仮面ライダーディケイド ~The Darkness History~   作:萃夢想天

23 / 41



どうも、お久しぶりの萃夢想天です。

前回は思い付きで私の大好きなネクロムさんを登場させましたが、
まさかその次の週でたこ焼きをほお張りながら戦いなさるとは…………(脱帽
完全にイメージ崩れましたよ。背景に大阪通天閣が浮かんできました。

そんなことはどうでもいいので、本編に移りましょう!
予定ではあと二話ほどでカブトの世界もいよいよ完結となるかもなので、
皆様どうか応援のほどよろしくおねがいいたしますです。


それでは、どうぞ!





Ep,20『SUNRISE ~俺が正義だ~』

 

 

 

_________太陽。

 

 

それは、数ある天体の中でも最上位に位置するほどの光陵と熱量を宿した星。

それは、無数の命が生まれ生きる地球という星を常に照らし続ける不滅の星。

 

それは、人類程度の生命体では触れるどころか接近すらも許されない強き星。

 

 

そして太陽とは、決して変わることなく数多の命の上で輝き続ける孤独な星。

 

 

かつては地球外生命体ことワームに対する人類側の兵器を生産していたはずの建物の地下で

無数に蠢く深く醜い緑色の怪物の群れの頭上にも、尊く綻びえぬ光が問答無用で差し込んだ。

 

『なっ⁉』

 

『うっ、ぐおぉ!』

 

それまで人工的に造られた微小な照明の中で動いていたローカストワーム達は突然

自分たちの頭上から無遠慮に視界に押し入って来た強い光に充てられて眼を閉じて防ぎ、

ほんのわずかな間だったが、自分たちの領域に他者を踏み込ませるという愚を犯した。

統率された翅音以外の雑音が彼らの人間以上の聴覚が捉えて標的の位置を把握し、

途切れた視力が回復してからすぐさまその音が止んだ地点に同一個体が同時に目を向ける。

その場所にいたのは、彼らが、彼らが擬態した男が最も恨んだ男だった。

『貴様ッ…………どうやってここまで‼』

「三島か、どうやら普通のワームとは少し違う仕組みらしいな」

 

『質問に答えろ!』

 

「アゲハ、優未恵を頼んだぞ」

 

「は、ハイ!」

 

『カブトォォ‼』

 

「………相変わらず自分のことしか考えん奴だな。そこは今も昔も変わってない。

いや、ワームだからこそ変えることも考えずにそんなところまで擬態したんだろう」

 

『殺す‼』

 

「やってみろ、と言っても不可能だがな」

 

 

数えることすら億劫になるであろう数のローカストワームの群体が一斉に殺気をばら撒き、

頭上で天に人差し指をかざすポーズをとり続けている男________天道に飛びかかっていく。

 

最も近くにいた二体のローカストワームが肉体構造の特性を駆使した尋常ならざる跳躍で

一秒すらかけず、二階のキャットウォークで佇む隙だらけの天道に攻撃を仕掛ける。

 

『がぁッ‼』

 

『なっ! うっ、ぐぅ‼』

 

 

ところがその二体は立て続けにその体から火花を散らし始め、空中でもんどりうって

跳躍をした元の場所へと落下していった。その不可解な動きを目撃した他の同一個体は

湧き上がった殺気をほんの少しだけ抑え、今何が起こったのかを確認すべく周囲を見渡す。

そしてローカストワーム達は聴覚同様に発達した視覚で、天道の後ろに立つ人影を捉えた。

人影は靴音を規則正しく鳴らしながらゆっくり歩き出し、その姿を白日の下に晒す。

現れた人物を完全に目視したローカストワームは皆一様に驚愕し、そのうちの一体が叫ぶ。

 

 

『貴様は____________田所‼』

 

 

ローカストワームの叫んだ名前が室内で反響し、やがて収束して静寂に包まれる。

その静寂の中を、手にした小銃から薄い煙を立ち昇らせている男が天道の横に歩み寄り、

百数体はいるであろう怪物の軍勢の前ですら震え一つ起こさない屈強な精神を見せつける。

ワックスで黒髪をオールバックに固めたいぶし銀な風潮の男、田所は呟く。

 

「ああそうだ、久しぶりだな三島さん。いや、初めましての方が合ってるか」

 

『何故貴様がここに! いや、何故貴様がカブトと共にここにいる⁉』

 

「………俺は人類の平和と安寧を守るためにワームと戦うZECTの兵士だ、他に理由がいるか?」

 

『ふざけるな‼ ネイティブ風情が何をほざくか‼』

 

『貴様も我々と同じ、人類を脅かす側の存在だろう!』

 

「一緒にしてもらっちゃ困るな、三島さん。俺はアンタと違って美味いモンを美味いって

感じて言葉に出来るんだ。人が作る感動を分かち合いたいと思える、だから俺は人間だ」

 

 

銀色に輝くフレームの小型の銃に弾を補填しながら、田所は確固とした意志を見せつける。

同じ人外の存在である田所の言葉に激昂した三島は全ての個体に意思を疎通させて再び

統一された殺気を各個体が同時に展開し、共鳴し合い、殺意の奔流を生み出す。

 

『戯れ言をォォォ‼』

 

「…………戦うしかないわけか。天道、覚悟は出来てるぞ」

 

「よく言った。それで、アレはちゃんと見つけられたのか?」

 

「……………いくら俺が元ZECTだからといっても何でも出来るってわけじゃ」

 

「見つけられたのか? 是か非かで答えろ、どちらでも構わん」

 

「………人使いの荒い男だな君も。ちゃんと見つけたさ! だがアレをどうする気だ?」

 

『無駄話はそこまでだ‼』

 

『カブトもろとも、死ね田所ォ‼』

 

『貴様は殺して我らが希望の部品に組み込んでやる! ありがたく思え!』

 

「くそっ、使い道は後で聞こう! 来るぞ天道!」

 

「ああ、行くぞ田所」

 

 

二人は小声で何かを確認し合おうとしたものの、抑えようともされない強烈な殺意を

浴びせられて瞬時に戦闘準備に移行し、互いが互いの背を守るように居場所を変える。

徐々に肥大化していく翅音が近付く中で、田所と天道は同時に深緑の濁流へ対峙した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時はほんの少し前、十五分ほど過去に遡る。

 

天道は士とユウスケ、加賀美の三人を連れて情報を提供してくれた仲間の送って

きたデータに従って一路、ZECTのワーム対策兵器生産工場跡地へと向かっていた。

四人はそれぞれが持つ専用のバイクを最大全速にまで到達させて急いでいたのだが、

その前に四体のローカストワームとサナギ体のワームが数十体ほど群れを成して現れ、

行く手を遮る壁のように陣形を組んだため、四人はブレーキをかけて足止めを余儀なくされた。

目的地である工場跡地までの道のりは長く、こうしている間にも誘拐された二人の身には

何が起きているのか見当もつかない。仕方なく士と天道は群がるワームを一掃すべく自身の

ベルトを腰に装着して変身するための工程を開始しようとしたが、それを加賀美が止めた。

 

 

「天道、お前は行け」

 

「……………どういうつもりだ?」

 

「ここは俺が引き受ける。だからお前はすぐにアゲハさんと優未恵ちゃんを助けに行け」

 

「全員でぶっ潰せばすぐに終わるだろ」

 

「異世界から来たアンタ達には悪いけど、これは俺と天道の問題なんだ。

おい天道、今お前が一番しなきゃいけないことくらい分かってるはずだよな?」

 

「…………………ああ」

 

「それならいい。さぁ、早く行け!」

 

「分かった」

 

「おいカブト、コイツ一人で本当にやらせる気か?」

 

 

不気味な緑色の群れがじわじわと近付いてくる中、天道と加賀美は視線を交錯させる。

たった一瞬の間だったが、幾つもの死線を共に潜り抜けてきた二人にとっては充分過ぎた。

天道はバイクのエンジンを吹かしていつでも飛び出せるように発進準備を整えるが、

二人の息の合った行動についていけない士とユウスケはどうするべきかを考えあぐねる。

するとユウスケは何かを決心したように顔を引き締め、乗っていたバイクから降りて

既にヘルメットを外して腰にベルトを巻いていた加賀美の横に立ち、自らの決意を告げる。

 

「俺も一緒に残ります。加賀美さん、一緒に戦いましょう」

 

「ユウスケ君…………」

 

「多分ですけど、天道さんの戦いについていけるのは士だけだと思うんです。

だから士、お前は二人でアゲハさん達を助けに行くんだ!」

 

「ユウスケ、お前……………」

 

「心配しなくても大丈夫、俺なりの作戦も考えてあるしさ!」

 

 

そう言ってユウスケは士にとって最早見慣れたサムズアップを突き出して微笑む。

天道は依然バイクに乗ったまま動かず、ただ首だけを縦に動かして頷いた。

ユウスケの底抜けた明るさを垣間見た士は軽く笑い、自身もバイクのエンジンを吹かす。

士は知っていた。ユウスケがこうした時はいつでも、任せても大丈夫な時だと。

 

天道と加賀美、士とユウスケはそれぞれ互いが最も信頼する友の決意を受け取って

それぞれが今成すべきことをするために、しなければならないことのために動いた。

四人の行動を観察していたローカストワームが頃合いを見計らってサナギ体に命令を下し、

深緑色の濁流を一気にけしかけて一人残らず抹殺せんが為に攻撃に転じる。

お互い二人一組となった士たちは、ほぼ同時に動き出し、未来のために駆け出した。

 

士と天道の二人は最高速度に達したバイクで軍勢の両脇をかすめるようにすり抜け、

残った加賀美とユウスケもまた先行した二人の後を追わせないために戦闘を開始する。

 

 

「巻き込んで済まないが、一緒に戦おう! ユウスケ君‼」

 

「俺の事はユウスケでいいですよ、加賀美さん!」

 

「なら俺の事も加賀美でいい‼ 行くぞユウスケ‼」

 

「ハイ!」

 

 

迫り来る深緑の波を前に、二人の男は息を合わせるように腰のベルトに手を添え、

ユウスケは何度繰り返したかも分からぬほどに洗練された動きで変身の工程を終え、

加賀美もまた変身に必要なガタックゼクターを呼び出して右手に握りしめていた。

二人は雄叫びを上げながら同時に力み、互いの決意の炎を燃え上がらせて叫ぶ。

 

 

「「変身‼‼」」

 

【Henshin!】

 

「キャストオフ‼」

 

【Cast off! Change Stagbeetle!】

 

ユウスケは走りながら自身の内部に埋め込まれた『クウガのベルト』を呼び起こし、

その中心部である"霊石 アマダム"の超常的な秘めたる力を開放することで全身の

細胞を瞬時に分解、再構築し、戦士クウガの完全無欠な肉体へとその姿を変貌させた。

一方の加賀美も右手のガタックゼクターをベルトに装填して瞬時に鎧を形成させて、

さらにバックルと化したゼクターの顎部分にあたるレバーを左から右へと引くことで

全身に装着された重厚な鎧を電磁力によって強制的に分離させ、本来の姿を露わにした。

襲い来る怪物の荒波の前に、二人の仮面の戦士が立ち塞がる。

 

 

「おっしゃあぁ‼」

 

「おりゃあぁ‼」

 

突撃してきた複数のサナギ体の長い鉤爪による攻撃を受け、流し、防いでは避けるなど

無力化して隙を見つけ次第パンチやキックなどを叩き込んでけん制する徒手空拳のクウガ。

それに対しキャストオフして軽装備になったガタックはマスクドフォーム時に両肩に装着

していた二門の砲台の下に格納されていた二振りの曲刀、ガタックカリバーを握りしめて

接近してくるワームを容赦なく斬りつけては蹴り飛ばし、蹴っては斬り捨てるといった

勇猛果敢な戦闘スタイルで四方から攻めてくる全てのワームに対応している。

二人のライダーの烈火の如き闘争心はさほど時間をかけずに全てのサナギ体を打ち倒し、

その亡骸から緑色の炎を噴き上げさせて爆裂させた。しかし、まだ終わったわけではない。

 

 

『戦いの神 ガタック、流石は選ばれし者と言うだけはあるか』

 

『だがいくら兵器が優れていても、それを使う者が無能では意味は無い‼』

 

『サナギ体程度を倒したからといって図に乗るな』

 

『加賀美 陸の遺産! ここで死ね‼』

 

「気をつけろユウスケ、来るぞ‼」

 

「分かってる、こうすれば問題ない‼ 超変身‼」

 

 

全ての手下を倒された四体のローカストワーム達が一斉に飛びかかってくる中で、

ユウスケはその右手にある物を取り出して腰の左側にあるボタンを押し込んで叫ぶ。

彼の呼び声に応じたベルトが彼の肉体を再び変化させ、赤い鎧から緑の鎧に変わった。

唐突に姿を変えたクウガにローカストワーム達は驚いて一旦距離を置いたのだが、

それよりも驚愕に目を見開いていたのは隣にいたガタックであった。

 

というのも、ガタックはクウガの姿よりも彼が持っている物に驚いていた。

 

 

「おま、それ、俺の拳銃じゃないか‼」

 

「済みません! あのお店を出る前に士に言われたことを思い出して自分なりにワームと

戦える方法が無いか色々と考えたんですけど、やっぱりこれしか思いつかなくて!」

 

「だからって何で俺の拳銃を盗んだんだよ!」

 

クウガが右手に握りしめていた物。それは、加賀美が警察官として所持していた拳銃。

本職が警察官である加賀美は当然所持しているのだが、一体ユウスケはいつの間に

彼から拳銃を盗み取ったのだろうか。疑問は尽きないが何より分からないのは、その理由。

ガタックである加賀美は知る由も無い、緑色になったクウガが持つ特殊な能力の事を。

 

 

「それは…………まあ見ててください! 俺の、作戦を‼」

 

「お前…………この非常時じゃなかったら窃盗容疑で現行犯逮捕だからな」

 

「それは勘弁してもらいたいですね、俺まだまだやりたいことあるし」

 

「へぇ、何したいんだ?」

 

「とりあえずは、士や夏海ちゃんたちと世界を巡る旅ですかね‼」

 

明るく、混沌とした戦場でありながらもなおも底抜けに明るいユウスケから何かを

感じ取ったガタックは彼の持つ可能性に賭けてみようと考え、自身の敵だけを見据える。

姿が変化しただけで何もしてこないクウガへの警戒心を一段階下げて二人を囲むように

陣形を組んだローカストワーム達は今にでも飛びかからんと機会をうかがっている。

迎え撃つようにガタックとクウガもまた臨戦態勢に入るが、クウガは右手に持つ拳銃を

自身の姿を変えたように変化させてクウガ専用の射撃武器であるペガサスボウを生成し、

いつでも標的を撃ち抜けるように銃口を深緑の敵に向けて構える。

 

 

「さぁ、来い‼」

 

 

クウガの掛け声を皮切りに、新たな戦いの火蓋は切って落とされた。

 

先制を取ったのは無論、四体のローカストワーム達の方だった。

四体は同時にクロックアップを発動し、クウガとガタックのいる時間軸とは異なる速度の

時間軸に突入し、目では到底負えない速度で移動しながら二人に攻撃を仕掛け始める。

一体がガタックに殴り掛かればもう一体がクウガに掌底を食らわせ、さらに残った二体が

追い打ちとばかりに同時にドロップキックを浴びせて仮面の戦士を弾き飛ばす。

 

アスファルトの上を転がったクウガとガタックは急いで体勢を立て直すものの、

その頃には既にローカストワーム達は再びクロックアップの時間軸に突入していた。

ガタックはすぐさまベルトの右腰部分にあるクロックアップ発動装置に手をかけるが、

自分の隣にはクロックアップに対抗出来ないクウガがいることを思い出し、防戦に徹する。

弾き飛ばされてからその場でピクリとも動かなくなったクウガを四体の異形達は確認し、

次なるターゲットを確定して狙いを定め、四体で同時に攻めようとタイミングを合わせる。

 

 

『いいか、あの緑のを先に潰すぞ』

 

『ああ。異世界から来たライダーとやらだからな、油断は出来ん』

 

『ここで一気に叩く!』

 

『同時に行けば確実に殺せる、行くぞ!』

 

 

四体は四方を囲むようにしながらクロックアップの速度で移動して隙をうかがう。

唯一の懸念材料であったガタックも、クロックアップは発動せずにクウガを守るべく

彼の背後に寄り添って両手の曲刀を一つに連結させて一撃必殺の構えを作っている。

しかしクロックアップの世界ならば、一秒の動作が何分後に終わるか分からないほどに

時間が凝縮されている。当たれば一撃で倒される攻撃でも、当たらなければ怖くはない。

 

 

「そこだッ‼」

 

 

だが、彼ら四体は知るはずもなかった。

緑色の鎧をまとったクウガの持つ、人知を超えた知覚領域の存在を。

 

 

『がっ! な、あぁ⁉』

 

 

目標に狙いを定めて接近していたはずの一体が唐突にクロックアップの世界から外れ、

二人の戦士の前に姿を現す。と同時に金色の紋章をその身に浮かび上がらせたかと思えば

一瞬の閃光が煌めいた直後にそのローカストワームは内側から膨れ上がって爆発四散した。

仲間である同一個体が撃破されたことに驚いた残りの三体は狙っていたクウガの底知れぬ

未知の力に怯えてわずかにその場に留まってしまい、そのわずかな隙をガタックに狙われた。

 

 

「今だ‼ うおぉぉおぉぉッ‼」

 

『しま___________がああぁっ‼』

 

【Rider Cutting!】

 

二振りの曲刀を交差させて連結し、あたかもハサミのような形状になった武器を突き出し、

手前で隙を見せて立ち止まっていた一体の胴体を完全に挟み込み、ギリギリと締め上げる。

少しずつ脇腹を抉られていくローカストワームは何とか脱出を試みようと抵抗したものの、

刃に充填されていたタキオン粒子が解放されてエネルギーが放電さながらに火花を散らし、

数秒の抵抗虚しく悲鳴を上げる間もなく肉体を両断されて緑色の炎と共に消滅した。

 

数の利で勝っていたローカストワーム達は四体だった個体を二体にまで減らされ、

相対する仮面の戦士と数的な意味では互角となってしまった。

しかし実際は戦闘能力が未知数の相手に加え、戦いの神と称されるゼクターの資格者の

二人を相手取らなければならなくなった時点で軍配がどちらに上がるかは明らかだった。

 

 

『クソ! 戦いの神ガタック、これほどとは…………』

 

『なんだあのライダーは! どうやってクロックアップを破った⁉』

 

 

先程までの圧倒的な有利に酔いしれていた二体は状況が瞬時に逆転したことに思考が

追いつかずに恐慌状態に陥ってしまったが、クウガ達からすれば絶好のチャンスでしかない。

勢いづく二人は互いの顔を見合わせて視線を飛ばし、仮面の奥にある相手の真意を読み解き、

二人は同時にそれぞれが放つ必殺の一撃の構えを取って標的を見定め、力を溜め込む。

 

クウガは再び赤い鎧を身にまとってから両手を開いて腰を落とし、右足だけを前に出した

まま左足を後ろに下げる。ベルトの中心に鎮座する霊石アマダムが全身に流れるクウガの

封印エネルギーを右足へと集中させ、力を最大限まで溜めた瞬間に迷うことなく混乱する

二体の内の片方に狙いを定め、走る速度をそのままに跳躍し、

一回転してから迸るエネルギーを溜め込んだキックを放つ。

ガタックも同じタイミングでクウガの横に並び、バックルのフルスロットルボタンを三回

連続で押し込んでリミッターを解除。一度右に倒していたレバーを左側に押し戻してから

一呼吸置き、もう一度右側へと強く押し倒してエネルギーの循環速度を高める。

 

【One,Two,Three!】

 

「ライダーキック‼」

 

【Rider Kick‼】

 

 

甲高い電子音声のアナウンスと共にベルトから放出されたタキオン粒子のエネルギーは

全身の装甲やスーツの溝を伝って頭頂部にあるクワガタを模した青い二本角の先端へと

流れていき、そこから折り返してガタックの右足へと一秒とかからずに収束していった。

右足に力がみなぎるのを感じたガタックはクウガと全くの同タイミングで駆け出していき、

またしても同時に跳躍、そこから右足を水平に近い角度で横方向から薙ぐようにキックを放つ。

 

「「うおぉりゃああぁぁぁああぁ‼‼」」

 

 

二人の熱い魂が共鳴し合っているかのように雷光迸り続けながら繰り出された必殺の一撃。

それらは完璧なタイミングで二体のローカストワームに正確に直撃し、標的を爆散させた。

断末魔と爆音を背にして二人は着地し、互いの繰り出した攻撃が成功した事を確認し合う。

立ち上がった二人は向き合い、クウガはサムズアップをガタックに対してして見せる。

これは納得した行いをした者にのみ許された行為である。その意味は互いに知ってはいたが

対してのガタックはクウガが未だに握りしめているペガサスボウを見つめて手を差し出した。

 

無言のままに二人は互いの気持ちを理解し合うことが出来た。

 

たった一度の戦いの中でも二人は心を通わせ合い、通じ合うことを可能にした。

 

今だからこそガタックにはクウガの気持ちが、クウガにはガタックの気持ちが分かる。

 

 

 

 

 

『早く拳銃返せ』『逮捕は本当に勘弁してください』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ユウスケと加賀美が全ての敵と戦闘を終えた頃、士と天道は目的地に到着していた。

ZECTが四年前まで活用していた対ワーム用兵器を開発するための工場施設跡地だが、

今やそこには無数のワームとその陰謀が深くドス黒く巣食っている。

 

二人は共にバイクから降り、一緒に誘拐された二人の救出に向かおうと士が提案したが、

意外にも天道はこの案を却下して単独で動くと言い放って独りでに探索を開始してしまった。

わがままな行動に振り回されるのは御免だとぶっきらぼうに呟いた士は天道と同じく一人で

広い工場跡地の探索に向かうこととなった。

 

「しかし、無駄に広いな」

 

 

士が施設内に潜入してから十分が経過したが、めぼしい物は何もなく探索は難航していた。

勝手にどこかへ行ってしまった天道に対する愚痴を募らせつつも周囲をくまなく捜索して

いた時、不意に屋内の廊下の曲がり角から物音一つ立てずに誰かがやって来た。

現れた相手を見た瞬間、士の表情はいつものすかしたものから好戦的な笑みに変わる。

 

「よおキックホッパー、で合ってるよな? この世界じゃ初めましてか」

 

「…………異世界から来たライダー、お前のことか」

 

「だろうな。前会った時も面倒な性格してたが、この世界でも変わらずか」

「…………まるで俺の事を知ってるような口ぶりだな」

 

「知ってるからな。それで? やるのか?」

 

「…………そういう命令だからな」

 

覇気の無い声で囁くように応えたビャクヤこと矢車はベルトを出して右手を平らにする。

そこにどこからともなくやって来たカマキリ型のゼクターが飛び乗って待機形態になり、

右手にゼクターを掴んだ彼はそのままベルトのジョイントを外してそこに差し込んだ。

 

 

「…………変身」

 

【Henshin!】

 

【Change Mantis!】

 

カブトやガタックの物とは少々違ってくぐもったような電子音声が聞こえたと同時に

ベルトからは六角形のタイルが放出され、それが徐々に矢車の全身を包み込んでいき、

ものの数秒も経たないうちに簡素な装甲に身を包んだ新緑色の仮面の戦士が現れた。

変身の一部始終を目撃していた士もまた相手の変身に応じるように懐からバックルを

取り出して腰にかざしてベルトとして機能させて装着し、右手にカードを掴んで叫ぶ。

 

 

「変身‼」

 

【KAMEN RIDE! DECADE‼】

 

 

ベルトの機構を動かしてカードを装填して読み込ませ、書かれたデータを反映させる。

瞬く間に士の全身を装甲が覆い尽くし、最後に仮面に九枚の大小様々な長方形が回転

しながら突き刺さる事で工程を完了し、モノトーンめいた全身にマゼンタの彩が加わった。

両手についた汚れを払うようにパンパンと鳴らし、ディケイドとなった士は仮面の瞳で

眼前の相手を捉え、動きが出るのを待って直立のまま待機する。

 

 

「時間が無いんだ、とっととかかってこい」

 

「…………そうだな、早く終わらせよう」

 

 

返り血の如きマゼンタで全身を染め上げた破壊の悪魔ことディケイドと、

ワーム同様モスグリーンの装甲に包まれた人類の反逆者ことマディカ。

 

背後に屍の山しか残さぬ二人が相対し、戦いが始まろうとしていた。

 

 

 

 

 










いかがだったでしょうか?

オリジナルライダーの出番が少なくて涙目になりそうです。
人によってはオリジナルライダーが嫌いな人とかはいそうなので
そういう人に限ってはありがたいのかもしれませんが、ただただ悔しいです。

それと二話くらい前から天道の愛娘である「天道 優未恵」の名前を
間違えていたことが最近になって判明しました。明日直します。



それでは次回、EP,21『HELL BROTHER ~届かぬ光~』

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。