒と共に戦う‼」

 

『ふざ、けるなぁ‼』

 

 

自嘲気味に低く笑いながら、彼はローカストワームに漆黒の決意を告げる。

キックホッパーが何を企んでいるのかを悟り、逃れようと最後の力を振り絞った。

しかし、ローカストワームの生への執着は、彼の決意には届かなかった。

 

 

「_________ライダー、キック」

 

【Rider Kick!】

 

 

キックホッパーは右手でレバーを左側へ押し戻し、圧縮された粒子を解放させた。

瞬間彼の左足に押さえつけられていたローカストワームに怒涛の如き衝撃が押し寄せ、

その余波で彼の背後にある巨大な装置の数か所に大きな亀裂が生じる。

 

『おのれぇ…………許さんぞ、矢車ァァア‼‼』

 

 

既に異形の肉体のあちこちから緑色の炎が噴き出始めているローカストワームだが、

それでもどうにか装置への被害を減らそうと必死でキックホッパーにしがみつく。

すさまじい怨嗟の念を含んだ怒号がキックホッパーに向けられるが、彼は無言のまま

しがみつかれた左足をわずかに屈伸させて、渾身の力を込めて再び左足を伸ばした。

その瞬間、彼の左足に装着されているアンカージャッキが作動し、蓄えられていた

超圧縮タキオン粒子を追加で左足先へと送り出し、解放の衝撃を炸裂させた。

 

 

「…………あばよ」

 

『矢車ァァアアァアアア‼‼』

 

 

アンカージャッキによる衝撃とエネルギーの解放による爆裂の閃光が二人の間で

巻き起こり、緑色の炎と断末魔が入り混じった大爆発が瓦礫の山を吹き飛ばす。

キックホッパーが繰り出した一撃と途方もないエネルギーの余波を浴びて、

生き残ったローカストワームの背後にあったタイムマシンも粉々になっていた。

叩き込んだ一撃に己の全てを賭けていた結果、キックホッパーの装甲は大爆発の威力に

耐えきる事が出来ずに自壊し、爆炎の中で矢車は強制的に変身が解除されてしまった。

スーツで守られていたために感知していなかった爆風や熱気が一気に彼の身体を襲う。

髪は即座に燃え上がり始め、戦闘で汗ばんだ皮膚は爆炎で完全に焼けただれていた。

目も明けることができないほどの閃光で一切を知覚できず、痛覚だけが突き刺さる。

しかし彼の肉体もまた既に限界を迎えていたため、想像を絶する痛みに狂い悶えることは

なく、ただ冷静に自分に迫る死を実感することが出来た。

 

 

(最後の最後で俺はやはり、羨んでいたのか……………光の差す世界に)

 

 

朦朧となりつつある意識の中で、矢車は最後に自分の生き方を曲げたことを悔やむ。

けれどその悔恨の念はほんの一瞬で過ぎ去り、代わりに別の感情が芽生えてきた。

 

 

(あぁ、相棒…………これでようやくお前の傍にいってやれる)

 

 

矢車の消えかかる脳裏に浮かんできたのは、共に地獄を歩んだ弟を殺したあの日の記憶。

何もしてやる事が出来ず、ただ彼の覚悟を無下にはすまいと心を殺して彼の命を奪い、

冷たくなり果てた弟の亡骸を抱きしめ、「永遠に一緒だ」と誓った四年前の自分の姿を。

 

結局俺は、何の為に生きてきたのだろうか。

 

 

(………もう何も分からねぇ。今となっては、何もかも)

 

 

もはや全身の感覚も感じられなくなった矢車が最後に思うのは、彼の事だった。

 

 

(相棒………笑ってくれ。最期にみっともなく光を求めた俺を、笑ってくれ…………)

 

 

少しずつ自分が無くなっていくような感覚に見舞われる中、矢車は、笑った。

 

(こんな俺でも、相棒…………また一緒に地獄に墜ちてくれるか…………?)

 

 

何もかもが失われていき、爆発が収まり出した時、矢車の意識は懇願と共に消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『____________兄貴となら、どこまでも』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

懐かしい誰かの声が、矢車の最期の意識に、届いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

___________ローカストワーム撃破から二日後。

 

激闘の中で受けた傷を癒すという名目で光 写真館へと集まった士たちはそのまま

共に戦ったこの世界での戦友たちと交友を深め、楽しい一時を笑顔で過ごした。

ローカストワームを倒してからしばらく経った後であの戦った場所で原因不明の大爆発が

起こったと、後からやって来た岬によって知らされ、天道は少し哀しげな顔をしたが、

それでも戦いを生き抜いたことを無事に戻って来たアゲハや優未恵と喜び合った。

栄次郎特製のスウィーツの数々に弓子や同席したゴン、意識を取り戻した風間たちも

舌鼓を打ち、ついには加賀美やひよりまでもがその味に感動したと絶賛した為に、

天道が栄次郎に対してスウィーツ料理対決を申し込んだりと、一波乱あったりした。

 

しかし士たちは世界を巡る旅の途中、別れは必然だった。

 

 

「しっかし、楽しかったな~!」

 

「ホントですね。士君もそう思いませんか?」

 

「ああ、割とな」

 

「そんな事言って~、ホントは満喫してたんじゃないのか~?」

 

「うるさい。お前は本当に口が減らないなユウスケ」

 

「だってホントの事じゃんか」

 

 

天道達に別れを告げた後、パーティーのような時間を思い出しているユウスケと夏海は

残った皿の片付けや台所で洗い物に勤しむ栄次郎を気遣うことなく余韻に浸っていた。

そんな二人の不抜けた顔を持ち前のマゼンタカラーのカメラで断りも無く撮影し、

またしてもピンボケとなってしまったためにユウスケの緩んだ顔に押し付けた。

 

 

「おわっ⁉ いきなり何すんだ士!」

 

「思いがけない最高の一枚が取れたからな、くれてやる」

 

「おっ? どれどれ…………っていつものピンボケじゃないか」

 

期待して損した、とピンボケ写真を士専用写真入れという名札が張られたかごの中へ

投げ入れたユウスケは、再び先程のように緩みきった顔で余韻に浸りなおしていた。

 

 

「………ったく、どいつもこいつも」

 

 

何をしても反応しない二人に見飽きた士は、台所にいる栄次郎に食後のコーヒーを

淹れるように注文し、頼んだものが来るまでの間にカメラの手入れをし始める。

しばらくして洗い物を片付けた栄次郎が三人分のコーヒーカップを持ってやって来たが、

明らかに手伝いもせずにサボっている士たちを目撃して分かりやすく怒り出した。

 

 

「もう! 僕が一生懸命洗い物したりコーヒー淹れたりしてたのに!」

 

「ごめんなさいおじいちゃん。でもなんかあんな楽しいこと久々で~」

 

「そ~そ~。な~んか思い出すだけで楽しくなってきちゃって~」

 

「…………俺は違うぞ爺さん。俺はカメラの手入れで忙しかっただけだ」

 

 

悪びれることなく語る三人に怒った栄次郎はテーブルにカップを音を立てて置き、

年老いた老人がするには似合わない歩き方で台所へと戻ろうとしたその時だった。

 

 

「あらっ⁉」

 

片付け忘れていたらしい紙皿に足を乗せてしまい、滑って転びそうになる。

慌てた栄次郎は何かに捕まろうと手を振り回し、とっさに掴んだものを引っ張った。

 

 

「ふぅ………危なかったよ。まったく、夏海も士君も片付けしてくれないからだよ!」

 

 

危うく転ぶところだったとなおも怒る栄次郎だったが、誰一人何も言わない。

流石に今度は本気で怒ろうと顔を上げたのだが、三人は栄次郎を見ていなかった。

彼らが揃って見つめていたのは、栄次郎の前にいつの間にか降りていた背景(バック)フィルムだった。

ディケイドが世界を巡る旅に出る時、最初に変化するのはこの背景フィルムだと

いう謎の法則を思い出した栄次郎は、次がどんな世界なのか気になって起き上がり、

見やすいように士の横に足早に移動して正面からフィルムを見つめた。

 

そこに映っていたのは、今まで見たことも無い絵だった。

 

 

絵の大半を占めているのは、沢山の風車が描かれた炎上している街並み。

そしてその街並みの一番奥、絵の中央部にあるのは、巨大な風車のようなタワーらしき建造物。

それらが絵の上半分に描かれているのだが、肝心な部分は下半分に描かれていた。

 

左側が黒く、右側が緑色にきれいに分かれている仮面の戦士と、

輝くような碧いコンパウンドアイを持つ、タイヤを背負った紅蓮の戦士が、

炎上している街並みを呆然と膝を折るようにして見つめている。

そしてその戦士たちの眼前には、全身が白で黒いマントをはためかせた戦士が立っていた。

 

 

「士、これって……………」

 

「士君……………この世界は?」

 

 

椅子に座って呆けていたユウスケと夏海も立ち上がってフィルムを凝視している。

呟くようにして紡がれた言葉は士の耳には届いたが、彼は答えることができなかった。

 

 

 







いかがだったでしょうか?(憔悴)
こんなところでPCの限界にチャレンジすることになるとは…………。

とにかく、これでカブトの世界は完結となります‼
長かった! 本当に長かった! そしてマジで長かった‼
そして気付いてしまいました。

あとこんなのがドライブ、ゴーストを含めて15もあるんやで?
泣きたくなってきました。でも我慢します。男の子だもん。


加えて前々回ほど前の感想でいただいた、
『仮面ライダーアマゾンズの世界は出るのか』という質問ですが、
一緒に脚本を手がけている友人と協議した結果、OKがでました!
少し短めですが、アマゾンズの世界は入れることになりました‼


さて、いよいよ新たな世界に突入します!
勘の良い方はお気付きでしょう! 次なる世界をお楽しみに‼


次回、Ep,24『Wの世界 / 破壊者の来訪』


ご意見ご感想、並びに批評も受け付けております!

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